| モノローグ | いともあっさりと「摂政王」の地位を手に入れ、女王の行方を心配している妖精に軽く演説すると、黒ローブの妖精は住居へと戻った。 |
| モノローグ | 計画が思ったよりもずっとうまく行ったことは、未だに不思議な感じがする。失ったものを全て取り戻したし、昔よりもよい生活を送れるかもしれない。 |
| モノローグ | 数年前から計画を練り、女王の側近を買収して、組織を拡大……。 |
| モノローグ | 突然現れた魔法使いが計画を台無しにするかと心配したが、結果から見れば、逆に計画を前倒ししてくれた。 |
| モノローグ | そして今回の功臣は、彼の隣に座っている。 |
| エスプレッソ | ……。 |
| 黒ローブの妖精 | 今回は本当に君のおかげだな! |
| 黒ローブの妖精 | 君がいなければ、女王を始末するのにどれほどの手間がかかったか……。 |
| エスプレッソ | ……。 |
| モノローグ | エスプレッソは返事をしなかった。彼はただカップを手にして、その真っ黒な液体を口にする。 |
| 黒ローブの妖精 | まあ、あいつらは騙しやすいからな。魔力流に関する情報を教えておけば、なんでもしてくれる! |
| 黒ローブの妖精 | ハッ。そんないいことがある訳ないじゃないか。もし本当に魔力流があるのなら、ミックスたちに使わせる理由がどこにある? |
| 黒ローブの妖精 | 君も、いつもミックスと一緒にいるのは嫌じゃないのか?貴族だというのに……。 |
| 黒ローブの妖精 | コーヒーはやっぱり、何も入れないほうがおいしいだろう? |
| 黒ローブの妖精 | 君が考えを改めてくれるのは嬉しいよ。要らないものを理解した、そうだろう? |
| エスプレッソ | うん。 |
| 黒ローブの妖精 | そう、つまり―― |
| エスプレッソ | 貴族、地位、特権、礼節……。 |
| エスプレッソ | 面倒くさい。 |
| エスプレッソ | 要らないものばかりだ。 |
| 黒ローブの妖精 | ……どういう意味だ? |
| エスプレッソ | ……。 |
| モノローグ | 黒ローブの妖精はその言葉の意味を問いただそうとしたが、それは叶わなかった。突然ドアが開け放たれ、妖精たちの集団が彼を囲んだのだ。 |
| 黒ローブの妖精 | え?おや、君たちは―― |
| モノローグ | そこに現れたのは、彼の「盟友」。もしくは、「駒」だった。 |
| モノローグ | 妖精たちの表情は怒りに満ちていた。それを抑えきれなかった妖精が、彼の襟をつかむ。 |
| 妖精の兵士 | よくも騙してくれたな! |
| 黒ローブの妖精 | な、なんだと!?き、貴様は―― |
| 護衛A | 純粋な魔力流を使えるって言うから、お前を信じたのに! |
| 護衛B | そうだ!お前のために女王を裏切ったのに、駒扱いだったとは―― |
| 黒ローブの妖精 | そ、それは―― |
| 黒ローブの妖精 | 違う!大体貴様ら、どうやって入ってきたんだ!ここは―― |
| クリーム | 広場ですよ。 |
| 黒ローブの妖精 | なん、だと――あ、ありえない!? |
| モノローグ | 周りの壁が、溶けたクリームのように消えていった。そして貴族は、ようやく自分が広場にいることに気づいた。彼の周りには、今の流れを聞いていた民衆たちがいる。 |
| モノローグ | みんなの怒りを前にして、彼は思わず後退りした。 |
| クリーム | あなたの素直さに、感謝します。 |
| クリーム | 調子のよさは、昔から変わりませんね。 |
| クリーム | 本当のことを言わせるために、まだ何か仕込む必要があるかと思っていたのですが……手間を省いてくれて、本当にありがとうございます。 |
| 黒ローブの妖精 | なんだと―― |
| 妖精A | 貴様、ずっと俺たちを騙していたな! |
| 妖精B | クリームは魂を取り込むというのも、嘘だったんだろ! |
| 妖精c | ビッターコーヒーはいいものだって信じていたのに……。 |
| クリーム | ふぅ。みなさん、これでお分かりになったでしょう? |
| クリーム | 痛みと裏切り以外、「ビッターコーヒー」は何ももたらさないのです。 |
| 妖精たち | 女王陛下……私たちは―― |
| クリーム | 気にする必要はありません。みなさんを騙したモノが悪いのです。今までの全てを許しましょう。 |
| クリーム | 今は、クリームの祭典が控えているのです。大いに盛り上げ、反逆者を捕まえたことを祝いましょう! |
| 妖精たち | おう!! |
| 妖精たち | 女王陛下万歳! |
| モノローグ | 若い女王は舞台に上がり、国民からの歓声と祝福を受ける。 |
| モノローグ | ずっと沈黙を保ったままの妖精とすれ違ったとき、彼女は返事を期待していない顔で、密かに囁いた。 |
| クリーム | 今も昔も、ありがとうございます。 |
| クリーム | 「コーヒーリーフ」さん。 |
| モノローグ | 彼女の後ろ姿を見つめるエスプレッソの表情は、少しも動かない。 |
| エスプレッソ | ……。 |
| エスプレッソ | どういたしまして。 |
| エスプレッソ | 私の、エゴですから。 |
| エスプレッソ | 女王は、君に相応しい。 |
| モノローグ | 彼はただ、面倒なことが嫌なだけ。 |
| モノローグ | 彼にとって、貴族の地位や礼節など、無効率で無意味なことだ。 |
| モノローグ | 彼がここまでクリームに肩入れすることには、どんな理由があったのか……不思議ではあったけれど、きっとそれは、そう重要なことではないのだろう。 |