(珈琲王国狂想曲)爆発

モノローグ 私たちがクリーム工場に到着する頃には、すでにたくさんの妖精が集まっていた。
モノローグ 工場はまだかろうじて建物として形を保っているが、壁には大きな穴が開いている。穴の縁には、明らかに焦げた跡が見られた。
モノローグ 衛兵が頻繁に工場に出入りしている。どうやら現場を調査しているようだ。
エスプレッソ ……。
カプチーノ いったいなにがあつたの――女王陛下!
モノローグ 封鎖された廃墟の側で、クリームが顔をしかめ、衛兵たちと話している。
魔法使い ええと……何か手伝えることとかないか、聞いてくるね……。
魔法使い あの、私――
モノローグ すると妖精たちが振り返り、まっすぐ私を見つめた。その目には、最初の時と変わらない敵意が込められている。
魔法使い え……?何か……あったの?
カプチーノ え?どうしたの?
カプチーノ なんでそんな目でこっちを睨むの!魔法使いはただ手伝いたいだけでしょ!
エスプレッソ ……。
妖精A 衛兵!あの人間がここに!
モノローグ 意外なことに、ある妖精が私を指差して叫んだ。それを聞いた衛兵たちが、恐ろしい勢いでこちらに迫ってくる。
妖精の兵士 捕まえろ!
魔法使い はい?
カプチーノ え?待って!なんのこと!?
モノローグ 衛兵はその質問に答えず、ただ乱暴にカプチーノとエスプレッソを捕まえた。
妖精の兵士 こいつらは共犯者なのか!?
カプチーノ 共犯者!?証拠は?
エスプレッソ 私まで……。
クリーム もうよいです。無礼な真似はやめなさい。
モノローグ こちらの騒ぎに気づいたのだろう。クリームはこちらを向くと、私たちを離すように命じた。
妖精の兵士 女王陛下!しかし――
クリーム ……。
妖精の兵士 ……はっ!
モノローグ 衛兵たちは渋々、私たちを離してくれた。リーダーらしき衛兵はクリームの側に戻ると、不服そうな顔で私を睨む。
魔法使い あの……一体なにがあったの?
クリーム ご覧の通り、我が国における最重要施設――クリーム工場で爆発が起きました。
クリーム そして調査してみたところ、あなたが関連しているのではないかという話が出てきたのです。
魔法使い 私!?
クリーム ええ、私は魔法使いのことを信用していますが――
クリーム ……。
妖精の兵士 爆発を引き起こせるような物質は見つからなかった。ただ……、
妖精の兵士 フェアリースフィアを不安定にすれば、爆弾のように使えるはずだ!
妖精の兵士 痕跡が残っていないことを考えれば、どう考えても貴様の仕業だろう!
魔法使い ええ?私、手伝いしにきたのに、なんでそんな――
妖精の兵士 知るか!貴様はもともと怪しすぎる!もしかしたら、そいつらと――
クリーム もうよいです。
クリーム 客人のことを疑うなど、失礼がすぎますよ。
妖精の兵士 しかし、これが一番有力な説に間違いありません!
妖精の兵士 その上、あの人間が来てから起こった話です!疑わずにいられません――
クリーム はあ。
クリーム 最近、「しかし」があなたたちの口癖になっているようですが、新しい流行語なのでしょうか?
妖精の兵士
妖精の兵士 も、申し訳ございません。
クリーム 現場を封鎖しましょう。調査が終わるまで、誰も入れないように。
モノローグ クリームは衛兵たちに命令すると、この場にいる全てに妖精たちに向けて言った。
クリーム 客人に危険な行動を起こさないように、どうか謹んでください。
クリーム それでは、私はこれで失礼します。
魔法使い あ、うん……。
モノローグ クリームの言葉が功を奏したのか、周りの妖精たちからの露骨な敵意は向けられなくなった。
モノローグ しかし、疑いの目で見られていることに変わりはない。
魔法使い まるで、リリエに来たばかりの頃のようだ……。
カプチーノ なによ!あいつら!勝手にあたしたちを犯罪者扱いして!魔法使いはずっとあたしたちと一緒にいたのに!
魔法使い あ、ごめんね……あなたたちを巻き添えに……
カプチーノ 気にしないでいいってば!
カプチーノ はあ、でもこれで、あたしたちの無実を証明するのはもっと面倒くさくなったよね……。
魔法使い ごめん……。
カプチーノ だから、魔法使いのせいじゃないって言ってるでしょ!
カプチーノ そうだ。それじゃ、一緒に調査しにいこうよ。
魔法使い 調査?
カプチーノ 工場には、まだ手がかりが残っているかもしれないよ!こっそり入ってみよう!
魔法使い でも――
カプチーノ あたし、工場に入る隠し通路を知っているの!いこう!ほら、エスプレッソも!
エスプレッソ ……。
モノローグ 出発する前、エスプレッソがずっと見つめていた方向に、見慣れたローブ姿の妖精がいた。
最終更新:2022年06月09日 09:12