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それは遠い記憶のあなた


―――それは遠い記憶の中で―――


―――それは今でも私の中で―――


「あっ!降ってきた…。」
『今日は気持ちの良いお天気になりそうです。』そう爽やかに微笑んでいた朝の
お天気キャスターの顔を思い出す。

少し裏切れしまった気分になる。

こんな日だからかな…。

先週末に陸上の練習中足首を痛めてしまい、来週開催される秋の陸上大会を断念
するようにと、今日顧問の先生に言い渡されたしまったのだ。

あーあ、今は調子も上がって良いタイムもでるようになってたのに。

素直に凹んでしまう。

そんなブルーな私に追い討ちを掛けるがごとく、空からはひんやり感じさせる秋
雨が降ってきた。


まだ家までは少し距離があった。雨も強くなる。

走って帰ろうかなと考えたけど、足首を痛めてるので旨く走れない。

どこか雨宿りできるトコっ…懐かしい。

そこは昔幼い頃良く遊んだ公園だった。

滑り台は少しアスレチック風になっていて、滑り台の下はコンクリートのトンネ
ルになっていた。

丁度良い雨宿りスポットで懐かしさもあり、この公園で雨の勢いが弱くなるのを
待つことにした。

トンネルの中でしゃがみこんで、運良く持っていた部活カバンからタオルを取り
出す。

雨止まないなぁ。なんだかボーっとしてくる。そーいやぁ、ここが原点かもね。
懐かしくそんなことを思った。


あっ…や…ば……っ……寝ちゃ………寝てしまった。


―――いちゃん……にいちゃん……「ねぇ、お兄ちゃん!ってば。」

「なんだよ。ついてくんなよ。今日俺は友達と遊ぶんだよ。だから、今日は桐乃
の相手してやんねーの。いつもついてくんなって言ってるだろ。」

ダルそうに私にそう言い放つお兄ちゃん。

幼稚園の頃は桐乃といっぱい遊んでくれたのに、桐乃が小学校に上がってからは
お兄ちゃんは凄く冷たくなった。

「なんでよー。桐乃、お兄ちゃんと遊びたい。お兄ちゃんと遊ぶの。」

ふくれてお兄ちゃんに駄々をこねる。

「あのな、桐乃。お前、足遅いだろ。鬼ごっことか、けいどろするのはいいけど
お前すぐ捕まったりするだろ。あれ、いつもすっごい友達に迷惑かけてる気分に
なっちまうんだよ。」

「お兄ちゃんのバカッ!!」

桐乃だって足が遅いの気にしてるんだもん。桐乃はお兄ちゃんと一緒にいたいだ
けなのに。もー、絶対おっきくなってもお兄ちゃんのお嫁さんになんかなってや
らないんだから。そんな言い方しなくたっていいのに。お兄ちゃんのバカッ。お兄ちゃんなんて大
嫌い。ついに、泣いてしまった。

「桐乃、悪かったよ。泣くなっての。じゃ、桐乃が足速くなったら遊んでやるか
らよ。毎日遊んでやるから。」

「いや!今遊んでほしいの!」

「だから、今日は無理だって。次の日曜はいっぱい桐乃と遊んでやるから。なっ?」

「ほんとに?」

「あぁ。ほんとだ。」

「ほんとにほんと?」

「ほんとにほんと。」

「じゃ、指切りして。」

「わーったよ。ほら、指切りげんまん嘘ついたら針せんぼん…」

お兄ちゃんは桐乃に指切りをして、じゃお前もちゃんと夕方には帰れよ。と言い
残して行ってしまった。

寂しい。桐乃はお兄ちゃんが大好きで。ずっと一緒にいたいだけなのに。
足速くなって、お兄ちゃんともっといっぱいいるんだもん。

頭で考えると同時に体が動くように桐乃は家の一番近い公園へ向かった。

幼稚園の頃よくお兄ちゃんや友達と遊んだ公園だった。今は小学校の校庭で遊ぶのが
お決まりになっているので、小学生はあまり使わない公園である。

お兄ちゃんともっと一緒にいたい。

その一心で桐乃は公園で走る練習をはじめた。


その翌日の出来事、体育の時間に秋の運動会に向けて先生が5人一組形式の徒競
走の組み合わせを決めていた。小学二年になる桐乃には、嫌な思い出である徒競走である。

一年生の時、やはり徒競走があったのだが、結果はビリから二番目。丸々と太った子と
さほど変わらない形でのゴールだった。

そのことで、クラスの男の子から『高坂は、デブと変わらない、運動おんちの
高坂ザウルス!』などと、からかわれるようになったのだ。

そして、今回の徒競走の組み合わせは一年前からよく桐乃をからかっていたクラスで
一番足の速い男の子と一緒だったのだ。

「今年は高坂が同じかよ。張り合いねーな。楽勝だな!」などと先ほどから言い
たい放題である。

「そんなことないもん。」

「へっ!威勢だけののろまの高坂ザウルスのくせに!」

今年も最悪な徒競走だなー。凹んでしまう。



家に帰ると今日はお兄ちゃんも家にいた。

「ねぇ、お兄ちゃん。いつになったら桐乃と遊んでくれる?」

「…ん?そうだなー、今度の運動会で一等とったらみんなに頼んでやるよ。」

そう微笑んでかえす京介の笑顔が遠く感じる。

「わかった。桐乃頑張る。」

よりによってクラスで一番速いやつと同じ組になったのに。

「どうしたんだよ?桐乃!元気ないのか?」

お兄ちゃんの問に大丈夫と一言応え、桐乃は例の公園へと向かった。

それから、運動会の日まで桐乃は毎日公園に通った。桐乃の背中を押したのは
大好きなお兄ちゃんと一緒にいたいと思う気持ちだった。


動会の前日もいつものように公園で走る練習をしていた。

明日は運動会なんだから。絶対一等とって、お兄ちゃんに褒めてもらうんだから

桐乃はいつもより、夢中で練習していた。

ふと、我にかえったのはあたりがすっかり暗くなってしまってからだった。

高坂家の門限は夕方の6時である。

帰ったらお母さんに叱られるの決定だなと思った時、突然大粒の雨が降ってきた。
すぐに滑り台の下にあるトンネルの中に避難する。張り切って練習したせいか
しばらく俯いたまま疲れはててそのまま眠ってしまう。





「桐乃、帰るぞ。」

何分ぐらいそこに座り込んでいたのだろう。気が付くとお兄ちゃんがそこに傘を持ってたっていた。

「なんで、ここだってわかったの?」

「勘だよ。勘。運動場いっても、いなかったからなぁ。傘持ってないだろうと思
って探しにきたんだよ。お陰で門限破っちまった。帰ったら一緒におこられろよ。」

京介は数日前に必死で走る練習をする桐乃の姿をたまたま通りかかった時に見て
しまったことをふせてそう応えた。

「そっか。迎えに来てくれてありがと。わかった。」

やっぱり、大好きな桐乃のお兄ちゃんだ。やさしくて、頼りになって、すっごく
カッコいい。明日頑張って一等とるんだから。

「明日、一等とれるといいな。」

「え?お兄ちゃん、なんか言った?」

「いや、なんでもない。」

「へんなお兄ちゃん。」

かくして、高坂兄妹は家につくなり母にみっちり怒られるはめになったのであった。

運動会当日、先日の夕方に降った雨も夜には止み運動会はひらかれることとなっ
た。気持ちのよい秋晴れの中来賓の方や校長先生の長い挨拶を終え、担任の先生
の誘導に従って赤組、白組に別れ自分の出番を待つこととなった。

どうしよう

二年生による徒競走が近づくにつれ桐乃は緊張と不安でいっぱいになる。



いよいよ、桐乃の出番となった。先生の合図と共に次々と5人一組の徒競走がはじまる。
桐乃の組もスタートラインに立つよう指示され、いよいよである。

「高坂ザウルス、引き立て役ご苦労さん。」例の男の子である。

「ふん!今日は負けないもん。」

いっぱい練習したんだから。大丈夫なんだから

「いちについて、よーい…ドン!!」

先生の合図と共に走りだす。

あれっ?去年はこの時点で他の子と差ができていたのに、今年は例の男の子の
後ろにはりつく形になった。

体が軽い

いけるいける

例の男の子との差も縮まる。

親御さんの歓声の中、桐乃は夢中で走る。

一等とってお兄ちゃんと一緒にいるだもん

夢中で走る

ゴールは目前

男の子と肩を並べる

「おぉ!!」歓声が大きくなる。

ぬく

と、思われた瞬間だった。

えっ!?

男の子の背中が遠くなる。

桐乃は地面にけつまづいて大転倒した。

歓声が「あぁー」っと、いう声にかわる

後ろを走っていた子が次々と桐乃を抜いていく

あともう少しだったのに

泣きそうになる。

「桐乃ー!!最後まで走りきれー!!頑張れー桐乃ー!!頑張れー!!」

聞き慣れた声がする。

声のする方を見るとお兄ちゃんが、力いっぱい叫んでいる。

頑張るんだ

桐乃はコクリとうなずいて、ゴールに向かって走りだす

「よく頑張ったー」歓声と親御さんの温かい拍手の中桐乃はゴールした。



結果はビリっけつの五位。
「桐乃、そんないつまでもすねないで。桐乃可愛いんだから、ほら笑って。
写真とるよ。」

閉会式を終えて記念写真をとる。

最後まですねてしまった記念写真。

あと少しだった。ほんの少し。

家族と共に夕暮れの小学校をあとにし、家路につく。

「おい。桐乃、お前いつまですねてんだよ。」

「だって…」

ビリっけつの五位。こんなんじゃ、お兄ちゃんと…無理じゃん。練習もいっぱい…

また泣きそうになる。

「確かにおしかったなぁ。でもな、今日のお前すごかったよ。カッコよかったぞ
。お前一生懸命練習してたもんな。その成果がでたって感じだったよな。今度、
みんなに桐乃も仲間に入れてくれって頼んでやるからよ。」

えっ??今なんて!?練習…?成果…?なんでお兄ちゃんが知ってるの?

「れ、れ、練習なんか、桐乃してないもん。なんでそんなこと、お兄ちゃんが…」

「知ってるよ。だって、俺はお前の兄ちゃんだからな。」

そう言って夕日の中微笑みかけるお兄ちゃん。

桐乃の大好きなお兄ちゃん。
大好きな、優しいお兄ちゃん。

「お兄ちゃんのバカッ!でも、大好き!」

桐乃は大好きなお兄ちゃんの胸に飛び込んだ。

おっきくなったら絶対結婚しようねお兄ちゃん!




…り…の……きり…の…「おい。桐乃。起きろ!なんでこんなトコで寝てんだよ
。」

気が付くとそこに、兄貴が傘を持って立っていた。

「あれ?お兄ちゃん、なんでここに…?」

「えっ?お、お、おに、お兄ちゃん??」

……思考回路がまわってくる。と共に、桐乃の頬が真っ赤紅潮する。

「うっさい。ほっとけ。この変態!!」

「傘持って迎えに来てやった兄貴に向かって変態だと。…ほら、今日晴れだって
っつって傘持っていかなかったろ?」

「あっそ。…で、アンタなんでここってわかったの?」

「ん?勘だよ。勘。なんてったって、俺はお前の兄貴だからな。」

そう言って傘を私に渡す兄貴。

「なっ、…キモッ。……ほんと、アンタって変わらないわね。地味ってゆーかな
んてゆーか。」

不意討ちされてとっさに照れ隠し。まっ、私も変わらないか。この公園から今も
走り続けてるんだもんね。

「うっせー。ほっとけ。なんだってんだ。」

「あっ、そーだ。アンタ、今度の日曜日私を秋葉つれてきなさい。エロゲー買う
からアンタ必要だし。」

「またかよ。…わーったよ。ついてってやるよ。それより、お前足大丈夫なのか?」

傘をさし、歩きだす京介。

「アンタ、妹が可愛いからって、日曜足大丈夫か痛くなったら休憩しようって、
ラブホとか入ったら殺すわよ。」

憎まれ口をたたきながら、私は兄貴の後ろを歩きだす。

その背中を見て思う。

最近、素直になれないなぁ。って。
でも、ほんとに変わらないなぁ。優しくて頼りになって、カッコいい私の大好き
なお兄ちゃん。やっぱり私、今でもお兄ちゃんのお嫁さんになりたいな。
大好きだよ。お兄ちゃん。




―――それは遠い記憶のあなた―――
―――それは甘くて少しほろ苦い―――
―――大好きなお兄ちゃんとの大切な思い出―――
―――今でも続いてるお兄ちゃんへの思い―――




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最終更新:2011年01月24日 11:38
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