ポインセチア |
うーん、見つかったのはこれだけか。失くしたプレゼントはたくさんあるのに……残りはどこにあるんだよ! |
モノローグ |
怒りのセリフを吐いて地面を蹴ると、降り積もっていた雪が霧のように飛び散った。自分で生み出したその霧をまといながら、赤い影――ポインセチアが、森の中を猛スピードで進んでいく。 |
ポインセチア |
あれ、ここ、来たことあったっけ? |
モノローグ |
目の前の地面に、蹴飛ばされた雪の跡を見て立ち止まった。1秒間だけぼんやりと考え込んだ後、顔を上げて後ろを振り返る。するとそこに、同じ形の足跡がいるのを認め、ポインセチアは大きくため息をついた。 |
ポインセチア |
くぁぁぁあああ!こんなときに、なんで迷子になってるんだぁぁぁ! |
ポインセチア |
……ダメだ、冷静になれ。デキるクリスマス実行委員は、こういうときも段取り良く解決できるもんだ。そうだ、まずは迷子の問題から解決しよう。ちょうどそこの家に、誰か住んでそうだしな。 |
モノローグ |
工房の窓辺から、ドンドンと叩く音が聞こえた。見ると、赤い影が窓の上の方を見上げながら、手で何かをつつこうとしている。けれど、近づいてきた私の気配に気づくと手を引っ込め、姿勢をきちんと正してそこに立った。 |
ポインセチア |
こんにちは、魔法使い。 |
魔法使い |
あ、こんにちは、あなたは? |
ポインセチア |
おれ?どう見ても明らかに頼りになるクリスマス実行委員――ポインセチアだ。サンタのアシスタントとして、みんなのクリスマスに祝福をもたらす存在さ。 |
魔法使い |
そうなの。でも今年のクリスマスプレゼントって、昼間に配るの?それともまさか、リリエの森の特別な風習? |
ポインセチア |
違うよ!みんなが寝ている間に配らないクリスマスプレゼントに、なんの意味があるんだよ。それに今はプレゼントを失くしちゃってるから、欲しいだなんて言われてもな…… |
魔法使い |
プレゼントを失くした……え、まってまって。ちょっと、とんでもないニュースを聞いちゃった気がするんだけど。 |
モノローグ |
ポインセチアは、私と出会ってすぐに自分のミスを暴露してしまった。しばらく互いに顔を見合わせ、沈黙が続いたが……やがて、プレゼントを失くして探す途中で、迷子になったことを説明してくれた。 |
ポインセチア |
それで、できれば今、お前にフェアリースフィアを作ってほしいんだ。そしたらおれも一休みできるし…… |
ポインセチア |
コホン、いや、プレゼントを探すためには体力を回復する必要があるからな。失くしたプレゼントの中にはお前宛てのものもあるし……その、分かるだろ?できるだけ早くしろよ。 |
魔法使い |
あのねぇ、自分が失くしたプレゼントで魔法使いに脅しをかけるクリスマス実行委員がどこにいるの……まぁ、べつにいいけど。すぐに作るから、ちゃんと休んだらプレゼントをよろしくね。 |
ポインセチア |
ありがとな。それと、できればなんだけど…… |
魔法使い |
なに、急ぎで作れって言いながら、豪華にしろだなんて注文されても受け付けませんけど? |
ポインセチア |
いや、そんなことじゃないよ……もしお前が、おれの失くしたプレゼントを見つけたら、おれのところまで持ってきてくれる?ちゃんとお礼もするから。 |
魔法使い |
なるほど。いいよ、もし見つけたらね。 |
モノローグ |
フェアリースフィアが完成すると、ポインセチアはそれをしげしげと観察し、満足した様子で口を開いた。 |
ポインセチア |
改めてお礼を言うよ!おれもデキるクリスマス実行委員として、絶対クリスマスイブまでにプレゼントを全部探し出すからな。 |
ポインセチア |
そして、ちゃんとみんなにプレゼントを受け取ってもらうんだ! |
モノローグ |
ポインセチアはうやうやしく一礼し、フェアリースフィアを携帯できるサイズに小さくして抱えると、急いで森へ向かっていった。 |
ポインセチア |
プレゼントが落ちた範囲は狭い。順番に探せば、全部回収できるはずだ。 |
モノローグ |
ポインセチアは周囲を探しながら自分を励ました。幸先よく、落ちたプレゼントの一つがちらりと目に入り、急いで駆け寄る。 |
モノローグ |
しかし突然、灰色の影が現れ、プレゼントをめがけて飛びかかってきた。相手のスピードは速く、ポインセチアが反応すらできないうちに、プレゼントと共に消えてしまった。 |
ポインセチア |
おい、誰だよ!クリスマスプレゼントを狙うなんて、とんでもないヤツだな!来年からプレゼントをもらえなくなってもいいのか!? |
モノローグ |
ポインセチアの激怒した声が、がらんとした森の中にこだまする。相手に自分の脅しが聞こえなかったことを知り、落胆したように頭を下げた。だが、手の中のぺしゃんこになったプレゼントの袋を見て、また自分を奮い立たせる。 |
ポインセチア |
少なくとも、この辺りにプレゼントがあるのは分かった。うん、周りにもいっぱいあるはずだ。先に他のを探そう。 |
モノローグ |
ポインセチアは集中して森の中を探し、またプレゼントを発見してホッと一息ついたが、やはりそれはつかの間のことだった。 |
モノローグ |
プレゼントを奪った謎の影がまた現れ、誰をも勝るスピードで、またプレゼントをさらって行った。その場には、叫ぶ間もなく怒りで爆発寸前のポインセチアだけが取り残された。 |
ポインセチア |
あんのヤロォォオオオォオオオオオ!!ぜったい捕まえてやるから、待ってろよぉぉおおおおぉおおおおおおウォォオオオォオオオオオ!!!! |
モノローグ |
だが、その1日の間に同じような局面が何度も繰り返し、ついにポインセチアの心の幹はポキリと音を立てて折れてしまった。もはや怒る気力も失せた。ただ足を引きずるように、何とか次の場所へと歩みを進めながらボソリと言う。 |
ポインセチア |
なんなんだあいつ……まったく勝てないよ。でもどうしよう、カラッポの袋を持って、ぜんぶ盗まれましたってサンタに報告するのか?一発でクビになっちゃうよ…… |
ポインセチア |
泥棒の野郎、捕まえたらとっちめてやるぞ…… |
モノローグ |
ふつふつと蘇ってくる怒りによって、蹴とばされた雪が塊となって辺りに点々と転がっている。同時に、心が落ち込むような暗い気持ちも再び襲ってきた…… |
ポインセチア |
誰だってプレゼントを受け取れるんだぜ……もらえるのが嬉しいはずだろ?なのに、それを奪ったりして何が楽しいんだよ……わけがわからないよ…… |
モノローグ |
ポインセチアが愚痴を言っていると、神聖な歌声が森の中から聞こえてきた。心を浄化するような、抑揚がある歌声だ。傷心のポインセチアがいつの間にかそれに聴き入ってしまったのは、必然的なことだった…… |
ポインセチア |
いい歌声だなあ……誰が歌ってるんだろう? |
ポインセチア |
祈りの歌みたいだけど、イチハツの歌声ではないな。まさか今年のクリスマスは、別の企画でもあるのかな? |
モノローグ |
ポインセチアは、すっかり歌声に癒されていた。気を取り直し、ぺしゃんこのプレゼント袋を肩にかけ、立ち上がって背伸びをする。 |
ポインセチア |
みんな今は準備中なんだな。クリスマスの歌も稽古中ってことは、いまプレゼントが準備中でも大丈夫……だよな? |
ポインセチア |
どうせまだ時間はあるんだから、明日またがんばるか! |