(錦玉に椿)1-1

ルビーチョコ いらっしゃいませ~☆
錦玉羹 椿、見てください!菓子屋さんですよ!
椿 これで十二軒目です。本当にどれも入らないといけないのですか?
錦玉羹 ふふん。「ただの菓子屋さんじゃないですか?」と言いたいのですよね?
錦玉羹 でも、違いますよ。どの店にも、その店だけの特別さがあるのですから。
錦玉羹 ほら、看板商品も違っていたでしょう?
錦玉羹 それに、まったく同じお菓子でも、店が違えば作り方も変わっていきますし。
錦玉羹 更に最も重要な点として……ここは今までの店とは全く違っていませんか?
錦玉羹 さっきまでの店では、あらゆるキャンデー、スイーツ、ドリンク、ケーキを取り揃えていましたよね。食事までとれました。
錦玉羹 ですが、この店は「菓子屋」お菓子以外は、何も置かれていません。
錦玉羹 まるで――集客のために色んな策を出し、記念品やお守りの販売、占いや厄除けのサービスも扱い、宿まで設置する競合相手たち……。
錦玉羹 ……そんな流行りに乗ることなく、素朴なまま佇む神社のようではないですか。
錦玉羹 もしお菓子にも神が宿るのであれば、きっとその神に愛されるでしょうね。
椿 そんな神がいるかどうかはわかりませんが、オーナーさんをそっちのけにしないでください……。
ルビーチョコ いいのいいの~お客さんは神様だからね!
ルビーチョコ でも一点だけ訂正させてくださいね?こんな素朴な店だけど、他の地に支店がありますから!そんなかわいそうになる例えはしないでくださいよ!
ルビーチョコ 店主は僕一人だけなんだけどね……。はあ、あっちこっち飛び回るのも疲れるよ。おっと、話が逸れちゃった。
ルビーチョコ コホン。あなたたちは、あまりこの辺りで見ない妖精だね?ここは初めて?
錦玉羹 はい。故郷を離れてから、こんな面白い場所は初めてです!
椿 ここに来てからずっと、怖いくらいに興奮しているんですよ。
錦玉羹 だって、ここにはたくさんのアメの精がいて、食べきれないほどの甘いお菓子がありますから……。
ルビーチョコ ここは、お菓子の妖精だけの町だからね~。
ルビーチョコ お菓子の妖精たちが集まって、食べ物をもっと美味しくする方法を探しているって感じかな。
錦玉羹 なるほど、だからこんなに店が並んでいるのですね。
ルビーチョコ お客さんはどんなお菓子がいいの?
錦玉羹 ううん……今度はどんなものがいいでしょう……。
ルビーチョコ もし迷っているなら、これがおすすめだよ!
ルビーチョコ じゃじゃん――人気チョコレートパック!どれも試したくて決められない君へ!
錦玉羹 よさそうですね!
錦玉羹 故郷にもあらゆるお菓子がありましたが、チョコレートはとても珍しいものでした。一度だけ食べられたのですが、かなり小さい頃でしたから……。
錦玉羹 2つください。いいえ……やっぱり3つください。
ルビーチョコ まいどあり!
ルビーチョコ そちらのお姉さんは、何がご所望かな?
椿 私はいいです。ありがとうございます……、
ルビーチョコ 特に気になる商品がないかな?なら、僕がおすすめを――
椿 実はここに来てから、毎日甘いものばかりで……食事でさえも甘くて……、
椿 ……もう甘いお菓子は勘弁していただけると。
ルビーチョコ そ、そっか……。
椿 ですが、興味を抱いているものならあります。それも、かなり欲しいものです。
椿 ここにあるかどうかはわかりませんが……。
ルビーチョコ うん?お客さんのほしいものなら、どんなものでも――
椿 本の扱いはありますか?
ルビーチョコ ……本?
ルビーチョコ 本……えっと、本……いや、ここは菓子屋だよ!?
椿 そうですよね……。
錦玉羹 椿はただ、読めるものがほしいだけです。売っているような本でなくても大丈夫ですよ。
ルビーチョコ 読みたい、かぁ……なら、これしかないかな?どうぞ。
モノローグ ルビーチョコはカウンターから、ある小冊子を椿に渡した。
椿 これはなんですか?
ルビーチョコ 僕の帳簿だよ。店の中で読めるものなんていったら、これしかないし。
椿 ですが……、
ルビーチョコ まあ、間違いなく読み甲斐はないものだけどね~。
椿 それはかなり個人的なものでしょう?読んでしまうのはさすがに……、
ルビーチョコ ツッコむところそこなんだ!?いいのいいの!そういうこと、僕は全然気にしないから!
モノローグ ルビーチョコの同意の元、椿は帳簿を受け取って読み始めた。
椿 うん……理解できません。
椿 なぜ82引く7が77に?58足す43が91になるのですか?
ルビーチョコ そ、そんなことは気にしない気にしない――
モノローグ ……。
ルビーチョコ お客さん、商品が用意できたよ~!まいどあり!
ルビーチョコ あなたたちはこれからどこに行くつもりなのかな?もしよかったら、おすすめの場所を教えるよ!
錦玉羹 あの、神を祀っているような場所はありますか?ここの神がどのような姿をしているのか、気になります。
ルビーチョコ うーん、ここにはそんな場所はないよ。
錦玉羹 ……え?
ルビーチョコ ここは神さまに守られた地ではなく、神さまのいない地なんだ。
ルビーチョコ まあ、お菓子好きの守護神はたまーにここへ加護を授けるけどね……。でも、ここの住民たちにとっては、あれは神様というよりもお客さんに近いかな?
ルビーチョコ みんなお菓子のことしか頭になくて、神さまなんて祀る妖精はいないんだよね。
ルビーチョコ 祀っているような場所を見てみたいのなら……そうだなぁ。アモレの庭園と、リリエの森とかに行ってみたらどうかな?
錦玉羹 そうですか……。
錦玉羹 では、決まりですね。
最終更新:2022年04月12日 02:11