(聖夜に捧ぐ歌)1-6

ポインセチア あーっ、もうっ!ぜんぜん足りないよ!
モノローグ ポインセチアは空っぽの袋を揺らし、ため息をついた。
ポインセチア クソッ……元気出して、また探すしかないか。
モノローグ 早くプレゼントを見つけたい気持ちも募るが、森の中を探しながらどうにも集中できず、目はうつろだった。
ポインセチア ああ、もう!あのことを考えるのをやめだ!
モノローグ ポインセチアは思いっきり頭を叩いて自分を戒めたが、その直後にも、また昨日のことを思い出した。自由な歌声で歌っていた、小川のそばで空のプレゼントの箱を持つあの少女が、突然歌えなくなったことを……
ポインセチア 今ごろ、あのコはどうしてるだろう?
モノローグ プレゼントを探す、上の空になる、我に返る、また上の空になる……これを繰り返しだ。
モノローグ 突然、森の中から聞き覚えのある声がした。すぐに昨日の少女の声だと気づき、好奇心を抑えきれず振り返った。
モノローグ と、ポインセチアの視線の先にはヒイラギだけではなく、彼女と向き合う優雅な妖精の姿があった。その妖精は懐から紙を出してヒイラギに渡したが、ヒイラギは紙を見てためらっている様子だ。
ヤドリギ ヒイラギ?最近いつも上の空だけどどうしたんだ?リリエの森に馴染めないのか?
ヒイラギ ……いいえ、先生、そうじゃないです。
ヤドリギ それならいいんだが、困ったことがあれば、すぐに言うんだよ。
ヒイラギ はい、わかりました……
モノローグ 話しているうち、ヒイラギの声はだんだん小さくなっていく。ひとまずはヤドリギから受け取った紙を、丸めてかばんに入れようとした。
ヤドリギ いや、それはまだ仕舞わなくていい。
ヒイラギ え?
ヤドリギ 作ったばかりの曲だから、まずは楽譜を見て私と一緒に練習してくれないか?おかしな所があったら調節できるし。
モノローグ ヒイラギは承諾も拒否もせず、ただ楽譜を握るだけだった。
モノローグ ふたりの間を沈黙だけが流れる。その間もヤドリギは面倒がらず、いつものように優しくヒイラギを見つめ、ただ返事を待った。
ヒイラギ 先生……
モノローグ ヒイラギはやっと声が出たが、その声はいつもの力を失い、どこか怯えていた。
ヒイラギ 私、祈りの歌を歌わなくてもいいですか?
モノローグ そんな意外すぎる相談にもヤドリギは顔色を変えず、ただただ、ヒイラギを優しく見つめている。
ヤドリギ どうして?
モノローグ ヒイラギは答えず、顔色は青い。唇は動くが、何をどう伝えればいいのか分からない。
モノローグ 先生にどう言えばいいの?歌えないなら、先生のそばにいる理由も無くなって、捨てられてしまう……ヒイラギは混乱し、何度もそんな考えが脳裏をよぎった。
モノローグ ヒイラギは緊張し、いつものように顔を上げてヤドリギを見ると、その温かいまなざしと目が合った。
ヒイラギ (いつもこのように、先生は期待を込めて私を見ている……けれど私は、全然それに応えることができない。またこれから先も、今のように先生を失望させるだけ。私って本当に……)
ヤドリギ ヒイラギ?
モノローグ そう訊ねたヤドリギの声は、もはやいつものように淡々とはしていなかった。ヒイラギは、何も言わないまま逃げるように森の奥へと走り去ってしまった。
ポインセチア こいつ……
モノローグ 少し離れたところにいたポインセチアにはわずかな言葉しか聞こえなかったが、ヒイラギが逃げた時の泣き出しそうな顔を思い出し、焦燥感に襲われていた。それで遠慮なく、ヤドリギに言い放った。
ポインセチア おい、お前!
ポインセチア 歌いたくないのに無理やり歌わせなくてもいいじゃないか!なんであのコに強制するんだよ!?
モノローグ ヤドリギの反応も待たず、ポインセチアは袋を肩に掛け、ヒイラギが逃げた方向へ走って行った。
ヤドリギ ……「歌いたくない」だって……?
モノローグ ふたりの姿が消えたあと、ひとり残されたヤドリギはポツリとつぶやく。
モノローグ 真冬の風は冷たく、ヤドリギが優しい声で放っていた言葉の温もりも、すっかり風の中で散り散りになっていった……
最終更新:2022年01月04日 15:31