「どーですか京介氏!この清々しい空気!ん~たまりませんなぁ」
いつもにもまして沙織の声がでかい。ここは俺たちの街から電車で1時間ほどの
とある山中。俺、桐乃、黒猫、沙織の4人で、夏の最後の思い出にと泊りがけの
バーベキューに来ていると言う訳だ。
そして沙織にも増して上機嫌の桐乃。黒猫はというと、珍しく涼しげなゴスロリ衣装。
日焼けを気にしてるのか、薄っすらとしたケープを羽織ってる。
「今日は最高のバーベキュー日和だよね!ちょっと、あんたももう少し楽しそうにしたらぁ?」
ん、そーだな、俺の感想はというとだな…
「暑い!キツイ!重い!」
つーか、なんで荷物の殆どを俺が持ってんだよ!おまえらも少しは手伝えッつーの!
あ、沙織は少しは荷物持ってくれてるけどな。
「ダラダラな生活してるから、すぐにヘタばるのよ!少しは反省すればぁ?」
桐野が小馬鹿にした口調で俺を見やる。
うるせー!おまえが持ってるのは、さっき駅で買ったご当地キャラの彦ギャンの
キーホルダーだけだろ!
「まぁまぁ、京介氏。あと少しですから頑張るのですぞー!」
「兄貴、じゃあこれもってあげる。感謝しなさいよね!」
それ、おめーのカバンだろ!あ、でも少しは軽くなった。
…って、もう、着いたけどな。
俺は荷物を降ろすと、ぐるっと周りを見回す。
このキャンプ場は、駅から結構離れている上、バスも通っていない。
そのため、この季節でもあまり混むこともなく、ちょっとした穴場だ。
その分、かなり歩かされるがな…。
休む間もなく、沙織がガサガサと荷物を広げ、バーベキューの準備を始めた。
全くそのスタミナはどこから来るのやら。オタクの行動力ってすげーな。
「なんか手伝うか?」
「いや、京介氏は少し休んでいて下され。」
「そうか、わりーな。」
ふと黒猫を見ると、洗った野菜たちをなれた手つきで刻んでる。
そういや、こいつは自分の弁当を自分で作ってるって言っていたな。
普段はあんな毒舌女だが、こういう家庭的な姿が妙にさまになってるな。ゴスロリだけど。
「なに黒猫みてニヤニヤしてんだ、このド変態が!」
「痛て!ったく、なんだよ!俺は黒猫の慣れた手つきに感心してただけだよ!」
俺がそう言うと、黒猫は「こ、こんなの大したことはないわ」と照れ隠しにそっぽを向く。
いや、おまえ野菜切ってるのを忘れんなよ。指まで切るぞ。
「わたしだって、これぐらいできんだからね!」
そういって、桐乃は無謀にも玉ねぎに手をかける。黒猫の毒のきいた助言を聞きつつ、
涙目になりながら玉ねぎと格闘する妹をみて、俺はなんか微笑ましくなって笑った。
「ふぅ、食ったな」
バーベキューもひと段落し、ちょっとしたまどろみタイム。
河のせせらぎと、わずかに感じるそよ風が心地よい。
「ちょっとあんた全然食ってないじゃん!」
桐乃が黒猫に声をかける。
「私はそんなに食べなくても生きていけるの。あなたたちの種族と一緒にしないで。」
「はぁ?そんなこと言ってるから、そんな貧相な体になんのよ!ほら、もっと食べなよ」
桐乃はそういって、黒猫の皿に肉とナスをじゃんじゃん盛る。
おい、おまえドサクサに紛れて嫌いなナスを片付けようとしてんな。
「いや、わたしは要らな――」
バタン
黒猫がその場に倒れる。
「お、おい!黒猫!」
驚いた3人が慌てて黒猫に駆け寄る。
「黒猫!黒猫!」
「…んっ。」
よし、意識はあるみたいだ。…だが、見るからに苦しそうな息をしている。
「京介氏!黒猫氏をバンガローまで運んでくだされ!」
「よし分かった!」
俺は黒猫を抱え込み、バンガローまで必死に走った。
…軽い。
こんな華奢な体で、あの真夏の太陽の下に何時間もいたら、そりゃ倒れるよな。。
バンガローに着くと、俺たちは黒猫を布団に寝かせ、顔をのぞき込んだ。
「服を脱がさないと…」
「この痴漢!」
「痛っ―!バカ!そういう意味じゃねえよ!」
OK。おまえの突っ込みはタイミング的にばっちりだ。だが、今はそんなこと言ってる場合じゃねぇ。
見かねた沙織が「まぁまぁ」と桐乃をなだめているあいだに、黒猫の上着を脱がしていく。
「水、飲めるか?」
俺がそう問うと、黒猫が弱々しくコクンと頷く。白い肩が露になったノースリーブ状態の黒猫を
抱き寄せ、水を飲ます。
「病院に連れて行った方がいいんじゃないか?」
「…そうでござるな。」
そう言って沙織が携帯を取り出すと、黒猫がパッと目を開け「待って!」叫んだ。
「少し休んでいれば大丈夫だから。…その、迷惑かけてごめんなさい。」
「しかし…」
そう言いかけた俺を、黒猫がじっと見つめる。――そうか、黒猫はこういうキャンプみたいなものが
初めてだっていってたな。文句をいいつつも楽しみにしていたんだよな。
「…ああ、分かった」
俺は深々と頷いてやったよ。
「そうですな、少し様子をみますかな……ところで、京介氏」
「ん?」
顔を向けると、沙織のやつ妙にニヤニヤしてやがる。
「いつまで黒猫氏を抱いているつもりですかな?ん?」
ハッ!いやな予感とともに桐乃に目を向けると、そこには鬼の形相をした異形のモノがいた。
弱った黒猫の手前、攻撃できずに貯めモードに突入している。
「あ、あのさ…これ、今、黒猫から離れたらどうなっちゃんでしょうね俺?」
「ふ…ふふふ。聞きたい?」
終わったな。俺。
continue?
最終更新:2010年11月25日 00:19