アムールトラ(幼年体) |
アカギツネ!アカギツネ!遊びにきたよ! |
アカギツネ |
はぁ……また来たんですか……。 |
アカギツネ |
アタシは商売をしなければならないんで、毎日遊ぶ暇はありませんよ。 |
アムールトラ(幼年体) |
毎日じゃないもん!前に来てからもう一ヶ月も経ったじゃないか!それに店はこんなに空いてるし、商売しているようには見えないぞ。 |
アムールトラ(幼年体) |
はあ……入れてよ!やっと家から抜け出したのに、もし入れてくれなかったら、僕は他に行く場所がないぞ……。 |
アカギツネ |
じゃあ帰りなさい。 |
アムールトラ(幼年体) |
ちゃんとお代は払うから!お金を持ってきたし、足りないんだったら、新しい服も帽子も貰ってきたし……。 |
アカギツネ |
……。 |
アカギツネ |
金とか水臭いですな!さぁさぁどうぞお入りなさい。今日もどうせお客はこないでしょうからねぇ。 |
モノローグ |
思えば、アカギツネは最初からそうだったんだ。 |
モノローグ |
いつもへらへらしていて、何を考えているのかわからない。商売の時には口が達者で、お客さんの都合は後回し。一番の趣味は、金庫に座って自分の財産を眺めること……。 |
モノローグ |
面倒くさいガキだなと言いながら、いつでも余のことを迎え入れてくれた。 |
モノローグ |
まだ余が小さかった頃は、アカギツネはいつまでも、余を見放したりしないだろうと信じていた。 |
モノローグ |
だから、余はアカギツネと一緒にいるのが好きだ。家族のものたちより、アカギツネのほうが「家族」のように接してくれるから。 |
モノローグ |
宿題でへとへとだった時、余はいつもこっそり抜け出して、アカギツネのところにいく。例え一緒に店の中でぼーっとするだけでも、余にとってはかけがえのない時間だった。 |
アムールトラ(幼年体) |
はあ……このままずっと帰りたくない。ここで、アカギツネと一緒に店をやりたいな。 |
アムールトラ(幼年体) |
毎日宿題ばっかりだし、歴史とか兵法とか呪文とかをたくさん勉強しなければならないし、疲れたなぁ……。 |
アカギツネ |
あなた、それ本気で言ってます? |
アムールトラ(幼年体) |
え? |
アカギツネ |
城主ではなく、ただの店番のほうがいいとおっしゃるんです? |
モノローグ |
そこまで厳しい態度を取るアカギツネは、初めてだった。 |
アムールトラ(幼年体) |
いや……父上は余の憧れだ。父上のように、誰からも頼られる城主になりたい。 |
アムールトラ(幼年体) |
ただ、毎日暗記ばっかりだし……呪文も長くてややこしくて、どんな役に立つのかもわからない。家族のものに聞いても、「大きくなったらわかる」としか答えてくれないし、その上でまたお説教されるし。 |
アムールトラ(幼年体) |
だから、つい考えちゃうんだ。余のやっていることは、本当に意味があるのかな?と。 |
アカギツネ |
……。 |
アカギツネ |
おやおや、今日はこんなにもいい天気じゃあないですか!外に出ませんと! |
モノローグ |
その時、アカギツネは余を枯れた井戸の前へ連れていった。そして「水を作る魔法を使えますか」と聞いてきた。 |
モノローグ |
余には容易いことだ。こんな魔法はもう何度も使ってきたから。 |
モノローグ |
でも、アカギツネは「地脈の乱れによって、井戸が枯れたのです。地脈の詰まりを取る魔法は使えますか」と言った。 |
モノローグ |
余はその魔法を知っている。だけど、どう使うのかがわからなかった。 |
モノローグ |
あの日、アカギツネは余を連れて、ロンユエのあらゆる場所を歩いた。 |
モノローグ |
恥ずかしながら、まだ小さかった余には、どれも難しすぎる問題だった。やり方がわかるけどできないこともあれば、そもそもやり方がわからないものもあった。 |
モノローグ |
最後に、アカギツネは余を城外まで連れ出した。ロンユエ城外の荒野に、碑がいくつか建てられていた。 |
アカギツネ |
この碑はご先祖の努力によって建てられたものです。これがなければ、龍脈を安定した状態で維持できません。 |
アカギツネ |
一大事である故に、碑についての魔法は秘密です。ロンユエの守護者--アムールトラ一族しか知らない。つまり、あなたたちしか知らないものです。 |
アカギツネ |
もしまさに今、碑が破壊され、龍脈が不安定な状態になってしまったら……あなたにこの大地を救う方法がわかりますかね? |
アカギツネ |
まだ小さいあなたにはわからないでしょうが、未来のロンユエにそんな危機が訪れたなら……、 |
モノローグ |
……。 |
フルル |
アムールトラ?アムールトラ!? |
アムールトラ |
ど、どうした? |
フルル |
どうしたの?祭壇を見つめたまま、黙り込んで。 |
アムールトラ |
ああ……少し昔のことを思い出してな……。 |
アムールトラ |
フルル、そなたはアカギツネのことをどう思う? |
フルル |
アカギツネのこと?えっと、そうね…… |
アムールトラ |
構わぬ。余はそなたの本音が聞きたい。 |
フルル |
狡くて下劣な悪徳商売者だと思う! |
フルル |
私と[魔法使い]を騙しただけならまだしも--って、ううん、何千万コインはまだしもなんてものじゃないもん……。 |
フルル |
とにかく、他の妖精も騙してるし、あなたまで騙してるのよ!本当にひどい!薄情すぎる! |
アムールトラ |
そなたから見れば、そう思ってもおかしくはあるまいな……余はあやつのことを美化しすぎていたのだろうか? |
フルル |
そ……そんなこと言わないでよ。本当は……その、たぶん、アカギツネはまだアムールトラのことを心配してるかも?って思う。山であなたを助けた時、あいつがタイミングを測ってくれたし……。 |
アムールトラ |
昔、悲しい気分になった時は、いつもアカギツネのところに行っていた。 |
アムールトラ |
家族の者にとって、余は次期城主であり、能力と責任感は何よりも大事にされてきた。家族というよりも、生徒と先生という関係というべきかもしれない。 |
アムールトラ |
だがアカギツネは違う、アカギツネは甘やかしてくれるし、凹んだ時も余の愚痴を聞いてくれて、ロンユエを連れ回してくれて……。 |
アムールトラ |
何事もはっきりとは言わないが、今までやつは、本当に余に優しくしてくれた。たくさんのことを、教えてくれた。 |
アムールトラ |
だから、余はずっとアカギツネのことを信用していた。余は確かに、誰であろうと信用しやすいのだが……アカギツネだけは違うのだ。彼はいつまでも頼もしい存在でいてくれて、いつまでも余の味方でいてくれると思っていた。 |
アムールトラ |
今でさえ、余はやはりアカギツネのことを疑いたくない……。 |
フルル |
アムールトラ……。 |
アムールトラ |
この洞窟に入ってから、ずっと考えていたのだ。目印の記号を辿りここまで来たのも、アカギツネの狙いなのではないかと。 |
アムールトラ |
あるいは自分--もしくは詐欺犯たちのために記号を残して、それが余たちにバレただけかもしれないが……。 |
アムールトラ |
それでもこの記号は余のために残したのだと信じたい。アカギツネは余に、ここにきて欲しいと考えているのだと信じたい。 |
アムールトラ |
昔からそうなのだ。アカギツネはずっと、余に説教などしなかった。ただ余に事実を見せ、そしてどうするかを考えさせてくれる。 |
フルル |
そうだとしても……あなたを普通にここへ連れてきたらいいじゃない。なんであんな態度を取らなきゃならないの。 |
アムールトラ |
なぜだろうな……。 |
アムールトラ |
それこそが、まさにやつが余に考えさせたいことなのだろう。 |
モノローグ |
……。 |
モノローグ |
夜。山頂のキャンプ。 |
詐欺犯A |
そろそろ時間だ。行こう。 |
モノローグ |
指示を受けた詐欺犯たちが動き始めた。リーダーらしき詐欺犯は私とアカギツネのところに来ると、できあがったスフィアをじろじろと観察した。 |
詐欺犯B |
フェアリースフィアとやらは本当に必要なのか? |
アカギツネ |
備えあれば患いなし。何事も準備万端にしておくに越したことはありませんよ。箱庭魔法はあなたたちが思っているよりも力がありますからね。 |
詐欺犯B |
まあいいだろう。おい!お前ら!このフェアリースフィアも運べ!儀式を遅らせないように早くしろ! |
魔法使い |
一体どんな儀式がしたいの……? |
詐欺犯B |
お前とは関係ねぇ。余計なことを聞くな。 |
アカギツネ |
お兄さん、冷たいこと言わないでくださいよ〜儀式を滞りなく執り行うには、この魔法使いのお嬢さんも必要なんですから、ちゃんと教えたほうがいいんじゃないんですか? |
詐欺犯B |
……。 |
詐欺犯B |
螭神さまを解放し、その怨嗟を鎮める。 |
詐欺犯B |
螭神さまの怨嗟が消えない限り、このロンユエに真の平穏は訪れないのさ。 |
詐欺犯B |
城内のやつらは俺らの生活を気にしたことがなかった。城内に引きこもっていれば大丈夫だと思いやがって……問題を根本から解決しようとしないんだ。話を聞いても、俺らを引っ越しさせようとするだけだった。 |
詐欺犯B |
山が危険だったら城の中に。旧市街が危険なら新市街に。新市街も危険になったらどうする?このロンユエを捨てるのか?先祖たちはこの土地を、命をかけて守ってきたってのに、飛んだお笑い草だ! |
詐欺犯B |
俺たちは代々、ここで暮らしてきた。俺たちの「家」はここなんだよ!城内のやつらが頼りにならないんなら、俺らが解決してやる! |
詐欺犯B |
……まあ、お前のような部外者に言ってもわかりゃしねえだろ。そろそろ出発だ。お前らは足を引っ張るなよ。 |
アカギツネ |
まあまあ……。 |
モノローグ |
アカギツネは動き出した詐欺犯たちを見つめ、軽く頭を振ると、ゆっくりと歩き始めた。 |
アカギツネ |
魔法使い、さっきの「ロンユエ人が螭脈のことによって対立した」という話は、覚えていますかね? |
アカギツネ |
一方は螭脈を封印すべきだといいますが、もう一方は真逆の考えです。 |
アカギツネ |
龍脈も螭脈も、神の化身だと考え込んでいるようで……龍神を鎮圧し、螭神を斬るのはもう言語道断のことだと言っておりましてねぇ。 |
アカギツネ |
螭神の怨嗟が鎮まらない限り、この土地が安らぐことはないと……。 |
アカギツネ |
家から離れたくないから、こんなおとぎ話を信じてしまうのか、それとも元来螭に対する信仰が深かったのか……もうわからないんですけどねぇ。 |
アカギツネ |
わかっているのは、その一方はロンユエ城に行くことを拒んでいました。山に住み着き、螭神を祀ることでお許しを乞う……ということですかね。 |
魔法使い |
じゃあ、詐欺犯たちってもしかして……。 |
アカギツネ |
山民たちの子孫でしょうねぇ。 |
アカギツネ |
螭神の怨嗟を鎮め、これからもずっとここで、安らかに暮らしていく……正直、アタシにも理解はできるんですけど。 |
アカギツネ |
ロンユエが安定し続ければ、アタシの商売も繁盛していくんですからねぇ。 |
アカギツネ |
でも、あの妖精たちがこんなことをしたところで、望んだようにはならないんですけどな。 |
アカギツネ |
あのリーダーが言っていた「螭神の解放」は、螭脈の封印を破壊することです。それでは、螭脈が再び流れ始め、大きな天災を引き起こすだけです。 |
魔法使い |
全部知っているのなら、なんであなたはあの妖精たちを止めなかったの? |
アカギツネ |
計画を立て、詐欺で物資を手に入れ、あらゆる障害を乗り越えて、そうすれば最後に自分たちの欲しいものを手に入れられると信じ込む……こんなやつらは、志があるというよりも、頑固というべきでしょうかね。 |
アカギツネ |
やめてと言っても、あいつらは話を聞いてくれないでしょうね。たとえ一度力づくで止めても、次、またその次と、同じことをしてくれるに違いありません。 |
アカギツネ |
それなら、その目で結果を見せてあげたほうが一番早いじゃないですか。 |
アカギツネ |
頑固なやつには、言葉を使うよりも、実体験させたほうが効率がいいのです。 |
魔法使い |
……。 |
魔法使い |
アムールトラにそんな態度を取ったのも、それが理由なの? |
モノローグ |
アムールトラの話題が出てくるとは予想していなかったのだろう。アカギツネは足を止め、驚いた表情で振り向いた。 |
アカギツネ |
驚きましたねぇ。あなたはあまり自分の考えを持ってないと思っていましたが、そんなに深く考えていたとは。 |
アカギツネ |
……。 |
アカギツネ |
あの坊やは確かに素質を持っていますけどねぇ、性格が弱くて甘えん坊なんですよ。ずっと城主になれるよう頑張ってきましたけれど、やっぱり騙されやすいところと、つい周りの者を頼りにしがちなところがありますねぇ。 |
アカギツネ |
城主たるもの、孤独を耐えなければなりません。誰にも影響されずに、あらゆることをひとりで判断して、決定を下さなければなりません。例え一番親しい相手でも、頼ってはいけません。 |
アカギツネ |
彼の一族はこのために、アタシに依頼を出しましてねぇ。 |
魔法使い |
だからアムールトラを鍛えるために、わざと彼を「裏切った」のね……。 |
魔法使い |
でも、もし彼が傷ついて、もう二度と誰も信じなくなったらどうするの? |
アカギツネ |
上に立つ者ならば、騙されやすいよりは、誰も信じないほうがずっとマシですよ。 |
アカギツネ |
ちょっと手荒い真似にはなりましたが……あの坊やが勉強してくれたのなら、些細なことでしょう。じきに城主になるのに、いつまでもアタシにしつこく付きまとうようではダメですからな。 |
魔法使い |
それって、毒親っていうやつじゃない。 |
アカギツネ |
毒……親……? |
魔法使い |
あなたの育児方法に問題があるんだよ。目的だけに注目して、アムールトラの気持ちをまったく考えてあげなかった。こんなに無責任なのに、よくも自分のことを誠実だなんて言えるね。 |
モノローグ |
アカギツネは少しぽかんとしてから、笑い出した。 |
アカギツネ |
そうなのですかね?どうやらアタシも自分のことを見直さなければ……この件が終わってからねぇ。 |
アカギツネ |
ただ今は、ひとまずその「儀式」を見届けるとしましょう。 |