アカギツネ |
おやおや……この宝はただものではありませんよ? |
アカギツネ |
割ったのはあなたたちですが……まあ、アタシがちゃんと注意してなかったせいもありますんで。そうですねぇ、仕入れ値で弁償していただきましょうかねぇ。 |
アカギツネ |
さっき言っていたお代と合わせて……。 |
モノローグ |
キツネのオーナーはへらへらと笑いながら、取り出したそろばんをカタカタと弾く。 |
アカギツネ |
端数は切り捨てで、四千両でいかがですか? |
フルル |
四千……両? |
アカギツネ |
えぇ、高くはないでしょう。そちらの通貨に換算するとね……まあ、4000万コインぐらいでしょ。 |
フルル |
4000万コイン!? |
アカギツネ |
星晶石での会計も受け付けますよ?世界通貨ですからねぇ。 |
フルル |
こ、こんな金額、一生かかっても払えないよ! |
アカギツネ |
まあまあ、そう言わずに。 |
アカギツネ |
うちは質屋ですからねぇ。他のことはさておき、鑑識眼ぐらいは養ってきました。そのアタシから言わせてもらえば、あなたの契約妖精は高く売れそうですよ? |
フルル |
え?私ってそんなに高く売れるんだ――いやちょっと、何するつもりなの!? |
フルル |
どうしよう、[魔法使い]……ロンユエに来たばかりなのに、こんな借金が……! |
魔法使い |
ええ、どうしよう……。 |
モノローグ |
思えば、なんでこんなことになってしまったんだろう。 |
モノローグ |
――全ては、あの変なくじ券から始まったんだ。 |
モノローグ |
……。 |
フルル |
やっとついた! |
フルル |
これが、伝説のロンユエ城なのかな?すごい! |
フルル |
ふふ、[魔法使い]が旅行券を当ててくれたおかげで、ふたりで楽しい旅行に来られるなんて。まるで夢みたい! |
フルル |
あのボロい屋台が、まさかこんなにいい景品を用意してくれてるなんてね~? |
魔法使い |
確かに、一回で特等賞を引けるとは思わなかったよ……。 |
フルル |
運がよかったじゃない! |
フルル |
はあ……すごく寒い。[魔法使い]、外に立ってないで早く城の中に入ろ? |
フルル |
そこの大門から入るのかな?ガイドしてくれる妖精がいるって聞いてたけど、なんで誰もいないんだろ? |
モノローグ |
フルルは私の帽子の縁を引っ張り、ワクワクしている様子で城門の方へ飛んでいく。 |
アムールトラ |
待たれよ。 |
フルル |
え?なに?どうしたの? |
アムールトラ |
人間、それに見知らぬ妖精……貨物を持っていないようだから、ふむ、商人ではあるまいな。その見た目から察するに、帰省しにきた訳でもなかろう。 |
アムールトラ |
……。 |
アムールトラ |
どんな目的でここに来たのだ? |
フルル |
え?あ、観光しにきたんだけど……。 |
アムールトラ |
観光? |
魔法使い |
んん?あなたはガイド役の妖精じゃないの……? |
アムールトラ |
いったいなんの話―― |
アカギツネ |
いやぁ!探しましたよ! |
アカギツネ |
アムールトラ。このお二方はアタシの客人です。心配することはありませんよ? |
アムールトラ |
……そうか。 |
モノローグ |
「アムールトラ」と呼ばれた妖精はそう言われると、すぐに安心したようだった。 |
アムールトラ |
アカギツネの客人であれば、なんの問題もないだろう! |
アムールトラ |
うむ、最近は少々事情があってな。職責もあるゆえ、そなたらを呼び止めてしまったのだ。 |
アカギツネ |
では、こちらのお二方はお連れしますねぇ? |
アムールトラ |
ああ、行くとよい。 |
モノローグ |
アムールトラと別れ、私たちはアカギツネの後ろについてロンユエ城に入った。 |
アカギツネ |
リリエの魔法使いと、そのお友達ですよねぇ?お会いできて光栄ですな!さて、これからの数日間は、このアカギツネめがお世話させていただきます。 |
アカギツネ |
これからそのまま宿屋で休まれます?それとも我がロンユエ城を回りたいですかねぇ? |
フルル |
もちろん回りたい! |
魔法使い |
そうだね。 |
アカギツネ |
畏まりました!では、アタシがガイド役を務めさせていただきます。アタシはこのロンユエのことを一番理解している妖精じゃあないかもしれませんが、二番目か三番目ではあると思いますよ。 |
アカギツネ |
まずはこの大門を御覧ください!ほら、なんと素晴らしい―― |
モノローグ |
アカギツネは饒舌に語りながら、ロンユエの街を案内してくれた。 |
モノローグ |
広くて平坦な道、古くて綺麗な建物……今のロンユエ城は少し寂しく見えるが、かつてあっただろう賑やかは容易に想像できる。 |
魔法使い |
ロンユエの建物は、人間用の大きさで作られたものが多いんだね。 |
アカギツネ |
このロンユエは人間と妖精が協力して作りました。ですから、人間用と妖精用の建物が混ざり合っているのです。 |
アカギツネ |
ここは再開発エリアですから、妖精の暮らしに便利な施設も多く作られましたよ。 |
アカギツネ |
もう少し先に行けば、旧市街となりますが……人間の住んでいた場所なので、今はもう廃れてますねぇ。 |
アカギツネ |
一般の人間が妖精と袂を分かってから、魔法使いの数もかなり減って……今や誰もあの場所を必要としていないもので。 |
アカギツネ |
はあ。「魔法使い」は言いにくいですね……昔は違う呼び方だったんですが、なぜ今になって変わったんでしょうかねぇ? |
フルル |
魔法使いが「魔法使い」じゃなかったんだ、なんて呼んでたの? |
アカギツネ |
「方士」……とかですかねぇ?まあ、かなり大昔の話ですから、気にしないでくださいな。 |
アカギツネ |
ロンユエもルールに厳しい場所ではないので、自然にみんなが呼びやすいものに変わっていきますよ。 |
アカギツネ |
さぁさぁ、こちらにいらっしゃいな。 |
モノローグ |
存分にロンユエを回ってから、古くて綺麗な建物の前に連れてこられた。巨大な扁額に、「青丘閣」と書いてある。 |
アカギツネ |
ここは人間の魔法使いが住んでいた屋敷でございます。丁寧に手入れされていますので、お二方はここにお泊りくださいな。 |
アカギツネ |
ちなみに、アタシめはここのテナントでちょっとした商売をしております。あらゆる骨董品やお土産がございますんで、よろしければぜひご贔屓に……ひひ……。 |
フルル |
面白いものがたくさん![魔法使い]、これを見てよ! |
モノローグ |
私とフルルが店に並べられた商品を見て回っていると、アカギツネがアゴをさすり、のんびりと言った。 |
アカギツネ |
あ、そうでした。お代の話もしておきませんとね。 |
アカギツネ |
7日間の宿泊代は一千両、食事代は七百両、ガイド代は五百両……。 |
アカギツネ |
合計で二千二百両です。まいどありがとうございます! |
フルル |
な、なんのこと? |
アカギツネ |
サービス料の話ですよ。アタシがおもてなししてサービスしてるんですから、お代をいただくのは当然じゃないですか? |
魔法使い |
でも、無料の宿泊券をもらったはず……。 |
フルル |
そうよそうよ!「ロンユエ城6泊7日の旅に無料でご招待」って書いてあるじゃない! |
アカギツネ |
はあ……どうやら誤解されているようですので、もう一度説明させていただきますねぇ? |
アカギツネ |
ほら、もう一度読んでくださいな?ここに書いてあるのは「旅に無料でご招待」ではありませんか。運賃だけが無料なんですよ? |
フルル |
はいいいいいいい!? |