自慢の兄貴


待ち合わせ場所にはもう二人は来てきた。
ちょっと待たせちゃったかな。

「せなちー、待った? こんにちは、お兄さん」
「桐乃ちゃん、待ったよー」
「おいおい、まだ約束の時間には早いだろ。高坂はまだだけどな」
「アイツったら、時間にルーズなんだから」

時間にルーズなんて嘘。アイツは時間にはキッチリしている。
アイツを高く見積もってもらうのが面白くなかっただけ。

「まだ時間があるからそのへん歩かない?」

せなちーの誘いで、アタシたちは三人で時間をつぶすために歩いた。


アタシたちは兄妹同士四人でアニメ新シーズンのプレイベントを見に来ていた。
プレイベントの会場前は、小さな子供連れの家族、大きなお友達、王国民、
そしてごくわずかのカップルと色んな人でごった返していた。


「あれ‥‥‥、高坂先輩じゃない?」

せなちーが指を差した方を見るとアイツがいた。
オバサンと何やら話している。

「ははは、高坂のヤツ‥‥‥」

せなちーの兄貴が意味がありそうな笑いをした。
次の瞬間、アイツは財布からお札を出してそのオバサンに手渡した。
お札を受け取ったオバサンは何度もアイツに頭を下げながら、
雑踏の中に消えて行った。


「おう、待たせたな」

アイツが何食わぬ顔でアタシたち三人と合流した。

「オイ高坂、見てたぞ」
「ん? 何を?」
「トボけんなよ。あのオバサン『病気の子供にミルクを飲ませる金がない』
 とか言って、お前にカネをせびったんだろ?」
「なんだ、聞いていたのか?」

そうだったのか―――
でも、なんでせなちーの兄貴は笑っていたんだろ?

「それ嘘だから」
「え?」
「病気の子供がいると言って、カネを騙し取るオバサンがこの辺にいるんだよ」

何? コイツは、せなちー兄妹とアタシの目の前で騙されたってコト?
カッコワルイ。アタシにも恥をかかせるなんて最悪―――

「なーんだ、そうだったのか」

バツの悪そうな顔をして頭をかくだけのコイツにムカついた。

「ねえ、そんなことより、イベントが始まるよ!」

せなちーに急かされて、アタシたち四人は会場に入った。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥

「やっぱり神アニメだよね―――もう最高!!」
「新シーズン突入がホント待ち遠しい!」

アタシはせなちーと興奮しながら会場から出てきた。

「やれやれ、BL物やホモ物じゃないだけマシだったな、高坂」
「同感だな。それでもついていけないアニメではあったが」

「何を二人で話しているの? あれ? もしかしたら二人は!?」
「「違う!!」」

せなちーは色々と誤解をし、色々と誤解されているようだ。



「じゃあここで解散だな」

アイツの解散宣言でアタシたちはそれぞれ家路に着いた。
せなちー兄妹は腕を組んで寄り添いながら歩いていった。
アタシは小さくなっていくせなちーの背中に向けて囁いた。

「せなちー、あんたの兄貴、羨ましいよ」

‥‥‥‥‥‥‥‥‥

「おーい、なんでそんなに離れて歩くんだよ?」
「フン! あんなマヌケな姿晒したアンタと一緒になんか歩きたくないっての!」
「マヌケ? ああ、さっきのオバサンとのことか?」
「当たり前でしょ。せなちーとお兄さんの前で騙されちゃって、格好悪すぎ」
「でも良かったじゃないか」

ハァ?「良かった」!?
ナニ言ってんの? このバカ兄貴は?
アタシの怪訝そうな渋い顔を察したのか、こう言ってきた。

「だって―――」

‥‥‥なんだって、コイツはこんなことを言えるんだろう。

「“病気の子供”なんていなかったんだし」

‥‥‥。

アタシは無言で駆け寄って、アイツの右腕に腕を絡めた。

「!? マヌケな俺とは一緒に歩きたくないんじゃないのか?」
「そんなこと言ったっけ?」
「言っただろ!」
「言ってない! 言ってない!!」
「勝手な奴だな」


さっきのせなちーへの囁きは取り消し。
とっくに見えなくなったせなちーの背中に向けて囁き直した。

「せなちー、アタシの兄貴、羨ましいでしょ?」


『自慢の兄貴』 【了】




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最終更新:2011年01月08日 23:20
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