「ほらよ、麦茶」
「…ずいぶん庶民的な飲み物ね」
黒猫は言葉こそ嫌味だったが、少しふるえたような声で緊張しているのがわかった。
何を隠そう黒猫は俺の部屋にいる。二人だけでだ。ベッドに浅く腰かけて見るからにガチガチな黒猫を落ち着かせようと冷蔵庫から飲み物をもってきたわけだ。
で、まあ、なんでよりにもよって黒猫が俺の部屋に―しかも今家には誰もいない―いるようなことになってしまったかと言うと…。
「私、今日
あやせの家に泊まるから」
親父とお袋が夫婦水入らずで二泊三日の旅行にいった初日、桐乃は明らかに不機嫌な顔でそう言い放った。
「お、おおそうか」
「そう。あんたと二人きりでいるなんて耐えられないから」
相変わらずひでえ言葉だよこの妹は。へっ、そういうことならこっちだって望むところさ。
「チッ、わかったよ。親父達が帰るまで泊まってくりゃいいだろ」
「…何それ」
桐乃はさっきより不機嫌な面で俺をにらみつけてくる。なんで?俺と二人が嫌なんだからそうなるだろ?なんか変なこといったか。
桐乃は連続で舌打ちをして俺を見るもおぞましいものであるように見下ろしてくる。
最終更新:2009年07月16日 14:54