俺と妹の近親相姦は文学 02



口淫の上、お互いに夜這いウェルカムと受け取れる発言をしてしまって以来、
当然のことながら高坂兄妹の関係はふたたびギクシャクしはじめた。
以前の不仲と異なるのは、他に人間がいる状況ではともすれば今まで以上に親密なのに、
二人っきりになると、途端に相手の出方をうかがいあってバトル漫画の対面状態になってしまうことだ。
冷戦状態というよりは開戦前夜といった方が近い。
そして、開戦すれば破滅を避けられないことは、火を見るより明らかなのであった。

それでも、きたる日に備えずにいられないのが人の悲しいさが。
兄から見て桐乃の入浴時間ははっきりと伸びていた。
そんなことを気にしてしまう京介の入浴時間もまた、統計学的に有意な増加を示していることを
妹に秒単位で把握されていた。
二人の風呂がそろって長引いたものだから――家でゆっくりできる数少ない場所という理由もある――
高坂母などは「あんたたち二人で入れば?」などと冗談めかして言ったものだ。
これに過剰反応した京介は「それ、絶対桐乃に言うなよ!!」と赤くなって叫んでしまった。
「言わないわよ~」と手を振る何も知らない母がうらめしい。
ちょっといいかもと思ってしまった自分はもっとうらめしい……。


また、ふとしたきっかけで妹にムラムラしてしまわないように、京介は性欲処理をマメにするようになった。
問題はどんなオカズを使っていても、最終的には桐乃の顔を思い出し、フィニッシュしてしまうことだ。
妹への欲情を避けるための行為が、妹への劣情を高めていく。
絶望的なループに囚われた兄は、おもむろに雑誌を手に取り――

わずか数日で、ファッション誌にボールペンで眼鏡を描き込む技術に習熟し、
世界選手権があろうものなら出場資格を有する域に達した!

今日も親父の秘蔵コレクションを持ちだし、保存用と観賞用と眼鏡描き込み用とラミネート加工用の4枚を
写真画質でカラーコピーしたいわくつきのヘビーローテーション品を厳重にしまい込み、呟く。
「アハッ☆……死ねよ、俺」
射精後の無気力と罪悪感がからみ合い、酷く憂鬱な気分だった。
(俺がテクノブレイクで死んだら、即部屋が全焼するピタゴラスイッチを作っておきてぇ……!)
ちなみに夜神月がデスノートを隠した仕掛けは既に試作済みである。
奇遇なことに新世界の神も、父親が警察官なのであった。


こうして長い夜が来る。
あの時、桐乃は部屋の鍵をかけないと兄を夜這いに誘うようなことを言った。
京介は京介で不用意にも、自分の部屋に鍵はないと、意味深に受け取れる発言をしてしまった。
おかげで親が寝静まる時間になると、今にも禁断の扉が開かれるのではないかと気が気ではない。
結果は深刻な睡眠不足。これは桐乃も同じで、最近は学校で寝ているらしい。
あやせから掛かってきた相談の電話には、新しいゲームにハマっていると答えておいたが……
そろそろ気力が限界だった。
気力が尽きれば理性も飛んで、とんでもないところで妹に襲いかかってしまう可能性さえある。

そうなる前にいっそ――そんなことしていいわけがない――だが……

京介の意識は堂々巡りする。この壁の向こうで妹も同じように悩んでいるのだろうか?
妹をふるという最も賢明で議論の必要すらないはずの選択肢をなぜか選べない苦しみを抱えたまま、
なんとかしてやりたいと切実に思った。

やがて京介は疲労困憊した頭で、ひとつの解決策をひねり出した、つもりになった
(いける。これなら確実にいけるぞ!)
目が血走っている。
思いついたままの勢いで、ろくに検討もせず実行に移してしまうのが、寝不足テンションの怖いところ。
枕を持つと、自分の部屋を出る。
人が1階に水を飲みに行く音がやたら大きく響くようになった廊下を桐乃の部屋へ向かった。
ノックをしてドアノブを回すと……

ガチャリ

鍵は本当に掛かっていなかった!もうずいぶんと遅い時間なのに光が廊下にさっと走る。
「桐乃、起きてるか?」
目をすがめながら入室する。寝不足に痛めた目にピンクがきつい。
妹は何をするでもなくぼんやりとベッドに腰掛けていた。弱々しく身構える。
「なに……?」
京介は後ろ手にドアを閉め、鍵を掛けた。その音に桐乃の肩がびくんと震え、瞳が揺れる。
少し前までこれは趣味の話をするために必要なごく普通の手続きだったというのに……。

皆の前では太陽のごとく生気を周囲に発散している妹がみせる儚げなパジャマ姿。
当初の目的を忘れそうになるのを必死でこらえながら兄は切り出した。小脇に抱えた枕を持ちなおす。
「頼みがあるんだが……この部屋で寝かせてくれないか?」
「?」
微妙なニュアンスを感じとって、桐乃は髪を揺らした。透き通った目で先をうながす。
何を求められても受け容れる覚悟ができていることを、その目は物語っていた。
動揺を押し殺し「俺ってシスコンだからさ」と極力軽めに前置きして京介は述べた。
「アレ以来、お前の動きが気になって眠れなくてしかたねえんだ。
 だからいっそ、この部屋でお前の動きを見守りながら寝た方が休めるかと思って……」
自分で口にしているうちに、無茶苦茶な構想だったことに気付く。
思いついたときは我ながら名案だと感じていたのは一体なんだったのか。
もはや、憧れの子を前にしてしどろもどろになっている中学生の気分だった。
だが、ここで口をつぐむわけにもいかない。
「手足を縛って転がしてくれてもいいからさ――」
「なにそれ?キモ!どんだけドMなの?」
いきなり投げかけられたいつもの調子に、だんだん下がりめになっていた京介の目線が跳ね上がる。
言葉の刺々しさとは裏腹に桐乃の顔は笑っていた。
しょうがないわね、とアメリカ帰りのオーバーアクションで肩をすくめる。
「いいわよ、あたしの部屋で寝てっても……」


「電気消すぞ」
「うん……」
「………………」
「キモ」
「心を読むな!」

本当は心を読んだのではなく、まったく同じことを考えてしまったのであった。
彼女の辛辣な言葉は、兄に対して妖しい感情を抱く、自分にも向けられていた。
そうとは知らず京介は床に枕を放る。敷物のおかげで、そこそこ寝やすそうだった。
さあ寝転がろうかとしゃがみかけた彼に、少女は意を決して声を掛ける。
「ねぇ、兄貴」
「うん?」
「お、おやすみのキスをして……」
妹は消え入りそうな声でねだった。
ベッドに誘われるかと身構えた京介は、なーんだキスかアメリカ帰りめ、と拍子抜けしたあとに衝撃を受ける。
今そんなことをしたら確実にそのまま押し倒してしまう!
というか、自分の言葉に恥じらう声を聞いただけで、抱きしめたい衝動を抑えるのに必死だった。
しかし、勇気を出した女の子に恥をかかせるわけにはいかない。
「わかった……」
顔をこわばらせながら京介はベッドのシルエットに歩み寄ると、そっと手を取った。
うやうやしく甲に唇をおしあてる。細かく震える手はとてもなめらかで、しっとりしていた。
頬にほしかったのか、唇にほしかったのか、手へのキスが期待に沿うものでなかったのは間違いないが、
桐乃は不満を訴えず、ただキスされた甲を自分の口元にそっと寄せた。
その仕草に京介の血液が逆流する。
「お、おやすみっ」
あわてて首を巡らせ、床に身を投げ出す。
頭の中では、眠れぬ幼児が羊を数えるように、魔法の言葉を唱えていた。
(俺の妹がこんなに可愛いわけがない)
(俺の妹がこんなに可愛いわけがない)

チュンチュン……

まるでドラマ。窓の外、鳥の鳴き声がして、目が覚める。
時計の針が奏でる音だけが倍々ゲームで大きくなっていく部屋で、
まんじりともできない夜を過ごしていたはずなのに、いつのまにか眠りに落ちていた。
妹の動きが分かる方が休めるという自己暗示に成功したのかもしれない。
京介の身体には知らないうちに毛布が掛けられていた。
妹のものかと思い、すんすんと嗅いでみたりする。
「朝っぱらから何やってんの。キモ」
辛辣なお言葉が上から降ってきた。言い訳を考えながら、そちらに目を向けた兄は息を呑む。
軽く開いたカーテンの隙間から射し込む光を背景に、妹が上半身を起こして佇んでいた。
茶髪が朝日に透き通り、白磁の肌がきらめく。その顔に微笑みが浮かんだ。

「おはよ」

――もう認めるしかない。


高坂京介は妹に恋をしている。





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最終更新:2010年10月22日 22:02
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