「来栖」
担任のセンセが加奈子の名を呼ぶ。
この瞬間、加奈子、一番イヤーな瞬間なんだよね。
「加奈子? どうだった?」
あやせがいきなり食いついて来やがった。
このでかいブスのせいで、今日は特にイヤな感じだぜ、まったくよぉ。
「あ、いやー、大丈夫だったぜ。余裕じゃん?」
「か・な・こ? 何点だったの?」
「だから余裕だっつってんだろ!?」
「見せなさい!」
そう言うとあやせは、さっき返されたテストの答案をかっ攫いやがった。
「56点‥‥‥」
「いやー、ちょこっとチョーシ悪かったから仕方ないんじゃね?」
「加奈子、あなたねえ‥‥‥」
あやせのヤツ、加奈子の成績が悪りーからっつって、テストの点数が悪かったら
サシで勉強会をすると言いやがった。
しかも最初は90点以下だったら勉強会とか抜かしやがって。
そんな点数、加奈子には縁がねえし、ポーダーを60点に下げさせたんだよ。
そこで56点だぜ? 勉強会ケテーイじゃん! しかもこのブスと!!
あーやってらんねー。
あやせとの勉強会なんてバックレるしかないっしょ。
つーワケで、あやせの目を盗んで帰ることにしたんだわ。
ラッキー♪ あやせ、居ねえでやんの。
後は靴を履き替えて、下校なうってカンジ?
―――って、加奈子の靴、ドコ? ねえじゃん?
「か・な・こ? 探し物はこ・れ・か・な?」
透明感のある悪魔の声に加奈子が振り向くと、あやせが居やがった。
手には加奈子の靴。やられたぜ、チクショー。
「さあ、勉強会しましょ。わたしたち、友達でしょ?」
この女に逆らってもロクなことがねえから、腹括るしかねえな‥‥‥
「んあー、疲れたー」
思わずそんな言葉が出てしまうほどの勉強会だったぜ。
あのブス‥‥‥、いや、思い出したくねえ。
今度こそはボーダーを超えねえとな。体が持たねえよ。
すっかり暗くなった道を家まで歩いていると、スーパーの前に小さいガキが居た。
独りなのか? 親とか居ねえのかよ? んー? よく見ると女の子か?
最近、おかしなヤツが居るからヤベエだろこれ。
そのガキの様子を見ていると、何やらぬいぐるみを持っている。
よく見るとメルルじゃん。へー。キモオタばかりじゃなく、ガキにも人気なんだ。
「ねえ、はやくおしごと、おわらないかな」
ガキがぬいぐるみのメルルに話しかけている。
ははーん。つまり母親がこのスーパーで働いていて、
この子は仕事が終わるのを待っているってことか。ちょっと泣けるじゃん。
「メルルも、はやくかえってくればいいとおもう?」
くぅー! 加奈子、こういうのに弱ええぜ! 早く帰ってこいよ、母親よ!
「メルルとおはなしができたら、いいのにな」
あのガキ、泣きそうだし。やってやろうじゃねえか‥‥‥!
あのガキに背後からこっそり近づいてやった。
「ねえ、メルル‥‥‥」
『まだまだ勝負はこれからだよ!!』
「え!? メルル?」
『そう! 星くず☆うぃっちメルルだよ!』
「ほんとに!?」
『メルルはいつも一緒! ずっと一緒だよ!』
「うん、ずっと一緒!!」
『だから寂しくなんかないんだ! 泣かないでいつも元気いっぱいに居ようね!」
「はいー」
うへえ。いつの間にか、大きなお友達ばかりか、
小さなお友達まで扱えるようになっちまった。プロ意識怖えええ。
「あ、ねえさま!」
ん? 母親じゃなくて姉ちゃんを待っていたのか?
やべ。変な人扱いされたら面倒だから、さっさと退散するか。
んじゃな。
「来栖」
担任のセンセが加奈子の名を呼ぶ。
この瞬間、加奈子、いつまで経っても慣れねえんだよな。
「加奈子? どうだった?」
あやせがまた食いついて来やがった。
「あー、ハイハイ。44点でございました!」
加奈子の答案をヒラヒラさせながらあやせに見せてやった。
「一体どうなってんのよ!? 全然ダメじゃないの!!」
うっせ、ブス! オメーの教え方が悪りいんじゃねえのかよ?
「また勉強会ね。覚悟しなさい!」
つーワケで、加奈子の家で勉強会をすることなっちまった。
あやせと一緒に加奈子の家まで歩いていると、あの決め台詞が聞こえてきた。
『いっけえ―――! めてお☆いんぱくとぉぉぉぉ!』
声の主を探すと、幼稚園の庭で遊んでいるガキが目についた。
お? よく見るとこの間のガキじゃん。男の子、女の子と混ざって遊んでやがる。
ふーん。すげえ元気じゃん。加奈子のアレも無駄じゃなかったってコトか。
小さなお友達にも大人気か。加奈子、すごくね? きひひ。
「加奈子? 何を笑っているの?」
「なんでもねえよ。さ、早くウチまで行こうぜ! 競争だ!!」
「え? 加奈子? 一体なに?」
「へへーん、追いついてみろってーの!」
「加奈子! さては逃げる気ね! 待ちなさい!!」
「いやーだね、ここまでおいで―」
「かーなーこー!!」
最終更新:2011年03月08日 14:03