11-192


「おはよう、お兄ちゃん」

あの日、
「黒猫と付き合うことにした」
そう告げた日から、桐乃が変わってしまった。

今までの人を馬鹿にしくさったムカつく態度はどこへ行ってしまったのか、
まるで以前の桐乃が夢中だった妹モノのエロゲーに出てくるような
テンプレな“兄思いのかわいい妹”のようになってしまったのだ。
毎朝、俺の部屋まで起こしに来るし、
もちろん途中まで一緒に登校する。
放課後は繁華街で待ち合わせし、買い食いをしたり
ゲーセンで遊んだ後、一緒に帰る。
食事時は一切目を合わさず、黙々と箸を動かしていたのが
今では笑顔で俺に話題を振ってくるし、ご飯だってよそってくれる。

口を開けば「キモッ」だの「ウザッ」だの言っていた姿が遠い過去のように
「お兄ちゃんだいすき」オーラを放つ姿に親父もお袋も初めこそ面食らったが、
「まあ、ケンカばかりしているよりはマシなのかしらね」
と、結局深く考えるのをやめてしまった。

桐乃の変化は、本来なら歓迎すべきことなのだろうが、
俺は、なんだか居心地の悪さを覚え
落ち着かない日々を過ごしていた。

どうしてこうなった?」

深夜、自分の部屋のベッドに寝そべり、ぽつりとつぶやく。
確かに以前の桐乃はムカつくヤツだったさ。
口は悪いし、感謝もしねぇし、謝りもしねぇ。
溢れる才能と美貌、ことあるごとにお袋やご近所さんに比べられ
どれだけ肩身の狭い思いだったことか察して頂きたい。
俺達は長い間、まるでお互いがそこにいないかのように存在を無視し続けていた。
共に生活する家族でありながら、他人以上に他人だったと言っていいだろう。

それが桐乃の趣味を偶然知っちまったことをきっかけに
それまでの関係は一変した。
今でもムカつくヤツであることは変わらないが
それでもやっぱりあいつは俺の大切な妹で
桐乃の泣いた顔や苦しむ姿は見たくないし、
その為だったら多少の苦労は仕方がないさと思える程度にはなった。
俺の勘違いでなければ、ほんの少し「近づけた」ような気がしたんだ。
だから、今のような関係は俺が望んだものじゃない。
傍から見れば、“兄思いのかわいい妹”となった桐乃と良好な関係を
築けているように見えるだろう。
だが、そんな正しい妹を演じようとする桐乃には何か空虚なものを感じるし
笑顔を貼り付けた妹の顔はまるで仮面のように感情が読み取れない。
せっかく「近づけた」と思った距離は、
絶望的なまでに離れてしまったように思える。

「なあ、もうこういうのやめにしないか?」

ある日の放課後、俺は桐乃にそう切り出した。
「こういうのって?」
クレープを食べながら不思議そうな顔で首を傾げる。
俺は照れもあってか視線を外し、今の正直な気持ちを伝えようと続ける。
「だからさ、その、なんだ、桐乃らしくないっていうかさ。
無理にかわいい妹を演じる必要なんてないんじゃないか?
俺の前では言いたいこと言ってもかまわねぇし、
自分のやりたいようにしたっていいんだぜ。
エロゲーだって最近まったくやってないみたいじゃないか。
アキバにも行ってないし、あいつらとも連絡とってないんだろ?
俺はさ、いつもの桐乃と黒猫と沙織と一緒にゲームしたり
アニメ見たり、遊びに行ったりするのが結構好きになってきたんだ。
何を思ってこんなことをしようと思ったのかはわかんねぇけどよ、俺は……」

「……何それ」

それまで黙って聞いていた桐乃が口を挟んだ。
「わかんない?アンタほんとにわかんない?本気で言ってんのソレ!?」
突然声を張り上げた桐乃に驚いて振り向くと、
怒りに震え、涙を溜めながら俺を睨み付ける桐乃と目が合った。
「アンタがアタシを見てくれないから!
いつまでたっても妹扱いしかしてくれないから!
アンタが、あの黒いのと、つ、つ、付き合うなんて言うから!
諦めるしかないじゃん!
今までどおりでいられるわけないじゃん!
だから、だからアタシは“妹”でいようって、
おとなしく“妹”って立場で我慢しようって、
だからアンタが好きそうな“妹”になろうって、
それなのに何!?もういい?無理するな?いつものアタシ?
ふざけんな!人がどんな思いでこの立場を受け入れたと思ってんの!?」
それまで溜め込んだ激情を一気に爆発させる桐乃を前に
俺は言葉を失い、口を半開きにしたまま桐乃を見つめる。

「“妹”でもいい……
たとえ“妹”でも側にいられるならそれでいい
だって、アンタが言ってくれたから「大切にする」って
だからそれで充分だって、そう自分に言い聞かせたのに。
なのにアンタはそれすら否定するんだ…」
いつの間にかあふれ出ていた涙を拭おうともせず
先ほどの反動か、息を切らしぐったりしながら俺を見つめる。
しばし無言で見つめあう俺達。
「……わかった、もういいよ」
桐乃が消え入りそうな声でつぶやく。
そして、無理やり笑顔をつくり
「バイバイ、お兄ちゃん」
そう言って桐乃は、とぼとぼと立ち去っていった。
俺はというと、今しがた起きた状況を脳が処理しきれず
「行くな」と叫ぶことも、腕を掴むこともできず、
桐乃の姿が見えなくなるまで、その場に立ち尽くすことしかできなかった。

「なんて情けない顔をしているのかしら」

涼しげな声で、俺の隣に腰掛けている黒猫が話しかける。
今日は以前からの約束(デートだよ。言わせんなはずかしい)で
黒猫とアキバを散策し、今は公園のベンチで一休みしているところなのだが、
昨日の一件のせいで一睡もできず、
とてもじゃないがキャッキャウフフする気分ではなかった。
ちなみにあの後家に帰ると、
まるで何事もなかったかのように平然と食事をする桐乃の姿があった。
(門限を越えるまであの場に残り、あわてて帰宅した俺は当然飯抜きだった)
ただ、その表情や態度は「人生相談」を受ける以前、冷戦状態だったあの頃の桐乃だった。
くそっ、結局逆戻りかよ。

「仮にも恋人である私との逢瀬だというのに
もう少し楽しそうな顔はできないの?
それとも昨晩は大好きな妹とお楽しみで、
精気を根こそぎ吸いつくされたのかしら?」
「……冗談でもそんなこと言うんじゃねぇよ。
特に今はな」

桐乃が俺にぶつけた感情は、俺の自意識過剰や勘違いでなければ
その、そういうことなんだろ?
でもな、それを知ってしまった所で俺にどうしろって言うんだ?
今更言うまでもないが、桐乃は俺の妹だ。
エロゲにありがちな義妹とかいうオチはなしだ。
確かに俺は桐乃のことは大切だし、守ってやりたいとも思う。
だがそれは桐乃が妹だからであって、それ以上の感情なんてない。
……ないはずだ。
……ないですよね?
だったら、このモヤモヤした気分は一体なんなんだ?
桐乃の想いを聞かされて、妙に意識しちまってるだけ?
本当にそれだけか?

「あなたが今何を考えているか手にとるようにわかるけれど
私といる時に他の女のことを考えるなんていい度胸だわ。
命が惜しくないようね」
「なあ黒猫、俺はどうしたらいいんだ?」
「……人の話を聞きなさい。まったくあなたという人間は
妹が絡むと途端に周りが見えなくなるのね。
はぁ……仕方がないから聞いてあげるわ。
何があったのかしら?」
俺は文句を言いながらも相談にのってくれる黒猫はなんていいヤツなんだろうと
心の中で感謝の涙を流しつつ
ここ最近の桐乃の豹変っぷり、昨日の顛末、
そして今のモヤモヤした気持ちを包み隠さず話した。

「あなた莫迦でしょう」
絶対零度の視線と侮蔑の表情で黒猫が言い捨てる。
「ヒドッ!それが真剣に悩んでる彼氏にかける言葉!?」
「何が真剣に悩んでいるよ、笑わせないで頂戴。
そこまで答えが出ているというのに
あなたはそれでもまだ目をそらし続けるというの?
今までの己の行動や言動を思い返してみなさい。
どうすればいいかなんてとっくにわかっているはずよ。
あの女は臆病風に吹かれて舞台から降りた。
でも私は違う。私は舞台に立ち続けるし、主役の座を譲るつもりもないわ」
「な、なんの話だ?答えってなんだよ?目をそらすって一体……」
「ここまで言ってもまだわからないというつもり?
それとも、あくまでわからない振りをして道化を演じ続けるというの?
そう、それなら私はあえて憎まれ役になってあげるわ。
頭の悪いあなたにもこう言えば理解できるかしら
あの子、高坂桐乃はあなたのことを愛している。
妹が兄に向けるレベルでは済まされない、ひとりの異性としてね。
そして高坂京介、それはあなたも同じはずよ」

俺も同じ?
俺が?
桐乃を?
あのクソ生意気な妹のことを?
……そうか、そうだよな。
そうさ、桐乃が俺のことを好きだなんてとっくに気が付いてたし
俺が桐乃のことを好きだという気持ちにも気が付いてたんだよな。
それなのに俺は兄妹だからとか、あいつは俺を嫌ってるに違いないだとか
適当な言い訳で自分の気持ちを押し殺し、
桐乃の気持ちに気付かない振りをし続けたんだ。
それは桐乃を深く傷つけ、ついに埋めようがないほどの溝を作っちまった。
俺の表情の変化を見た黒猫は少し間を置いたが、やがて静かに語り始めた。
「あなたはあの子へ愛情を注ぎながらも、常に妹だという枷をはめ続けた。
あの子の想いには答えてやらないくせに、自分勝手な独占欲で縛り続けた。
そんな状態で、あの子はどれだけ苦しんだと思ってるの?
私はそんな現状が我慢ならなかった。
だから行動を起こせば何かが変わるんじゃないかと思った。
あなたを好きな気持ちに偽りはないわ。
でも私が動くことで、あの子も本気になるかもしれない。
対等の立場でこそ、初めて同じスタートラインに立てるというものよ。
ハンデをつけられた勝負で得た勝利に価値なんてないわ。
あの子は結局勝負を投げてしまったけど、
あなたの神がかり的な鈍さのおかげで本当の気持ちを伝えてしまった。
今度はあなたが行動を起こす番よ。
ここに留まることを選ぶというのなら好きにすればいいわ。
でも、あなたが選ぶ選択肢は最初からひとつしかないのではなくて?
さあ選びなさい。
あなたはどうしたいの?」
俺が選ぶ選択肢は…
言うまでもないよな?
俺はおもむろに立ち上がり、黒猫の目を見て決意を伝える。
「すまねえな、黒猫」
「あやまらないで頂戴、
敗者に情けをかけたつもりなら、気が早いわよ。
言ったでしょう同じスタートラインに立ってからが本当の勝負だって。
勝ちを譲るつもりはない。
必ずあなたをもう一度私の前に跪かせてみせるわ」
自信に満ちた表情で黒猫が微笑む。
俺は軽く手を上げ、家路を急いだ。

「まったく世話の焼ける兄妹ね…」

桐乃の部屋の前に来た俺は、
深呼吸して気持ちを落ち着けるとドアをノックした。
「桐乃、話があるんだ。開けてくれないか」
沈黙。
やっぱりダメか?そう思った瞬間、扉がわずかに開き
桐乃が視線をよこした。
「何?アンタと話すことなんて何もない……」
何の感情も読み取れない平坦な声色で桐乃が拒絶の意思を伝える。
俺は臆することなく桐乃の目を見つめ
懐かしいフレーズを口にする。
「実はおまえに、人生相談があるんだ」
「は?アンタ馬鹿なの?死ぬの?それともあてつけのつもり?
アタシをからかうのがそんなに楽しいの?マジ最低……」
すぐに閉めようとしたドアに俺は強引に足をはさむ。
こんな序盤でGAME OVERになるわけにいかねぇよな。
「くっ、頼むよ、マジなんだ。5分でもいい」
桐乃は心底うんざりした顔で俺を睨んだが、やがて根負けしたのか
「……入って」
そう言って部屋へ入れてくれた。

「で?相談って何?さっさと済ませてくんない。
マジウザいから」
「じゃあ簡潔に言うぞ。
俺は妹のことを本気で愛してしまったんだが
どうしたらいいと思う?」
「な!?あ、あ、アンタ、な、な、なに言って……」
いつかのように目を見開いて呆気にとられる桐乃。
だがすぐに耳まで真っ赤になって激昂する。

パアァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!

スポーツ万能妹様の本気の平手打ちを喰らい思わず吹っ飛ぶ。
「痛ッてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!
なにすんだよオマエ!?」
「ふざけてんの!?マジブッ殺すわよ!!!!!!!!!!!
アタシの気持ちをこれ以上踏みにじらないで!」
怒ゲージがMAXになった桐乃はそう叫んだ後、涙目で俺を睨みつける。
マジ怖ぇ。
だが、俺もここで引くわけにいかねぇ。

俺は桐乃の両肩を掴み、吐息がかかるくらい至近距離で言い放つ。
「冗談や悪ふざけでこんなことが言えるかよ!
俺は本気だぞ。
本気で桐乃のことを愛してる!」
「バカ!お父さん達に聞こえたらどうすんのよ!
わかったから、キモいセリフを大声で叫ぶな!」
桐乃があわてて俺の口を両手でふさぐ。
すっかりペースを乱されたことに、しまったという顔をする。
少し声のトーンを落とし、改めて俺に向き合う。

「アンタいったいどういうつもり?
返答次第ではアンタに犯されたって泣きながら
お父さんの部屋に駆け込むから」
ひぃっ、そんなBAD ENDは絶対に御免だぜ。
社会的にどころか、本当に人生が終了しそうだ。
「桐乃、まずは昨日までのこと謝らせてくれ。
いや、謝って済む話じゃないのは充分理解してるが
それでも自分の馬鹿さ加減には本当に反省してるんだ。
このとおりだ。すまなかった」
俺は床に頭を擦り付ける勢いで土下座をする。

「……いまさらそんなことされても
アンタがしてきたことがチャラになるわけないじゃん。
もういいから頭上げてよ。ウザいから」
椅子の上でふんぞり返った桐乃が冷ややかな目で俺を見下す。
「で、さっきフザけたこと口走ったケド
なんの真似なの?
まさかと思うけど、あの黒いのの入れ知恵?
二人してアタシをからかってんの?」
「それは違うぞ。
桐乃、さっきも言ったが俺はマジなんだ。
頼むから茶化さずに聞いてほしい」
「……わかった」

「桐乃、俺はもう逃げねぇ。
自分の気持ちに嘘をつくのをやめる。
桐乃の気持ちに気付かない振りもヤメだ。
平凡な日常とか、あいつらとの関係とかを失うのが怖くて
現状維持という建前で逃げ続けた日々を今日で終わりにするぜ。
だって、俺は桐乃を失うことが一番耐えられないって
気付いちまったからな。
アメリカまでおまえを連れ戻しに行った時も、
御鏡に桐乃は渡さなねぇって宣言した時も、
おまえを失いたくない一心で夢中で行動した結果だったんだ。
今なら言えるぜ。
俺は桐乃が好きだ。愛してる
他のすべてを失っても、桐乃だけは失いたくない。
兄妹だからって構うもんか!
俺のこの気持ちは誰にも馬鹿にさせねぇし
もし桐乃を傷つけようとするやつがいたら俺がそいつをブッとばす!
一生おまえを守り抜いてみせる。
一生だ!」
あ~、我ながらなんという恥ずかしい告白をしてしまったのだろう。
しかも実の妹に向かってだ。
だが後悔はしてないし、
今のこいつの顔見りゃあ、間違った選択肢だったとは思わないよな。

「ちょ、い、妹に、マジ告白とか、あ、ありえないんですケドぉ~。
あ、アンタのシスコンもついに極まっちゃった?
あ~、キモ!キモ!じ、実の妹に向かって、い、一生守り抜くとか……」
「おまえ、ニヤニヤを我慢しようとして超ヘンな顔になってるぜ」

「うっさい!
あ、アンタが恥ずかしいセリフ連発するから。
……だいたいアンタ、彼女は、黒いのはどうすんのよ?
まさか、二又かけるつもり?
あんなことやこんなことをして陵辱するつもりなの?
リアル鬼畜ルート!?実妹に何するつもり?この変態!」
両手で自分の肩を抱き、驚愕の表情を作る。
「バカ、違ぇよ!このエロゲ脳が!妙な妄想してんじゃねぇよ!
あいつは、黒猫はな、笑顔で送り出してくれたんだよ。
同じスタートラインからじゃねぇと、勝負したうちに入らないって。
そのうえでおまえに勝ってみせるって」

桐乃は急に真顔になり、
黒猫の言った言葉を反芻するようにしばらく黙り込んだが
やがてニヤリといつもの表情になる。
「あ~、はいはい。厨二病乙。
さぞや自分に酔った顔で痛いセリフ並べ立てたんでしょうよ。
まっ、条件が同じならアタシが負けるわけないケド。
高坂桐乃をなめんなっつうの。
それにアンタはシスコン極めちゃってるしね~」
ようやく桐乃らしいセリフを聞けて、安堵する。
やっぱ俺の妹はこうじゃなきゃな。
泣いたり落ち込んだり、エロゲに出てくるかわいい妹みたいになったりは
似合わないぜ。
桐乃は可愛くねぇとこが、最高に可愛いんだぜ?

「なあ、それって返事はOKって思っていいのか?」
「はぁ?ばかじゃん。今さらなに言ってんの?
アタシが今までどんな思いでいたと思ってんの。
鈍感なのが許されるのはエロゲの主人公だけだからね。
アンタの告白はたった今受理したし、
もう冗談でしたじゃ済まさないから。
ま、もし冗談だったらブチ殺すけど」
「さらっと、あやせみてぇなことを言ってんじゃねえよ!」
「とにかく!今まで、できなかったこと全部取り返すんだからね!
 やりたいこと数え切れないくらいあるし」
頬を染めながらチラチラ視線を送ってくる桐乃を見ていると
俺ができることならなんでもしてやりたい気分になる。
いや、気分じゃダメだな。
「いいぜ、なんでも言ってみろよ」

「じゃ、じゃあ、き、キス……とか……」

「お、おぅ、キスな……」

うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?
き、キスだと?
ま、まあ恋人同士になったんだから、それぐらい普通だよな。
でも、本当に、い、いいのか?
だって妹だぞ?
俺が躊躇していると桐乃が不安そうな顔で俺を見つめる。

「なによビビったの?このヘタレ。
それとも、やっぱ、その、き、気持ち悪い……の?」

あぁ~、まったく俺の大バカ野郎!
もう桐乃にこんな顔はさせねぇって誓ったんだろ!?
俺は桐乃の肩にそっと触れる。
かすかに震えているのがわかった。
こいつも覚悟決めたんだよな。

「いいんだな?
 後悔するなよ」

「後悔なら今まで散々してきた。
 だから……いいよ……」

「ん……」

桐乃と初めてのキスをする。
ただ触れているだけなのに
言葉を交わすよりも
桐乃の想いがはっきり伝わってくる。
俺達はこんなにもお互いを求めてたのに
どうしてここまでこじれちまったんだろうなぁ。
たぶん俺がもっと桐乃に向きあっていれば
桐乃の言葉に耳を傾けてやれば
そしたら、こうして不安を取り除いてやれたんだ。
俺の前で笑ってる桐乃を見ていられたんだよな。

「ふぅ……」
そっと唇を離すと、桐乃が微かに吐息を漏らす。
頬には涙がひとすじつたっていた。
「やっと、やっとここまで来れたんだ……
夢じゃないよね?
アタシ幸せすぎて死んじゃうかも」

嬉し涙を流して微笑む世界一、いや宇宙一可愛い妹を
俺は抱きしめた。
「俺、なんだかおまえを泣かせてばっかだな。
すまねぇ。
これからはもう泣かせたりしねぇから。
おまえがずっと笑っていられるように頑張るからな」

「うん。
……大好きだよ、兄貴」





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最終更新:2010年12月12日 23:38
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