とある少女の最悪結末


「……ただいま」
仕事を終え、誰もいない部屋に帰ってくる。
音もなく狭く、寂しい部屋。返事など当然、ない。

「……疲れた」
着替えもせずにベッドに倒れ込む。
スーツの皺なんて、知ったことじゃない。

「……忙しいだけ、幸せなのかしらね」
今日を生きるために働いて、明日を生きるために寝る。
きっと多くの人間が送るような、“普通“の毎日。

「……明日も仕事、か」
かつての夢なんて、とうの昔に捨ててしまった。
夢を追いかけるだけでは、生きていけないから。

「……彼らはどうしているかしら」
今日もまたいつものように、かつての友人たちを思い浮かべる。
自分自身の弱さから、離れてしまった大切な友人たちを。

「……沙織」
孤独だった私を救ってくれた、大切な恩人だった。
以前一度だけ覗いてみたら「オタクっ娘あつまれー」の管理人はまだ続けているらしい。
彼女に黙ってコミュニティを抜けて、音信不通になってしまい申し訳なく思っている。

「……あの女」
私の最大の壁であり、同時に理想であり、そして大切な友人だった。
雑誌で姿を見掛けないところを見ると、もうモデル業は続けていないようだ。
でもきっと彼女の兄と、その伴侶と仲良くしていることだろう。―――そして

「…………先輩」
あの女の兄であり―――私の、初恋の人だった。
“大嫌い“な妹のために、自分を犠牲に出来る人。
自分になんの見返りもないのに、私を助けてくれた人。
彼の受験が終わったその時には、想いを打ち明けようと思っていた。
けれど私が一歩を踏み出せずにいるうちに、彼は―――


「……遠慮なんてしなければよかった」
どれだけ後悔してもし足りない、忘れられない記憶。
他の誰のせいでもない。待っていた私が悪いのだ。

「……でも、あの時想いを告げていたところで……」
私などではあの女や、あの少女になんてきっと敵わない。沙織や田村先輩とも比べるべくもない。
性格も容姿も才能も生まれも立場も、何もかもが劣る。私に勝てる要素なんて、一つとしてない。
ただひたすらに劣等感が全身を、精神を蝕む。今の私は、かつての私以上の劣等感の塊となってしまった。

「……せめて友達でいればよかったのに」
でも見たくなかった。見ていられなかった。彼が知らない誰かと幸せになっている姿なんて。
私の弱い心は友達で収まることを許さず、皆の前から姿を消すことを選んだ。
せっかく手に入れた何もかもを捨てて―――私はまた孤独に戻ってしまった。

「……どうしてこうなったんだろう」
何より大切だったのに、自分が一番分かっていたのに。
それを自ら捨ててしまった愚かさに涙が溢れてくる。
そして未だに立ち直れない情けなさに心が押し潰される。

「……戻りたい……あの頃に……」
もう戻れない、あの頃には。
あんな幸せな日々は、二度と私には訪れない。
私はあの時―――選択肢を違えてしまったのだ。

「……こんな世界……滅んでしまえばいいのに……」
心に浮かぶ呪詛を、今日もまた口にする。
ちっとも自分の思い通りにならない世界を恨みながら。
最善の結果を求めて全力を尽くさなかった自分自身を呪いながら。

「……私は……本当の私は……」
後悔で真っ黒に塗りつぶされた胸の中。
きっと死ぬまで、晴れることはない。
独りぼっちで、重い十字架を背負い続ける。

「……こんな……はずじゃ……」
誰かにとってのハッピーエンドは他の誰かのバッドエンド。
この世界の私はきっと―――バッドエンドなのだ。

【了】





「……それで?この暗黒物質は何なのかしら?」
「いや~、あやせルートのあんたがあんまり不憫だからさ~、ついついアフターストーリー書いちゃった!」
「ククク、本気で死にたいようね、あなた……いいわ、今すぐ表に出なさい」
「も~、そんなに怒んなくてもいいじゃ~ん。これはあくまでもあやせルートの二次創作なんだからさ~」
「それにしたってこれは酷いわ……そういえば、あの修羅場には私もいたのに普通にスルーされていたわね……」
「ま、まぁ流石にそこまで頭回んなかったってことにしとこうよ……」
「……ふん、別に気にしてなんかいないわ……『あの世界』のヒロインは私でなければ、あなたでもないのだから……」

「…………ねぇ」
「…………何かしら?」
「あたし達……7巻でいろいろあったじゃん?」
「……そう、ね」
「まだ8巻で何が起きるか分かんないけどさ……」
「……」
「『これ』みたいに、あた……皆の前からいなくなったり……しないよね?」
「……さぁ、どうかしら。あなたに未来が分からないように、私にもそれは分からない」
「……」
「でも一つだけは言える。私は7巻で、私にとって最善の結果が得られるよう全力を尽くすことを決めた。何もしなかった『あの世界』の私とは違う」
「……!」
「全力を尽くした上での結果なら、絶対に後悔なんてしない。たとえそれがどんな結末だとしてもね」
「それじゃあ……!」
「……ええ、心配しなくてもいいわよ?8巻のラストでは私のことを『義姉さん』と呼ぶ権利をあげるわ」
「は、はぁ!?ふざけんじゃないわよ!絶対そんなの認めないんだからね!」
「精々足掻くがいいわ。まぁ、少なくとも何らかの形で恋人になることは決まっているのだけれど」
「うっがあああああああ!ムカツクムカツクムカツク!………………何よ、せっかく心配してあげたのにさ……」
「……ありがとう、と言っておくわ。……『あの世界』で親友、と呼んでくれたことにも、ね」
「……ふん、馬鹿じゃん?」
「そうね、お互いに」

 END




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最終更新:2011年01月31日 00:03
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