(龍城紀行)1-5

アムールトラ これからしばしよろしく頼むぞ。
アムールトラ アカギツネの客である以上、信頼してよい相手であるのは疑いようもない。アカギツネも、そなたたちを只者ではないと言った。
アムールトラ 協力してくれること、礼を言う。
フルル ど、どういたしまして……。
フルル (ぼそぼそ)アカギツネが、1000万の借金を帳消しにしてくれるって言うから……。
アムールトラ 借金?どういうことだ?
フルル アカギツネが--
魔法使い コホン。
魔法使い 他の妖精が「若」って呼んでいるのを聞いたけど、アムールトラは城主なの?
アムールトラ 正確に言うならば、余は次の城主だ。
アムールトラ 未熟な余に、まだ城主の責任を背負う資格はない。今まさに、そのための修行中だ。
魔法使い では若は……アカギツネのことを信じているの?
アムールトラ 無論。アカギツネはいいやつだからな。そなたたちは共に暮らしているゆえ、彼の性格の良さはわかっているはず。
アムールトラ それから、余のことは友人と思い、「アムールトラ」と呼んでくれて構わないぞ。
魔法使い ……うん。よろしくね、アムールトラ。
モノローグ 私はフルルを見た。彼女はほっぺを膨らませ、悔しそうにしつつも告げ口を諦めた。
アムールトラ 今回の詐欺犯は……組織的なものだ。春節を狙い、ロンユエの民たちを狙ったのであろう。
アムールトラ 多くの妖精が騙されてしまってな……よりにもよって春節の前に、このようなことをしでかしてくれるとは。
アムールトラ 民のため、そしてアカギツネのため、余はこの詐欺犯どもを始末しなければならん!
アムールトラ ここにきて魔法使いとフルルに助けてもらえる以上、もはや何も心配することもなかろう。
魔法使い じゃあ、これからどうすればいいの?
アムールトラ まだ捕えられてはいないが、騙された妖精たちから話を聞き、解決の糸口が見えてきたところだ。
アムールトラ 今日は元々、幾名かの妖精たち訪ねる予定だったが……協力者も増えたことだし、別れて行動しよう。これで効率も良くなるはず。
アムールトラ これがそのリストだ。
モノローグ アムールトラがくれたリストを確認してみたが、まさか馴染みのある名前が載っているとは……。
モノローグ ……。
鬼灯(男) 魔法使い!?君だったの?
鬼灯(男) アムールトラから話があった時、君がくるとは言ってなかったぞ!?
魔法使い まあ、話せば長くなるんだけど……。
鬼灯(男) 詐欺られた上に、知り合いに知られたなんて……。
鬼灯(男) 僕がバカだったよ。本当に。誰か来るとは聞いていたけど、知り合いが来るとは思わなかった。それじゃ、僕が騙されたことはみんなに知られちゃうじゃないか!
鬼灯(男) はあ……帰省するとやっぱりろくなことが起きないな。
鬼灯(男) 早く荷物を片付けて、ここから逃げようかな……。
魔法使い 待って、これには事情があるの……。
魔法使い 本当に、何があったかとかは知らないよ。アムールトラのために情報を集めに来ただけだから。
鬼灯(男) 僕がバカだったんだ……。
魔法使い そして教えてくれたことは絶対誰にも話さないよ。あ、アムールトラ以外ね。
鬼灯(男) 本当?
魔法使い 本当本当。約束するから。
鬼灯(男) わかったよ……。
モノローグ 鬼灯は悲しげな口調で、今まであったことを語り始めた……。
鬼灯(男) 要約すると、「お上があなたの絵を気に入ったから、一緒に展覧会をやってほしい」と言われてさ。
鬼灯(男) 最初は面倒くさいと思ったけど……。
鬼灯(男) でも展覧会なんてやれれば知名度を上げられるし、分け前も8割くれるっていうし。
鬼灯(男) 条件が良すぎたんだよ!
鬼灯(男) 今回の展覧会は業務拡大のためだからって、費用も負担してくれる、ってさ。
鬼灯(男) そして僕はほんの少しの保証金を出せば、他のことは心配しなくてもいいって。
鬼灯(男) ちょうど、ちょっと余った金があったからさ……。
鬼灯(男) それでしばらくしたら、他の画家も参加しだして、場所が取られちゃったんだ。でも少し宣伝代を上乗せして払えば、僕の絵を一番見やすいところに置いてくれるって。
鬼灯(男) 高くないし、効果もよさそうだから払ったんだ。
鬼灯(男) 結局……はあ……。
魔法使い 向こうがもっともらしい理由を作って、お金を更に払わせたの?
鬼灯(男) そう!そういうこと!
鬼灯(男) 変だなと思った時にはもう、連絡がつかなくなってた。
鬼灯(男) これまで話をする時は、旧市街の商会に誘ってくれてたんだ。そこのインテリアは結構豪華だったから、信頼できるなって思ったんだよ。
鬼灯(男) 結局それは全部、そういうセットだったんだよ!だからいつも同じ部屋にしか連れて行かれなかったんだ。
鬼灯(男) 本当に悪徳すぎる!こんなことをする妖精がいてたまるか!
モノローグ ……。
モノローグ 鬼灯の事件を記録してから、リストに載っている他の妖精も訪ねてみた。
モノローグ 「一儲けできる商売」に誘われて、多額の投資金を騙し取られた妖精がいれば、
モノローグ 不思議な効果を持つ最新商品を通販で買ったけど、結局何ももらえなかった妖精もいて、
モノローグ あまつさえ、出会い掲示板とかいうものでハニートラップに掛かり、お金だけでなく恋まで失った妖精もいた。
モノローグ --情報が集まったので、約束の場所へ戻る。
フルル [魔法使い]、待ってたよ!
アムールトラ 何か聞けたか?
フルル 被害者たちの話を全部記録してきたよ!ものすごく可哀想な妖精がいてね、終焉の地で失踪した家族を探してくれるって言われて、たくさんお金を騙し取られたんだって……。
フルル 本当にひどい!絶対に詐欺犯たちを捕まえなきゃ!
フルル あ、そうだ。詐欺犯は仲間に「荷物を山の上に運べ」とか言ってたらしいよ。
魔法使い こっちもそんな感じかな。あと気になることといえば……ある妖精が旧市街に詐欺犯たちの偽商会があるって言ってた。それと……、
モノローグ 集めた情報をすべて、アムールトラに教えた。
アムールトラ 役立ちそうな情報が集まったな。感謝する。
アムールトラ ここ数日調査してみたが、詐欺犯たちの正体はおおよそ推測できたと思う。ただ万が一のこともある、一度見直ししてから結論を下そう。
アムールトラ 明日またここで待ち合わせよう。余の見解を話す。
フルル アムールトラ、また明日!
魔法使い また明日。
モノローグ ……。
アカギツネ やれやれ……やってくれるじゃあありませんか。
モノローグ 夜になり、街から妖精の影が少なくなり始めた。薄暗い路地の奥からキツネが目を細め、ゆっくりと姿を見せる。
アカギツネ 予定より早くなりましたが……まあ、いいでしょう。アタシが少し苦労しちゃうんですけどねぇ。
モノローグ キツネはぐっと腰を伸ばし、それからのんびりと、静かな方へ去っていった--
最終更新:2022年02月10日 06:41