「あやせ――これが私」
桐乃に無理を言って、コレクションとやらを覗かせてもらう。
「うん、桐乃が本当に好きなのか知りたいから」
うわあ。
「スカトロ*シスターズ」って、なんですかこれ!!
凄くいけない、文字通りに臭そうなパッケージにタイトル。
「桐乃……このスカトロって?」
「あっ」
途轍もない早さで釈明される。うんうん、他には……。
妹ってタイトル多いなー。
あ、奥の方に……パンツ?
でもあれって男性物のトランクスじゃ……。
幼い日の桐乃は何をやってこうなったのか想像つかない。
でもこれをあの変態京介さんに尋ねるのは……。
「桐乃……」
「何?」
私は桐乃肩を掴み、
「ちょっと仕事の事で調べ物あったんで、帰るわ。私も直ぐにはこれを認められないし……」
「そう……」
私は桐乃の家を出ると、ケータイからある人にアポを取る。
「こんばんわ」
地元の老舗田村屋を訪れる。
あの二人の事は一番
麻奈美さんが知っているでしょうね。
そう思い、アポを取った訳で。
「はーい、こんばんわ! どぞどぞ上がって上がって!」
「はい、お邪魔します」
年季のある床板を踏む音を出しながら、案内されるままに進む。
「おやま、麻奈美やその娘は初めてかね? えらくべっぴんさんじゃないか?」
「そうだけど」
「こんばんわ、すいません。夜遅くに」
麻奈美さんのお爺さんの様。湯上りだったのか、湯気が舞っている。
「いいんやー、何もないけど寛いで花のある話を。何なら――」
「お爺さん! 早く上着なさい!麻奈美の友達にみっともない姿さらすんじゃないわよ」
奥のお婆さんに怒られ、早々に退散した。
麻奈美さんの部屋。和室で畳のいい匂いがする。
「話なんですけど……」
恐る恐る早速本題に係る。夜だし、時間は余り掛けられないし。
「なあに?」
「桐乃とそのお兄さんの昔の事で」
「うん、私の知っている事でいいのかな?」
「はい。その……」
不思議そうにこちらを見る麻奈美さん。
この人ほど私はあの兄妹を知らない。
「桐乃にお兄さん……パンツ渡したりとかってしますか?」
「……」
ああ私変な娘って思われる……
「それはきょうちゃんのパンツって事?」
「はい……桐乃の部屋で見かけました……」
「そう……」
ああ、麻奈美さん悩んでいるよ。ほら頭まで叩きだした。
「っと、こんな事してちゃ、せっかく来てもらったのに失礼しちゃうね」
あ、止まった。
「まず、きょうちゃんがあげる事はまず無いと思うの。まあそれが普通でしょ?」
「はい、私もそう思います」
「桐乃ちゃんがお風呂場とかですり替えたんじゃないかな?」
「それも……あるかもしれません」
客観的に見れば見るほどそれしか浮かばない。
お兄さん大好きな桐乃だし。
でもそもそもパンツなんて。
「実は私もやった事あるの」
「へ?」
「私も持ってるの。きょうちゃんのパンツ。実は体操着も持ってるわよ」
恥ずかしそうにそんなファットマン落としてんじゃねええぇぇぇえぇえエエ。
思わず、叫びたくなってしまいますよ、麻奈美さん。
「それは、本当なのですか? 本当だとして何故?」
「きょうちゃんの匂いが好きなの」
「匂いですか?」
「うん、おとうさんとかお爺さんのとは全く違って、すんごいいい匂い」
「ははっ……」
男の人の匂いってそんな気持ちの良い物じゃ無いと思うのだけど。
「あー、年上の言う事は信じる物ですよー、今出したげる!」
「信じてます信じてますからやめて――」
「はい、どうぞ」
既に私の目の前に。嗅ぐしか無いのか……。
でもお兄さんってそんな汗の匂いしなかった気がする。
香水の匂いとかも無いけど。
仕方ない。
このしましまぱんつを。
「くんかくんか」
「……」
「くんくんくんかくんかくんかくんか」
「……どう?」
私は一息ついて、空気を吸い――
「凄く良かったです!」
「ほらーやっぱりー」
ごめんなさい、麻奈美さん。疑ってごめんなさい。
信じられない。こんな事でなんかちょっと興奮してる自分を通報したい!
「もっと新鮮なきょうちゃんずスメルを嗅ぎたくない?」
「それは――」
彼女は似合わない魔女の様な笑みをした。
そんな事は気にせず私は麻奈美さんの手を握った。
あれから一週間後の土曜、今日からお菓子づくりの手伝い。
と言っても簡単な部分を教わって後は機械的にこなすだけ。
そんな感じで夜になった。
「お疲れ様、明日が聖戦だよ!」
麻奈美さん、貴女の元気を分けてほしいです。
そう思うくらい、私の握力は薄れている。
「こんなに大変なんですね、単純作業でも」
「そうだよ!」
私は、借りている布団に潜り込む。
「あったかいです」
「うん、私も疲れたからもう布団にっと!」
麻奈美さんも隣で布団の中にごそっと入る。
明後日は祝日で、老舗田村屋のセールなので、明日昼過ぎの搬入にお兄さんが来るそうです。
夜まで一気に準備を勧める手はず。
そして、なんとか田村家の皆様があの手この手でお兄さんを一日泊める。
パンツのすり替えだが、麻奈美さんはお兄さんのパンツが何時も何処で買われるかを
佳乃さん情報で昔から掴んでおり、予め手伝い賃で買ってあるとの事だ。
麻奈美さん、貴女の用意周到さは中々の物だと思います!
最終更新:2010年11月25日 13:07