モノローグ | シャリシャリと雪を踏む音を響かせ、ポインセチアは大足で森を歩く。手には空っぽの袋を下げ、常に周りを見回していた。 |
ポインセチア | やっぱり無いよ……あの変なやつにぜんぶ持っていかれたんだ。 |
モノローグ | ポインセチアは口をゆがめてつまらなさそうに雪を蹴る。飛び散った雪は、すぐに落ちて塊になる……雪合戦をするのなら、これ以上ないほどコンディションの整った光景なのだが。 |
ポインセチア | クリスマスはもうすぐなのに、プレゼントがまだ行方不明だなんてさ…… |
ポインセチア | 意地でも見つけてやるよ……1個でも多くな! |
モノローグ | 口元に出かかったため息を飲み込み、強い意気込みを込めた鼻息へと変える。しっかり目をこすって、また周りを見渡し始めた。 |
モノローグ | ポインセチアの影は、また森の中を進んでゆく。しかし森を抜けるころには赤い影の動きもだんだん遅くなり、最後は大きな石の上で止まって、そこへゆっくりと腰を下ろすに至った。 |
ポインセチア | あの日のあのコも、きっとこんな気持ちだったんだろうな? |
モノローグ | ポインセチアは思い出す。小川の畔にいたヒイラギの涙が笑顔に変わったこと。その琴線に触れる歌声と、ふたりの合唱を。 |
モノローグ | ポインセチアは、いっそのこと石の上に寝転がり、目を閉じることにした。そうやってふたりの思い出に浸りながら、あのとき合唱したメロディーをひとりで歌い始めた。 |
ポインセチア | ……ん、誰かいるのか? |
モノローグ | 近づいてきた誰かの気配を感じてポインセチアが目を開け、石の上に座り直す。と、目の前には、見慣れたプレゼントの箱がいっぱい積み上げていた。そしてその後ろには、茶色い影が首をかしげ、興味深げにポインセチアを見ている。 |
トナカイ | あんたはサンタさんだべ? |
モノローグ | 突然プレゼントを見たポインセチアはしばらくポカンとしていたが、トナカイの声に、やがてウンウンうなずいた。 |
ポインセチア | そ、そうだ……いや、厳密には違うけど……おれはクリスマス実行委員で、サンタの助手だ。 |
モノローグ | 目をこすって幻覚ではないことを確認したポインセチアは、プレゼントの後ろの影を見て、その茶色い姿と、毎回プレゼントを奪っていった影がようやく重なった。 |
ポインセチア | お、おおおおおお……おおお前だったのか!このプレゼント泥棒!どの面下げてここに来た! |
モノローグ | ポインセチアが怒りを爆発させた様子に、穏やかなトナカイはびっくりしてしまった。彼女は大きく目を見開いて、でんでん太鼓みたいに頭を振った。 |
トナカイ | ど……泥棒じゃないべ! |
ポインセチア | ど……泥棒じゃない!?……って、何だよその顔……そんなみじめな顔をされたら、まるで逆に、おれが悪いやつみたいじゃないか…… |
モノローグ | 罪を問いただそうとしていたポインセチアも拍子抜けをし、不満げに口を尖らせるだけだ。 |
ポインセチア | おれ……がんばってプレゼントを探していたのに、いつもお前に奪われていたんだぞ…… |
モノローグ | そこまで言い、ポインセチアは肝心なことを思い出した……そうだ、クリスマスプレゼントだ!もはやトナカイに構っている場合でもなく、慌てて数を数え始める。 |
ポインセチア | ……どうも数が合わないな。やっぱり他の誰かに盗られたのか? |
トナカイ | そ、そうじゃないべ!他のはもう回収して、倉庫にあるべ。 |
モノローグ | トナカイは倉庫までポインセチアを案内した。じきにたどり着くと、トナカイは嬉しそうに門を開け、中で山積みになったプレゼントの箱を指さし、キラキラした笑顔を見せた。 |
トナカイ | ウチが回収したプレゼント、ちゃんと保管したべさ。誰にも触らせてないべ! |
モノローグ | ちょっと自慢げなトナカイを見ながら、ポインセチアは一瞬喜んでお礼を言いかけたが、これまでの苦労を思い出して、やはり言わないでおくことに決めた。 |
モノローグ | ひとまずざっと点検してから、ポインセチアは細かく箱を数え始め、今度こそ数にも間違いがないことを確認した。 |
ポインセチア | ……でも、おかしいな。 |
モノローグ | 困惑しながら、もう一度、指折り数える。結果はまた同じ……そんな彼の姿を、トナカイは好奇の目で見つめていた。 |
ポインセチア | 数が合うなら……ヒイラギが開けたあの箱は、一体誰のものなんだ? |
モノローグ | ポインセチアは袋の中を探し、例の開封した箱を取り出した。試しにフタを下に向け、底を見てみる。するとそこに、小さな白髭のおじいさんの肖像画が見えた。 |
ポインセチア | ……あれか! |
モノローグ | ポインセチアがプレゼント配りに旅立つ直線(*1)、意気揚々とプレゼントの袋を担ごうとしたときに、サンタに突然呼び止められたのを思い出した。 |
モノローグ | 彼は笑いながら一個の箱を取り出し、彼が配るプレゼントの中に押し込んだのだ。 |
サンタ | これはワシが特別に準備したプレゼントで、夢を実現できる魔法の箱だ!このプレゼントを受け取る幸運な子は誰かな? |
*1 原文ママ