モノローグ |
万物の多くが眠りにつく静寂を、シャリシャリと雪を踏む音が打ち破る。雪に覆われたその森の入り口は、不思議と静かな温もりで包まれていた。 |
ヤドリギ |
ここがリリエの森だ。ヒイラギ、気に入ってくれたかい? |
ヒイラギ |
はい、大好きです!ここはきれいですし……特別な感じがします。 |
ヤドリギ |
それは良かった。では歩きながら、クリスマスの説明をしよう。今年はイチハツが来れないから、初めてここのクリスマスを引き継ぐことになる。慎重にやらないといけないよ。 |
ヒイラギ |
はい先生、始めてください。 |
モノローグ |
目の前の少女は真面目で、緊張で体も強張っているように見える。ヤドリギは温かいまなざしで、真面目な生徒に微笑んだ。 |
ヤドリギ |
プレッシャーを感じる必要はないよ。クリスマスは温かいイベントだから。 |
ヒイラギ |
え? |
ヤドリギ |
かなり昔の伝説だ。世界が誕生したばかりの時、万物にまだ秩序が存在しておらず、天気は絶えず変化していた。晴れかと思えば、すぐ雷雨に変わったり、夏の午後のような暑さから、急に真冬のような寒さに変わることもあったんだ。 |
ヒイラギ |
すごく怖いですね。じゃあみんなどうやって暮らしていたんですか? |
ヤドリギ |
あるとき女神が現れ、世界に秩序をもたらし、四季を作ったんだ。虚無の中から、最初は冬が生まれ、混乱を終結させた。厳しい寒さによって滅びがもたらされたが、それは新たな生命をももたらし、冬の次はやがて春が…… |
モノローグ |
ヤドリギの優しい声が、静かな森に響く。ふたりが森の奥へと進むにつれ、森に住まう妖精たちの笑い声も聞こえるようになってきた。 |
カンジキウサギ |
だからね、クリスマスで着る服は早めに準備しないと。 |
アザラシ |
キュ~正解!特にダンススカート。去年は1か月も前に準備したのに合わなかったの!やっとの思いで礼服のデザインを決めたのに、肝心のデザイナーが予約でいっぱいで……キュ~大変だったなぁ。 |
ヒイラギ |
着る服さえそんなに盛大に準備しなきゃなんて、みんなクリスマスに熱心なんだ。でも……歌の準備だって、もう1か月も残ってないし…… |
ヤドリギ |
ヒイラギ、何に気を取られているんだい? |
ヒイラギ |
あ、先生ごめんなさい、真面目に聞きます! |
ヤドリギ |
大丈夫だよ、舞踏会の話が聞こえたんだろう?女の子がそれに注目するのは当たり前さ。舞踏会も、クリスマスの大切な一部だからね。 |
ヒイラギ |
舞踏会も、女神が世界に秩序をもたらしたことを記念するためにやっているんですよね? |
ヤドリギ |
以前話したクリスマスの内容を、しっかり覚えているね。それも目的の一つと言える。でも祭りの起源は、実は女神自身の導きによるものなんだ。 |
ヤドリギ |
四季が出来てから、女神は妖精に告げたんだ。冬は美酒やカーニバルやダンスで、厳しい寒さを乗り越えられるとね。それで妖精たちは毎年、年末の12月に祭りを行うようになった。 |
ヒイラギ |
女神は優しいんですね。これから先のことも考えて、ちゃんと指導してくれて……まるで、先生みたいです。 |
ヤドリギ |
神様が私みたいだって?それは、誉め言葉に聞こえないな…… |
ヒイラギ |
あ……ごめんなさい。思ったことが何故かいつも口に出てしまって。 |
ヤドリギ |
大丈夫、そういう細かいことは気にしなくてもいいから。続けよう。女神の導きに従い、一年の最後に、妖精たちは祭りを始めた…… |
モノローグ |
時間はゆっくり流れ、森に差し込む日光が、ふたりの体に降りそそぐ。変幻自在に光が揺らめく中で、ヤドリギの話も終わりに近づいてきた…… |
ヒイラギ |
祭りでは、元々は妖精たちが焚き火を囲んで、みんなで歌っていたんですね。そこから次第に、今のように歌手だけが歌を捧げるようになったのですか? |
ヤドリギ |
面白いだろう。今の世で行われている行事も、過去をさかのぼると、妖精たちの文明の変化の痕跡というものを感じることができる。 |
ヒイラギ |
ぶんめい、こんせき?よく分かりませんが、奥深い感じがします。さすが先生です! |
ヤドリギ |
ちょっとした感想を言っているだけだよ。ヒイラギはどう思う?クリスマスでの歌について、何か考えたことはあるかい? |
ヒイラギ |
えと……こんなに盛大なお祭りで、歌い手にもたくさん期待が寄せられているなあって思っただけです。でも私は……あ! |
モノローグ |
ヒイラギは歌のことに触れると、何故か先生に自分の顔色を見られたくないのでうつむいてしまう……と、そのときだった。 |
モノローグ |
遠くから何者かが猛ダッシュしてきて、ヒイラギにぶつかるような勢いで迫ってきた。とっさにヤドリギがヒイラギを引き寄せると、幸いなことに、寸前のところで相手の動きも止まった。 |
トナカイ |
ぶつかったべさ?ちゃんと前をよく見とくべきだったべ。ごめんな! |
ヒイラギ |
い、いいよ、ぶつかってないから……でも、大丈夫?そんなに急いで、何があったの? |
トナカイ |
大丈夫なら良かったべ。ウチはクリスマスプレゼントを集めてるんだべ~ |
ヤドリギ |
クリスマスプレゼントは、クリスマス前夜に受け取るべきじゃないのかな?それともリリエは今年、何か特別なイベントでもあるのかい? |
トナカイ |
プレゼントを受け取るんじゃなくて、集めてるんだべ。あなたたち、見てないべか?ウチ、天から降ってきたプレゼントの箱を集めてるんだべさ! |
ヒイラギ |
天から降ってきたの?クリスマスプレゼントは、サンタさんが配るんじゃないの? |
トナカイ |
そうだべ、クリスマスプレゼントはサンタさんが配るんだべ。だから、天から急にプレゼントが降ってきたのにも、何か訳があるはずだべ。きちんと集めて保管しないと! |
ヒイラギ |
クリスマスプレゼントの保管?なるほど、あなたはあの伝説のトナカイなのね!サンタさんが乗っているそりを引いて、プレゼントと喜びをみんなに配っている、あれ! |
トナカイ |
へへっ。まだサンタさんのトナカイじゃないべさ~。でもいつかきっと、サンタさんと一緒にプレゼントや喜びを配れる立派なトナカイになるんだべ! |
ヤドリギ |
なれるさ。強い責任感を持って、その夢を真摯に追いかける努力を続ければ、きっとサンタさんからも認められると思うよ。 |
トナカイ |
あ、ありがとう、感謝するべ……。へへっ。こういうときどんな言葉を返せばいいかわからないんだべ。そうだ、ふたりはクリスマスで歌を披露するんだべ? |
ヤドリギ |
うん。今年のクリスマスの音楽会は、私たちがイチハツの代わりに出るんだ。祈りの歌を歌うのは彼女、ヒイラギだよ。 |
ヒイラギ |
ちゃんとうまくいくかどうか、まだ不安なんだけどね…… |
トナカイ |
ふたりは音楽家なんだべ~!音楽のことは分からないけど、当日は必ず拍手を送りに行くべ! |
トナカイ |
……っと、またプレゼントが降ってきたべ!拾いに行くべ! |
モノローグ |
話し終わると、トナカイはまたプレゼントを探しに駆けていった…… |