桐乃のリビドーが有頂天でとどまるところを知らない
俺は寝る前に洗面所で歯を磨いていた。
もう風呂も入ってたし、勉強も一区切りついたんで後は何もやることはない。
桐乃から借りたエロゲーは――また今度だな。あとはベッドに入って寝るだけってなもんだ。
ゴシャゴシャゴシャゴシャ、ガラガラガラガラ、ペッ。
「ふぅ。さーてと寝るか」
歯磨きを終えて洗面所のドアに手をかけガラッと開けると、
「うおっ!」
俺はびっくりして思わず驚きの声をあげた。
目の前に桐乃のやつがいたからだ。
「なに驚いてんの? キモ」
「いや、いきなりお前が目の前に現れたからだろ」
「なにそれ、あたしのせいだって言うの? いいからどいてよ、あたしも歯磨くんだから」
「へ~へ~悪かったな」
チッと心の中で舌打ちしつつも、俺はわきへどいて道を空けてやった。
スッと桐乃が洗面所に入っていく。
俺が入れ替わりに出て行こうとすると、桐乃のやつが後ろからまた憎まれ口を叩きやがった。
「なにこっち見てんのよ。ウザ」
「いや、お前が入ってくるのを見てただけじゃねーかよ」
「やっぱ見てたんじゃん」
「だーから、道開けたんだから早く入ってくれと思っただけだよ」
「フン、どーだか」
かっわいくねーな。ちょーっと目が合っただけじゃねえかよ、ったく。
俺はさっさと自分の部屋に戻ることにした。
部屋へ戻り、電気を消してベッドに横になる。
ふぁ~あ。
ベッドに入って目をつむるがすぐには眠気は来ない。
眠りに落ちるまでの時間、俺はあることについて思いを巡らしていた。
他でもない、今さっきも俺に『キモ』って言ってきやがった桐乃のことでだ。
なんっかな~。最近どうも落ち着かんのよ。
いや、なにが落ち着かねえって言われてもあれなんだけどさ。
実はここんところ、妙に桐乃と目が合うんだよ。さっきのだってそうだ。
同じ家にいるから当たり前だって? そりゃあそうだろうけどさ、いっしょに住んでいるからといっても限度ってやつがあるだろ。
リビングとか同じ部屋にいたって、いちいち相手の方を見てなんかいない。
親父とお袋だってお互いTVを見ながら喋ってたりするし、俺もそんな感じだ。
例えば廊下ですれ違うときだって、一瞥くらいはするがそれだけだ。
目が合うつっても一秒にも満たねえだろ?
いちいち目と目を付き合わせるってことはないわけよ。
なのに、桐乃とはどうしてか、しょっちゅう目が合う。
家に帰ってきたとき、出かけるとき、廊下をすれ違うときや、リビングに茶を飲みに来たとき、果てはトイレから出たらバッタリなんてのもある。
気付いたら俺の視界には桐乃のやつがいるんだ。
んで目が合うと「チッ。こっち見んな。ウザ」だの「なに見てんの。キモ」だの罵声の言葉を浴びせてくるわけよ。
なんなんだいったい。俺が悪いのか? 違うだろ。ただ目が合ったダケじゃねーかよ。
もう俺の妹わけ分からねえわ。
アメリカから帰ってきて、なーんか関係が変わるかなと思ってたら、あいつの態度はまるで変わらんしさぁ。
まぁ無視されなくなってきてるってのはあるが、それはあいつが留学する前からそんな感じだった。
俺にしてみれば、妹連れ帰りにアメリカまで行ったのはけっこう大きな出来事だったってのに、拍子抜けっていうか肩透かしくらったっていうか。
あ、念のため言っておくが、俺はシスコンじゃあねえからな。
勘違いすんなよそこ。
そういや
麻奈美のやつも変なこと言ってやがったけど、俺は別に妹と仲良くなりてーだの期待してないんだっつの、ケッ。
まぁ、その、なんだ?
アメリカでの出来事があって俺としちゃけっこう妹のことを意識してる、なのに桐乃のやつは態度が変わらず平然としてる。
そんなんでモヤモヤしてるとこに当の本人としょっちゅう視線がぶつかってることに気付いたもんだから居心地悪いっていうか、落ち着かないんだわ。
…………………………。
――もしかすっと、俺が意識しちまったから、初めて気が付いたっつうことなのかなこれって。
本当はずっと前から、俺の視線の先には桐乃がいて、桐乃の視線の先には俺がいたのかも知れないのか?
いや、よく分かんねえケドさ。
へっ。つまんねぇこと考えちまったぜ、考えたところで分かるわけねえのにな。
さて寝るか――と思ったらなんかノド渇いてきた。
もう部屋の電気も消して寝る体勢万全だが……、ん~、ちょっくら麦茶でも飲んでくるかな。
そう思い立ち、「よっこらしょ」とベッドから起き上がると、俺は再び一階へ下りていった。
兄貴が去っていった後、あたしは洗面台の前で静かに兄貴が去っていく音に耳をすませていた。
トントンと階段を上がっていく音と、小さくバタンと扉が閉まる音。
どうやら自分の部屋に戻ったみたい。
よし、これで安心して歯磨き出来る。
あたしは洗面台の前に立ち、コップに水を入れ、『兄貴のハブラシ』を手にとって、歯磨き粉をつけた。
「ヘ、ヘヘヘ。兄貴が使ったばっかのハブラシ。あたし使っちゃうよ? み、磨いちゃうよ?」
プルプルとハブラシを口の中へ運んでいき歯にこすりつける。
「はふひゅぅ。ふぇ、ふぇへへ~。兄貴のハブラシが、あたしの歯をこしゅってる」
少し震えるカラダをもう片方の手で押さえつけてゴシュゴシュと歯を磨いていく。
「はぁはぁ。あ、あにきぃ、もっと、もっと激しくこすってぇ! 磨いてぇぇ! あたしの歯、ピカピカにしてよねぇ。
あたしゅ…グシュグシュ……んぁ、モデりゅなんだから…クチュ、クチュクチュ、綺麗にしとかないと、ゴシゴシ……いけないんりゃからね」
ハブラシが歯を、歯茎を、こすり付けるたびに快感で鳥肌がたちそうになってくる。
「兄貴の唾液、まだ少し残ってるかな。だ、唾液交換してんだよねこれ? か、間接キッスだよねこれっ? あっ、んあああ。ひゃ、ひゃにきと間接きしゅぅぅ!」
ゴシゴシゴシゴシ、グシュグシュグシュ、クチュクチュ。
歯磨きする行為自体に気持ちよくなるわけじゃないけど、あたしは兄貴に口の中を自由にされている妄想でいっぱいだった。
ハブラシはいわば、兄貴の舌の、手の、………チ、チ○ポの代わり。
そう考えるとあたしはカラダがカーッと熱くなって、歯磨きひとつでもこんなに気持ちよくなれるんだよね。
「しゅ、しゅごい、あたしの口の中、兄貴の(ハブラシ)で、兄貴ので犯されちゃてる。あたしの歯も全部、全部兄貴に陵辱されちゃてるよぉ。はぁ、グチュ……、ゴシゴシ、チュピチュピ…。もっと、もっと沢山あたしの口犯しゅの?
ふぇ、ふぇんたいひゃにきぃ。でも、し、しょうがないからガマンしてもいいよ、奥まで変態兄貴のものに……し、していいんだからね?」
あう~たまんないよぉ。
やっぱ兄貴が歯を磨いてたのを覗いてて正解だったなぁ。
「んんぁ、シュコシュコシュコ、あはぁ、裏側も丁寧に磨かなきゃ。あん、うにゅう……、コシュコシュ、んぇ…ああっ、いっ、いい、裏側いい、裏側気持ちいい! 気持ちいいよあにきぃぃ! 歯茎に兄貴のが当たって気持ちいいよぉぉ。
もっともっと気持ちよくして、ね、ねぇ兄貴? カシュカシュ……ひゃ、ぅふっ、あっ、んっんっ……んご、う…うっうえぇ」
あう、夢中になっておもわずハブラシをノドの奥につっこみすぎちゃった。
「うぅ、はぁ……はぁ。兄貴のばか、奥までっていったってノドとか無理に決まってんじゃぁん。それともなに? 兄貴は奥まで突っ込みたいの? あたしのノドも犯したいの? べ、別にいいけど。
今はまだムリだけどちゃんと出来るようにしとくから、兄貴の突っ込まれてあたしの口を好きなようにされても気持ちよくなるように練習しとくから今はガマンしてよね?
だからもっと、ん、んぇあ~、ぅあ……、んむ。もっと優しくあたしの中いっぱい気持ちよくしなさいよねぇ」
クシュクシュクシュクシュ、ゴシゴシゴシゴシ。
あぁ、なんでこんな気持ちいんだろ、我ながらおかしな性癖。
でも――、
「でも止められないんだもん。ゃあ、あっ、あん。兄貴の、兄貴のこと考えるだけで、あたし変になるにょおお。くちゅくちゅくちゅくちゅ、あっ、あっ、ああっ。はぁ……、たまんないよぉ。
エヘ、エヘヘヘ。ん……、あ…はぁ~。あらしのくちゅろらか、白いのいっぱぁい。あにひのしぇいえきも、こんなしゅろいのかなぁ。あ、ああっ、んんんっ!
やぁ、そ、想像しちゃっらじゃん。兄貴の、兄貴の精液ぃぃ精液欲しいよぉぉぉ、口いっぱいに、この歯磨き粉みたいにたくさん、たっくさん欲しいのぉぉ!」
もうずいぶん口の中は歯磨き粉の泡だらけになっていた。
このままゴクンて飲み下したいけど……、さすがにそれはガマンした。
だってこれ兄貴のじゃないもん。
それにもう十分近く磨いている。さすがに磨き過ぎかな。
「ん、んぇぇ。ああ、んあ~。あは、兄貴のいっぱい」
口の中にたまった白濁液を舌に乗せて洗面台に垂れ流す。
兄貴のものだって想像すると、この汚濁も全然平気に思えてくるから不思議だよね。
兄貴はやっぱり飲んで欲しいのかな? あたしは~、飲んでみたいな。
苦いとかって聞くけど、ググってみたら甘いとか美味しいって言っている人もいた。
兄貴のならどんな味でも嬉しいけど――、甘かったら良いな。
そんなことを考えながら、コップの水を含んで口内に残ったものもすすぐ。
ガラガラガラ、ペッ。
ついでに顔も洗ってからタオルで拭いたあと、ニ~ッと口角を上げて綺麗になった歯を洗面台の鏡で確認した。
「うん、良し。今日もちゃんとあたし綺麗に磨けた」
ふぅ~う。にしても――
「アメリカから戻ってきてから、あたしすっごい変だよね」
鏡に映る自分に向かって問いかけた。
理由はもう分かっている。
アメリカまで来てくれた兄貴のことが、すごい嬉しくてたまんないんだ。
いつの頃からか、あたしは兄貴のことを『そーゆー目』で見てたけど(はっきり気付いたのはここ一年でのことだけど)、兄貴がアメリカに来てくれて、いっしょに日本へ帰ってきてからは、それが特に顕著だ。
兄貴のことが気になって気になって気になって仕方無い。
気付いたら兄貴のこと考えてて、気付いたら目で追ってて、家にいるときなんかは兄貴の行動に逐一耳を立てている。
今みたいなコトも段々とエスカレートしてってる気がする。
でもアメリカから帰ってきて、兄貴との関係がなーんか変わるかなと思ってたけど、兄貴の方は相変わらずみたい。
おかげであたしもどんな態度とっていいか分かんなくて、なんかモヤモヤして気分が落ち着かないんだよね。
ただ、最近よく兄貴とは目が合う。超嬉しい。
今まではなんか一瞥されるだけって感じだったのが、今ははっきりと目が合ってるってのが分かる。
嬉しくてキモって言ってあげてるのに、すーぐどっか行っちゃうんだけどね。
「兄貴のば~か。はぁ~あ、寝よ寝よ」
あたしは洗面所からガラリと扉を開けて廊下に出た。
と、上の方からバタンと音がした。そしてトントントンと階段を下りてくる音。
え、兄貴? 寝たんじゃないの? まさかさっきの聞かれた!?
あたしの気持ちに気付いて、これからあたしを犯しちゃうの? ワクワク。
……いやいや。それはないか。
なんだろうと思いつつもあたしも階段へ向かって歩いていった。
ちょうど階段の真下で兄貴と目が合う。あたしがいるのに気が付いたみたい。
「なに? あんた寝たんじゃなかったの?」
「ちょっと麦茶飲みに来ただけだよ、お前もう寝んだろ」
兄貴はそう言うと、階段から下りてあたしのわきを通ってリビングへ入っていった。
なんだ、ちょっと期待したのに損した。バカ兄貴。
心の中で悪態をつきながら、あたしは『リビング』へ入っていった。
最終更新:2010年08月01日 21:45