アムールトラ |
う……。 |
フルル |
やっと起きたのね! |
アムールトラ |
フルル?よかった。そなたも無事か。 |
アムールトラ |
なにが起きたのだ?ここはいったい……。 |
フルル |
ええと、私もわからないの。周りを見た感じ、ここはどこかの谷みたいだけど。 |
フルル |
覚えてる?あなたはあの詐欺犯たちに囲まれそうになって……[魔法使い]がスフィアを作ってくれて……そして私があなたをそのスフィアに引っ張って……それから放り投げられて、気がついたらもうここにいたの。 |
フルル |
運よく川に落ちたから、怪我せずにすんだんだろうね。 |
モノローグ |
アムールトラはまだぼんやりしている頭を振り、辺りを見渡す。 |
モノローグ |
ふたりのいる場所は、ロンユエ山のある谷だ。両側は絶壁で、まず登るのは無理だろう。そしてふたりを守ったスフィアは、今は川敷に転がっていた。 |
フルル |
アムールトラ、大丈夫……? |
アムールトラ |
余は平気だ。高い場所は少々苦手だがな……。 |
モノローグ |
フルルに心配している目で見つめられ、彼はやっと何が起きたのかを理解した。 |
モノローグ |
アカギツネは彼を騙した。それも二度も。 |
アムールトラ |
あやつは本当に、信用に値しない者だったのか?今までのことは、全て演技だったのか? |
アムールトラ |
それとも、優しくしてくれたのは、余が取るに足らない者だったからか?もの余がやつの邪魔になれば容赦なく、容易に余を排除できると……。 |
アムールトラ |
……。 |
モノローグ |
アムールトラはそれきり黙り込んでしまった。悲しみや怒りの感情が溢れてくるのではと思っていたのに、今は何も感じ取れない。心が空っぽだった。 |
モノローグ |
それでもまだ、アムールトラはアカギツネがあんなことをするはずがないと思いなおす。 |
アムールトラ |
……ここで座りこんでいても仕方がない、まずはここから離れる方法を探さねば。 |
アムールトラ |
余は、アカギツネを問い質さなければならない。もしやつが本当に、あの詐欺犯たちと手を組んでいるのなら、絶対に許さんぞ! |
フルル |
うん。私も[魔法使い]のことがすごく心配だよ。早く戻らないと。 |
アムールトラ |
余を助けたりしなければ、そなたが魔法使いと離れることもなかった……本当に申し訳ない。 |
フルル |
大丈夫だよ。あんな状況で助けなかったら夜眠れなくなるもん!あのキツネに言われてやったっていうのが、ちょっとしゃくだけどね……。 |
フルル |
あれ?アムールトラ、あれなんだろう? |
モノローグ |
フルルは川敷にある大きな岩を指差した。その岩の中央に、微かな光が瞬いている。 |
モノローグ |
近づいて見てみれば、その岩に馴染みのある印が刻まれていた。 |
フルル |
これ、アムールトラが使ってた記号じゃないの? |
アムールトラ |
だが余は、今までここに来たことがない。これを使える者は……余とアカギツネだけ……。 |
アムールトラ |
探してみよう。この辺りにまだ同じものが残されているかもしれぬ。 |
モノローグ |
探してみると、やはり川敷や絶壁に記号があった。それは一定の距離ごとに刻まれ、まるで看板のように道を示す。 |
モノローグ |
記号に従って歩いていくと、また廃棄された建物がまばらに現れた。それらの建物は山壁のようでありながら、どこか厳かな空気が感じられた。 |
モノローグ |
そして最後に、ふたりはある洞窟へ入った。 |
フルル |
なんだかここ、変なの……気持ち悪い……。 |
アムールトラ |
余も同じだ。ここの魔力は不安定すぎて、まるで……何かが争い、ぶつかりあっているようだ。 |
アムールトラ |
ふむ。そなたはここで休んでいるといい、余がここから先の様子を見てこよう。 |
フルル |
ええっ、い、一緒に行くよ! |
モノローグ |
深くなればなるほど、不快な感覚が強くなる。やがて、ふたりは巨大な地下空間に辿り着いた。 |
モノローグ |
そこには大きな中庭があり、周囲に4つの祭壇が設置されていた。1つ目から3つ目の祭壇には法印が刻まれ、キラキラと瞬いているが、4つ目の祭壇にはなにもなかった。 |
モノローグ |
そして中庭の地面には、巨大な図が描かれている。 |
フルル |
これって……。 |
アムールトラ |
龍だ。東方の。 |
アムールトラ |
山中の洞窟、祭壇、龍の図……。 |
アムールトラ |
昔、アカギツネがある伝説を語ったことがあつた-- |
モノローグ |
……。 |
アカギツネ |
魔法使い、ソワソワしてますねぇ? |
モノローグ |
アムールトラとフルルを逃したあと、あの詐欺犯たちは、私には特に何もしてこなかった。 |
モノローグ |
アカギツネは私に「ここを見学してみたらどうですか?」と言い、詐欺犯たちには「魔法使いはなくてはならない存在」と言った。 |
モノローグ |
アカギツネが何を企んでいるかは知らないが、今のところ私に危害を加えるつもりはなさそうだ。とりあえず、彼の言うことをしばらく聞こうと決め、私は彼がリクエストしたスフィアを作り始めた。 |
アカギツネ |
そんなに友達のことが心配ですかね? |
魔法使い |
あなたはアムールトラのことが心配じゃないの? |
アカギツネ |
おやおや?アタシはそんな薄情なものに見えるんですかな?アタシもかなりあの子のことが心配ですよ? |
アカギツネ |
でも、アムールトラはとても強いのですよ?アタシはあの子が小さい頃から見てきましたからねぇ。 |
モノローグ |
アカギツネは相変わらずへらへらと笑っている。でも、彼の言うことがどこまで信用できるかわからない。 |
魔法使い |
アカギツネ、あなたは本当に詐欺犯たちと手を組んだの? |
アカギツネ |
厳密に言えば、一時的なパートナー関係にすぎませんよ。 |
魔法使い |
いったい何を企んでいるの?この拠点ももうバレたし、早く逃げるべきなんじゃないの?まだここで何かを仕組んでいるみたいだけど。 |
魔法使い |
さっき、詐欺犯たちが言っていた「儀式」ってなに?今私が作ってるスフィアは、それに関係があるの? |
アカギツネ |
質問が多いですねえ、そんな堰を切ったような勢いで。 |
アカギツネ |
なぜこの詐欺師たちはここに留まっているんでしょうね、なぜ逃げないのか……。 |
アカギツネ |
それは、「家」がここにあるからですよ。 |
アカギツネ |
ここから離れたくないからこそ、この妖精たちは詐欺に手を染めたのです。 |
魔法使い |
どういう意味……? |
アカギツネ |
アタシが知っている通りなら、魔法使いはリリエの森から来たんですよねぇ?もしも、もしもの話ですよ?森に天災が起きたら、リリエの妖精たちはどうすると思います? |
魔法使い |
一緒になって、乗り越えようとすると思う。 |
アカギツネ |
それでは、もしその天災がかなり深刻なもので、乗り越えたとして、住む場所も全て失ってしまいましたら……どうするのが一番賢いと思います? |
魔法使い |
一番賢いやり方……。 |
魔法使い |
リリエの住民たちを他の場所に避難させて、暮らせる場所を探す、かな……。 |
アカギツネ |
まあ、そうですな。 |
アカギツネ |
ですが……あの詐欺犯たち、もしくはロンユエで生きるすべての妖精は、最後まで抗うでしょうね。 |
アカギツネ |
もし天災があれば、一緒に乗り越えるでしょう。もし家が壊されたのなら、廃墟の上に新しい家を作ればいいでしょう。 |
アカギツネ |
この地にいる限り、家は再び建てる、生活の基盤はまた整える、そう考えている。「家」は起点であり終点でもあるのです。 |
アカギツネ |
ここの住民たちが「家」にこんな執念を抱いているからこそ、ロンユエという街は千年以上の時も越えてきました。 |
魔法使い |
じゃあ詐欺犯たちは……。 |
アカギツネ |
「家」を存続させるために、詐欺を働いてでも「儀式」を成し遂げたいのです。ただまぁ……たとえ動機がどれほど人聞きよいものとしても、やり方が間違っていますねぇ。 |
アカギツネ |
「螭神を解放したい」などと……はあ、一体どんな頭でこんなことを考えつきますやら。 |
魔法使い |
ミズチ……え? |
アカギツネ |
魔法使いに興味がおありなら、アタシが物語を一つ語ってあげましょうか。 |
モノローグ |
……。 |
アムールトラ |
「ロンユエという街の下に、大きな龍が眠っている」それはロンユエに住むものなら誰でも知っている伝説だ。 |
アムールトラ |
だが、「大きな龍」は2匹もいるということは、あまり知られておらぬ。1匹は「龍」、そしてもう1匹は「螭」と言うものだ。 |
アムールトラ |
龍と螭は互いのことが気に食わず、争うたびに天災が起き、地上に住むものたちは苦しんでいた。 |
アムールトラ |
やがて、仙人がこのロンユエに情けをかけ、龍を鎮圧して宝塔の中に閉じ込めた。そして龍に、これからずっとロンユエを守らなければならないと言いつけた。 |
アムールトラ |
螭は性格が下劣で、ロンユエの山に斬られた。その怨嗟も仙人に四方の陣で鎮圧され、ロンユエはやっと平和な日々を迎えたのだ。 |
アムールトラ |
だが螭は諦めが悪く、鎮圧されてなお、その怒りは度々天災を引き起こしてしまう。 |
アムールトラ |
その度、螭の封印を強化しなければならない。 |
フルル |
じゃあ、ここは……。 |
アムールトラ |
どう考えても、螭を鎮圧する四方の陣に違いないだろうな。 |
アムールトラ |
法印が瞬いているということは、おそらく封印の力が十分ではなくなっているのだろう。それに、あちらの祭壇の封印はもう消えている……おそらく、破壊されたのに違いない。 |
アムールトラ |
アカギツネもここにきたのか?ここがこうなっていることは……全て知っている訳か。 |
モノローグ |
……。 |
アカギツネ |
あなたたちの言葉でいう「龍脈」というのは、地下に流れている魔力なのです。 |
アカギツネ |
ロンユエには「龍脈」だけでなく、「螭脈」という汚染された魔力の流れもあります。 |
アカギツネ |
龍脈と螭脈が影響を及ぼしあい、この街の魔力は非常に不安定だったのです。 |
アカギツネ |
それから、ロンユエを守る神の使者と、ロンユエに生きる魔法使いと妖精は龍脈を安定させました。さらに大きな代償を払い、やっと螭脈を封印したのです。 |
アカギツネ |
ですが、この封印も永久のものではありません。封印の力が弱まるたび、螭脈の影響が現れます。あらゆる災難がロンユエ山から起き始めるでしょう。 |
アカギツネ |
そして、螭脈の災難への対応で、当時のロンユエの住民は対立しました。 |
アカギツネ |
片や螭脈の封印を固め、城外や山に住んでいる者をすべて城内に移住させればいいと言いました。 |
アカギツネ |
そしてもう片方はねぇ……。 |
詐欺犯A |
おい!お前ら、手が止まっているぞ! |
詐欺犯A |
今夜儀式を行う。妙な気を起こしたら許さんぞ……協議、しっかりと守ってもらうからな。 |
アカギツネ |
もちろんですよ?忘れるわけがないじゃないですか。 |
アカギツネ |
あなたたちはアタシに金を支払い、そしてアタシは欲しいものを差し上げ、儀式を見事に成功させる……ですよねぇ? |
アカギツネ |
ですがまぁ、どうなるかは、みなさん次第ですけどねぇ。 |