| ブラックチョコ | だから、ここに座っていればいい? |
| ルビーチョコ | うんうん、そうだよ〜。 |
| ルビーチョコ | うちのお店は大人気だからね〜。 |
| ルビーチョコ | 今日は特にいろんなお客様が来てくれると思う。そのお客さんたちの話をしっかり聞いていれば、絶対に「愛」ってなんなのかがわかるはずだよ〜。 |
| モノローグ | ルビーチョコは、ひとまず情報交換の対価として、ブラックチョコに店で「『愛』の見学」をしてもらうことにした。 |
| モノローグ | ブラックチョコは彼の目的が理解できずにいたが、それを断らなかった。 |
| ブラックチョコ | 構わないけど……これは本当にやらなきゃいけないことなのか? |
| ルビーチョコ | そうだよ〜。だって今日はバレンタインデー、お互いに愛を送りあう日だからね〜。 |
| ルビーチョコ | そんな日に受け取ったプレゼントなんて、誰かからブラックチョコさんへの愛情表現に決まってるさ〜。 |
| ルビーチョコ | ブラックチョコさんがこのプレゼントに込められた感情を理解できなかったら、相手がかわいそうでしょ? |
| ブラックチョコ | だから……責任は取れるって何度も……。 |
| ルビーチョコ | 責任は愛の一部かもしれないね〜。ただ、愛イコール責任ってわけじゃないよ〜。 |
| ピンクローズ | そうねぇ。 |
| ピンクローズ | 認めるのは癪だけど、これに関してはこいつの言うことは間違ってない。 |
| ピンクローズ | 「愛」はもっと美しいものなの。それを味わえないなんて、かわいそうよ。 |
| ブラックチョコ | でも、私は別に……、 |
| ルビーチョコ | おや、お客様だ〜。 |
| モノローグ | 会話を遮ったのは、手を繋ぎながら店に入ってきた、いかにも仲のよさそうな妖精のカップルだった。 |
| ルビーチョコ | いらっしゃ〜い。何かお探しかな? |
| カップルA | ダーリン、何がいい? |
| カップルA | ハニー、キミがいいというものなら、なんでもいいさ。 |
| カップルA | やだ〜。あたしもダーリンが欲しいって思うものなら、何でもいいよ〜。 |
| カップルA | ハニー、キミの愛だけが欲しいのさ。 |
| 魔法使い | ……。 |
| ルビーチョコ | ……。 |
| ピンクローズ | ……。 |
| ブラックチョコ | ……。 |
| ルビーチョコ | えっと、お二方。今日はバレンタインデーだよ〜。せっかくだから、もっと愛を形にしてお互いに捧げてみたくない? |
| カップルA | お互いに対する愛情は宝物だもの、値段なんてつけられないわ。だからそれと並べられるようなものはないけど……。 |
| カップルA | 一年に一度、この日にはやっぱり、ボクの愛を形にして見せたい。 |
| カップルA | だから、この豪華なチョコレートセットを―― |
| カップルA | だから、このハート型のチョコレートセットを―― |
| カップルA | ……。 |
| カップルA | ……。 |
| カップルA | どういうこと!?あたしに対する愛って、こんなに安っぽいものだったの? |
| カップルA | キミこそ、僕への愛はこんなに中身のない物だったのか? |
| カップルA | あんたが薄っぺらいから、豪華なプレゼントに込めたあたしの心に気づけないのよ! |
| カップルA | キミこそ自分のその見栄っ張りなところを反省するべきだ。プレゼントの値段を愛と結びつけるなんて! |
| 魔法使い | えっと……。 |
| モノローグ | カップルは喧嘩を始めてしまい、しかもそれはどんどん激しくなっていく。この場で別れてしまわないかと心配になる程の勢いだ。 |
| モノローグ | ルビーチョコをちらりと見ると、彼はとても落ち着いた様子だった。こういう場面は慣れっこなのだろう。 |
| ルビーチョコ | コホン。 |
| ルビーチョコ | お二方、本当に仲がいいんだねぇ。うらやましいくらいだよ〜。 |
| ルビーチョコ | 決められないなら、僕からのおススメ、「トキメキスイートブラインドボックス」はどうかな〜? |
| モノローグ | そう言って、彼はカウンターの下から華麗で巨大な箱を取り出した。 |
| モノローグ | するとカップルは喧嘩を止め、胡散臭そうにルビーチョコのことを見つめた。 |
| カップルA | なによ、そのあやしいもの……。 |
| カップルA | そのちゃらちゃらした箱が、僕らの愛を形にしたものだなんて言うのか? |
| ルビーチョコ | いやぁ、まさか〜。 |
| ルビーチョコ | お二方の愛に匹敵する商品なんて、この店には存在しないよ〜。 |
| ルビーチョコ | そんなカップルのために、この「トキメキスイートブラインドボックス」をご用意したわけさ! |
| ルビーチョコ | ブラインドボックスに何が入っているのか、この店主にさえわからない。お二方は存分に箱を開いた瞬間の衝撃と刺激を味わうといいよ。 |
| ルビーチョコ | 告白した時の期待や不安、返事を待つ時のドキドキを思い出しながらね……。 |
| ルビーチョコ | それが「トキメキスイートブラインドボックス」なんだ〜。 |
| ルビーチョコ | 「愛する人と一緒にいると、毎日、新鮮なトキメキが待っている」ってことだよ〜。 |
| カップルA | ……。 |
| カップルA | ……。 |
| カップルA | 面白そうね……。 |
| カップルA | 確かにいいプレゼントだ。 |
| カップルA | ダーリン〜。 |
| カップルA | ハニー〜。 |
| モノローグ | カップルは一瞬で仲直りし、お店に入った時のような雰囲気に戻った。彼らはルビーチョコがおすすめした商品を買って、手を繋いで帰っていった。 |
| モノローグ | これが恋愛中のカップルというものなのだろうか?よく理解できない。 |
| モノローグ | ピンクローズは去っていくカップルを見て、笑顔を浮かべた。 |
| ピンクローズ | あらあら、羨ましいわねえ。 |
| ブラックチョコ | ……理解できない。 |
| ブラックチョコ | あの様が……本当に仲がいいことの表れなのか? |
| ブラックチョコ | あるいは……あれが「愛」というものなのか? |
| ブラックチョコ | 送り主も、私にこんな感情を伝えようとしているんだろうか? |
| ブラックチョコ | ……正直、なんだか怖い……。 |
| ルビーチョコ | んん、まあ、確かにああいうタイプもいるよ。 |
| ルビーチョコ | でもそんなに心配しなくていいよ。「愛」の形は多種多様だからね。 |
| ルビーチョコ | こういう「愛」だったら、相手もプレゼントを郵送するなんて、控えめな方法は使わないよ〜。 |
| ブラックチョコ | ……。 |
| ピンクローズ | 実際、恋愛中のカップルがお互いに抱く愛って、場合によっては恐ろしいものなのよ。 |
| ピンクローズ | まるで……暗い夜に灯る炎のようにね。 |
| ピンクローズ | 明るくて、眩しくて、暖かくて……でも、近すぎると痛い目に遭うかもね。 |
| ピンクローズ | そういう「愛」は……制御しないとますます激しくなって、周りのもの全てを燃やし尽くしちゃうかもねぇ。 |
| ブラックチョコ | ……それなら、なぜそういうものを望む者がいるのだろう? |
| ピンクローズ | なぜって?それはそうね、多分、暖かくて明るい物に惹かれるからじゃないかしら? |
| ピンクローズ | でもね、これは経験者からの忠告だけど。 |
| ピンクローズ | 恋をしている時は、時々立ち止まって自身を顧みることね。もし恋や愛に痛みを感じてしまったなら、すぐに身を引くのがいいわ。 |