モノローグ |
優しく自由な歌声は、渓流の音とともに森の中で響いていた。けれど時間が経つにつれ、その1コーラスの長さは、どんどん短くなっていった…… |
ヒイラギ |
どうしてこんなに練習したのに、歌えば歌うほど下手になるの? |
ヒイラギ |
ダメダメ、もう1回! |
モノローグ |
歌声は再度響いたが、すぐに止まった。何度も繰り返され、ついに歌声は聞こえなくなった…… |
ヒイラギ |
先生に指摘されたのに、何故いつまでもちゃんとできないの。不安定な高音を気にかければ、今度は息継ぎがうまくできなくなるし…… |
モノローグ |
ヒイラギはうつむいて、水面に映る自分の姿を見る。いつものような元気さはなく、強張っているようだった。 |
ヒイラギ |
こんな間違いだらけの歌声でどうやって祈りの歌を歌えるの?音楽会が失敗したら、先生、ゼッタイ失望するよね。 |
モノローグ |
水面に映るうつろな目をした自分を見ていると、暗い感情の幻想に憑りつかれて苦しくなる……ふと、目の前を何かが流れてくるのに気づき、慌てて目で追った。 |
モノローグ |
視線の先では、少し壊れているが、きれいに包装されたプレゼント箱が川を流れていた、不思議なことに箱は震えていて、中で何かがもがいているようだ。 |
ヒイラギ |
何だろう……生き物でも入っているのかな? |
モノローグ |
ヒイラギは水面からすくい上げたプレゼントの箱を見て、好奇心に勝てず開けてしまった。 |
モノローグ |
箱が開いた瞬間、おかしな煙が出てきた。煙に包み込まれ、ヒイラギは驚いてその場に立ちすくむ。 |
ヒイラギ |
何なのこれ……生きてるみたい…… |
ヒイラギ |
あれ、消えた? |
モノローグ |
一瞬で煙が消え、呆然としてまばたきを繰り返す。周りを見回そうとした時、突然、怒りの声がヒイラギの背後から響いた―― |
ポインセチア |
おい、プレゼント泥棒!早くそれを置け! |
ヒイラギ |
えっ、私のこと?ごめんなさい……この中に生き物が入っているかと思って、逃がそうかと…… |
モノローグ |
ポインセチアは聞く耳を持たない。ヒイラギの手の中にある箱を奪い取ると、すぐに大声でまくし立てた。 |
ポインセチア |
言い訳をするな!早く他のプレゼントも返せ! |
ポインセチア |
なんでこんなことをしたんだ!プレゼントを独り占めして、何が楽しいんだよ!? |
モノローグ |
ポインセチアの怒りは、ついに爆発した。泥棒は逃げ足が早く、叫んでも間に合わなかった……1日がかりで、少ししか取り返せなかった。そんな、あらゆる悔しさが彼を包み込んでいた。 |
ポインセチア |
プレゼントはな、みんながクリスマスを楽しく過ごすために用意したんだよ!お前に盗まれて、プレゼントを受け取れない妖精はどうする?その気持ちも考えろよ! |
ヒイラギ |
ごめんなさい、勝手に開けるべきじゃなかった……どう弁償したらいいかな。でも、他のプレゼントって何?本当に私、この1つしか拾っていないの。 |
ヒイラギ |
お願い、信じて。本当に知らなくて……でもきっと、川をたどって探せば見つかるかも。これ、川を流れてきたものだから。 |
モノローグ |
ヒイラギは申し訳なさそうな表情のまま、渓流の方を指さしてみた。 |
モノローグ |
せいいっぱい謝るヒイラギの顔を見て、ポインセチアも、それは嘘ではないと思った。それにヒイラギの声は、どこかで聞いたことがある気がする。 |
ポインセチア |
もしかしてお前……さっき、祈りの歌を歌ってた妖精? |
ヒイラギ |
あ……聞こえたの!? |
モノローグ |
自分の間違いだらけの歌声が聞かれていたのを知り、ヒイラギはうつむいて、手をモジモジさせている。ポインセチアは優しい顔つきになった。 |
ポインセチア |
ごめんね。誤解だったよ。 |
ヒイラギ |
え? |
モノローグ |
ポインセチアの態度が急変した理由が分からず、ヒイラギは首をかしげて相手を見た。ポインセチアはばつが悪そうに、自分の鼻を触りながら言った。 |
ポインセチア |
お前の歌声が遠くに聞こえた時、ちょうどあの泥棒と争ってる最中だったから、変に疑っちゃったんだ。さっきはあんな態度でごめん。 |
ヒイラギ |
大丈夫……他のプレゼントは盗ってないけど、これは私が開けた瞬間に、中身が無くなってしまったの。 |
ヒイラギ |
責任逃れをするわけじゃないの。でも中はもう空だし、他の何かで弁償できないかな? |
ポインセチア |
じゃあ、そうだな……歌を歌ってよ! |
ヒイラギ |
う……歌を歌う? |
ポインセチア |
そう、お前の話を信じるよ。箱が空っぽになっちゃったってことは、その中に入っていたのはたぶん、祝福とか形のないものだったんだろうな。それなら代わりに、中身を歌でいっぱいにしてみたらいいんじゃないか? |
ポインセチア |
そしたらこのプレゼントは、もともとおれがもらうべきものだったってことにしておくよ。 |
モノローグ |
ポインセチアの切望のまなざしを受け、ヒイラギは困った顔をしたが、やがてうなずいた。 |
モノローグ |
ヒイラギは咳払いをし、歌う準備を整える。しかし、口を開けても声は出なかった。何度も試したが、結果は同じだった。 |
モノローグ |
ヒイラギが口をパクパクするばかりで声を出さず、表情も曇っていく様子を見て、ようやくポインセチアも異変に気付いた。 |
ポインセチア |
どうしたの? |
ヒイラギ |
どうして……歌えなくなっちゃった!? |