「何?」
俺のノックに対し、ドアを開いた桐乃が開口一番に刺々しい調子で訊ねてくる。
「そりゃコッチの台詞だっつーの。なんだよ今の奇声は。ベットの下から
あやせでも出たのか」
「なっ……誰が奇声をあげたってのよ!? つーか、ベットの下からあやせって……
アンタ、あやせのコトなんだと思ってるワケ!?」
「まぁ、あやせの事は置いておくとしてだ……告げ口とかするなよ?」
「ヘタレ」
我が妹よ、いい言葉を教えてやろう。それはな……命あっての物種という奴だ!!
「それはそれとして、お前があんな声あげるなんて何かあったのか?」
格ゲーで黒猫にカモにされたとか?
「アンタ、耳鼻科いったほうがいいよ」
「思考の飛躍についていけないんですが!? オールドタイプにも分かるように説明してくれませんかね!」
「仮にあたしが叫び声を上げたとして、あたしの叫び声なら叫び声でもそれはそれは可愛い声に決まってるでしょうが!」
「成る程、ゆで理論だな!」
「破綻してるって意味かーー!」
「アイター!?!」
く……相変わらずいいローキック放ちやがる。
二日ぶりだぜ、桐乃からローキックを受けたのは。
……違うよ、俺はマゾじゃないよ。ただ妹が暴力的なだけだよ。俺は被害者だよ。
「ま、まあ五月蠅くして悪かったわよ。なんか邪魔しちゃった?」
「いや、別に部屋で何かしてた訳じゃねーけど」
「はぁ? アンタ土下座ね」
「何故に?!」
「今、あたしはアンタの邪魔をしちゃったかなーっていう謙虚な気持ちでわざわざ頭を下げたワケ。わかる?」
下げてないよ!? これっぽっちも下がってなかったよ?!
「ところがアンタは受験生だってのに勉強もせずに、ただ無為に時間を過ごしてたってコトでしょ?」
う……
いや、勉強は後でするつもりだったんですよ?
それに人生に無駄も必要だと思わないだろうか、諸君!
「そんなアンタの為にアタシが謝ってしまったワケ。あたしの気持ちに対する謝罪をする義務がアンタにはあんの」
「ねーよ!? そんな義務聞いたことねえよ!!」
「っていうか現在進行形であたしの貴重な時間を無駄にしてるってアンタ分かってるワケ?」
「お前が何してたってんだよ!?」
「仕事してた」
「邪魔してゴメンなさい」
くそっ……忘れたくても忘れることができないが、我が妹様は成績優秀にして容姿端麗、運動神経抜群なだけでなく
ティーン誌を捲れば売れっ子読者モデルとして流行の服を着こなし
ペンを取れば現役中学生作家として書店に本が並ぶ、ナニコレチート?チートなの?という奴なのだ。
「ま、まあ……煮詰まってたんだケドさ……」
「それであの奇声か」
「だから奇声なんてあげてない」
「わかったわかった。アレはきっと偶々通りすがったヒッポリト星人の泣き声だ」
「地獄星人!? あたしどんな声挙げてたの!?」
「で、仕事って作家の方か?」
桐乃の部屋で胡座をかき、俺は桐乃を見上げた(コイツは俺を床に座らせておきながら、自分は椅子に座ってやがる)
「うん。ケータイ小説じゃなくてちゃんとした小説の方も売れたじゃん?」
ラノベがちゃんとした小説かどうかは議論が起こりそうではあるが
確かにコイツは担当さんの「やってみない?」の一言に乗せられて「妹都市」を書き上げ
たった一巻でアニメ化なんてされちゃった中学生作家様なのである。
「妹都市の続編でもいいんだけどさぁー、やっぱりこう……作家としての幅っていうの?を広げた方がいいと思って」
誰に言われたわけでもなく、小説家としての自分を磨こうってのか。
ホントにコイツは向上心の塊だな。
「それで? 新作のアイディアに悩んでたのか?」
「うん。幾つか思いついたんだけど、しっくりこなくて」
「ふーん。ちょっと聞かせてみてくれよ。俺みてえな素人に善し悪しがわかるとは思えないけどさ、なんかのキッカケにはなるだろ?」
「むっ……まあ、いいけど。笑わない?」
「今更何を笑うってんだよ。お前はもうちょっと兄貴のことを信用しろ」
桐乃は俺の発言に何故か機嫌を悪くしてそっぽを向いたが、やがて機嫌を直してくれたのか
自分の考えた小説のプロットを説明し始めた。
「まずね、渋谷に妹以外の人間が死んじゃうウィルスが散撒かれて、渋谷が封鎖されちゃうんだけど
千葉に住んでたお兄ちゃんが自衛隊とか潜り抜けて渋谷に入って、妹と一緒に渋谷で秩序を作っていくっていう案なんだけど……」
「妹以外の人間が死んじゃうウィルスって何?! っていうか結局妹じゃねーか!?」
「う、うっさいわね! 設定に無理があるって感じたからあたしだって悩んでたんでしょうが!
それにアンタ、笑わないって言ったのに何よ! バカ! 死ね! キモッ!」
笑わないとは言ったがツッコミを放棄するわけにはいかないだろうが!
つーかホントになんだよその未満妹都市!? 加奈子が喫煙して映像化ができなくなるじゃねーか!
「あーもう、これが無しなのは分かってるから! 言ってみただけだし。次いくからね、次!」
「お、おう……」
よかった、他にもあんのか。そうだよな、流石に妹以外が死ぬウィルスなんてキチすぎる代物だけってことはないよな。
「姉次元からの侵略者マナラムに対抗するため、マイフォース所属のお兄ちゃんが、
偶々シスコニックウェーブを浴びた四人の妹達と一緒に地球の平和を守っていく、トレンディな設定なんだけど……」
「俺のタマゴが限界です!?なにその最終回で妹の一人が強盗に刺されて死にそうな設定!?」
「大丈夫、35周年記念作品では戻ってくるから」
「どんだけ長く続けるつもり!? っていうかお前中身黒猫だろ!? いつの間に入れ替わった!?」
「ち、違うっての! そりゃアイツのコトを意識して書いたっていうか、アイツが書きそうな話を書いてみようって思ったっていうか。
そういうコンセプトだったけど、でもあたしは黒いのじゃないし、なんか無理っぽい」
どっちかっていうと著作権の関係で無理っぽいわ!
「じゃ、じゃあこういうのはどう? 主人公はいっつも妹のコトを観察してて、携帯に妹日記を付けてるんだけど
ある日携帯に未来の妹の行動がしるされるようになって……」
「その主人公警察にいこうか……」
「じゃあ月が崩壊した世界で、月の欠片を破砕するために妹DOLっていうロボットに乗る妹達の話……」
「やめて!その黒歴史やめて!!」
「じゃ、じゃあどうすればいいってのよ!」
八重歯を剥いて俺に食ってかかる桐乃。
しかし俺にだって言い分はある……