「おにいちゃん待って~」「や~だよ!悔しかったら追い付いてみろ!」
あたしの横をそれ程歳の離れていない兄妹が駆けていく。その光景に、あいつはもう忘れたであろう、けどあたしには忘れられない記憶が甦った。
小学校に入ってから、兄貴はあまり遊んでくれなくなった。
あたしはいつも玄関で兄貴が帰ってくるのを、お昼寝も我慢して待っていた。
けれど兄貴は帰ってくると、ランドセルを放り出しすぐに飛び出していってしまう。
今考えれば、兄貴は小学校でできた新しい友達と遊ぶのが楽しくて仕方なかったのだろう。同い年の子なら話も合うだろうし、まだ小さいあたしと一緒だとできない遊びもできたんだろう。
けど幼いあたしはそんな事が分かるはずもなく、一緒について行こうとしていた。けれど小学生の足に追いつけるはずもなく、いつも置いていかれていた。
その日も兄貴は、いつもの様にランドセルを置くと外に飛び出していった。あたしは一生懸命に後を追いながら叫んだ。
「待ってよお兄ちゃん!きりのも連れていって~!」
「桐乃は足遅いからダメ~!待ち合わせビリの奴が罰ゲーなんだから、桐乃を連れていったら俺が罰ゲーになっちゃうだろ!」
そう言って兄貴はあっという間にいなくなってしまった。
それでもあたしは必死に後を追い掛ける。小さくなった兄貴が角を曲がり姿が見えなくなった。一生懸命走って角を曲がった時には、兄貴の姿はどこにも見あたらなかった。
それでも兄貴を見つけようと走り回っているうちにあたしは………迷子になった。
家に帰ろうにもどっちに行けばいいのか見当もつかない。うろうろとしてる内に、気がつけば夕方になっていた。
歩き疲れたのと心細さで、あたしはその場に座り込んでしまった。
もうこのままお家に帰れないのかな…お父さんお母さん…
「お兄ちゃん……」
「なんだよ」
その声に顔を上げると兄貴がいた。肩で息をしてムスッとした顔で見下ろしていた。そしてボソッと言った。
「帰るぞ」
あたしは兄貴におんぶされて家に帰った。おんぶされてる間、ホッとしたのとうれしかったのとかのがごちゃまぜになって、ずっと泣いてた。
「お前なぁ…そんなに泣いたらただですらブスな顔が余計ブスになるだろ。いい加減泣き止めよ」
「あ~あお前のせいで電人ザボーガーの再放送見逃しちゃったよ」
家に帰る途中兄貴は前を向いたままブツブツと文句を言っていた。
兄貴は結局一度降りろとか自分の足で歩けと言わず、あたしは背負われたまま帰宅した。
ねぇ兄貴。あたし今じゃモデルやれるくらい可愛くなったし、足も速くなったよ?
後は何すればもっと一緒にいられるのかな…
終
最終更新:2010年11月17日 22:41