| モノローグ | 用意された場所で一晩休んだ後、今の状況を把握するために、クリーム女王のところに行くことにした。 |
| モノローグ | だけどその考えは、やっぱりよくなかったようだ。 |
| 魔法使い | また迷っちゃった……はあ。やっぱり「ハグレル」の契約者ってことなのかな……。 |
| モノローグ | しかも周囲はなんの特徴もないスチールジャングルなので、元の場所に戻ることすらできない。私は茫然と立ち尽くし、助けてくれる誰かを待っていた。 |
| カプチーノ | あ!魔法使いだ! |
| 魔法使い | あなたは昨日の……えっと、カプチーノ? |
| カプチーノ | そう!よく覚えてるね! |
| 魔法使い | あれ?そちらは―― |
| モノローグ | カプチーノの後ろに、見覚えのある妖精がいた。ここに来た時、最初に出会った妖精だ。 |
| ???(*1) | ……。 |
| カプチーノ | ええ!?エスプレッソも魔法使いのこと知ってるの!? |
| カプチーノ | なんで黙ってたの! |
| エスプレッソ | 聞かれてない。 |
| カプチーノ | ふん。 |
| 魔法使い | うん……あなたはエスプレッソなのね?こんにちは。 |
| エスプレッソ | こんにちは。 |
| カプチーノ | 魔法使い、ここで何をしているの? |
| 魔法使い | えっと……実はクリーム女王のところに行きたくて……。 |
| カプチーノ | え?一緒じゃん! |
| カプチーノ | ちょうど謁見にいくところなの。一緒にいこう! |
| 魔法使い | 助かった……。 |
| エスプレッソ | ……。 |
| モノローグ | クリームのいる場所は遠くないが、私がほとんどの道を使えないため、遠回りするしかなかった。 |
| モノローグ | でも幸いなことに、カプチーノとエスプレッソは嫌な顔をしないでくれた。そんなわけで、私たちはおしゃべりしながら歩いていた。 |
| 魔法使い | そうだ、カプチーノは女王になんの用があるの? |
| カプチーノ | はあ。 |
| カプチーノ | こいつのせいだよ。 |
| 魔法使い | エスプレッソがどうしたの? |
| カプチーノ | 普段からエスプレッソって変わり者だから、「ビッターコーヒー」と関係があるんじゃなんて疑われてさ、あたしまで巻き添えに……。 |
| カプチーノ | あたし、小さい頃にちょっとお世話になっただけなのにな。 |
| カプチーノ | それで、あたしが女王陛下に危害を加えるかもしれないから、祭りの舞踏会で踊る資格を取り消すって! |
| カプチーノ | あたし、舞踏会のために沢山練習してきたのに!もう何もかも台無しだよ! |
| カプチーノ | もっと普通にしなよって、いつも言ってるのに!もう! |
| カプチーノ | せっかく持ってきたコーヒーもさ、いつも変な機械で濃縮してるし……誰だってそんなの見たらおかしいと思うでしょ! |
| エスプレッソ | ……。 |
| カプチーノ | もう! |
| カプチーノ | 今回は普段持ってるクリームをしっかり女王陛下に見せるんだよ!「ビッターコーヒー」じゃないってちゃんと証明するの! |
| 魔法使い | 「ビッターコーヒー」? |
| カプチーノ | あ、そうか。魔法使いは知らなかったんだもんね。 |
| カプチーノ | 「ビッターコーヒー」はね、最近国内で暗躍している危険分子のことだよ。何を考えているのかわからない、変なやつらが集まってる組織だって。 |
| カプチーノ | 魔法使い昨日、会ったでしょ。あの黒ローブを着ている妖精のことだよ。 |
| カプチーノ | 黒ローブは、「コーヒーに何も入れたくない」という主張の象徴なんだって。 |
| 魔法使い | へえ……それで、「ビッターコーヒー」ってどんな組織なの? |
| カプチーノ | そうだね……具体的なことは分からないけど、とりあえずは。 |
| カプチーノ | クリーム工場を破壊したり、バターを薄めたり、カフェラテをブラックコーヒーにしたり…… |
| カプチーノ | この前なんてさ、ある先輩が完璧なカプチーノを作ったのに、結局あいつらがいきなり現れて、こっそりコップに水を入れたりしたの! |
| カプチーノ | ミルクとフォームとコーヒーの黄金比を壊すなんて……一体どんな外道がそんなことをするの?ねぇ、魔法使い。 |
| 魔法使い | あ、う、うん。たしかに怖いね。 |
| カプチーノ | うん、魔法使いもわかるでしょ? |
| カプチーノ | あいつらはいつも「クリームから妖精たちを救い出す」なんて言ってるけど、訳のわからないことばっかりやっているんだよね。 |
| カプチーノ | でも……。 |
| カプチーノ | 最近、急にあいつらの動きがおかしくなったの。なんだろう……クリームの破壊にはもう興味がなくて、別のところでこっそりと活動してるらしいよ。 |
| エスプレッソ | ……。 |
| 魔法使い | ? |
| カプチーノ | うん、まあ、噂話だけどさ……。 |
| カプチーノ | あいつら最近、王国の魔力流に何か仕込んだらしいよ。最近、あちこちで変なことが起きているのも、それのせいだと思う……。 |
| カプチーノ | だからみんなピリピリしていると思うの。あたしもさ―― |
| モノローグ | その時、突然轟音が響き渡り、カプチーノの言葉を遮った。 |
| モノローグ | 大地が揺れ、体がふらつく。 |
| 魔法使い | うわ!?な、なに!? |
| カプチーノ | わ、わかんない!いままでこんなことなかった―― |
| モノローグ | カプチーノは空に立ち上る黒い煙に、言葉を詰まらせた。 |
| カプチーノ | そんな……あそこは……クリーム工場!? |
*1 エスプレッソ