ねこシス×シス


Title:「ねこシス×シス」


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ある日の午後──

『悪いのだけれど、急に下の妹の面倒をみないといけなくなったの。だから今日は沙織と二人で遊んでちょうだい』
『え~~? さっき、沙織からも都合が悪くて行けなくなったって電話あったばかりなんだよ! ちょっと酷くない?』
『あら……そうなの。それは間が悪かったわね……』
『他人事みたいに言わないでくれる!? あたしひとりでどーしろっての?』
『おにいさんとでも遊べば?』
『あいつはなんか鼻の下伸ばして出かけた。どーせ地味子んとこでしょ……。っていうか、いても二人で遊んだりしないし!』
『よく言うわね……じゃあ、ひとりで遊びなさい。自分の家でしょ、好きなようにすればいいじゃない』
『はあ? あたし、これでも色々忙しいんだよ!? そんな中、あんたらと遊ぶために、
がんばってスケジュール調整してあげたあたしに、そんな言い方なくない!?』
『ったく……あ、あたしだって行きたいのはやまやまだけど、仕方ないでしょう……』
『えー? 声小さくて聞こえない。やまがどうしたって?』
『なんでもないわ。まあ、悪いけれどそういう事だから』
『ま、まって……まってって! つーかさ、妹ちゃんも一緒に連れてくればいいじゃん!』
『は、はあ?』
『沙織は用事でどうしようもないけど、あんたは違うんでしょ? 家だってそう遠くないんでしょ? じゃあ妹ちゃんと一緒に来なよ!』
『でもさすがにそれは……え? ちょっと待って……は? 行きたい? ……やめておいた方が……そ、そう』
『何をぶつぶつ言ってんの?』
『こっちの話よ。……それでは不本意ながら連れて行く事にするわ』
『え? マジ?』
『正直、あまり気が進まないのだけれど……。小さな子連れになるけれどいいのね?』
『もち、オッケーオッケー! やったー! ひゃほーーーい! じゃ、じゃあ待ってるから! 急いで来てよね!』
『もう既に行く気が失せて来たのだけれど……』

そんな感じで高坂家にやってきた黒猫姉妹を待っていたのは、桐乃の大歓迎だった。
……主に妹に対して。

「はじめまして。ねえさまがいつもおせわになっています」
ペコリと頭をさげる、黒猫の妹。
「こ、こ、こちらこそ! あたしは高坂桐乃! よ、よろしくね、妹ちゃん」
「はい。きりのさん、こちらこそよろしくおねがいします」
再びペコリ。その姿に大興奮の桐乃。
「やーん! な、何なの? この可愛い生物!? ほ、本当にあんたの妹! 全然、信じられないんですケド!?」
「正真正銘、私の妹よ。……っていうか、あなた気持ち悪いわよ。教育上すごく子供に見せたくない顔をしているわ」
「ささ、妹ちゃん、入って、入って! あ、すぐにジュースとお菓子用意するからね!」
「聞いちゃいないわね……」

「へー。メルル好きなんだ!」
「はい、だいすきです! きりのさんもメルルすきですか?」
「そうだよ! あたしも大好き! 同じだね!」
「おんなじです」
「じゃあさ、じゃあさ、メルルのどのシーンが好き? あたしはね──」

リビングのテレビでメルルを流しつつ、桐乃と黒猫の妹は、メルルトークに花を咲かせる。

「……精神年齢が近いもの同士、やっぱり話が合うのね」
さっきから二人で盛り上がっている妹と桐乃を横目で見ながら、
黒猫はムスっとした様子でそんな事を言った。

「精神年齢低くて悪かったわね。いいもん。妹ちゃんと仲良くできるんなら。ねー」
「わたし、きりのさんだいすきです」
「あたしも、妹ちゃん、大好きだよ!」
「…………」
楽しそうに微笑み合う二人の姿を横目で見ながら、黒猫はさらに不機嫌そうな顔になっていた。


「そうだ! 妹ちゃん、お姉ちゃんの部屋にくる? お姉ちゃんの自慢のコレクションみせてあげる!」
「ほんとうですか? みたいです!」
「おやめなさい! このバカ!」
そう言って黒猫は妹と桐乃の間に割って入り、強引に二人を引き離す。
「ちょ……! きゅ、急に、何すんのさ……。もう、痛いじゃん!」
「何するのとはこちらの台詞よ! あ、あなた、ひとの妹に、一体何を見せようとしたの……?」

ワナワナと拳を震わせる黒猫。
そんな黒猫に、訳がわからないと言った風情で抗議する桐乃

「何って……その……あ、あんたたちが選んであやせに薦めてくれた、メルルのフィギュアとか……だけど?」
少し照れくさそうに桐乃はそう言った。
「……え?」
桐乃の返答に目を丸くする黒猫。
「れ、例の暗黒物質などを見せようとしたのではなくて……?」
「み、見せるわけないでしょ!」
「なんですか? あんこくうぶっしつ……って」
「「知らなくていいの!」」
「? ? ?」
黒猫の妹は、二人の剣幕に目を白黒させるのみだった。

「それにしてもさ──。ほんとに、あんたってばあたしを全く信用してないよね」
「普段あれだけ、あなたの壊れっぷりを見せられていて信用できるわけないでしょう……」
「あたしは、ちゃんと色んなケジメはつけてるってば。あんたと違ってね」
「……っふ。私にはそうは見えないのだけれど?」
意味深な笑みを浮かべて黒猫が言う。
「な、なにそれ。わかった風な事、言ってくれるじゃん……ふん」
桐乃は頬をあからめつつ、そっぽを向いて答える。

そんな二人のやりとりは、なぜか少し楽しそうで……でもどこかせつなげな空気を孕んでいた。


「……ところで、全然、話は変わるんだけど、騒いだらなんだか汗かいちゃった。
妹ちゃんと一緒にお風呂に入っていいかな?」
「あなた、全く話を変える気ないでしょう。妄言はそれくらいにしておきなさい、この変態。
自分の妹が変態女の毒牙にかかるのを黙って見過ごす姉がいるとでも思っているの?」
「妹ちゃん、どうかな。メルルのお風呂セット、あたし持ってるんだよ?」
「すごい! ほんとうですか?」
「ほんと、ほんと!」
「だから! 堂にいった感じで子供を物で釣るのはおやめなさい! 警察呼ぶわよ! 警察!」
「やだなあ冗談じゃん」
「……どう見ても前科持ちの手際だったわ……」


──ちなみにその頃の京介。

「わかってねえな。言ったろ? 俺がセクハラするのはおまえだけだって」
「へ、変態! 通報しますよ! 通報!」

………………
…………
……



こうして騒がしい時間はあっと言う間に過ぎていった。

「きょうはどうもありがとうございました」
ぺこりとお辞儀をする黒猫の妹。
その姿が可愛くてたまらないと言うように桐乃はハイテンションで返事をする。
「いつでもまた遊びに来てね!」
「……もう連れてこないわよ」
ご機嫌な妹と桐乃とは対称的に、黒猫はただ一人渋面を作っていた。
「わたし、またきりのさんとあそびたいです」
「いやよ。もうこりごりだわ」
妹の言葉に対してもにべもない。
「何よ。あたしの相手の仕方に何が文句あるって言うわけ?」
「…………」
黒猫はぷいっとそっぽを向いて口を閉じてしまう。
「なにさ。わけわかんない奴ゥ。……妹ちゃん、こんなお姉ちゃんほっといて、一人で遊びに来てもいいからね!」
しかし、黒猫の妹は、そんな桐乃の言葉をよそに、じっと姉の顔を見上げていた。そして──

「ごめんなさい、ねえさま」

「「え?」」
突然、姉に対して謝罪した黒猫の妹を、黒猫も桐乃も不思議そうに見つめる。
「わたしがきりのさんをひとりじめしてしまって……」
「は? あ、あなたは何を言っているの? ば、バカな事を言わないでちょうだい!」
黒猫は顔を真っ赤にして激昂した様子で妹をしかりつける。

そんな姉妹の様子をキョトンとした様子で桐乃が見つめる。

「えーと……つまり、あんた、あたしが妹ちゃんとばかり遊んでたのが気に食わなかったわけ?」
「そ、そんなワケないでしょう! 子供の妄言を真に受けないでちょうだい」
「ごっめ~ん。やだなあ。言ってくれりゃいいじゃん~」
「だから、人の話を聞きなさいと言っているでしょ……!」
お互い顔を赤くして、嘲弄する桐乃と激昂する黒猫。
「わかった、わかったって。じゃあ妹ちゃん? 今度は一緒にお姉ちゃんの好きなマスケラ見てあげよ?」
「あ、あなた……全然わかってないでしょう……」
「ますけら……ですか? なんだかおはなしがむずかしくてわたしよくわからないんです」
黒猫の妹は、姉に少し気を遣う様子を見せながらも、正直にそう言った。
「だいじょうぶ! あたしがちゃんと妹ちゃんが楽しめるように解説してあげるから!」
「一体、どういう解説をするつもりなの……」
「いいから任せなって。あんただって、可愛い妹と話が合う方がいいでしょ?
アニメの楽しみ方なんてひとそれぞれ。妹ちゃんが楽しめるマスケラの見方だってあるはずだって!」
自信満々にそう宣言する桐乃。
「……ちなみにあなたはマスケラを楽しく見る方法を見つけたわけ?」
「もちろん、これから考えるよ?」
「…………」
黒猫はそっとため息をついた。

「じゃあ……これで失礼するわ」
黒猫がそう言って踵を返そうとするとそれを桐乃が呼び止めた。
「あ、ちょ、ちょっと」
「……何?」
「えと……その、まだ予定きっちりわかんないんだけどさ。時間とれたら来週にでも、どっか遊びにいかない?」
「沙織は次は来月まで無理だって言ってたわよ」
「知ってる。だからその……きょ、今日の……埋め合わせ……かな」
桐乃は紅潮した頬を指で掻きながら呟くようにそんなことを言う。

「……わかったわ。もし予定が立ったら、早めに教えて頂戴。こう見えて私も色々あるのよ」

黒猫は呆れたような、でも嬉しそうな……そしてどこか優しげな笑みを浮かべてそう返す。
そんな黒猫の表情を、少し不思議そうな顔で彼女の妹が見上げていた。

「そんじゃ、妹ちゃんばいば~い~またね~」
「はい! さようならです」

ぶんぶんと手を振る桐乃の姿が見えなくなったころ、黒猫の妹は姉の顔を見上げてこう言った。

「ねえさま」
「……なあに?」
「さっきのねえさま、わたしたちをみるときみたいな『め』をしてました」
「え?」
黒猫はそんな妹の言葉に不意を突かれたように目を一瞬見開き────

「…………そう」

ただ一言、そう呟いた。

(終)





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最終更新:2010年12月02日 23:33
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