(聖夜に捧ぐ歌)SP-2

モノローグ 雪が空から舞い降り、クリスマスツリーのライトに照らされ、水晶のようにきらめいていた。
モノローグ 雪に飾られて輝く大地にそびえ立つ緑のクリスマスツリーは、それぞれ特徴的な七色のボールと、おいしそうなキャンディが飾ってあり、魔法のボールがきらきらと暖かい光を放っている……
モノローグ ツリーに囲まれた広場の中央には、クリスマス仕様のステージが用意され、その周りは、音楽会に観客として参加する妖精で一杯だ。
観客 いい曲だなあ……
モノローグ ひとりの妖精がつい称賛の声を漏らしたが、音楽に酔いしれる他の妖精の邪魔をしないよう、すぐに口を押さえた。
モノローグ 妖精たちの視線が、舞台中央に集まる。麗しく優雅な姿をしたヤドリギの指揮のもと、美しい音楽が楽器からあふれ出す。
モノローグ 妖精楽団の曲は変わり続け、舞台の雰囲気も最高潮に達した。やがて、ヤドリギが終わりのサインを見せると、楽団は静かに舞台の袖へと退いていく。
モノローグ 同時に少女が舞台に上がり、ライトは彼女を追う。舞台中央のヤドリギの前で、その姿は堂々として見えた。
ヤドリギ 次は、冬の感謝と願いをこめた「祈りの歌」の披露です。冬の始まりが四季を導き、春の訪れをもたらしますように……
モノローグ ヤドリギは舞台に向かって丁寧に一礼した後、指揮を始めようとした。そのときふと、自分をじっと見つめているヒイラギの、キラキラした瞳と目が合う。
ヤドリギ まるで魔法のボールの光が彼女の目に宿ったかのように、心を奪われるような美しい瞳だ。
モノローグ ヤドリギは一瞬ぼんやりして、ヒイラギの口が動く瞬間を見逃した。
ヒイラギ 先生……
ヒイラギ 私の歌声を聴いてくださいね。
モノローグ 歌声が響いた時、森全体が一瞬静まり返った。音楽は聴衆の心に刺さり、魂を揺さぶるようだ。
観客 これは……神の祝福を授かった歌声だろうか?
モノローグ そうでなければ、こんなに感動的な歌声にはならないと、誰もが思った。
モノローグ たくさんの視線が、舞台中央で歌う少女に集まるも、彼女はずっと目の前の妖精を仰ぎ見ている。その指揮の動きに合わせ、歌声も変化していった……
ヒイラギ (実際そんなに違わないわ。森のこみちで練習していたときも、小川であのコと合唱していたときも、庭園で先生の指導を受けていたときも……)
ヒイラギ (いつも先生の存在を感じてた。先生が作った曲を歌いながら、その指揮に身を委ねられる……これって、なんて幸せなことなんだろう)
モノローグ 歌声は温かくきらびやかで、ほっこりとした気持ちが、ひとりひとりの心に流れていくようだった。そしていつの間にか、ヒイラギ自身の心のわだかまりも消えていた。
モノローグ 目の前の妖精と、頭をよぎる過去とを交互に見ながら、これまで凝縮された感情が満ち潮のようにヒイラギの心の中に溢れた。彼女はそれらを一つひとつ、歌声でゆっくりと表現していったのだ。
モノローグ 澄んだ歌声は自由で清らかで、「祈りの歌」は音楽会のエンディングに相応しい演目となった。聴衆の惜しみない拍手が送られる中、歌い終えたヒイラギは、ただただ高揚感に包まれていた。
ヒイラギ (先生は、私の気持ちを感じてくれたかな?)
モノローグ ヒイラギは唇をかむと、こっそりヒイラギを見た。彼は星を見ながら、懐かしそうな、曖昧な表情をしていた。
ヒイラギ (先生の気持ちはいつも分からないなぁ)
モノローグ ふとヤドリギはヒイラギの視線に気付き、彼女に温かい笑みを返して軽く拍手を送った。澄み渡った夜空の下、ふたりは見つめ合い、笑い合う……
モノローグ 果てしない夜空には星がきらめき、冬の祝福と愛を、みなの心にもたらすようだった。
モノローグ それと同時刻、同じ星空の下の、森の中でのこと。陽気な叫び声が、静寂を打ち破っていた。
ポインセチア いいね!速い、速いぞ!
モノローグ そりに乗っているのは真っ赤な影。帽子の後ろの長い垂耳は風に吹かれて飛ばされそうだが、それを押さえながら叫んでいる妖精は、とても楽しげな様子だ。
ポインセチア もっと速くならない?
モノローグ 言い終わらないうちに、そりを引っ張るトナカイが空中で跳ねる。魔法の光りがきらめき、ポインセチアの帽子は高く舞い上がった……
トナカイ 空を駆けるのってなまら楽しいべ。森よりも自由に走れるし、まるで風と一つになったみたいな気分だべ。
ポインセチア ハハハ!空を駆けるだけじゃなくて、そりも引っ張ってるよ。本実行委員は宣言する。お前の夢は叶った、お前はもう立派なクリスマストナカイだ!
モノローグ 笑い声が森の中に響き渡り、それはプレゼントを待つ妖精たちの夢の中にまで広がっていく……
モノローグ 幸福は、今晩だけでは終わらない。
モノローグ 明日、明後日、花咲くうららかな春、また遠い未来の先まで。もっとたくさんの幸福や出会いが、みなを待っているはずだ。
最終更新:2022年01月06日 01:07