13-102


ったく。なんだってんだ、こんな時間に『人生相談』なんて…
草木も眠る丑三つ時。 突然のメールに起こされた俺は、イライラしながらメールを読む。

≪また『人生相談』したいんだけど、ちょっと部屋来てくれない…?≫

はあ。こんな常識ではありえない時間にメールなんか寄越しやがるのは、予想通り我が妹様だ。
それでもしっかり起きて妹の部屋に行こうとするのは、我ながら悲しい性だ…

ま、明日休みだし、よしとするか。

寝惚け眼の目を擦りながら、桐乃の部屋のドアを階下の両親起こさないように、
さりとて部屋の主には聞こえるようにノックした。

「俺だ。入っていいか?てか入るぞ、来いって言ったのそっちだし」
「あ、ちょっと待っ…」

何だよ、こんな夜中に呼びつけとい…てっ!?

我が目を疑った。そこには、予想だにしなかった事態が待ち受けていたからだ。
賭けてもいいが、これで驚かねぇ奴はいねぇと思う。

「桐乃…なんで…」
「へ、変かな…」

そこには、夕食で最後に顔を合わせて以来、特に変わりもしない妹様がいるだけだ。















ものの見事に黒く染まった髪の色を除いては。

「お前、本当に桐乃か?偽物か2P版じゃないよな?」
「ハァ?何寝ぼけたこと言ってんの。アンタまだ脳味噌眠ってんじゃない?
じゃなきゃ、ゲームやりすぎて本当に頭おかしくなったとか?」

良かった、ホンモノだ。
夜中に人を呼びつけておいてこれだけ人を虚仮にできるのは、桐乃しかあり得ない。
それはさておき…

「いったいどうしたんだ?黒に染め直したりして」
「染めたんじゃなくて、スプレー使っただけ。洗えば落ちるし…やっぱおかしい?」
「いや、おかしくはないが…」

突然のことにビックリして無理矢理目が覚めちまったが、こうやって覚醒した目で見ると、凄くサマになってやがる、悔しいことに。ま、元がいいから、例え金髪にしても同じことを考えるんだろうけどな。

「けど、いったいなんで黒に戻したんだ。てか、かなり久しぶりだな」
「…読モの仕事で、黒髪の子の特集やりたいんだって。
それで出版社の人が『スプレーで黒髪にしてやってみないか』って言うから…」
「だからか。へぇ…ふぅん…」

見れば見るほど見とれそうになっちまう。
黒髪といえば、俺の知りうる限り断トツで黒猫とあやせだが、
その二人ともまた違った良さがある。
艶やかでさらさらした桐乃の髪が微かに揺れる度に、猫じゃらしに飛び付く猫みたいに
その行方を追ってしまう…



って何か俺ヤバくね!!?いくら綺麗でも妹だぞ!?
これじゃ赤城のこと言ってらんねー…

「ちょっと、聞いてる?まだ寝てんの?」
「うぉっ!あ、ああ…」

いかん、いかん危ない危ない危ない。
無意識のうちに髪にばっか気を取られてた…

「全く、使えないんだから…」
そう言う桐乃の口調もいつもよりトーンダウンしていた。
どうやら、黒髪が似合うかどうか自分でも判断がつかなくてまごついてるらしい。

「髪のことなら大丈夫だ。綺麗だし、似合ってる」
「ほ、ホント!?」
「ああ、逃げも隠れもするが、嘘は言わない」
「ナニソレ?ま、よくよく考えたら当たり前よね。アタシほどの逸材なら、何色にしたって似合うに決まってるし。黒髪にしたって、黒いのやあやせに負けるわけないし」
「へーへー」

いつもの桐乃に戻ったみたいだ。いや、いつもより少しテンションが高いくらいだ。
どうやら、これで一件落着だな。

「それじゃ、仕事頑張ってこいよ。俺は寝るわ。ふわぁ…」
安心した途端、急に眠気が襲っきた。窓の外は依然暗い。まだ布団が恋しい時間だ。欠伸を噛み殺して、再び床に着こうと部屋を出る。

「そんじゃ、おやすみ」
「う、うん…おやすみ」

さっきのハイテンションが何故か引っ込んで、大人しくなった。
まだ不安なのか?
にしても、妹とはいえ黒髪の可愛い女の子が恥じらう姿には妙に心をくすぐられ…

ってやめだやめだ!!
どうかしてるぜコンチクショウ!

「大丈夫だ。自分に自信持てよ」
何とかごまかした。
「んなこと、言われなくったってわかってるっつの…それじゃ」
桐乃はやけに嬉しそうにドアを閉じて、そうして俺は妹の部屋を辞した。

「もう一眠りすっか」
妙な心地よさを覚えてベッドに寝そべった。
今夜は何故だかいい夢が見れそうな気がするぜ。

〈了〉




その夜。どういうわけか俺のベッドの人口密度が半端なく上がっていた。

俺の右隣をあやせが、左隣を黒猫が固めていて、二人の肩に腕を回している俺。
そして…なんと二人ともバニーガール姿!

「なにニヤニヤしているんですか。女の子にこんな服を着せて喜ぶなんて
お兄さんは本当に変態ですね」
「こんな破廉恥な真似をして喜ぶなんて、流石あの女の血族なだけあるわね」
鏡がなくても、自分の表情が崩れているのがよくわかる。
いや、この状況でニヤつかない奴の方がどうかしてる!!

「だーれだ?」

今度は聞き慣れた声とその主が後ろから抱きついて、視界を遮った。
背中に優しく膨らみが当たる…ってそうじゃないだろ!
ナニ考えてんだ俺はっ!?
「き、桐乃以外ありえないだろ…」
「もう!ノリが悪いんだから」

そういう何故か桐乃もバニールック。しかも、何故か黒髪。これはヤバい、ヤバすぎる…!

あやせと黒猫もさることながら、今の俺にとって桐乃が一番クるものがある。
だって黒髪だぜ!?いつもが茶髪(まあ似合ってるんだが)なもんだから
反動で余計に映える。

しかもだ。

「二人ばっかじゃなくてさ、アタシも見てよ。せっかく張り切ってるんだからさ」

いじらしい態度が妙に可愛らしいぜ…チクショウ!

「はぁ。お兄さんが変態なのはわかりきってますからもういいです。
あと、一番可愛いと思ってるのが私だってことも。ですよね、お兄さん?」
「…っ。聞き捨てならないわね。先輩が魅入られているのは、
いつだってこの華麗な堕天聖である私なのだから、詰まらない嘘は止めて頂戴。
困ったものね、先輩?」
「あやせも黒いのも勝手なこと言い過ぎ!この変態シスコンバカ兄貴が
アタシ以外を見惚れるわけないじゃん!!!
ね、兄貴?」

実に信じがたいことだが、三人の美少女が俺に気に入られようと必死で言い合っている…!

我が世の春ってこういうものだったのか!!!!

嗚呼、この幸せな時間が永遠に続けばいいのに…

「なにニヤニヤしてるのかしらこの子…頭でも打ったのかしら」

うおっ!何故お袋の声が!!?

無意識に体が震えて、目が覚めた。いるのはお袋だけ。

黒猫もあやせも…もちろん桐乃もいない。

「やっと起きた。朝食だから、早く顔洗ってきなさい」
「な、なんでお袋が俺の部屋に…!?」
「いくらノックしても起きないんだもの」
「だ、だからってなあ…」
「じゃ、早くなさいね」
俺の反論を華麗にスルーしてすたすたとお袋はリビングに降りていった。



ま、あんなオイシイことあるわきゃないわな。
けどバニーガールってなんだよ俺!?そんなに欲求不満なのか!!?
それでも、夢とはいえなんか妙に気分がいい。

今日はいい日になりそうだ。



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最終更新:2011年01月09日 23:08
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