決意 - (2009/05/11 (月) 23:55:03) の編集履歴(バックアップ)
決意 ◆6lu8FNGFaw氏
「薄暗くなってきましたね…」
治は、隣に座っている石田に向かってつぶやいた。
治は、隣に座っている石田に向かってつぶやいた。
仲根に襲われた後、二人はアトラクションゾーンから少し離れた森の中に身を隠していた。
後ろを振り返れば見えるのは海。
だが、ここから海面までは数十メートルもの高い崖になっており、しかもごつごつした岩場。
とてもここから飛び込んで助かりそうな雰囲気ではない。
後ろを振り返れば見えるのは海。
だが、ここから海面までは数十メートルもの高い崖になっており、しかもごつごつした岩場。
とてもここから飛び込んで助かりそうな雰囲気ではない。
「ああ、そうだね…。さっきまでいたB-3が禁止エリアになってしまったね…」
薄暗く物が見えにくい視界の中で、地図に目一杯顔を近づけながら石田が言う。
薄暗く物が見えにくい視界の中で、地図に目一杯顔を近づけながら石田が言う。
「早くここから離れたほうがいい…。今いる地点はB-2、隣のエリアから誰がこっちに向かってくるかわからない…。
いったん南の方角に移動したほうが…」
「そうでしょうか…。」
「え…?」
治の返答に、石田は怪訝な顔をする。
いったん南の方角に移動したほうが…」
「そうでしょうか…。」
「え…?」
治の返答に、石田は怪訝な顔をする。
「危険エリアの周辺から動こうとする人は、島の東側に行くか、下半分を目指して南下すると思うんです。
首輪が爆発するという恐れのため、禁止エリアからできるだけ離れたい…そう考えるからです。
だから、今オレ達がここからB-3を避けて南下すれば、誰かと鉢合わせになる可能性が高い…。
それが、天さんのように良い人だったらいいんですけど、さっきみたいに襲われる可能性もある…。」
「そ、そんな…」
「だから、逆に動くんです」
「逆…?」
治は地図を掲げ、説明する。
首輪が爆発するという恐れのため、禁止エリアからできるだけ離れたい…そう考えるからです。
だから、今オレ達がここからB-3を避けて南下すれば、誰かと鉢合わせになる可能性が高い…。
それが、天さんのように良い人だったらいいんですけど、さっきみたいに襲われる可能性もある…。」
「そ、そんな…」
「だから、逆に動くんです」
「逆…?」
治は地図を掲げ、説明する。
「ここから北のほう、A-2、A-3をアトラクションゾーンの周りを迂回するように進むんです。
それなら、他の参加者の行動時期とずらした時期に、東のほうへ進むことが出来ます。
島の端を通っていくようなことする人は、他にはあまりいないんじゃないでしょうか…?
こんな端っこまで来ても何もないですから。
…もし、いるとしたらオレ達と同じような思考に陥った人…とにかく逃げたいと考える人くらいだと思います。
そういう人なら仲間にできるかもしれません。」
「な、なるほど…。」
石田は頷いた。
それなら、他の参加者の行動時期とずらした時期に、東のほうへ進むことが出来ます。
島の端を通っていくようなことする人は、他にはあまりいないんじゃないでしょうか…?
こんな端っこまで来ても何もないですから。
…もし、いるとしたらオレ達と同じような思考に陥った人…とにかく逃げたいと考える人くらいだと思います。
そういう人なら仲間にできるかもしれません。」
「な、なるほど…。」
石田は頷いた。
「だけど…」
「はい?」
石田が言い淀んだのを見て、治は言葉を促した。
「はい?」
石田が言い淀んだのを見て、治は言葉を促した。
「今はそれでもいいが、ただ逃げてるだけでは、どうにもならない…。
さっきみたいな危険な目には遭いたくないけど、誰かと遭遇しないと物事は前に進まない…。」
「…それはそうですけど…。」
治が言いかける前に、石田は言葉を続けた。
さっきみたいな危険な目には遭いたくないけど、誰かと遭遇しないと物事は前に進まない…。」
「…それはそうですけど…。」
治が言いかける前に、石田は言葉を続けた。
「実は…、オレには、探している人物がいるんだ…。
間違いなくオレ達の仲間になってくれる…!そういう人物…!」
間違いなくオレ達の仲間になってくれる…!そういう人物…!」
B-2からA-2、A-3へと周囲を警戒しながら歩を進め、二人は話をした。
「石田さんが探している人って、なんて名前なんですか?」
「ああ…。伊藤開司…。カイジ君って言うんだ。」
「カイジ君か…。…実は僕も探してるんです。赤木しげる…アカギさんって人を」
「…その人は、仲間になってくれそうなんだね…?」
「……いえ、それは状況次第かと…。一人で行動するほうが性に合っている人ですし…。
ただ、オレや石田さんのような人を襲ったり、騙したりはしないと思います」
「…へえ、一本芯の通った男なんだね」
「いやあ…俺達じゃあ勝負の相手にならないからだと思います…」
治は苦笑いした。
「石田さんが探している人って、なんて名前なんですか?」
「ああ…。伊藤開司…。カイジ君って言うんだ。」
「カイジ君か…。…実は僕も探してるんです。赤木しげる…アカギさんって人を」
「…その人は、仲間になってくれそうなんだね…?」
「……いえ、それは状況次第かと…。一人で行動するほうが性に合っている人ですし…。
ただ、オレや石田さんのような人を襲ったり、騙したりはしないと思います」
「…へえ、一本芯の通った男なんだね」
「いやあ…俺達じゃあ勝負の相手にならないからだと思います…」
治は苦笑いした。
「でも、仲間になるつもりがないのなら、何故そのアカギって人を探してるんだい…?」
「……力になりたいんです」
「え…?」
「オレがこの島に来てから、見たこと、聞いたこと…それを伝えたい…。
それがどんなに些細なことでも、情報が何かのきっかけ…突破口になるかもしれない…。
あの人はきっと情報を求めているはずなんです…。このゲームの解れを見つけるために…」
「解れだって…?」
石田は聞き返した。このゲームに解れがあるなんて、全く発想の外。そんな風に考えたこともなかった。
「……力になりたいんです」
「え…?」
「オレがこの島に来てから、見たこと、聞いたこと…それを伝えたい…。
それがどんなに些細なことでも、情報が何かのきっかけ…突破口になるかもしれない…。
あの人はきっと情報を求めているはずなんです…。このゲームの解れを見つけるために…」
「解れだって…?」
石田は聞き返した。このゲームに解れがあるなんて、全く発想の外。そんな風に考えたこともなかった。
「そうです…。今はまだ雲をつかむような話ですが…。
この殺し合いゲームだって、同じ人間が考えた仕組みなんだ。
何かルールの抜け道があるかも…。いや、あるに違いないんです」
治は自分に言い聞かせるように言った。確証などない。だが、そうとでも考えなければ希望が無い。
この殺し合いゲームだって、同じ人間が考えた仕組みなんだ。
何かルールの抜け道があるかも…。いや、あるに違いないんです」
治は自分に言い聞かせるように言った。確証などない。だが、そうとでも考えなければ希望が無い。
「可能性を信じなければ前に進めない。それに…」
言いかけて、治はひとつ息をついた。
言いかけて、治はひとつ息をついた。
「石田さん…。オレたち、このままじゃ駄目なんです。」
「え…?」
「このゲームには数々の猛者、悪人、裏社会の住人、ヤクザ…。ありとあらゆる人間が参加している。
…なんでオレや石田さんのような一般人までつれて来られているんでしょうか…?」
「な、なんでって……」
「ゲームの主催者が、オレ達に期待していることは何だと思いますか?」
「…………」
「え…?」
「このゲームには数々の猛者、悪人、裏社会の住人、ヤクザ…。ありとあらゆる人間が参加している。
…なんでオレや石田さんのような一般人までつれて来られているんでしょうか…?」
「な、なんでって……」
「ゲームの主催者が、オレ達に期待していることは何だと思いますか?」
「…………」
石田は俯き、苦い顔をした。
「怯え、逃げ惑い、惨めに死ぬことかな…。」
「……そうでしょうね。オレたちは奴らにナメられてるんです。
主催の奴らの思惑通りになるなんて、まっぴらご免じゃないですか。
だから、まずはオレたち、しぶとく生き残ってやりましょう。
その上で、自分にできる範囲で、このゲームに反抗するんです。」
「怯え、逃げ惑い、惨めに死ぬことかな…。」
「……そうでしょうね。オレたちは奴らにナメられてるんです。
主催の奴らの思惑通りになるなんて、まっぴらご免じゃないですか。
だから、まずはオレたち、しぶとく生き残ってやりましょう。
その上で、自分にできる範囲で、このゲームに反抗するんです。」
石田は治の顔をまじまじと見た。第一印象はごく普通の朴訥な若者だったが、
この治という人間にもどこか、カイジのような芯の強さを感じた。
「…君は、強い子だね。オレなんかとは違って…」
「…そんなんじゃないですよ…。オレには憧れている人がいて…。それがアカギさんなんですが…。
同格になんかなれないまでも、少しでもその精神に近づきたいんです。
そう考えることで自分を鼓舞することができるんです」
「……そうか……」
この治という人間にもどこか、カイジのような芯の強さを感じた。
「…君は、強い子だね。オレなんかとは違って…」
「…そんなんじゃないですよ…。オレには憧れている人がいて…。それがアカギさんなんですが…。
同格になんかなれないまでも、少しでもその精神に近づきたいんです。
そう考えることで自分を鼓舞することができるんです」
「……そうか……」
それでも、石田には治が強い人間に思えた。
憧れている対象に自分自身も近づこうと、前向きに考えられることが、その強さの証明であると思った。
憧れている対象に自分自身も近づこうと、前向きに考えられることが、その強さの証明であると思った。
「ところで、石田さんはゲーム開始から今までで、何か気がついたことってありますか?」
「…そうだなあ…。今回は、参加者の支給品に差があって、不公平なところが今までと違うかな…」
「えっ…?『今回』…?」
「……今回のゲームほどあからさまに『殺し合い』ではないけれど…。
参加者同士で死ぬか生きるかを賭けるようなゲームに、以前にも参加させられたことがあるんだ。
このゲームの主催者…帝愛に…」
「ええっ…?そうなんですか!?石田さん…」
「……オレはそこで一度死んだ…」
「……?」
「主催の気まぐれでこうして生かされたんだが…。オレは確かにあのとき一度、死んだんだ…。
74メートルの上空から落ちて…」
「…そうだなあ…。今回は、参加者の支給品に差があって、不公平なところが今までと違うかな…」
「えっ…?『今回』…?」
「……今回のゲームほどあからさまに『殺し合い』ではないけれど…。
参加者同士で死ぬか生きるかを賭けるようなゲームに、以前にも参加させられたことがあるんだ。
このゲームの主催者…帝愛に…」
「ええっ…?そうなんですか!?石田さん…」
「……オレはそこで一度死んだ…」
「……?」
「主催の気まぐれでこうして生かされたんだが…。オレは確かにあのとき一度、死んだんだ…。
74メートルの上空から落ちて…」
石田は、そのときの状況を治にかいつまんで話した。
落ちた直後、前後不覚に陥ったため、どうやって助かったのかは分からない。
また、他の落ちた連中が助かったのかどうかも全く知らない。
ただ、助かったことで分かったことがある。
自分は死ぬ権利さえ剥奪されたのだ。
落ちた直後、前後不覚に陥ったため、どうやって助かったのかは分からない。
また、他の落ちた連中が助かったのかどうかも全く知らない。
ただ、助かったことで分かったことがある。
自分は死ぬ権利さえ剥奪されたのだ。
あのとき、自分は確かに死ぬ覚悟をした。
いや、そんな格好いいものじゃない。死ぬ道しか選べなかったのは自分の弱さの為だ。
足が竦んで動けなくなり、橋を渡りきる道を選べなかったのだ。
しかし。現実は帝愛の都合で生かされ、また死ぬか生きるかのゲームに放り込まれている。
いや、そんな格好いいものじゃない。死ぬ道しか選べなかったのは自分の弱さの為だ。
足が竦んで動けなくなり、橋を渡りきる道を選べなかったのだ。
しかし。現実は帝愛の都合で生かされ、また死ぬか生きるかのゲームに放り込まれている。
この島に来てから、ただ怯えることしかできなかったが…。
今、思い巡らせて見ると、あまりにも人を馬鹿にした話じゃないか。
船のときも、鉄骨のときも、借金という負い目のため、帝愛に対する底知れぬ恐ろしさのため、見えていなかった。
だが、この殺し合いをしろというゲームには、そんな負い目さえ覆すような理不尽さを感じた。
今、思い巡らせて見ると、あまりにも人を馬鹿にした話じゃないか。
船のときも、鉄骨のときも、借金という負い目のため、帝愛に対する底知れぬ恐ろしさのため、見えていなかった。
だが、この殺し合いをしろというゲームには、そんな負い目さえ覆すような理不尽さを感じた。
船でカイジに救われた後、カイジが会場の中で暴れ、怒鳴り散らしていたのを思い出した。
『悔しくねえかっ…! 悔しくねえのかよっ…!』
『悔しくねえかっ…! 悔しくねえのかよっ…!』
悔しい。
そんな感情が湧いたのは久しぶりだった。
あまりに負け続けの人生で、負け癖がついていて、怒りの感情が麻痺していたのだ。
そんな感情が湧いたのは久しぶりだった。
あまりに負け続けの人生で、負け癖がついていて、怒りの感情が麻痺していたのだ。
「このままじゃ、奴隷だ…!奴らの玩具だっ…!」
「石田さん…」
「石田さん…」
じっと話を聞いていた治は、石田の肩に手を置き、言った。
「生き延びましょう…。それで、見せてやるんです。オレたちの矜持を…!」
「ああ……」
「生き延びましょう…。それで、見せてやるんです。オレたちの矜持を…!」
「ああ……」
返事をしたが…そのとき石田は全く逆のことを考えていた。
自分が土壇場で弱い人間、足が竦む人間だということを、今でははっきりと自覚している。
治のように、自分の憧れている人間の力になるなどと、そんな風には考えられない。
自分が土壇場で弱い人間、足が竦む人間だということを、今でははっきりと自覚している。
治のように、自分の憧れている人間の力になるなどと、そんな風には考えられない。
そうだ……オレはカイジ君の足手纏いになってしまうのではないか。
助けてもらおう、カイジ君なら何とかしてくれる、なんて虫のいいことを考えていたけれど。
助けてもらおう、カイジ君なら何とかしてくれる、なんて虫のいいことを考えていたけれど。
ぐにゃあ…と、足元の地面が崩れていくような感覚に襲われた。
鉄骨の上で感じた感覚とはまた別の、自分の内側、根幹が揺らいでいくような感覚。
鉄骨の上で感じた感覚とはまた別の、自分の内側、根幹が揺らいでいくような感覚。
自分には何も出来ない。何の役にも立たない…。
これなら…どこかで一人野たれ死んだほうがましなんじゃないか…!
これなら…どこかで一人野たれ死んだほうがましなんじゃないか…!
激しい無力感…絶望感に、その場に座り込みそうになった。
いや。待てよ。
ふと、先ほど治が襲われ、自分が窮地を凌いだことを思い出した。
ふと、先ほど治が襲われ、自分が窮地を凌いだことを思い出した。
そうだっ…! 今のオレにはこれがある…!
市川から奪ったコート、捲ると、内側には夥しい数のダイナマイト。
先ほどのように、自爆覚悟で、爆発させると脅して敵を怯ませ、退けることができる。
市川から奪ったコート、捲ると、内側には夥しい数のダイナマイト。
先ほどのように、自爆覚悟で、爆発させると脅して敵を怯ませ、退けることができる。
そして。
ふと、天が市川に向かって言った言葉を思い出した。
ふと、天が市川に向かって言った言葉を思い出した。
『考えてみろ…!あんたがくくりつけてんのはダイナマイトだろうが……
それだけの量があれば、このふざけたゲームをひっくり返せるんだぞ……!』
それだけの量があれば、このふざけたゲームをひっくり返せるんだぞ……!』
そうだ…。このダイナマイトは重要…!
大事な局面で使えば、このゲームを覆すことが出来る代物っ…!
大事な局面で使えば、このゲームを覆すことが出来る代物っ…!
そのためには。
自分に、玉砕する覚悟があればいい。
自分に、玉砕する覚悟があればいい。
(手助けはできなくとも…。死ぬ覚悟ならできるっ…!
一度『死んだ』オレだから…だからこそ………!)
一度『死んだ』オレだから…だからこそ………!)
治の後を歩きながら、石田は一人、決意を固めた。
それが…精一杯の彼の矜持…目立たない克己…!
それが…精一杯の彼の矜持…目立たない克己…!
【A-3/アトラクションゾーン沿いの森/夜】
【治】
[状態]:後頭部に打撲による軽傷
[道具]:拡声器
[所持金]:0円
[思考]:石田と逃げる アカギ・殺し合いに乗っていない者を探す ゲームの解れを探す
[状態]:後頭部に打撲による軽傷
[道具]:拡声器
[所持金]:0円
[思考]:石田と逃げる アカギ・殺し合いに乗っていない者を探す ゲームの解れを探す
【石田光司】
[状態]:健康
[道具]:産業用ダイナマイト(多数) コート(ダイナマイトホルダー) ライター
支給品一式
[所持金]:1000万円
[思考]:治と逃げる カイジと合流したい カイジのためなら玉砕できる
[状態]:健康
[道具]:産業用ダイナマイト(多数) コート(ダイナマイトホルダー) ライター
支給品一式
[所持金]:1000万円
[思考]:治と逃げる カイジと合流したい カイジのためなら玉砕できる
075:四槓子 | 投下順 | 077:闇 |
時系列順 | ||
050:混乱 | 治 | |
050:混乱 | 石田光司 |