モノローグ | ポインセチアは森の中を走り回ったが、ヒイラギの姿はどこにも見つからなかった。 |
モノローグ | ふと、ヒイラギと出会った小川を思い出し、そこへ向かってみることにした…… |
モノローグ | 小川が見えてきた時、ヒイラギの泣き声が聞こえてきた。ポインセチアは一瞬だけホッとしたが、彼女のあまりに悲痛な泣き声に、再び暗い感情に襲われてしまった。ゆっくりヒイラギのそばにやってきて、彼はボソリと声をかけた。 |
ポインセチア | ヒイラギ、お前……大丈夫か? |
ヒイラギ | き、君は…… |
モノローグ | 自分のみじめな姿を周りに見られたくないようで、ヒイラギは涙をぬぐいながら、無理やり笑った。 |
ヒイラギ | 私は、だ、大丈夫よ! |
モノローグ | 無理して笑いながらも、ヒイラギの目からはまだ大粒の涙があふれ出している。それを慌てて拭うしかない…… |
モノローグ | そんなヒイラギの様子に、ポインセチアは慰めたくてもいい言葉が思いつかない。狼狽して帽子の先のポンポンをつまんだり、忙しなく妙な動きを繰り返すばかりだ。が、ふとプレゼントの袋に触れ、いいアイデアを思いついた。 |
ポインセチア | これをやるよ、だから泣くな…… |
モノローグ | ヒイラギはポインセチアが手渡したプレゼントを見ながら、ポカンとしてしまった。急に泣くのも忘れたかのように、プレゼントの袋に目をやって言う。 |
ヒイラギ | でも、これは君がクリスマス・イブに配るプレゼントじゃないの? |
ポインセチア | そうだよ。 |
ヒイラギ | じゃあ私がこれを受け取ったら、イブにプレゼントをもらえない妖精が出てくるんじゃないの?受け取れないよ。 |
モノローグ | ヒイラギはそう言いながら首を振ったが、ポインセチアはプレゼントをヒイラギのかばんに押し込んだ。 |
ポインセチア | 受け取ればいいよ。これはおれが用意したプレゼントだから。 |
モノローグ | 戸惑うヒイラギのくりくりした眼差しに、ポインセチアは少しだけポッと顔を赤らめる。慌てて首をかしげて視線をそらし、わざと気にしないふりをして説明を続けた。 |
ポインセチア | ど、どうせ元々……うん、プレゼントをもらえないような、孤独な奴にあげるつもりだったんだ。今、お前が受け取るのがちょうどいいんじゃないか。これで元気出して。 |
ヒイラギ | ありがとう……こんなに心のこもったプレゼントを準備しているポインセチアは、優しい妖精だね。まるで先生みたい。 |
ポインセチア | 先生!?……って、あいつのことか。適当にあんなやつとおれを一緒にするなよなぁ……とにかく、プレゼントを開けてみて。 |
モノローグ | ヒイラギはうなずくと、やっと笑い、包装紙を解いて箱を開けた。キラキラした雪が、箱の中央でぐるぐると踊るように舞っていた。 |
ポインセチア | これは魔法の雪だ。触ったら、思い出の中にある楽しい景色を見ることができるんだ。やってみて! |
モノローグ | 恐る恐る雪に触ってみると、思い出が絵巻のようにヒイラギの目の前に開いていく…… |
モノローグ | 幼い時、ヒイラギが部屋の隅で泣いていると、真っ赤な服を着た女の子が現れた。どうしたのと聞かれたヒイラギは、歌の音程を外してしまって笑われたことを恥ずかしそうに話した…… |
モノローグ | 彼女は一緒に歌ってくれただけでなく、ヒイラギの歌声は綺麗だと褒めてくれ、また誰かが笑ったら相手をやっつけてやると言って微笑みかけてくれた。 |
モノローグ | 思い出の中の自分の笑顔を見て、ヒイラギも思わず笑みをこぼした。 |
ヒイラギ | 私……歌を歌うのは嫌いじゃない。ううん、ずっと歌を歌うのが好きだった。大好きだった。 |
ポインセチア | そうなのか?それじゃあお前は……いま、どうしてそんなに辛いんだ? |
ヒイラギ | 小さい頃から、何かを大切に思えば思うほど、自分にはそれを守ることができるのか、不安でとてもしょうがなくなるの。 |
ヒイラギ | しかも今回は祈りの歌で、いままでこんな大舞台には立ったことがないから、自分でも歌えるかどうか分からない…… |
ヒイラギ | 失敗したら、先生だって失望する。そんなの、私も考えたくない…… |
ヒイラギ | それならいっそ「歌いたくない」って気持ちが、頭の中に一杯になっちゃったの。 |
ポインセチア | あいつのことは考えるなよ。歌うことだけを考えたら?好きだからやっているんじゃないの?しかもお前の歌は上手いよ。それなのにあいつは、まだ何か不満を言っているのか? |
ヒイラギ | ううん、不満を言っているのは先生じゃないよ。私自身が…… |
モノローグ | 未完成な自分の歌を思い出し、また暗い表情で首を横に振った時だった。ポインセチアはヒイラギが昨日歌っていたメロディーを口ずさみ、手を上げて彼女を一緒に誘った。 |
モノローグ | その仕草を見ながら、ヒイラギは小さいころに慰めてくれた女の子を思い出した。そのコも思い切って歌い始め、同じように合唱に誘ってくれたのだ。 |
モノローグ | 思い出への懐かしさを胸に、ヒイラギがポインセチアとの合唱に加わる。だが依然として歌えない彼女は、曖昧なメロディーを口ずさむだけだった…… |
ポインセチア | 口ずさむだけでも、お前の歌声は無敵だよ。こんなに上手いのに、何でそんなに心配するの? |
ヒイラギ | 問題は山積みだよ……けど、ポインセチアだって意外に歌が上手んだね。(*1) |
ポインセチア | 当然さ、練習したことがあるから。こう見えて、幼い頃は聖歌隊で一番人気だったんだ! |
ポインセチア | だからおれは耳が肥えてる。お前は本当に歌が上手いよ。心配する必要はない…… |
*1 原文ママ