| モノローグ | 真の男であるヤクは大皿を抱えながら、「本当においしいんだけどなあ」とぶつぶつつぶやいている。それはさておき、食べ物の問題はやっぱり未解決。 |
| モノローグ | 「食事」の問題は大きな山のように、冷たく、無情に、立ちはだかったままだ。 |
| 黄梅 | じゃあ、次はわたしがやってみます。 |
| 黄梅 | 料理の腕は人並みですが、普段お師匠さんが怠けている時にはわたしが作っていますから。 |
| 花露珍 | では……私も手伝いましょう。自宅にいる時には、料理人たちが調理しているのを見ていたこともありますので、手順などはある程度把握しておりますし……。 |
| 黄梅 | 本当ですか?まだ花露珍の料理を食べたことってないです。じゃあ、いっしょに作りましょう! |
| モノローグ | 小さい時から家事をこなしてきた黄梅と、良質な教育受けている花露珍のコンビは、一見とても頼りになる。彼女らが手を取り合い厨房へと進軍する姿には、後光がさしているかのようだった。 |
| 鬼灯(男) | あ~ほんとによかった~。 |
| 鬼灯(男) | かわいい女の子たちが手に手をとって厨房に入る。なんてすばらしい友情。なんて清らかな関係……インスピレーション湧いたから、この美しい情景を描くぞ~。 |
| ヤク | はー……お前がそんな顔をするなんてな。 |
| 鬼灯(男) | ど、どんなだ?顔はいつもしっかり管理しているはずなんだが! |
| ヤク | いつもは働かなくちゃならない時でも寝転がって起きやしないくせに、絵のことになると急に張り切って、ニコニコしだして……生き生きしてる?うまく言えないけどさ。 |
| 鬼灯(男) | そりゃ当たり前だ。好きなことと仕事は違うだろ?さて、紙と筆を持ってきてくれ。君たちに芸術のなんたるかを見せてやろう。 |
| モノローグ | ――数分経過。 |
| 鬼灯(男) | あ……描くのやめやめ……。 |
| ヤク | これって下書きだよな? |
| 鬼灯(男) | 細かく描くのは面倒だ……やめた、これでいい。下書きを仕上げた時点で満足した! |
| 花露珍 | きゃあっ!オ、黄梅……油が爆発しましたわ! |
| 黄梅 | 鍋のふたを!ふたはどこですか!? |
| 黄梅 | 待ってください、花露珍。どうして鍋に半分も油を入れるんですか?炒め物ですよね? |
| 花露珍 | 料理人に、たくさんの料理をする際には、油を十分入れるよう教わりましたので……。 |
| 黄梅 | これが十分な油?これじゃまるで、「長江の油は滔々と東に向かう」ですよ! |
| 花露珍 | え……それでは、捨てましょうか……。 |
| 黄梅 | あ、いえ、たしか野菜を油で揚げる食べ方もあったはずですから……それを作ってみましょう! |
| 花露珍 | 黄梅……本当にこれを全て入れますの? |
| 黄梅 | はい!これ、体にとってもいいんです。疲れが取れて、元気になりますよ~。 |
| 花露珍 | 大変ですわ!黄梅、火が……鍋に火が入ってしまいましたわ! |
| 黄梅 | 大丈夫です、これも一種の調理法なので―― |
| 花露珍 | まぁ……!あなたも料理人たちも、鍋に火を入れることができるなんて!私もやってみたいですわ。 |
| 黄梅 | えへへ……見ててください、もっと凄いこともできますから! |
| 黄梅 | あっ、待って、ああっ、火が大きくなりすぎました!きゃああ……消えません! |
| モノローグ | …… |
| ヤク | 放っておいて平気かな?厨房が爆発しちゃいそうだ。 |
| 鬼灯(男) | どうってことない。宿屋が爆発してなくならなければ、なんでもいいよ。 |
| 魔法使い | (……逃げる準備をしておいた方が良いかな?) |
| 黄梅 | できました~。 |
| 花露珍 | みなさま、大変お待たせいたしました。 |
| モノローグ | 黄梅と花露珍が、何事もなかったかのように料理を掲げて厨房から出てきた。料理の見た目は割と普通で、先ほど耳にした騒ぎは、極度の空腹が聞かせた幻聴だったのかと思ってしまう。 |
| 鬼灯(男) | なかなかよさそうじゃないか。 |
| 黄梅 | これはわたしが作った薬膳です。疲れを取るのにとってもいいんですよ~。どうぞ召し上がれ! |
| 鬼灯(男) | どれどれ……んむっ。 |
| 鬼灯(男) | ぶっ――うげげ……こりゃ何の味だ!舌が……舌が麻痺してきた! |
| モノローグ | 鬼灯に比べて、ヤクはずっと落ち着いて見えた。 |
| ヤク | ……にが。 |
| モノローグ | 食事を調達する苦労を知っている配達屋は、苦みを感じても、器を持つ手をわずかに震わせるだけ。 |
| 黄梅 | あれ……ちょっと苦いですけど、体には本当にいいんですよ。もっと飲んでみてください。 |
| 鬼灯(男) | いや、無理無理。 |
| ヤク | うーん、これはちょっと、オイラも……無理かも。 |
| 鬼灯(男) | ここはまず、花露珍の料理を食べてみよう!うん……なかなか素晴らしいできじゃないか。 |
| 花露珍 | こちらは、料理人に教わったレシピで作りました「牛肉のすっぱ味スープ」ですわ。 |
| 鬼灯(男) | おお!見た目だけで食欲がそそられる~。 |
| ヤク | 「牛肉のすっぱ味スープ」かぁ、なかなかいい名前。なんだか親近感わくなぁ。 |
| モノローグ | 鬼灯とヤクは料理をがばっとつかむと、口に放り込んだ。 |
| モノローグ | 彼らは甘かった。塩も砂糖も小麦粉も片栗粉も醤油も酢も区別できないお嬢さま方の、間違った方法で作った……しかしながら見た目はいたって普通の料理が、見た目がおかしい料理よりずっと恐ろしい代物であるなど、想像もしなかったのだ。 |
| 鬼灯(男) | …… |
| 鬼灯(男) | ――ああ!今、走馬灯が見えた気がした! |
| ヤク | ……。 |
| モノローグ | 我に返った鬼灯の横で、ヤクは生気のない目をしていた。料理の真の姿に関しては、どちらもすでに察している。 |
| 鬼灯(男) | ……しょうがない。僕が厨房で、何か食べられるものがないか探してみる。 |
| モノローグ | 鬼灯は厨房に入り、すっかり乱雑に荒らされてしまったそこを目にした。食材もほぼ底をついている。 |
| 鬼灯(男) | あいつらに使い果たされちゃって、もうほとんど食材はないか……。小麦粉だけは少しあるけど……姉貴、こんなにたくさん小麦粉なんて置いて、何するつもりだったんだ? |
| 鬼灯(男) | まだ少し肉があるし、調味料も足りる。 |
| 鬼灯(男) | いつもこの時期は、姉貴に頭を押さえられて、肉まんづくりを手伝わされたもんだ……。 |
| 黄梅 | 肉まん?鬼灯さん、肉まんが作れるんですか? |
| 鬼灯(男) | まあ、ね。ずっと前に、姉貴と一緒に作ったんだ。でも、今もちゃんと食べられるようなものが作れるかは、ちょっとわからないなあ。 |
| 黄梅 | じゃあ、みんなを呼んできますから、一緒に肉まんを包みましょうよ! |
| 鬼灯 | 面倒だけど、熱々のを食べたいからなあ……ええい、もうちょっとがんばってみるか。 |
| 鬼灯(男) | まだぼけっとしてる牛を引っ張って来い。皮をこねるみたいな力仕事はあいつにぴったりだ。黄梅さんは肉餡を作って、花露珍さんは器用だから、皮を伸ばして包む、問題ないよね。 |
| 鬼灯(男) | 魔法使いの姉ちゃんは、お客さんが泊るフェアリースフィアを急いで作って。 |
| 黄梅 | じゃあ、あなたは? |
| 鬼灯(男) | 僕はみんなを見守ってるよ。また変なものができあがらないようにさ。 |
| 黄梅 | つまり、何もしないってことじゃないですか! |
| 鬼灯(男) | まとめ役だぞ、とっても大切な仕事さ! |
| モノローグ | 鬼灯はみんなを集めて、それぞれに仕事を割り当てた。 |
| モノローグ | 最初から最後まで、彼はほとんど椅子にふんぞり返ってぼーっとしているだけに見えたが、たまに脱線を阻止するという重要な働きをしてくれた。そして数時間ほどの奮闘の末、新鮮で、熱々の、食べられる肉まんがついに出来上がった。 |
| 黄梅 | うれしい――あつあつの肉まん、わたし、三十個は食べられます! |
| 花露珍 | 肉饅という食べ物、見た目は素朴ですが、大変美味ですわ……。 |
| ヤク | んぐっ、んむっ、はむっ……! |
| モノローグ | 皆はすっかり極上の肉まんの虜になっている。空腹すぎて目を回していた皆にとって、この夜は何にも勝る幸せな夜になった。 |
| 魔法使い | どうして私はインスタントラーメンしか食べられないんだろ……。 |