| モノローグ | あのカップルが去ってすぐ、おどおどした様子の妖精がお店に来た。 |
| モノローグ | 何か買おうとしているみたいだけど、なかなか決められず、カウンターの方をうろうろしている。 |
| ルビーチョコ | 可愛いお嬢さん、キャンディを買いに来たの? |
| モノローグ | 妖精は少しためらっていたが、意を決したようにうなずいた。 |
| デレている妖精 | は、はい……。 |
| デレている妖精 | ええと、あの……今日は……だから―― |
| デレている妖精 | つ、つまりあの……バレンタインデーのお菓子を―― |
| ルビーチョコ | おやおや〜なるほどね〜 |
| ルビーチョコ | 好きな人に送るの? |
| デレている妖精 | す、好き?そうだけど、ただ―― |
| ルビーチョコ | それなら、この告白用のハート型チョコがおすすめだよ〜。 |
| ルビーチョコ | これは当店の大人気商品なんだ、バレンタインデーではなおさら人気だよ〜。 |
| ルビーチョコ | お嬢さんは可愛いから、無料で恋愛成就の祝福も―― |
| デレている妖精 | いいいいです―― |
| ルビーチョコ | えっ? |
| デレている妖精 | あっ、ご、ごめんなさい―― |
| デレている妖精 | 確かに、好きな人に何か贈ろうって思ったけど……。 |
| デレている妖精 | た、ただ……告白とか、そういうんじゃなくて……。 |
| デレている妖精 | わ……わたしみたいなのが告白しても、迷惑なだけだし……。 |
| デレている妖精 | できれば……今みたいに、彼を見つめていられるだけで、十分、満足だって……。 |
| デレている妖精 | そう、思って……たのに……。 |
| デレている妖精 | でも……。 |
| デレている妖精 | きょ、今日は……バレンタインデーだから……。 |
| デレている妖精 | なんでだろう……わたし―― |
| デレている妖精 | やっぱり、自分の気持ちを、伝えたい……。 |
| デレている妖精 | だって……何もしないなんて……悔しいし……。 |
| デレている妖精 | でも……本当に告白するとしたら……。 |
| デレている妖精 | 本当に、愛を伝えるプレゼントをあげてしまったら……わたし―― |
| デレている妖精 | 決められない……。 |
| デレている妖精 | ご、ごめんなさい、わたし、めんどくさいですよね! |
| デレている妖精 | もういいです、わ、わたし、帰ります……! |
| ルビーチョコ | あっ、ちょっと待って、可愛いお嬢さん〜。 |
| ルビーチョコ | そんなお嬢さんにぴったりのキャンディが、ここにあるよ。 |
| デレている妖精 | えっ? |
| ルビーチョコ | その恋心、お嬢さんと同じくらいかわいらしいものだよ〜。 |
| ルビーチョコ | 青くて、ドキドキして、心に秘めようとしても溢れてきてしまうような……。 |
| ルビーチョコ | うんうん、まさにこれだ、レモンキャンディ! |
| ルビーチョコ | 甘酸っぱさが甘さの中に隠れてる、お嬢さんにぴったりのキャンディだよ〜。 |
| デレている妖精 | そ、そうなの……? |
| デレている妖精 | こ、これください! |
| ルビーチョコ | まいどあり〜。 |
| モノローグ | 妖精は顔を赤らめながら、レモンキャンディの入った小袋を持って店を出た。去っていくその背中を見て、ピンクローズが微笑む。 |
| ピンクローズ | 本当にかわいいね〜恋愛している少女って〜 |
| ブラックチョコ | ……。 |
| ブラックチョコ | 理解できない。 |
| ブラックチョコ | ああいう「愛」は、どういうものなんだ? |
| ブラックチョコ | 彼女は確実に誰かを愛しているだろう?それなら、どうして……あんな風になるんだ? |
| ブラックチョコ | 望んでいることがあるのに、どうしてそれを勝ち取ろうとしない? |
| ブラックチョコ | 近づけないというなら、なぜ諦めきれない? |
| ブラックチョコ | あんな中途半端な行動を、どうして―― |
| ピンクローズ | 中途半端って……その言い方は失礼よ! |
| ブラックチョコ | えっ、そうなのか!? |
| ピンクローズ | これはね、青い片想いなの。 |
| ピンクローズ | 自分の感情を十分に理解していない内に生まれる、ぼやっとした「好き」っていう気持ち。これは「愛」の美しさを教えてくれるけど、だいたい実らない。そういう先生みたいなもの。 |
| ピンクローズ | とっても貴重で、美しいものなのよ。 |
| ブラックチョコ | そう、なのか……? |
| ピンクローズ | はぁ。 |
| ピンクローズ | こんなこともわからないなんて、あなたってどんな環境で育ったの?全く想像できないんだけど。 |
| ブラックチョコ | 私の育った環境……至って普通のはずだけど。 |
| ピンクローズ | そうは思えないんだけどね。 |
| ブラックチョコ | それはともかく、私にプレゼントを送った人が匿名にした理由は……彼女と同じなのかな。 |
| ピンクローズ | んんっ……それはどうかしら〜。 |
| ピンクローズ | 匿名の理由なんて、色々考えられるもの。 |
| ピンクローズ | 誰が送ったのか、絶対にわかってもらえると考えてるかもしれないし、正体を知られたくないって思ってるかもしれない……。 |
| ピンクローズ | もしかしたら、誰に届いても問題ないって思ってるかもしれないし。 |
| ピンクローズ | まぁ……今のあなたにこれを理解しろと言っても、難しいかしらね。 |
| ブラックチョコ | ……たしかに。 |