その日あたしは部活を休んで早めに家に帰ってきていた。
別に具合が悪いわけじゃない、機嫌が悪いだけだ。
それというのもアイツ――あたしの兄貴が鈍すぎるから。
普通ならここまで女の子から合図送ってたら気付かない方がおかしいよね!?
なんとなく今までの努力も無駄な気がしてきててクサクサする――
意味も無く眺めていたテレビもあたしを慰めてはくれない。当たり前だ。
だって求めているものはただ一人だけなのだから―――
「ただいまー」
玄関から声がする――アイツの声だ。
ふん、こんなに思ってるのに気付いてくれない奴なんか無視してやる!
寝たふりを決め込んでただ時間が過ぎるのを待つ――
アイツはいつものようにリビングに麦茶を飲みに入ってきた。
「うわ!?なんだいたのかよ」
何を驚いてるんだろう?あたしを見るのがそんなに嫌なの?
「・・・寝てんのか?」
プッ、騙されてやんの!いい気味だ。笑いをこらえながら寝たフリを続ける――
・・・・・・・・・・
おかしい、何も気配がしない。アイツはどこへ行ったんだろう?
そう思っていたら誰かの手があたしの髪に触れた――
何?何?何が起こってるの?囁くような声が聞こえてきた。
「・・・人の気もしらねーで・・・」
どういう意味?それを言いたいのはこっちなのに――
優しく頬をなでる手は暖かく、次第に何かが顔に近付いてくる気配を感じた。
ふっ・・・と優しくあたしの唇に何かが触れる――
それがアイツの唇だとわかるまでどれくらい時間がかかったんだろう?
ううん、触れていた時間はきっと凄く短い。あたしが長く感じただけだ。
「やっぱり俺じゃ起きないよな」
何か自嘲するような声だ。どういう意味なの?
静かに立ち去っていく足音がとても悲しく響く――
『待って!!!』
そう言いたいのに声が出ない――ガチャリと扉の音が冷たく響いた。
心臓の鼓動が凄くうるさい、おかげで考えがまとまらない――
何故だか涙が次々と溢れてくる。
どう表現すればいいのかも分からない感情が次々と溢れてくる。
「―――もう、何がなんだかわかんないよ。バカ兄貴・・・・・」
fin
最終更新:2011年03月22日 01:00