『なに?』
あれ、出た。
「おまえさ、俺のことどれくらい好き?」
『はあ? なに言って……なんでそんなこと聞いてんの?』
「あ、えーと……」
説明して大丈夫だろうか?……まあチューのこと話さないなら大丈夫か。
「黒猫が『好きよ……あなたの妹が、あなたのことを好きなくらいには』なんて言うから――」
『どうしてそんな話になったの!?』
「いやさ、黒猫と俺の部屋で――」
『は、はあ!? あんた、なに妹の友達連れ込んじゃってんの!?』
「え……あ! な、なにもしてないぞ! ゲーム作りしかしてない!」
とっさにいらんこと言ってしまった。
『……………』
「……………」
それに黒猫は桐乃の親友。口ではあんなこと言っていたが、親友を取られて気分が良いはずがない。
『今夜あたしの部屋きて』
「何言って……」
なんとなくわかるがとりあえず誤魔化す。
『「俺のことどれくらい好き?」、あんたがそう質問したんでしょ。いまはもう時間がないの。じゃ』
電話が切れる。
あれ違う?……いや、そんなはずないか。この件ふくめ、ネチネチ俺をどう嫌いなのかを話すつもりなのだろう……
その日の夜、俺は桐乃の部屋の前に立っていた。
はあ、気が重い……俺から質問した以上逃げるわけにもいかんし……ホント軽い気持ちで質問するんじゃなかったよ……
俺はいますぐ布団にもぐり込みたい衝動を抑え、扉をノックすると、
「来たわね」
待ち構えていたんじゃないかという速さで桐乃が顔を出す。
その桐乃の顔が不機嫌なもんだから非常に帰りたくなるわけだが、そうは問屋が卸さないわけで……
「なにぼーとしてんのよ。さっさと入れば?」
はあ、いい加減覚悟を決めるか……
「で、俺は何を聞けば良いんだ?」
部屋に入りつつたずねる。
「は、はあ? だからあんたのことをどれだけ好きか話すのよ。これを見て」
そう言って顔を背けた桐乃が投げ寄こしたのは……アルバム? そういえばコレクション最奥のアルバムがこれだったような……
「もしかしてこれ……向こうに行く前に見せようとしたやつじゃないだろうな……?」
「あれよ。こ、今回は絶対見てもらうから」
この暗黒物質を見るのか……? だがちょっと待て。コレクションには陸上を始めた理由なんて真っ当なものもあったじゃないか。これもそんな真っ当なアイテムかも……
俺はそう祈りながらゆっくりとアルバムを開くと――
「俺の写真?」
そう俺の写真。泣いたり笑ったりしてる……本当にただの俺の写真。
「どういう意味だ……?」
ここに来てようやく桐乃の異様な雰囲気に気づいた。
「分かんないの? なんでこれをあんたに見せたか思い出しなさいよ。分かるでしょ?」
『あんたのことをどれだけ好きか話すのよ』
……嫌いな人間の写真を後生大事に保管するはずがない。
「あのときみたいにからかってるのか……?」
「からかってない! あ、あのときだってからかってなかった! でも、やっぱり怖くなって……!」
どういうことだよ……桐乃が俺のことを好き……? 本当に?
「諦めようとしたんだよ!? 兄妹でこんな気持ちになるのはおかしいのはわかってるから……! だからあんたから離れようとアメリカに行ったのに……!」
桐乃は完全に感情が振り切れていた。
「それなのにあんた……あんなメール1本で飛んできてくれるんだもんっ! しかもあんなこと言われたんじゃ諦められなくなっちゃうよ……!」
「でも……でもまだ兄妹の関係で我慢しようとしてたのに……! それなのに! それなのにあんたは『俺のことどれくらい好き』ィ!? あんたこそあたしをからかってるんじゃないのっ!?」
叫んでる内に涙をぼろぼろ流し、俺を至近距離で睨み付ける。
「……………」
「……………」
桐乃が泣いている……俺の不用意な一言があいつを追い詰めてしまった……
だがどうすれば良い? 気持ちを受け入れる? そんなことあの親父が許すはずがない……
いや、そんなのはどうでも良いことじゃないか? 俺の大切な桐乃が泣いているんだ。そんな些末事を気にする必要なんてないんじゃないか?
「ごめんな……ごめんな……」
桐乃を抱きしめまず謝る、そして―― 60行到達につき強制終了w
最終更新:2010年11月15日 22:36