| モノローグ | 時間通りに約束の場所に来たものの、アムールトラは姿を全く見せなかった。 |
| フルル | なにかあったんじゃ……。 |
| モノローグ | さすがに心配し始めた時、少し遠くから騒ぎ声が聞こえてきた。 |
| アムールトラ | 止まれ! |
| モノローグ | アムールトラが知らない妖精を追いかけていた。けれどすぐに道を曲がってしまい、見えなくなる。 |
| フルル | えぇ、急にどうしたの?まさかアムールトラが詐欺犯を見つけたんじゃ……? |
| フルル | 魔法使い、アムールトラを追いかけよう! |
| 魔法使い | でもアムールトラがどこに行ったのか分からないよ。 |
| フルル | だよね、私たち、ここには疎いし……やっぱりここでアムールトラを待とうか……。 |
| フルル | またもしアカギツネみたいな悪徳商人と出会っちゃったら、もうどれほど頑張っても借金を返せないよ! |
| モノローグ | そう決めて、私たちはそのまま待つことにした。 |
| モノローグ | 暫くすると、ようやくアムールトラがやって来た。 |
| フルル | さっきの妖精は詐欺犯なの?捕まった? |
| アムールトラ | いや……やつの足は早すぎてな。旧市街に入った後、曲がり角の先で見失ってしまった。 |
| アムールトラ | ただやはり、余の推測は間違っていない。その詐欺犯たちは旧市街のことを熟知している。それに、さっきのやつの逃走経路から判断すれば……。 |
| モノローグ | アムールトラはその場にしゃがみこみ、木の枝で地面に何やら書いたり描いたりし始めた。しばらくして、彼は手をはたきながら立ち上がる。 |
| アムールトラ | 行こう。今日こそあの詐欺犯たちとやらを捕らえるのだ! |
| フルル | もう居場所がわかったの? |
| アムールトラ | ああ、被害者たちの情報から、いくつかの場所を推測していたが……さっきのことで、ようやく確信を得た。 |
| アムールトラ | ずっとぐるぐる回っていたが、奴ははじめ、ロンユエ山に行こうとしていた。やつらの拠点はきっと、山の上にあるに違いない。 |
| アムールトラ | 余は小さい頃から、幾度となくロンユエの地図を読んできたのだ。この判断に狂いはない。 |
| アムールトラ | やつは安全のため、また少し回り道をするだろう。我々はその隙に、先に山に行かせてもらう。 |
| 魔法使い | そうと決まれば、早く出発しよう。 |
| モノローグ | アムールトラが私たちを連れて、旧市街に入る。 |
| モノローグ | 今まで見てきたロンユエには歓楽街のような賑やかさがあった。でも、旧市街には歴史ある古都のしっとりとした風情が感じられる。 |
| アムールトラ | 旧市街が放棄されてから、ロンユエの住民たちのほとんどは新市街で暮らし始めた。 |
| アムールトラ | けれど、全ての妖精が引っ越しした訳ではない。今でも、旧市街から離れようとしない妖精もいる。 |
| フルル | なんでなの? |
| アムールトラ | 己の「家」はここだと感じているからではないかな。城内に入らない妖精もいるのは、それが理由なのだろう。 |
| アムールトラ | 昨夜は少々、寝る前に考えたのだが、詐欺事件は既に城内に知れ渡っている。故に、もしやつらが同じ犯罪を繰り返したいのであれば、城内の事情をよく知らない妖精から狙うだろう |
| アムールトラ | 集合前、余は少々遠回りし、偏僻な場所へ行った。するとちょうど詐欺現場に出くわしたのだが、捕えることができなかった……。 |
| アムールトラ | ん、次はこっちだ。 |
| フルル | 山に行くんじゃなかったの?さっきの道、山に繋がってるように見えたんだけど……。 |
| アムールトラ | そうだ。旧市街は山の隣にあり、先ほどの道は一番便利なのだが……、 |
| アムールトラ | 実はもう一つ、近道があってな。昔、家からこっそり抜け出して山に遊びに行く時に……コホン。なんでもない。 |
| モノローグ | 旧市街からロンユエ山に向かう、道中の景色も変わってゆく。 |
| モノローグ | この道には明らかに、誰かに手を加えられた痕跡がある。どうも定期的に修繕されているようだ。登るほど歩きにくくなり、階段は欠けたり、泥に覆われたりしている部分ばかりになった。所々、崩れ落ちた屋敷の壁のようなものも見える。 |
| アムールトラ | ふむ……次は……。 |
| モノローグ | しばらく歩いたところで、アムールトラは足を止めた。 |
| アムールトラ | この山はかなり広く、まだ探索されていない場所は危険だ。 |
| アムールトラ | 旧市街から山を登りたければ、3つのルートしかない。 |
| アムールトラ | 一番歩きやすいのは先程の道だ。魔法使いの痕跡が多く残っているから、もしまだあの詐欺犯が山に帰っていないのなら、あの道は避けるだろう。 |
| アムールトラ | 他に裏道は二つあって、山の中腹に集中している……ちょうど、こちらからも裏道にいけるのだ。 |
| アムールトラ | 今すぐ行けば、あの詐欺犯を捕らえられるはず。魔法使い、フルルと一緒にゆっくりと来るといい。道の途中に、目印の魔法記号を付けておく。 |
| フルル | アムールトラって、思ったより計算高いところもあるんだね……。 |
| アムールトラ | 実はこのやり方は、アカギツネに教わったものでな。たまに跡を残せば、逆に相手を操ることができる、とね。 |
| アムールトラ | この記号も、小さい頃に彼と共に作ったものなのだ……。 |
| アムールトラ | そういう訳で、余は先に行くぞ。 |
| モノローグ | アムールトラは素早く飛び跳ね、木々の間に消えた。 |
| フルル | アムールトラ、大丈夫かな……。 |
| 魔法使い | あの詐欺犯が帰ってくる途中で捕まえたいんだろうね。もしくはそのまま後をつけて、グループの拠点を暴きたいのかも。もしそうなら、アムールトラと一緒に行動するのは、目立って良くないと思う。 |
| 魔法使い | 彼の言う通り、記号の目印に沿って歩いていこう。 |
| フルル | うん!ちゃんと目印を見逃さないように気を付けるよ。[魔法使い]、ここから先は歩きにくいから、気をつけてね。 |
| モノローグ | 目印に沿って、もう1つの山道に移動した。前の道よりも狭かったけど、ちゃんと階段がついていて、歩けないほどではなかった。 |
| モノローグ | ここには、アムールトラはいなかった。でも、彼の残した記号は山の頂上まで続いていく。これは、詐欺犯を見つけたのかもしれない……。 |
| モノローグ | そのまま歩いて行くと、やっと平らで広々としている空き地に辿り着いた。空き地には崩れ落ちている建物がいくつかある。多分歴史ある遺跡なのだろう。 |
| モノローグ | 遺跡から、うっすらと話し声が聞こえてくる。 |
| 詐欺犯A | 若!今回ばかりはどうかお許しください! |
| 詐欺犯B | しくしく……私たちもやりたくてこんなことをやっているわけではないのです……。 |
| 詐欺犯C | ただでさえ家の年寄りと子供を養わなければならないのに、この冬は一度もちゃんと食事もできず……一番小さい弟は、毎日空腹で泣いていて……、 |
| モノローグ | 簡素な、臨時で作られたようなキャンプで、アムールトラが妖精の群れと対峙している。詐欺犯と思わしき妖精たちは泣きながら、自分たちは嫌々ながらも、詐欺で生業を立てるしかないのだと訴えている。 |
| モノローグ | それを聞いているアムールトラの顔に、同情の色が浮かんでいた。 |
| アムールトラ | ……不憫だな……。 |
| フルル | そんなあからさまな嘘を信じないでよ! |
| アムールトラ | だが……確かに良い生活をしていないのは分かる。体は細く、顔色もかなり悪い。 |
| アムールトラ | 余は知っているのだ。例え城内でも、誰もが良い生活を送れるわけではない。これは、次期城主である余が解決すべき問題なのだ……。 |
| 詐欺犯A | では今回のことは見逃してくれるってことですか!?それなら、二度とこんなことしません! |
| アムールトラ | ……。 |
| アムールトラ | ならん! |
| アムールトラ | 同情する余地はあれど、それを理由に他の妖精を騙して良い訳がない。このような悪事を繰り返してきて、今まで被害者たちの気持ちを考えたことはあるか? |
| アムールトラ | そなたたちが豊かな生活を送れるよう、余は尽力すると約束しよう。だがその前に、騙し取った金は返さなければならない。また、罰もしっかりと受けてもらうぞ……。 |
| アカギツネ | おやおや、いいこと言ってくれるじゃあないですかぁ。 |
| モノローグ | 拍手の音と共に突然予想外の顔が現れ、ゆっくりと詐欺犯たちの輪へ入って行った。 |
| アムールトラ | ……アカギツネ!? |