ガチャリ。
扉を開けた瞬間、俺は完全に凍りついた。目の前にスカートと下着をずらし、
下半身をあらわにした妹の姿があったからだ。
そういえば、朝、母親が言ってたっけ。
『あ、トイレの鍵が壊れてるから、みんなちゃんとノックするように気をつけてね』
呑気な表情でそう家族に告げた母親の顔を思い出し、我に返る。
「わ、わリィ!」
そう言ってあわてて扉をしめたが、きっともう遅いんだろうなあ。
それより妹の裸(っていうより下半身だけど)初めて見ちまったよ……
っていうか、考えたら女の子の裸みた事自体初めてだ。もちろん幼児の頃はノーカウントな。
いや、でも、幼児の頃と、そうかわらなかったような……って、俺、何思い出してんのさ!
そんな事考えているうちに、水音がしたかと思うと、扉が開いて衣服を整えた妹がトイレから出てきた。
なんて馬鹿なんだ俺。どうして、とっとと退散しとかなかったんだろ。
「……」
どんな怒りが爆発するか恐々として待ち構える俺に、激しい怒りのためか顔を真っ赤にした妹が、
俯き気味の顔から上目遣いで鋭く睨みつけてきた。こ、これは殴られる?
……しかし、妹は一言の言葉も暴力も発することなく俺の前を通り過ぎ、階段を上って自分の部屋へ戻っていった。
「助かった? 許してくれた……のか?」
もちろんうちの妹に限って、そんな甘い話があるはずなかったんだけどな!
「起きてる?」
その夜、妹がそう言っていきなり俺の部屋に入り込んできた。
「お、おう」
来たか……と俺はそう思った。コイツがあのまま済ませてくれるわけないと思ったんだ。
「ちょっと、ちゃんと人の顔見て返事しなさいよ。……って、あんたどこ見てるわけっ!?」
桐乃の顔を直視できなかった俺の視線は、偶然にも妹の下腹部のあたりに吸い寄せられていた。
「ちっ……! 違う! 誤解だ!」
「ふん、いいケド。いまさらだしィ。アンタ、昼間の事ただですませるとは思ってないよね?」
もちろん思ってはなかったが、ここで抵抗をやめるわけにはいかない。
「悪かったよ。でもそんなに大袈裟に騒ぐ事ないだろ、偶然見られたくらい。……きょ、兄妹なんだから」
「ふーん、そういう事を言うワケ?」
桐乃は値踏みするように、俺の頭とつま先の間を、上下へ視線をさまよわせる。
「……じゃあ、見せてよ」
「え?」
「兄妹なら見られても平気なんでしょ? じゃあ、私にも見せてよ。アンタのペニス」
いきなり、何言い出しやがるんだ、この妹様は!
「ば、馬鹿野郎! 女子中学生が、ペ……ペニスなんて言葉言うんじゃねーよ!」
「じゃあ、肉棒」
「余計悪いわ!」
こいつエロゲやりすぎて脳腐ってんじゃねーの?
「なあに? 見せられないの? 兄妹なら平気ってウソついたわけ?」
「違うよ! 偶然見られたのは仕方ないとしても、わざと見せるのはマズイだろ! 兄妹ならなおさら!」
「……バカじゃん? 他人の方がマズイっしょ。 他人にわざと見せたら警察沙汰になるじゃない」
そりゃそうだけど! 論点はそこじゃねえだろ? なんでわかんねえのかなあ、こいつ!
「いいよ、見せてくんないなら。 お父さんとお母さんに、アンタに大事なとこ見られたって告げ口する」
「……なっ!」
それはまずい。桐乃をかばうための方便とは言え、親父には俺が妹モノのエロゲを嗜んでる事になってるんだ。
親父があのウソを鵜呑みにしたとは思えないが、そんな話されたらウソがウソじゃ済まなくなっちまう。
クソォ~~! こいつはいつもいつも恩を仇で返すような真似しやがって!
「へえ~~こんな風になってんだ」
結局俺には、桐乃に屈する以外の選択肢はなかった。しかしズボンとパンツは脱いでない。
チャックを開いて、ぐにゃりとひっぱり出しただけだ。それが人としての最終ラインを守るための俺の拘りだった。
「で、同人誌みたいになるには、どうすればいいの?」
何が『どうすればいいの?』だ! 読んでんだろ、エロ同人誌! じゃあ、知ってるはずじゃねえか!
「……ちょっと、聞いてんだけど。無視しないでくれる?」
「し、知らねえよ。そもそも妹に見られて、反応するわけねえだろ……」
それは人間として終わってるぞ、確実に!
そんな俺を侮蔑の目で見据える桐乃。
「何よ、それでもシスコン? だらしないわね」
だからシスコンじゃねえって言ってるだろうが……いつまでそのネタひっぱる気だっての。
桐乃は少しばかり思案するような表情になり、少し視線をさまよわせたかと思うと、
遅い時間でもう眠いのか、潤んだような目で俺を見上げ、ヒソヒソ声でこう言った。
「……ねえ、舐めてあげよっか?」
「ば、バカじゃねえの!?」
マジ、こいつの頭、エロゲやりすぎで腐っちまってる!絶対!
だいたい、持ち物を俺に触れられるのも嫌がるくせに自分から触るのは大丈夫なのか?
しかも、こんなところを? それも舐めるって!
その時、なぜか俺はふと思い出した。こいつと初めて一緒にエロゲした時のことを。
あの時もこいつ、マウス持った俺の手に自分の手をかぶせてきたっけ……
あれって、何年ぶりだったんだろうな。妹の手の平に触れたのは。
(……いっ?!)
そんなことを思い出したとたん、いきなり俺の股間が反応を始めた。
な、なんで? あのときは何も感じなかったのに……
と、止まれ! 止まるんだ! この反抗期めっ!
「ちょっと、アンタ、なに自分の世界に入ってんの? あ、また眼鏡の事でも考えてるんじゃないでしょうね?」
「な、なんでここで
麻奈美が出てくんだよ!」
そんな話をしているうちにも、一度励起状態へと移行し始めた俺の怒張は、
ムクリとその鎌首をもたげ始めた。
ギンギンに血管を浮かび上がらせた俺のイチモツを見て、桐乃が心底嫌そうな顔でつぶやく。
「……キモ」
酷すぎる。
そりゃキモイだろうさ! でも、おまえが見せろって言ったんだろ? なんか傷ついたぞ。
しかし、俺に文句を言わせる間も与えず、妹は言葉を続ける。
「……キモイ。キモイ、キモイ! キモイからもうしまって!」
「わ、わかったよ」
突然、癇癪を起こしたように涙目になりながらそう叫ぶ妹の声に、俺はあわててムスコをしまう。
な、なんだよ。これじゃ俺が無理やり妹に見て見ろと迫ってる変態みたいじゃねえか。
見せろといったり、急に嫌がったり、相変わらずコイツはワケわかんねー。
「……もう寝る」
桐乃はつぶやくようにそう言って、背中を俺に向けて立ち上がった。
そして、扉を開けて出て行く間際、最後に一言。
「わたしじゃ……やっぱりダメなワケ?」
「え? 何が?」
その俺の問いに、妹からの答えは何も返ってこなかった。
最終更新:2009年08月07日 08:04