るりのもの 03


千葉の堕天聖である私は今、
私の中に秘められた魔力を全て解放していた。
そうしなければならない理由があったからだ。

田村先輩―――いえ、悪魔ベルフェゴールからの
強力な攻撃に、耐えなければならなかったのだ。


『本当にごめんね、五更さん』

「………」


電話越しのその女の声は、
その声質だけを取れば極めて無害な響きを持っている。
しかし―――


「先輩、謝ることなんて何もないわ。
 つまるところ、京介と田村先輩の間には何もなかったのでしょう?」

『ううん、謝らせて、五更さん。
 きょうちゃんが、すごく興奮していたのは事実だから』


――ほら、本性を現してきたわね。
夏の終わり、あっさりあなたが身を引いた時は拍子抜けしたのだけど。
やはりベルフェゴールたる本質は、親友から聞いた通りだったわ。
この窮地、絶対に乗り切ってみせる。


『きょうちゃん、私のおっぱい凝視してたし………』

「………」

『ほら、きょうちゃんは巨乳で眼鏡の子が好きみたいだから』

「……な、なぜあなたがそんなことを知っているの」

『え?だって、子どもの頃からずーっと一緒だもん』

「………ふん。分かっているでしょうけれど、京介の―――」

『もちろん!きょうちゃんの彼女は五更さんだよ!』

「わ、分かっているならいいのだけど」

『私はただちょっと、五更さんよりもきょうちゃんのこと知ってるってだけ』

「……ふ、ふっ、それはどうかしら?」

『で、でも別に五更さんからきょうちゃんを奪おうとか考えてないんだからね?』


ぜ、絶対考えているじゃない。奪う気まんまんにしか聞こえないわ。
想定していなかったわけではないけれど、こんなに黒かったなんて。
数ヶ月前の田村先輩とはまるで別人ね。

『それに、ちょっと心配してるんだよ、私は』

「あら、あなたに心配される筋合いはないわ」

『きょうちゃんは胸が大きい女の子が好きだけど………』

「……何が言いたいの?」

『五更さん、きょうちゃんを満足させてあげられてるの?』

「―――っ!?」

『きょうちゃん、私のおっぱいにあんな釘付けになるなんて』

「………」

『おちんちんも、すごくおっきくなってたし』

「……黙りなさい」


口を閉じた方がいいわ。
それ以上何か言ったら泣くことになるわよ。
……私が。


「でも、勃起させても襲ってもらえないなんて。
 先輩は、女としての魅力によほど欠けているのではないですか?」

『うーん、なんかだかなぁ…
 私の魅力とは全く別の、何かの理由がある気がするんだけど』


ドキッ

私には思い当たる節があった。
おそらく、京介がズボンを下ろさなかった理由は『アレ』だろう。


「さ、さぁ、知らないわね。
 とにかく私もあまり暇ではありませんので、この辺で失礼します」

『そっか、やっぱり何か理由があったんだね。
 それじゃあ、最後に一つだけ聞かせて?』

「………何かしら」

『五更さん、きょうちゃんを幸せにする自信はある?』

「……失礼します」

電話を切ると、どっと疲れが襲ってきたようだ。
自分で意識することなく、自然とため息が口から漏れ出る。


「はぁー……危なかったわ」


アレがなければ、京介はそのままあの女と体を重ねていたかもしれない。
そう考えただけで鳥肌が立ち、寒気がする。


『五更さん、きょうちゃんを満足させてあげられてるの?』


私は自分の胸を触り、再びため息をついた。


『女としての魅力によほど欠けているのではないですか?』


あのセリフは、田村先輩に向けたものではない。
断じて違う。

彼が浮気をしなかったのは、私への愛情とは全く別の問題だ。
私は、彼の心をつなぎとめることすらできないこの体を呪った。


◇ ◇ ◇


相手を追い込む場合は、自分のホームグラウンドでやる方がやりやすい。
前に沙織がニヤニヤしながら言っていたことだ。

沙織の場合は、しつこい求婚者を断る時に秋葉原で立ち回ったそうだが。
私は私のホームグラウンドを選んだ。


「る…瑠璃………さん?」


今いるココは私の部屋。
私は仁王立ちの状態で、正座している彼―――京介を見つめる。


「私に何か、言うことはある?」

「な、何だっつーんだよ!俺にはさっぱり……」

「私に言う事があると思うのだけど」

「…………………な、何を根拠に」

「田村先輩から謝罪されたわ」

「ごめんなさい」


私は最低のヘタレの顔を見下す。
……はぁ、まったく、この男は。

「あ、あの、でもな、あれはお酒が―――」

「酔っ払ってたら何をやっても良いと?
 じゃあ私がお酒を飲んであなたを殺しても文句ないわね」

「いやちょ、でも結局なにもしてないし…」

「おっぱい押し付けられて勃起してた男が何を今更」

「いやまぁそれはその……男の生理というか」

「あらあら、ようやく自分が最低の雄だと自覚したのかしら」


私は彼を見つめ、心の中でため息をつく。
本当は、こんなに責め立てるつもりではなかったのだけど。

浮気といっても未遂だ。彼の言う通り、結局何もしていないのだから。
今後、あの女と二人で会わないという約束を取り付けられればいい。
そう思っていたのだけど―――


「だいたい、最後までしなかった理由は『アレ』でしょう?」

「……『アレ』って?」

「あなたのペニスに書かれた―――」

「あ、あぁ……」


彼は立ち上がると、ズボンを下ろした。
私は少し身をかがめ、彼のモノを見つめる。


「これな……風呂で洗っても全然落ちねぇんだ」


彼のペニスには、妹の字で『るりのもの』と書いてあった。
先日、私と彼が部屋で寝ているときに、下の妹の珠希が書いたものだ。

最近あの子は『所有物に持ち主の名称を書く』というのを覚えて―――
彼のペニスにまで書いてあるのを発見したときは、腹筋が壊れるほど笑ったわ。

当然その後、もう私の部屋を覗くのは禁止だと、きつく言い渡したのだけど。
人生、何が幸いするか分からないものね。


「確かにこれは、俺が人前でズボンを下ろせない理由の一つではある」

「そうね……だから田村先輩の誘いも断ったのでしょう?」

「……違うよ」


彼は私を抱きしめた。
いつもなら、私の心臓は高鳴るはずだった。

―――はずだったのに。
なぜだろう、私は彼の腕から何も感じることができない。


「……離して」

「違うんだ、瑠璃。俺が麻奈実を断ったのは―――」

「私が好きだから、とでも言うつもり?」

「――そうだ」

「離して!」


私は彼の腕を振りほどき、彼から目をそらす。
彼はズボンを半脱ぎの情けない格好で固まっていた。


「早くズボンを履いたらどう?」


私の言葉に、彼はおずおずとズボンをずり上げる。
まったく情けない男。

情けなくて、変態で、ヘタレで、察しが悪くて。
それでも彼の優しさだけは、信じていたのに。


「私はもう、あなたが分からない」

「瑠璃………」

「あなたの腕から、何も感じられない」

「………」

「信じることができない」

「……ま、待ってくれよ」


田村先輩ほど胸が大きいわけではない。
私の貧弱な体では、この人だって満足しないのだろう。

今となっては、なぜこの人が私を恋人にしてくれたのかすら、
私にはさっぱりわからない。

私はこの人が好きだ。
私の人生は、この人と出会った事で初めて輝きだしたのだから。
それでも―――


「………もう、終わりにしましょう」


なぜだろう。
話し出す前は、こんな話をするつもりなどなかったのに。

『五更さん、きょうちゃんを幸せにする自信はある?』

ベルフェゴールの最後の言葉。
あれが呪いとなって私に突き刺さっているのかもしれない。


「私には、あなたと付き合っていく自信がないわ。」

「瑠璃………」

「こんな貧相な胸で、体で、あなたは興奮しないでしょう」

「ちょ、ちょっと待てよ」

「私より田村先輩の方があなたのことを知っているのでしょう」

「おい、待てよ」

「私なんかより、こんな私より―――」

「いい加減にしろお前!!!」


―――っ!?

初めてだった。
この人からこんなに本気で怒鳴られるのは。

私はびっくりして、一瞬言葉を失ってしまった。


「俺が浮気をしなかったのは、お前のことが好きだからだよ」


あまりにも真っ直ぐな言葉に、私は少し動揺してしまう。


「何勝手に決め付けてんだよ。
 俺が一緒にいたいって、そう思ってんのはお前しかいないんだ」

「………ウソよ」

「ウソじゃねぇよ」

「だって私はこんな―――」

「――お前の太ももが大好きだ!!!」


な、何っ!?
と、突然何を言い出すのあなたは?

「 俺 は お 前 の 白 い 太 も も が 大 好 き な ん だ よ ! ! !
 細身の体だってすげー欲情するんだぜ!!!」

「な、何よ突然……」

「だ、だからよ、お前の体で興奮しないとか、ありえねぇって」

「……た、ただのセクハラじゃない………」

「そう取ってもらって結構だ。それと………」


そう言うと、彼は少しためらってから言った。
私は彼の口から出てくる言葉を聞き逃すまいと、身を硬くしていた。


「俺と一緒に暮らさないか、瑠璃」

「―――えっ」


それはあまりにも突然で。
どんな言葉が来ても対処するつもりだったのに。
私の頭は真っ白になったまま、何の言葉も生み出せずにいた。


「ほ、ホントはさ。大学決まってから、切り出すつもりだったんだ」

「京介……」

「大学は家から通える距離なんだけど、
 やっぱ一度はさ、親元から離れるのも必要だと思ってよ」

「………」

「で、お前も家の事とかあるし、完全に同棲は無理だろうけど。
 その、週の半分くらいは俺の家で寝泊りして、一緒に生活できないかなって、さ」

「………」

「だ………ダメか?」


ダメじゃない。
ダメじゃないに決まっているじゃない。
嬉しい。


「お、おい、泣くなって。ってかなんか答えろよ」


好き。
大好き。
京介………私。

「その、俺、本気でお前のこと―――」

「……し、しつこいわね。
 何度も言われなくても、もう分かったわ」


やっと分かった。莫迦な女ね、私。
ベルフェゴールのあんな言葉を真に受けたりして。
私が見るべきだったのは、目の前のこの人だけでよかったのに。


「それで、返事は?」

「ふん。どうしてもと言うのなら、考えてあげなくもないわ」

「そっか……ありがとう。楽しみだな」


そんな見透かしたような目で見ないで頂戴。
恥ずかしいじゃない。


「ようやく普段の調子に戻ってくれたみたいだな」

「あら、どの口がそんなこと言うのかしら」

「………この口だ」


彼は突然私にキスをする。
私の頭の中は、とろけそうになってしまう。

嫉妬、喜び、感謝、愛情、憤怒―――
すべてが混ざり、溶け合って。
そのすべてが私を構成していた。

その夢のような世界へと溶け出してしまいそうな私を、
現世につなぎとめているのは、彼の唇の感触ただ一つだけ。

彼の唇から、私の中に暖かいものが伝わってくる。

唇を離すと、私は彼に問いかけた。


「……許してほしい?」

「あぁ…許してくれ」

「……許して『くれ』?」

「…ゆ、許して下さい瑠璃様」

「…ふ、ふん。仕方ないわね」

もう大丈夫。
今のやりとりは、いつもの会話だ。
ここにいるのは、いつもの京介だ。

やっと帰ってきた。
かけがえのない私の恋人。


「一つだけ、約束して」

「ん?なんだ?」

「あ…あの女ともう、お酒は飲まないで」

「…あ、あぁ。こんなことがあったしな。
 もう飲まないよ」


そして、私たちは再びキスをする。


◇ ◇ ◇


「ほーら、これでどう?」

「る、瑠璃………うっ」


布団の上に裸で寝ている京介。
私は彼のペニスを、足でしごいている。


「ふふふ。とんだ変態ね。この足が好きなのでしょう?」

「す、すげぇ気持ちいい………」


今まで手や口でしたことはあったけれど、
こういう風に足を使ってするのは初めてだ。

……というか、こんなプレイもあるのね。
彼の変態ぶりもたいしたものよ。

「はぁ……はぁ……なぁ瑠璃」

「どうしたのかしら、変態さん」

「舐めてもいいか?」

「―――えっ?」


私が答えるより先に、京介は私の足を舐め始める。


「―――ひゃんっ!」


へ、変な声が出てしまったじゃない。

彼の舌は私の足のつま先から、ふくらはぎへと移動した。
そのまま私の足の間に入り、太ももの内側を舐める。


「はぁん………舐めてもいいとは………あぁん……言ってないわ」

「……ふん、じゃあやめちまうか?」

「………意地悪なこと言わないで頂戴」


私の反応に満足したのか、彼は再び私の太ももを舐め始める。
そして、私の中心に向かって、じらすように少しずつ移動してくる。


「はぁん……はぁ……あぁ………京介ぇ………はぁ」


もう少し。
もう少しで私の秘所に彼の舌が―――


「ふふ、まだおあずけだよ」


彼の舌は反対側の足に移動する。
―――そ、そんなに焦らされたら私。


「あ、あんまり焦らさないで。早く入れて頂戴」

「とんだエロ猫さんだな」

「言ってなさい」


私は反撃とばかりに、彼のペニスを口に含んだ。

「んっ………んふっ………はんっ……っぷぁ…」

「くっ……ぁ…お、お前ホント上手くなったよな」

「んはぁ………わ、私の魔力を持ってすれば、簡単なことよ」

「ふふっ、そういうことにしといて………うぅっ…ふ、不意打ちだぞ」

「ぴちゃっ………レロ……ふふふ、かわいいこと」


彼のペニスには妹の書いた文字が残っている。
『るりのもの』―――そう、私のもの。

絶対誰にも渡さない。
大切な、私だけの、恋人。


「ねぇ、入れて頂戴」

「あぁ、入るぞ、瑠璃」


んんっ………

何度繰り返しても、この快感は飽きることがない。
大好きな人が自分と一つになる感覚。

それに、今日は格別だった。

心のずっと奥底で、私は不安だったのだろう。
私のこの体が、女としての魅力に欠けているのではないかと。


「あぁ……あぁん…あん…は、激しいわ」


それが、彼はこんなにも激しく私を貫いてくれる。
思えば、今までだってそうだったのだけど。

彼の妹もとても魅力的な体をしているし、
彼の幼馴染だって女らしい体をしている。
沙織にしたって、服装はともかく体型は………

それに比べて私はどうだろう。
こんな貧相な体。健康的ではない白い肌。
ずっと鏡で見ては、コンプレックスを抱いてきた。

「好きだ、瑠璃………あぁ、すげぇエロいぜ……」

「んぁ……ば、莫迦……んん」


そんな私に彼は言った。太ももが大好きだ、と。
そして、一緒に暮らしたいと。

私は、私の体を恥じることを、しなくてもいい。
一緒にいることで、彼を幸せにすることが出来る。



彼は何度も何度も私を貫く。
イきそうになっては体位を変え、できるだけ長く繋がろうとする。
そして、いろいろな角度の私を愛してくれる。


「瑠璃っ……はぁ…はぁ……もう我慢できなそうだ……」

「……んん……はぁん……き、今日は中に出してもいいわよ」

「………ん……はぁ………あ、安全日なの?」

「……あぁん……む、むしろ危険なのだけど」

「……せ…責任取れってことかよ」

「………んはぁん……あぁ…その覚悟もないと?」

「…………バカ……覚悟とかじゃねぇだろ」


あぁ、私だって頭では分かっているわ。
今子供が出来てしまっても困るじゃない。
頭では、分かっているつもりよ。

彼の腰の動きが加速していく。


「はぁ…あぁ…あぁ…あ…ダメ、私…あぁ…」

「くっ…お、俺も……うっ」


今はいい。子供を作るのなんてもっと先の話でいい。
彼にその覚悟と準備ができるまで、私はいつまででも待てるもの。

「……はぁ…瑠璃っ、もうイクっ」

「…京介ーっ!」

ドクンっ ドクンっ


彼は、ペニスを抜かなかった。
私の中の、一番奥深くで、ためらいもせずに、精を放出した。


「はぁ、はぁ……瑠璃………」

「京介………」


私は彼を見つめる。

あれ?

彼の顔がぼやけて見えてしまう。


「ばかやろう、何泣いてんだ」

「だ、だって」


私は彼の気持ちが嬉しくて、嬉しくて仕方ない。


「あなたのコレは、私のものよ」

いつかのように、私は彼のモノを握る。

「コレだけじゃないだろ?」

彼は表情を崩し、私の頭に手を置きながら言った。

「俺の体は、全部お前のものだよ」


………莫迦。

私が涙を流しすぎて魔力を失ってしまったら、それはきっとあなたのせいよ。

◇ ◇ ◇


「ききましたか?日向おねぇちゃん」


妹が話しかけてきた。
んふふー、しっかり聞いてたもんね。

にしても、今日も瑠璃姉と高坂君のエッチ、すごかったなぁ。
私はまだよくわかんないけど、大人になったらあーゆーことするんだよね。

いやー、瑠璃姉もすっかり『大人の女』って感じ?


「はい、これもってきましたよ!」


妹からマジックを受け取って、と。

この前、珠希が高坂君のおちんちんに名前を書いたのは面白かったけど。
結局あのあと瑠璃姉に怒られてたからなぁ。

でもさ、面白そうだから私もやってみたかったんだよね。
おちんちんに名前書くの!ぷぷぷ。

しかも今回は……


「日向おねぇちゃん、がんばりましょうね」

「うん、今回は大掛かりになりそうだからね」


なんてったって今回は、おちんちんだけじゃないもんね。
高坂君言ってたもん。

『俺の体は、全部お前のものだよ』

さーて………ぷぷっ………よし、やっちゃうぞーーー!



おわり




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最終更新:2011年04月08日 09:05
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