アカギツネ |
昨日はゆっくりお休みになれました? |
モノローグ |
朝。アカギツネがへらへらと手もみをしながら、挨拶に来る。 |
モノローグ |
ただ今となっては、その満面の笑みにも、悪徳さが溢れているようにしか感じ取れない……。 |
フルル |
4000万コインの借金を作っちゃったのに、眠れるわけないじゃん! |
アカギツネ |
まあ、そうおっしゃらずに〜 |
アカギツネ |
生きていれば、トラブルはつきものでしょう?いつまでも鬱々とされたままでは損ですよ?どうせ考えてもしようのないことですし、今を楽しもうではありませんか。 |
フルル |
それはそうかもしれないけど、あんたの言うセリフじゃないでしょ! |
アカギツネ |
どうしても遊びに行く気分になれないのであれば、アタシの店で働きませんかね?フルルは店番をやれますし、魔法使いは……フェアリースフィアを作っていただけたら、たくさん稼げそうですもの! |
アカギツネ |
アタシは誠実な商売者なんで、損はさせませんよ?ここで働いていれば、十数年でチャラになるでしょう。早いものですよ。 |
フルル |
あんたは私たちから十年も搾り取るつもりなの!? |
アカギツネ |
もしくは高く売れそうななにがしかで弁償しませんか?実のところ、アタシめの本当の仕事は質屋でありますので……。 |
モノローグ |
……。 |
フルル |
なんでこんなことになったんだろ……。 |
モノローグ |
交渉の末、勝ったのはキツネのオーナーさんだった。彼は私の作ったフェアリースフィアで、気持ちよさそうに日向ぼっこをしている。 |
モノローグ |
そして負けたフルルは雑巾を手に取り、しぶしぶ棚の掃除をしていた。 |
アカギツネ |
お姉さん、優しくしてくださいよ!あれはいくら出しても買えない宝物ですよぉ!また昨日のように割れたらどうしてくれるんですか? |
アカギツネ |
もしこれも割れたら、借金はさらに上乗せですよぉ!上乗せ! |
フルル |
あんたもよく言うわね。急にあんなこと言われたからこそ、手が滑ったんじゃないの……。 |
モノローグ |
フルルは悔しそうだったが、結局大人しくアカギツネに従い、力加減を調整した。 |
魔法使い |
本当に言うこと聞いて働き始めたんだ……。 |
フルル |
他にどうすればいいのよ。とんでもない借金ができちゃったんだよ……?もしあのキツネが本当に私を売ろうとしたらどうしよう? |
フルル |
[魔法使い]、この先あのキツネになにか言われても、ちゃんと私のことを守ってね!ぜったいに[魔法使い]と離れたくないもん! |
魔法使い |
それはもちろん。私のフルルは誰にも譲れないからね。 |
フルル |
そうだそうだ! |
フルル |
でも本当になんでこんなことになったの……特等賞をもらったから、ここに遊びにきたのに。 |
フルル |
いきなり、こんな借金できる? |
フルル |
宿泊代、ガイド代……あとうっかり落としたあの皿。本当にそんなに高かったのかな?どう考えてもおかしいよ。 |
魔法使い |
私たちは最初から騙されていたのかもしれない。あの特等賞は罠だったのかも。 |
フルル |
罠? |
魔法使い |
ボロボロの屋台なのに、「無料の旅行券」とか出してきたでしょ?条件をちゃんと読めば穴だらけだったし……。 |
フルル |
わかった!特等賞で私たちが釣れたら、すぐに魔法契約を結ばせて……ロンユエに来てから、「ガイド」の名義で金を取ろうとしたんじゃ……。 |
フルル |
もし私たちが断れば、契約違反として魔法の罰を受けちゃう……もうどうしようもないじゃん! |
フルル |
あの悪徳商人!嘘つき! |
モノローグ |
でも、おかしいな。 |
モノローグ |
借金で脅かしてくるけど、あくまでも口先だけだ。私たちの行動を制限もしてないし、お金を返さなかったらどうなるかも具体的には言ってない。 |
魔法使い |
こんな気まぐれな詐欺あるのかな……。 |
フルル |
え?なに? |
魔法使い |
なんでもない。まだ結論を出すのは早いかな。……あ、フルル、そっちはまだ汚れてるよ。 |
フルル |
どこどこ?……って待って、なんで私だけが働いているの? |
魔法使い |
だって私の分はもう終わったから。 |
フルル |
しくしく……。 |
モノローグ |
フルルはしょんぼりしつつ、慎重に棚の掃除を続けた。日が暮れ始め、街も賑やかになってきた。けどこの店はあまりにも寂しいと考え始めたとき-- |
怒っている妖精 |
おい、アカギツネは?出てこい! |
モノローグ |
怒った様子の妖精が、怒鳴りながら入ってきた。 |
アカギツネ |
ほう、オックスさんじゃありませんか?今日はどういった御用で? |
怒っている妖精 |
ふざけるな! |
怒っている妖精 |
てめぇの質屋にいいもんがあると聞いたから、大金を出して買いにきたんじゃねぇか!なのにこんな使えねぇもんを売りやがって! |
モノローグ |
「オックスさん」と呼ばれた妖精は薄暗い石を何個か取り出し、地面に力強く投げつけた。 |
アカギツネ |
オックスさん……こ、これはなんの真似です?宝石が割れてしまったじゃあないですか!?いったい何故こんなことを-- |
怒っている妖精 |
もうそういうのはいい。 |
怒っている妖精 |
俺はレアなもんが欲しいって言ったじゃねぇか。結局てめぇに騙されてこんなゴミを買っちまった。 |
怒っている妖精 |
宝石だと思いきや、砕いて中身を見てみれば、ちょっと魔力が付いているだけの石じゃねぇか! |
怒っている妖精 |
こんなゴミを宝物みてぇに売ってくるんじゃねぇよ! |
アカギツネ |
オックスさん、それは誤解ですよぉ。 |
アカギツネ |
この前に店に来たとき、あなたは言ってたじゃないですか?レアなものがいい。一番レアなのが欲しいと。 |
アカギツネ |
友達に見せびらか--コホン、友達と一緒に鑑賞したいので、一見控えめで、実はとんでもないものが一番いいと。 |
アカギツネ |
アタシがおすすめしたこの宝石は、まさにあなたが欲しがっていたものじゃないですかぁ?この宝石、確かに冴えない見た目ではありますが……歴史から言えば、本当にとんでもないものでございますぞ? |
アカギツネ |
なんなら名門の……この前の主だって……ここに残った魔力は……。 |
怒っている妖精 |
そろそろつまらねぇ話はやめておけ。うめぇ話をしようとしても、この石がゴミなのは変わらねぇよ。詐欺だぞごら。 |
アカギツネ |
オックスさん。アタシは誠実な商売をしてきたんですけどね? |
アカギツネ |
骨董品の取引は、そもそも合意の上に行われたものです。前の持ち主は、この石を命同然だと見ていました。そしてアタシは、この石の価値を認めていますし、あなただって頷いたじゃないですか? |
アカギツネ |
いまさらこの石がゴミだと思っても、あなたのお目がさらに高くなっただけの話です。ここまで公平な取引を、詐欺呼ばわりはいただけませんな。 |
アカギツネ |
これがアタシたちの契約書です。ちゃんと要項で書いてありますし、魔法でサインしたでしょう?今更になって後悔しても、もう遅いんですよ? |
怒っている妖精 |
てめぇ-- |
怒っている妖精 |
そこのてめぇら、おかしいと思わねぇかよ!? |
フルル |
え……私たち? |
怒っている妖精 |
そもそも、こんな悪徳キツネんとこで働いてても平気なのかよ! |
魔法使い |
……。 |
フルル |
違うの、これにはちゃんとした理由があって……。 |
怒っている妖精 |
いや、いい。てめぇらは同類だからここに集まったんだろ?マジで汚えったらねえな! |
怒っている妖精 |
こんなゴミを売りやがって……この先、ロンユエで商売できると思うなよ! |
モノローグ |
大騒ぎになってしまい、知らない内に店の外にはたくさんの野次馬が集まっていた。その中に、見覚えのある顔があった。 |
アムールトラ |
どうした? |
傍観の妖精たち |
若、実は……。 |
モノローグ |
周りの妖精がアムールトラに事情を説明し始めた。 |
アムールトラ |
ふむ……。 |
アムールトラ |
なにか誤解があるのではないか? |
アムールトラ |
余の知っているアカギツネなら……確かにまあ、少々巧みな言葉は使うが、法律や原則から反することはしないと思うぞ。 |
アカギツネ |
もちろんですよ?アタシ、誠実な商売者ですから! |
フルル |
あんたは黙ってて! |
怒っている妖精 |
誤解だと?これは詐欺だぞコラ!弁解の余地があるか? |
怒っている妖精 |
騙されてんのか、それとも最初からグルだったのかは知らねぇが……。 |
怒っている妖精 |
ロンユエの詐欺犯がいつまでも捕まらないのは、お前がかばっているからじゃねぇか? |
モノローグ |
周りから、賛同する声が次々とあがる。 |
モノローグ |
「このキツネはどう見てもろくなやつじゃないよ」、「若も騙されてんな」、「次期城主ってのはこんなもんなのか?」……と騒ぐ声が、聞こえてくる。 |
アムールトラ |
もうよい! |
アムールトラ |
余はアカギツネのことを信用している。だが、余の言葉では足りないのも承知しておる。 |
アムールトラ |
詐欺については、余がしかと処置する。アカギツネの無実を証明し、皆が納得できるような結果を出そう。 |
アムールトラ |
ただもし……アカギツネが本当に、そなたたちの考える通り、許されぬことをしたのであれば……必ず私情を挟まず処分すると約束しよう! |
モノローグ |
アムールトラは厳しい表情で、皆にそう告げた。 |
モノローグ |
周囲は、まだ幼い見た目には似つかわしくないオーラをまとったアムールトラに圧倒され、静まり返った。 |
モノローグ |
当事者であるアカギツネだけが、まるで他人事のように、へらへらと笑っている。 |
アカギツネ |
それじゃあ若、お願いしますね? |