今日は、大好きなかなかなちゃんとお買い物に来ています。
日本で働くことになって、初めは不安がいっぱいだったけど。
かなかなちゃんと仲良くなって、今は毎日が充実しています。
かなかなちゃんはメルルのことをあまり知らないので、
また今度イベントもあるし、私が教えてあげなくちゃ。
ってことで、秋葉原まで来ていたんですが―――
「おう、かわいいじゃんかよ。遊ぼうぜー」
こ、こわいお兄さん達に絡まれてしまいました。
4人組で、みんな筋肉ムキムキです。
「て、てめぇらブリジットに指一本触ったら……」
「くくく、プルプル震えちゃって」
「その反抗的な目、ゾクゾクするぜ」
どんなにかなかなちゃんが強がっても、男の人たちには敵わない。
ここは裏道で、人通りも少ない場所なので、助けも望めません。
は、早く逃げなくちゃ。
「二人ともロリかわいいなぁ……久々の上物じゃねぇですか、ボス」
「だな。ん?どこかで見覚えが」
「―――きめぇんだよ」
かなかなちゃんの前蹴りは空を切りましたが、
一瞬の隙にかなかなちゃんが私の手を握ります。
「チッ、逃げるぞブリジット」
「う、うん」
男の人たちの脇を抜けると―――
「おおっと、逃がさねぇよ」
「痛っ!?」
男の人に腕をつかまれました。
「逃げて、かなかなちゃん!」
「バカやろう、かなこだけ逃げられっかよっ!」
かなかなちゃんは私の腕をつかんだ男の人に立ち向かっていきます。
でも―――
「っと、じゃじゃ馬だなぁこりゃ」
「は、離せよ!」
「ハハハ、その方が楽しめるってもんだ」
あっという間に後ろから羽交い絞めにされてしまいました。
男の人の手が、かなかなちゃんの胸に伸びます。
「や、やめろ!やめろー!」
こんな、こんな目に遭うなんて……
私がかなかなちゃんを誘わなければこんなことに。
怖い。悔しい。悲しい。
私の目から涙がポロポロ溢れてきたその時でした。
「待つでござる」
振り返ると、そこには。
すごく高い身長。
モデルのようなボディ。
綺麗な髪。
そしてそれを全て台無しにする
いかにもオタクという感じのファッション。
グルグル眼鏡をかけたその人は、
腕を組み仁王立ちの格好で言いました。
「この秋葉原にて、勝手な真似はさせないでござるよ」
その堂々とした出で立ちにあっけに取られながら、
ボスと呼ばれていた男の人が口を開きます。
「誰だ貴様は」
「今の私は……マキシマム沙織、とでも名乗っておきましょうか」
「ふざけてんのか?……てめぇら、やっちまえ!」
それは、一瞬の出来事でした。
息をする間もなく、男の一人が地面に倒れました。
頭から落ちたのでしょう、白眼をむき、泡を吹いています。
私もかなかなちゃんもあっけにとられ、
逃げるのも忘れてその場に座り込んでいました。
圧倒的なパワーを持ちながら、それを直接ぶつけることはしない。
むしろ男達の力のベクトルを巻き込み、操り、気付けば男達は倒れている。
流れるような正確な動作。
そしてこの投げ方は―――
「合気道!?」
「ブリジット、あいきどうって何だよ?」
「パパに聞いたことがあります。ニッポンの武道です」
日本の古流柔術から派生した、柔道とはまた違う武道。
相手の力を利用して投げるため、非力な女性が護身術として習うことが多い。
でも、少し違和感があります。
合気道にしては少し……
「攻撃的……な気がします」
「ど、どーゆーことだよ」
「合気道は、相手の力の流れを利用して投げるんです」
「ふーん」
「つまり、戦い方としては完全に後の先になるはずなんですよ」
でも、マキシマム沙織さんは自分から動いて相手に技を掛けていきます。
合気道には存在しない技や、当身なども織り交ぜながら。
もしかしてこれって―――
「槇嶋流合氣柔術……」
「なんだそりゃ!?」
あっという間に三人目を片付けた彼女は、振り向きざまに言いました。
「ふふ。拙者は、現代ではすっかり廃れた古流武術の使い手なのですよ」
やはりそうだ。
私は興奮で頭がクラクラしてきました。
かなかなちゃんは全然しらないみたいですけど。
「ま、まさかあの『槇嶋流』が現存していたんですか?」
「ど、どういうことだよブリジット」
「パパから聞いたことがあります」
「?」
「日本にはかつて、最強の柔術の一門が存在したと」
「ええっと、それが―――」
「そうです、かなかなちゃん。この『槇嶋流』なんです」
「いやぁ、そんな照れるではありませんか」
彼女は最後の一人に向き直ると、背中越しにポツリと言いました。
「時代に取り残された『最強』に、たいした価値などございません」
◇ ◇ ◇
「みいつけた」
この時、私はまだ知りませんでした。
私とかなかなちゃんを助けてくれたマキシマム沙織さんに、
さらなる敵が迫っていることを。
「ふふふ。案外近くにいたんですね……槇嶋流」
新垣流忍術……江戸の闇に暗躍したその流派の
現党首が、すぐ近くで見ていたことを。
「桐乃のプレゼントのために秋葉原まで来たら、とんだ拾い物でした」
これはまだ、戦いの序章にすぎません。
おわり
最終更新:2011年05月02日 18:20