アットウィキロゴ

5-782



1巻1章 桐乃視点 DVDケース



「ない!?」
なんどもなんどもバッグの中をゴソゴソと探って見回したが、ついぞ『ほしくず☆うぃっちメルル』のDVDケースは出てこなかった。
「なんで無いのよぉ~……」
諦めきれずバッグの中をのぞくが、魔法のようにパッと出てくるわけが無い。
そもそも、友達と会って少し話をするだけの予定だったのだ。
バッグの中はDVDケース以外には財布とわずかな化粧品しか入れていなかったのだから、荷物の中に隠れてしまうようなことはない。
「うぅ、あたしのメルルちゃん……グス」
なんて痛恨のミス、おもわず涙が出そうになる。
以前にDVDケースを店頭に持ってくるとレアカードが1枚貰えるというトレカのイベントに持って行き、そのままバッグに入れておいたのが間違いだった。
出かける前に取り出しておけばよかったんだけど、ケースの表紙からあたしに向けてくる愛くるしい笑顔に負けてそのまま持ってきちゃったんだよね。仕方なくない?
――はぁ。ま、いつまでもバッグの中を見てたって仕方無いよね。いなくなったメルルちゃんの行方を捜さなきゃ! 待ってて、メルルちゃん!
「んーとぉ、バッグの中に無いってことは落とした――ってことだよねぇ」
気をとりなおしてメルルちゃんがどこでいなくなったのかを考える。
一番に思い当たるのは、……やっぱあの時だよ、ね。
家を出る時、玄関でアイツとぶつかってバッグの中身がぶちまけられてしまったのだ。
おそらくそのときにDVDケースを落としたんだと思う。
それ以外には、さっき気が付くまで外でバッグを開けることなんて無かったし。
となると――、
「まっず、早く帰らないと!」
もし、万が一、億が一にもアイツやお母さんにメルルちゃんが見つかったら。
考えただけでもゾッとしてきた。あたしの趣味がバレてしまう。そうなったら………。
いやぁぁぁぁぁぁぁぁ! 考えたくない考えたくないぃぃぃひぃぃぃぃ!
思わずそこが路上だということを忘れて頭を抱えてのたうち回ってしまった。
あーもうクッソ! な・ん・で、あたしがこんな目にあわなきゃいけないのよ!? こうなったのもアイツのせいだ。思い出してもイライラするっつーの。

アイツ、高坂京介はあたしの……………………いちおー、まぁ『兄』だ。
でもここ数年アイツを兄とはあんま思ってない。ていうか他人? 最近は会話だってほんどしてない。
たまに口をきいても家族として必要最低限の『いってきます』『ただいま』『ご飯』『お風呂空いた』といったくらい。
どうしてそんな関係になったちゃったかなんて――フン、知らないっつの……。
とにかく、アイツの『おまえなんか知っちゃこったーよ』って態度がなんかムカつくのよっ!
ハ、こっちだって別にアイツのことなんてどうでもいいんですケドねー。

まぁ、そんなわけでアイツは何かあたしをイライラさせる存在ってこと。
散らばった化粧品に手を伸ばしてきた時もつい衝動的に手を払ってしまった。
メルルちゃん見つかったらヤバイって焦った気持ちもあったケド。
でも……、あれはいちお~拾おうとしてくれてたんだよ…ね?
フ、フン! だからどうだってのよ。ぶつかったんだからトウゼンって感じだけどサ。
そんなことよりD・V・D!D・V・D! 待ってて、あたしのメルルちゃーん!
心の中でアイツに悪態をつきながら、あたしは全速力で家へと駆け出した。


午後7時過ぎ、あたしは我が家の食卓で夕食のカレーと味噌汁を食べていた。
お母さん。どうでもいいけど、せめてカレーのときは味噌汁じゃなくてスープにでもしてくれないかな? 前に学校でカレーと味噌汁がいっしょに出てくるって言ったら笑われちゃったよ。
あれから帰宅して――玄関をくまなく探したけど、結局メルルちゃんを見つけられなかった。
ひょっとして~と思ったが、キッチンでカレーを煮込んでいたお母さんにメルルちゃんを拾ったような素振りは無い。
そしてアイツ。さっき玄関にいるあたしに向かって『何してんだ?』と聞いてきた。
うっさいわね、アンタのせいでこんな目にあってんジャン、バカ。
でも、いつも通りどーでもよさげーな態度だった。
はいはい。アンタはあたしに興味なんてこれっぽっちも無いもんね。
フン、こっちもだけど! というわけで、たぶんアイツもシロ。
お父さんも、あたしより後に帰ってきたから、当然シロ。
どうやら家族に見つかるという最悪の事態は無かったようだけど…。
そうなってくると――メルルちゃんどこ行ったのよ?
食事が済んだら部屋を探してみよ。もしかしたら持って出たのは勘違いとも考えられるしね、うん。
そんなことを考えてると、隣にいるバカがなんか言い出した。
「俺、メシ喰ったらコンビニいくけど。なんか一緒に買ってくるものある?」
「あら、じゃあハーゲンダッツの新しいの買ってきてちょうだい。季節限定のやつね」
「ほいよ」
あー、TVのCMでやってたなぁ。あたしも食いたい。
かといって「買ってきてよ」なんて頼むような間柄じゃないので後でお母さんに言おう。
そうすれば経由してコイツに買わせることが出来る。ウンウン楽しみ楽しみ。
あたしがアイスに思いをめぐらせていると隣のバカはさらに会話を続け――、
「そういやさ。俺の友達が、最近女の子向けのアニメにはまってるらしいんだけど。えーと確か、ほしくずなんとかっつーやつ」
「なぁに、突然?」
「イヤ別に、面白いってすすめられたからさ。一回くらい観てやってもいいかなって」
「やぁだー、そういうのって確かオタクっていうんでしょ? ほら、テレビとかでやってる……あんたはそういうふうになっちやだめよー? ねぇお父さん」
「ああ。わざわざ自分から悪影響を受けに行くこともあるまい」
………………………………………………。
ナニコレ、ドウイウコト?
聞き間違いじゃ……ないよ……ね? 今コイツ……なんて言った…………?
この……まさか……こ、こ、この隣にいるこの、この、こ、こ、こっ!?
心臓がバックンバックン鳴りだし頭が真っ白になってあたしは何にも考えられなくなった。
息も苦しいし、目の前も暗くなっていく。まるでオーバートレーニングして全力疾走でトラック何周も走ったみたいな。
「……桐乃?」
お母さんがあたしの様子が変なことに気付いたようだ。
ま、ままままずい! と、と、とにかくここを――に、逃げなきゃ!
「……ごちそうさまっ」
そう言うだけで精一杯。
早口にまくしたてるとあたしはすぐに席を立ち自分の部屋へと戻り鍵をかけた。


――部屋に入っても動悸の方は全然治まってくれない。そのままフラフラとベッドに倒れこんだ。
……最……悪。
サイアク、サイアク、サイアク、サイアク、サイアックッ!
自分の部屋という安全地帯に戻ってようやく動き出した思考だが、気分は本当に最悪中の最悪といって言いほどの最悪だった。
……アイツがあんなこと言いだしたのはどう考えてもあたしのメルルちゃんを見つけたからだ。
そうとしか考えられない。アイツ普段はアニメ見ないし。
マンガ雑誌くらいなら買ってるけど、それだって毎週買うほどの熱心さじゃない。
暇つぶし程度だ。(先週号を買ってなくてイライラした記憶がある)
つまり、それほどアニメに興味ないやつがいきなり夕食時に、しかもキッズアニメである『ほしくず☆うぃっちメルル』の話題を出すわけが無いっ!

――おそらくこういうことだろう。
あたしが出かけた後、アイツはメルルちゃんを見つけ、拾い上げる。
そしてぶつかった拍子にあたしのバッグから落ちたものだと推測し、メルルちゃんの表紙を見て、そして、そして中身を……。
にぎゃぁぁぁぁぁぁ!? いやあああああああああああ!
な、中身、ぜっったい見られてるよねっ!?

『妹と恋しよっ♪』の〝エロゲディスク〟を!

我が家にありそうに無いものが落ちてたんだもん、確かめるに決まっている。
「な、なんでこんな。よりによって一番知られたくないヤツが拾ってんのよぉ……」
泣きそうだった。てか、もう目から溢れてきそうだ。
アイツが何考えてるかなんて分かんないけど、どーせバカにするのは決まってる!
食卓であんなこと言い出したのも、家族の前であたしの秘密を暴露してあざ笑うつもりだったんだ。
頭の中にひとつも楽観的な思考なんて生まれてこない。
アニメやエロゲが大好きなだけに、それに対する世間の風当たりの強さは良く分かっているから。
アイツはいわゆる一般人なわけだし、アニメやエロゲについてなんて偏見の塊だ。
ということは……、『キモチワルイ』って思われる……。
『こんなゲームなんてやってんのかよ、ウェ』とか蔑んだ目で見られる……。
――くやしさや恥ずかしさ、悲しさから、目に溜めきれなかった涙がこぼれでた。
「っふ……っひ……ぅく……」
なんでよ? なんで泣いてんのよあたし。ずっと隠してた趣味が見つかったのはイタいけど、ここまで苦しいなんて。
そんな気にするほどのもんでも……ないじゃん、アイツなんて。
どうでもいいアイツなんかになんて思われようがさぁ……?
あたしのことなんてちっとも見ようとしないアイツのことなんて……アイツなんて……。
――クソッ! 泣くなあたし! 泣いたってもうどうしようもないじゃん。
鬱ってる場合じゃないって。
これからずっとアイツと顔合わすたびにこんな気持ちになるなんてたまらない。そんなのくやしいしムカつく、ガマンできないっての!
これまでだってうまく隠してこれたんだから、きっと今回のコレも何かうまく解決する方法があるって! 考えろ、考えるのよ桐乃!
グイッと服のすそで目を拭って、あたしはこの先のことを考えだした。
しかしどうするつっても、う~ん具体的にはどうしよう?
あたしの心の平穏を取り戻す為に一番手っ取り早そうなのは――アイツをコ○スことよね。
完全犯罪の方法でもググってみようかな?
そんなことを頭に浮かべているとドアの外からいきなり声が聞こえてビクンとなった。
「さぁて。コンビニいくか」
ア、アイツか。驚かせんなっつの。
ていうか夕食のあと、あたしに何か言ってくるかと思って不安だったけど……?
もしかして、あたしの弱みを握って余裕ぶっこいてるってやつ? いつでもおまえのことなぶれるんだぜぇ~、へっへっへ――とでも思っちゃってんの? キモッ!
むぅ~、ただそうは思っても…、メルルちゃんの秘密を知られているあたしにはどうにもできないもどかしさがある。
アッ~~ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつ――……ん?
アイツ、今コンビニ行くって言ってたよね。
……ということは!?
サッとドアに近づき、廊下の音に耳をたてる。
1階の方からバタンッと玄関の扉が閉まる音、それを聞いて今度は窓際に移動しカーテンの端っこからそっと外の様子を窺う。
見ると、アイツが歩いていく姿が見えた。間違いなくコンビニに向かっているようだ。
今しかないっ! アイツがいない間に部屋へ侵入してメルルちゃんをを救出し、あとはアイツが何を言ってきても知らん顔を決め込む!
まさに千載一遇のチャンス到来、キタコレ~ッ!
「ふっふっふ、余裕ぶっこいてるのがアダになったわね。ブァ~~~カめ」

――アイツが角を曲がったことを確認した後、あたしは即行動に移した。
部屋を出てから足音を立てないようにサッと隣のアイツの部屋へ侵入する。
こちらスネーク。大佐、侵入に成功した。
ミッション遂行時間はアイツがコンビニから帰ってくるまでのわずかな時間。
買うもの買って最短時間で戻ってきたとして、おおよそ10~15分といったところ。
のんびりもしていられない、急がないとね! ――まずは机から。ガラッ。
机の中にはノートや筆記用具、あとはこまごました小物類とコミック本一冊だけ。

体を九の字に曲げ、奥の方まですみずみ見たがメルルちゃんはいない。くそっハズレか。
本棚もザッと見たが無さそうだ。もしかしてあたしが探しに来ることを考えて隠してんのかも? チッ、ウザッ!
次はベッド、布団をめくって見るが無い。枕の下も確認したがそこにも無い。
敷布団の下――やはり無い。
「むぅ~、どこに隠したのよ。アイツ」
あせるな。まだ時間はたっぷりある。落ち着け。
フーッと息を吐き出してベッドを見下ろしていると、床とベッドの間にスペースがあることに気が付いた。
これは……、怪しい。四つん這いになってベッドの下を覗いてみる。
はたして……、あきらかに怪しいダンボール箱がそこに鎮座していた。
――この中かもしれない。
もしメルルちゃんが見つからなくても、このダンボール箱の中にはアイツの見られたくない『何か』が入っている予感がする。もしかしたら良い取引材料になるかも。
いやいや、メルルちゃんを救出すれば今後こちらが一方的に優位にも立つことが出来るアイテムだ。
フフン、覚えてなさいよあのバカ。このあたしをここまで苦しめたツケは万っ倍にして返してやるんだからね。
しかし、嬉々としてダンボール箱に手を伸ばしてメルルちゃん救出ミッションに夢中になっていたあたしは、すぐそこに迫っている存在に気付くことが無く――、

ギィッ!
「………………………………………おい…………何やってんだ?」
「……っ……!?」
心臓が止まるかと思った。
な、ななななななんで!? 嘘でしょ? どうしてコイツがここにいるワケ?
四つん這いのままでこわごわ振り向くと、そこにはまぎれもないアイツが目を見開いてこっちを見ていた。相変わらず冴えない顔。
なんで、こ、こんな早く戻ってきてんのよぉ!
「……何やってんだ? って聞いたんだが?」
「………………なんだって、いいでしょ」
とっさに言い訳を考えようとしたが、狼狽して何も思いつかない。結局なんとか吐き出せたセリフはただの返答拒否。
「……よくねえだろ? 人の部屋に勝手に入って、家捜しして……おまえが同じことされたら、どう思うよ?」
あたしの方を見て冷静に突っ込みをいれてくる。
………グ。言ってることが正しいだけに反論する単語一つさえ浮かんでこない。
「………………」
くやしさと、後ろめたい行動の羞恥で顔が熱くなっていく。
――今になって気付いた。コイツ、コンビニ行くって言ったの嘘だったんだ。
ちょっと考えれば分かりそうなものじゃん。何かんたんに引っかかってんのよあたし。
「どいて」
あたしは立ち上がると部屋の出口に陣取っているコイツを精一杯にらんで言ってやった。
ムカついてムカついて、何か言い返したかったが、それよりも1秒だってここには居たくなくなかったし、1秒だってイヤな気持ちを味わいたくなかった。
「やだね。俺の質問に答えろよ。――ここで何やってたんだ?」
ビビって体をどけるかと思ったけど、コイツから返ってきたのは容赦ない追撃の言葉だった。
くそっ! 中学の男子たちならたいてい目を合わせるだけでキョどって道を譲るのに!
「どいて!」
もう一度語気を強めて言い放つ。
「……分かってんだよ。おまえが探してるのはコレだろう?」
「それ……!?」
「おっと」
コイツが手に持ってたのは――あたしのメルルちゃん!?
メルルちゃん! とっさに手を伸ばしたが、一瞬早く手を引かれ空しく空を切った。


「ふーん。やっぱコレ、おまえのだったんだな?」
ケースをトントンと叩きながら聞いてくる。
「……そんなわけないでしょ」
……くっ。無駄かもしれないが否定してみる。
「違うのか? これ、夕方玄関で拾ったんだが。俺とぶつかったときに、おまえが落としたんじゃねえの?」
質問口調だが、もう確信を得ているんだろう。畳み掛けるように聞いてきた。
「絶対違う。……あたしのじゃない。そ、……そんな……子供っぽいアニメなんか……あたしが見るわけない……でしょ」
「コレを探してたんじゃないなら、じゃあおまえ、俺の部屋で何やってたんだよ?」
認める言葉を吐かないあたしにラチがあかないと見たのか、ため息一つ吐いて今度は部屋へ無断で入った件について聞いてきた。
「……それは……それは!」
「それは? なんだよ?」
当然答えられるわけ無い。あたしがコイツの部屋に入ったのはメルルちゃんを見つけるためであってそれ以外にコイツの部屋に入ることなんて絶対にないからだ。ましてベッドの下を探るなんてあり得ない。コイツもそれが分かったうえで聞いてきてるハズ。
「………………………………」
何か言い返したいけど一呼吸分の言葉さえ浮かんで来ない。
それはあたしの――とても大好きな、とても大事なものだ! さっさと返せって叫びたい気持ちと、でもバカにされたくない蔑まれたくないって気持ちがせめぎあってあたしは押し黙って体を震わせるだけだった。
言いたいことはたくさんある気がするのに……。
――なんでこんなイヤな思いしなきゃ……なんない……のよ。
ふいに悲しい気持ちが強くなってきた。
ただ、あたしは好きなものを…好きなことを……してたいだけなのに………!
あんまり褒められたような趣味じゃないってのは分かってるけど。
だってっ……、それでもっ……、あたしは、あたしはコレが楽しいんだもん、好きだもん!
コイツもコイツだ、そんなに妹いじめて楽しいの?
あたしのこと無関心で見もしない。あたしが陸上で頑張ろうが勉強で良い成績取ろうが、流行のファッション取り入れて綺麗になろうが全然見てくれない……。
ようやく、話したかと思えばコレだ。
子供の頃はまだコイツは兄貴であたしは妹で、兄妹できてたと思う……。
いつの間にかこうなってしまった関係。どっちのせいなんてのも、もう分かりはしない。
なんでよ、どうして? どうしてこんな……。そんなにあたしのこと――なの?
「……………っ……………」
気付いたらコイツの顔をずっと真正面からニラみ続けていた。秘密を知られた恥ずかしさからか悔しさからか、悲しさなのか――それとももっと別の『何か』なのか…。
よく分かんないよ、そんなの………………。

――あたしが黙ってニラんでると、ふいに胸にメルルちゃんが押しつけられた。
「ほらよ。 大事なもんなんだろ? 返すから、ちゃんと受け取れ」
「だ、だから、あたしのじゃ……」
もうどう考えてもバレてるのは分かりきっているのにとっさに否定してしまう。
だが、そんなあたしの言葉をさえぎってコイツはこんなことを言った。
「じゃあ代わりに捨てといてくれ」


「は?」
一瞬――何を言われたのか分からず素で聞き返してた。
「悪かったな、俺の勘違いだった。コレがおまえのもんじゃないってのは、よく分かったよ。誰のなんだかしらないが、俺が持っててもしょうがねえ。謝りついでに頼むわ。コレ、おまえが捨てといてくれねえかな、俺の代わりに」
そう言うと、部屋の出口を空けてくれた。
言葉の意味がメルルちゃんのことも、部屋に勝手に入ったことも、忘れてやるって意味だとはすぐに理解出来たけど……。
えっと、見逃して……くれん…の? 何で?
「………………ん……ベ、別に……いいけどさ」
それだけ言うとあたしは部屋を出た。入れ替わりにコイツは部屋へ入っていく。
よく分からない。さっきまであたしのこと追い詰めるように詰問してたのに?
でも、コイツの言葉があたしを一瞬で楽にしてくれたのは確かだった。
メルルちゃん――。あたしのとても好きなもの、大事なもの――。分かってくれ…た?
あたしのこと――考えてくれた……?
「……ね、ねえ?…………やっぱ。……おかしいと、思う?」
無意識のうちにあたしは振り返ってこっちから話しかけていた。
「なにが?」
「だから…‥その、あくまで例えばの話。……こ、こういうの。あたしが持ってたら……おかしいかって聞いてんのっ……」

祈るような思いで答えを待つ。

「別に? おかしくないんじゃねえ?」
「……そう、思う? ………………ほんとに?」
「ああ。おまえがどんな趣味持ってようが、俺は絶対バカにしたりしねえよ」
「ほんとにほんと?」
「しつけえな、本当だって。信じろよ」
「…………そっか。……ふぅん」
そっか。ふ~ん……、そうなんだ……。
趣味のこと……、あたしのこと……、バカになんか…しないん……だ。

おかしくない――
俺は絶対バカにはしない――

部屋へ戻っても『兄貴』の言ってくれた言葉が頭の中を何度もリフレインしていた。






タグ:

高坂 桐乃
+ タグ編集
  • タグ:
  • 高坂 桐乃
最終更新:2010年07月30日 23:08
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。