27 名前: ◆36m41V4qpU [sage] 投稿日: 2012/03/09(金) 23:50:45.26 ID:jsEnuXxV
"9 +1/2"
時に・・・何か自分の環境を劇的に変えた出来事が起きた場合、
とてつもなく劇的に変わったと思える場面に遭遇した時、
その事を・・・・その出来事自体を"運命"なんて大げさな言葉で呼ぶ必要は、
実は・・・全然、本当にぜんぜん、、そんな必要なんて無いのかもしんない。
それは
一度目は、思い出したくもない過去、疎遠になったキッカケ
二度目は、初めて、人生相談したあの日
三度目は、……………
その日の夕方、あたしはリビングでソファーに寝転がりながら、親友のあやせと
電話で話していた。
『本当に、桐乃ってさぁ……お兄さんの話するのが好きだよねぇ?』
「はぁ?何言ってんのっ、、、、そ、そんなわけないじゃん。
た、たまたまに決まってるんでしょ。あやせ、マジでそれっ勘違いだから!」
いつからかな?
あたしは、あたしが事あるごとに(京)介・・あいつの話をいつもしてしまっている
自分自身に気付いたのは……。
『ふぅ~ん。まぁわたしも桐乃とお兄さんの話するの嫌いじゃないんだけどね』
「………………………」
いつからかな?
女友達が京介の事を褒めたり、京介と親しくしていると……
いつも嫉妬してしまう自分に気付いてしまったのは。
『桐乃……どうかした?』
それでも黒いのがあたしの為に京介と別れた後、最近少しだけ、ほんとうにちょっぴり
だけど、京介が楽しいなら……兄貴が楽しいなら、黒猫やあやせと親しく話していた
としても、あたしも一緒に喜べる様な気が、そうしなきゃいけない気がしてるのだ。
「何でもないから。ううん、、、本当に何でもないってば」
その時、『ただいま』という声がした。
今日はお母さんはお父さんと一緒に出かけて家には居ない。
リビングの扉が開くと京介が電話中のあたしの顔を見て、何か言いたげな顔をしたが、
いつもの様に、少し微笑むと冷蔵庫からパックのお茶を出して飲み始めた。
あたしは少し、緊張する………前だったら、あいつに"人生相談"する前だったら
同じ緊張でも、それは100%不快感だったハズ。
でも今は違う、同じ緊張でも本当にぜんぜん違う。
その事が分かったのは最近、それとも………?
あたしは間抜けにも、京介の顔を見て、携帯で話しているその口元に自然な笑みが
溢れてる自分に
……ああ、、そうか……
あたしはあいつの顔を見ると、いつのまにか自然に笑顔になってるんだ、、、
今日………その事にあたし自身、やっと気付いた。
またいつものパターンで、二階に上がろうとするあいつを、思わず呼び止める。
「ちょ、ちょっと待って。喉……渇いたからさ、あんた、飲み物取ってよ」
「へいへい……あれ、冷蔵庫に飲みモン何も入ってねぇぞ。
さては………おふくろの奴、忘れてやがんな。
しゃーねぇ、まぁ後で自分で紅茶でも煎れて飲んでくれ」
振り返って、また二階に上がろうとするあいつ。
「ま、待っててば。あたしは喉渇いたって言ってんのっ!」
「へ?だから何だよ、まさかおまえ自分の兄貴をパシリにでもするつもりなの?」
別段、怒った風の感じはなく京介は肩をすくめながら言った。
あたしは無言で、京介が持っているパックのお茶を引ったくると口を付けて飲んだ。
「おま、ちょ、な、何やってんの?」
あからさまに驚く京介。
「あれぇ~なぁに、何?あんた?へぇ~妹のあたしと間接キスとか意識しちゃって、
動揺しちゃってんの?(笑)キ(モ)……」
最近もうすっかり言わなくなった言葉を、結局最後まで言わずに、
冷たいお茶と一緒に飲み込む。
何でだろう、兄貴には文句言うよりもこうやって驚かせた方が楽しくなる。
"誓ったことが一つだけ"
同じ緊張なら、不快になるよりも楽しくしたい………超当然なコトなんだけど
あたしはやっとそんな当然のコトが分かってきた様な気がするのだ。
"あの時、こころの中で決めた…………こと"
あの頃、もう絶対戻れないと思っていた昔に戻っている様な錯覚、
懐かしくて、
暖かくて、
切なくなる感覚
そんな事をぼんやり考えていると、暫くして受話器のあやせの呼びかけに
ようやく気付いた。
『本当にどうしたの?今日の桐乃ちょっと変だよ?』
ううん、違うよあやせ。多分、、、、、"昨日"までのあたし方が変だったんだから
あたしは飲み干したお茶のパックを、やっぱりぼんやりした顔をした兄貴に返すと
「おかえりなさい」と言った。
あやせとの電話の後、
「え?親父達、居ねぇの?おいおい、受験生の子供スルーでよく留守にするよな」
「もう、うちらも子供じゃないんだしさ、それと食事代はあたしが預かってるから」
「何か相変わらず、俺よりもおまえの方が兄妹の姉みたいな扱いだよな~」
「ぷ(笑)、何それ?……あたしの弟になりたいアピールとか?」
「辞めろ!そんな願望ねぇよ!ったく……んで飯はどうするよ、おまえ何食いてぇの?」
「………ま、まだ決めてない」
「んじゃ、適当に俺が買って………」
「却下。あんたの選んでくる物センス無いんだもん。大体ヨーグルトはプレーンに
決まってるのに、苺味とか選んでくるしさ」
「ヨーグルトで俺のセンスをディスるのは辞めてくれ。まぁ…………ならおまえがさ」
「あ、あのさ………」
「あん?な、何だよ?」
「い、一緒に買い物行かない?まだ何食べたいかわかんないけど、スーパーで
買い物しながらだったら決められそうだしさ」
京介は一瞬呆気に取られた表情をした後、あたしの額に手を当てて神妙な顔をした
「べ、別に熱なんてないっての。あたしの提案にな、何か文句でもあんの?あんた」
「べ、別に……無いけどよ。……………まぁ良いか」
買い物し終えて、
「結局散々迷った挙げ句、カレーかよ。大体、カレーならレトルトで良いのに……
はぁ~俺が今から作るのかよ、ったく」
「チッ……文句多すぎ、出来合いの物は食べたい気分じゃないんだからしょうがない
でしょ。それに誰があんたに作ってって頼んだっての。カレーくらいあたしにだって
作れるに決まってんじゃん、バカにするなっつーの」
今、あたしが意地になってるのには、それなりに理由が……ある。
さっき、あやせと話してて話題になった人。
あの………人のこと。
お菓子作りが趣味のあやせの師匠。
彼女の料理の腕はあたしも知っている。
負けたくない……それが今までの行動原理だったけど
それがあるキッカケで、最近余計にその思いが強くなった気がする。
だから、少しづつだけどお母さんの手伝いもしてきた。
走ることも、勉強も……そんな風にしてきた。
だから料理だって……………
「……………」
とまた神妙な顔で、京介があたしの顔を見た。
「だから熱はないから。あんたはそこで地味面しながら待ってれば良いんだから。
あんた、あたしを誰だと思ってんの?眉目秀麗、才色兼備………痛っ」
包丁で野菜を剥いている時に、指を切ってしまった。
「馬鹿野郎!……包丁使いながらベラベラ喋ってよそ見しってから。ほら見せてみろ」
あたしの指もとを強く持って、傷口をティッシュで押さえて
手際よく、消毒するとそのまま器用に、包帯まで巻いてくれた。
「あ、あんがと……あんた……そういう事は、意外に器用だよね」
「まぁ~な。俺は色々不器用な妹持ってるからな」と優しい笑顔で京介は言った。
「はぁ?ちょっと何調子乗ってんのっ!今はちょっとミスっただけなんだから。
本当はお母さんも上手って褒めてくれたんだから!何も知らない癖に決めつけんな!」
少しイラッとしてあたしが思わず大声を出すと……京介はあたしの頭に手を乗せながら
「まぁちょっとくらい、俺が勝ってる所あっても良いだろ?
とにかく、おまえは大人しく座ってろ。取り合えず続きは俺がやるからさ。
わかったか?」
「……………わ、わかった」
兄貴が作ったカレーを食卓に並べて、
「いただきます……」「……いただきます」
「うん………うめぇな。伊達にカレーばっか食ってる家族じゃねぇな、俺ら」
「そ、その野菜はあたしが切ったんだからね。感謝しながら食べないよ」
「へいへい……おまえが傷だらけになりながら切ってくれた野菜と思うと、
通常の三倍は旨く感じるわ」
「う、うざっ……つ、次はさ、ちゃんと作るつもりだから!
そん時は今日よりあんたが作った地味なカレーなんかよりも何千倍も美味しく
作るつもりなんだから、ちゃんと覚悟しとけっての。
つーか、冗談ぬきでマジで超絶品なんだからね!わかってんの?」
「ああ………もちろん、期待してるぜ。しかし…………俺ら………」
「?」
「……………いや………何でもない…わ」
あたしはいつまでこうやって、兄貴と一緒に食事が出来るんだろう?
ふと、ガラにもなく不思議な感慨があたしを襲う。
物心がやっとついた小さかった時も、ロクに話をしなくなった時も、
こうやって、ぎこちなくだけどまた話すようになってからも…………
あたしと京介は毎日毎日、向かいってご飯を食べてきた。
夕焼けに照らされた兄貴の顔を、あの時のしかめっ面じゃなく
……気付くと笑顔で見れる様になったその顔を
………笑顔で見て貰える様になれた、あたしがその顔を見ていると
…………あたしは
「だ、大丈夫か…………桐乃?おまえ……指がそんなに痛むのか?」
「え?」
「い、いや……………」
気が付くと……頬が濡れていた。
何で…?
事あるごとに不機嫌になってきたあの時の方が…本当は泣きたかった筈なのに
今は嬉しい筈なのに、一度意識し出すと……あたしは慌てて目を拭った。
「………う、うん、、、ちょっと、、だけ」
今、あたしが考えている事を……目の前のこいつに正直に言える筈が無かった。
「き、救急車でも呼ぶか?」
「大げさ過ぎ……なわけないでしょ!ちょっと痛いだけだから、ほ、ほんと大丈夫だから」
「そ、そうか………我慢出来なくなったらいつでも言えよ?」
泣き顔を見られたから?
同じ緊張なら、不快になるよりも………
「ねぇ、指痛いからさぁ……あ、あんたが食べさせてくれない?
あ、先に言っとく、、、べ、別に、熱は全然ないから!」
「あ、良いぜ………痛いんだからしゃーないわな。ほれ口開けろ」
「な゛……あ、あんた……な、に……はむ」
「……………ま、全く、本当に不器用な妹を持つ兄貴は大変だぜ」
冗談と言い出すタイミングを失ったあたしは、結局最後まで
兄貴に食べさせて貰った。
超恥ずい事なのに、何でだろう……。
やっぱり熱があるのかもしんない………あたし。
***
しっかし今日の桐乃は変だ。
断固として変だ。
本当にどうしちまったんだ、あいつ?
そりゃ最近の俺ら兄妹は……昔は繋がってる血すら凍るほどの凍てつく世界に
住んでた様なもんだから………それに比べたら多少は、ほんとうに多少だが
普通の兄妹って感じがしなくもなかったんだが。
今日の桐乃はそれにしたっておかし過ぎる。
それにいきなり、泣きだしやがって………あのやろう……まったく訳が分からない。
やぶ蛇になることを覚悟しつつ、俺は妹の部屋の前に立つと決心が鈍る前に
ドアをノックしていた。
「桐乃ちょっと良いか?あのさ………」
「え?あ、、ちょ、ちょっと忙しいから、、それと今入ってきたら、
あやせに言いつけて絶対にっブチ殺して貰うからっ!」
「げぇ゛、わぁったよ……」
何だよ、どうせお気に入りのエロゲーでもして、あっちの世界にでも行ってる所を
俺に見られるのが嫌とか………そういう事だろう。
チィ……まったく、ちょっとでも心配して損した気分だぜ。
まぁそもそも、妹の心なんて色々思案した所で、分からない事は結局、分からないのだ
バカバカしくなった俺は結論を出す事を早々に諦めて、さっさと風呂に入って
早めに休む事にした。
脱衣場に行こうとした時に、部屋でエロゲーをしていた筈の妹が仁王立ちしている。
「おまえ何やってんの?」
「あの、、さ……あ、あんたにちょっとお願いあんだけど?」
桐乃の指は、俺が何重にも巻いた包帯で痛々しかった。
そっか、食事するのも大変で泣くくらいだもんな。
俺は得心した顔で
「あ~~歯を磨けってことか、そっかおまえ利き腕の指に包帯巻いてるんだもんな」
「…………」
「そういや、おまえが小さい時は俺がちゃんと磨いた確認してやったんだよなぁ」
努めて明るい風を装って俺は桐乃がいつも使っている歯ブラシを取ったのだが………
「それで、ちゃんと出来てないから、結局俺がいつも磨いてやってたよな、うんうん」
ヴィ゛ィ゛イ゛ィ゛ン゛……あれ?なんだこれ??
「違げぇし……何が悲しくて、あんたにあたしが歯磨いて貰わなきゃなんないの?
そもそも、あたしの歯ブラシは電動だし、、妹に、、変な想像しないんで欲しいです
ケド?(嘲)」
「へいへい、悪かったな………んで頼みってなんだよ?」
何か、いつのまにか普段の桐乃に戻ってる様な気がして安心したが、
まぁこれでこそ俺の妹なんだよな。
ってことで同時に、俺も普段の様にぶっきらぼうに言葉を返す。
「超、嫌なんだけど、この指だとしょうがないしぃ、、さ。
だからさぁ、、髪洗ってくんない?
マジで滅茶苦茶、不本意で凹みそうなんだけど、、、しょーがない、、から」
「え゛?」
「はぁ?だから髪、、、洗えっつってんの、何回も言わすととか超ありえない」
「歯磨くのはダメで、髪洗うのは良いのかよ……大体」
「ぜ、全然違うでしょ、何に?あんた、、何か文句あんの?」
「だ、だってよ………おまえと一緒にふ、ふ、風呂に………」
「ば、馬鹿っじゃないのっ?!何であんたなんかと、、やっぱ超キモ、キモ、キモ。
ちょっと、、あやせ、、、」
携帯を取りだそうとする桐乃を必死に止めた、今日が俺の命日になるのだけは勘弁だ。
死亡の原因がこれじゃどう考えても、俺の魂も成仏出来ないだろう。
「んじゃ…………どういう意味だよ?この季節に庭で水浴びでもすんのか?」
「なっ……なわけないでしょ!、シャンプードレッサーでって意味!」
そういや、桐乃が朝シャンするのに便利だからって自分で工事費出したんだっけな。
しかし中学生で我が家の改築工事すらやってしまう妹。
それに比べて、俺の部屋には未だにエアコンすら無い。
我が家にも、歴然たる較差社会が存在するのであった。
「な、何だよ。洗面台でって意味か。それを早く言えよ。危うく冤罪で
殺される所だったじゃねぇか」
「勘違いしてるあんたが悪いんでしょ。マジで、そういう発想するだけでも万死に
値するんだからっ!あ~あ、最悪過ぎ……ほらいつまで突っ立てんの、早くしてよ?」
やれやれ……。
他人の髪など洗った事がない俺は、いや大昔に目の前にいるこいつの髪を
歯を磨いてやった事と同様に洗った記憶が微かにあるが、まぁ遠い記憶の彼方の話だ。
それにしたって………我が妹はシャンプー、リンス、コンディショナーはもちろん
その他得体の知れない、俺には絶対に分からない数々の容器を洗面台に並べていた。
「あつ……ちょっと熱いじゃん、あんた、あたしを火傷させるつもり?」
「あ~悪りぃ悪りぃ」
「今度は冷たい、ちょっとこんなんじゃ風邪引くでしょ、真面目にやれっての」
「………………(・ω・;)」
「あんたと違って、あたしの髪は超繊細なんだから、優しく洗ってよねぇ、
ちゃんと、わかってんの?」
「………………(゚Д゚)ケェ」
「だから痛いってば、優しくしろっつーの……女の髪は……」
「…………………(怒)………お客さん、痒いところとかないですか?」
「ふ、ふ~ん、もう少し下の方もちゃんと洗ってよ…あっ…ちょっと……」
「щ(゚Д゚щ) 」
「く、くすぐったい…から……だから……首とか……さ、触らないで……」
「!」
「あっ……ぁ……はぁっ……耳も…さ、触るなって……さ、触らないでぇ…ン
あ、あたし、、耳たぶとか……よ、弱いっ……ン……ンだからぁ……」
「!!!」
「ぎぁっ…ハハハッハハハァ、や、辞めて……辞めれぇって言ってるでしょ!!!!」
桐乃が文字通り………のたうち回った為、洗面台の鏡はもちろん、壁、床一面にも
水しぶきが土砂降りの雨の様に飛び散った。
ついでに、妹の鉄拳もスコールの様に俺の顔面に降り注いだ。
「痛ぇ……殴ることねぇだろ。おまえがお願いするからやってやってんのによ!!」
「はっ?こんな時にチャンスと思ってセクハラする変態、シスコン、犯罪者予備軍の
あんたが何言ってくれちゃってんの?
………妹のあたしに、、え、、え、エッチな事するとかマジで、マ・ジ・で・
信じんらんない!!!!」
売り言葉に買い言葉、桐乃に釣られて俺は軽率な(今思えば本当に)軽率な一言を
桐乃に対して俺は言い放った。
「おいおい…大体、自分で妹って言ってるじゃねぇか。何が悲しくて妹にセクハラ
しなきゃならねぇんだよ?!あやせの奴もよく、俺に対して"セクハラ"って言うが、
あいつも大概自意識過剰だとは思うが、あいつが言うならまだ分かるがよ。
何で妹のおまえに、頼まれて……したくもねぇ事した上で、そんな事言われなきゃ
いけないんだよ。てめぇ……がそもそも」
☆ブ チ っ !☆
多分、勘違いや幻聴の類なんだろう、しかしその時の俺は確かに、桐乃がキレた音が
それこそ目に見える様に、劈く爆音の様に聞こえたのだった。
その後、爆音の後は静寂が……訪れる。
桐乃はずっと無言だった。
でも俺は………さっきの勢いは何処へやら………みっともなく……それこそ
小さい犬がキャンキャン吠える様に大声で、空しく言葉を吐いた。
「おい、な、な、な、何やってるんだよ?
お、お、お、お、おま………ちょ、ちょ………
き、桐乃?き゛…りの…おまえ……」
やっぱり相当格好悪かった。しかしそれでもその時の俺はそうする以外に
やる事なんて思いつきもしないし、そもそもやる事なんてなかっただろう。
桐乃は無言で、目には食事をしていた時の様に涙を浮かべ………
何故か口元は不敵な笑みを浮かべ
(最近見せてくれる可愛らしい笑顔とは明らかに違う、不気味な……
こんな表情の妹は今まで見た事はない、『黒猫ならもっと上手に
描写出来るのだろうが』、とにかく…嫌で駄目な予感しかしない笑みだった。)
自分が身につけていた………さっき暴れたことで、びしょぬれだった服を脱ぎだした。
途中までは濡れたから脱ごうとしていると思った、でも違った。
あいつは、妹は、桐乃は……
一番上に羽織っていたパーカーを脱ぎ、シャツを脱ぎ、Tシャツを脱ぎ………
俺が呆気に取られていたが、それで終わると予想してた限界をいともたやすく超え
ショートパンツも全くの躊躇いもなく脱ぎ捨てた。
俺は何を言ってるのかも分からず、本当に言葉を忘れてしまった様に
ただ、無様に……口を開けてうなり声を上げていた。
目の前にはブラとショーツだけの姿の桐乃がいた。
間抜けにもブラもショーツもお揃いのピンク色………なのかと言う感想
アレ?この気持ちは何なんだろう?
それは………禁忌
何かは知らんが、絶対ぇにヤバイ何かだった。
それは今の状況に対する認識なのか?それとも俺自身の心のことなのか?
それとも両方で、同時にその心象が混ざり合って新たな危機感が出来上がって
ますますその予感を高める……俺の心臓の鼓動と完全にシンクロして。
……とにかく、俺は一瞬固まったが、このままで……は……と思い
今まで桐乃の為に、桐乃のピンチの度に決心した時の自分の気持ちを思いだして
大きく息を吸って、何とか心を奮い立たせて、上ずる声で桐乃に問うた。
「な、何のつもりなんだよ?いくら兄妹だってやって、やって良い事と……悪」
もしこのまま桐乃が無言のままだったら、どうなっていたか分からない。
しかし桐乃は……
「あ、あれ~?な、なんでビビってんの?あたしは妹なんでしょ?
そ、それなのに………言ってる事が、、、違うじゃん。
あたしは妹だから、妹、、、、だからさ!!!!」
「悪かった…………い、妹は関係ない……関係なかった」
「はっ?あんた何、、、言ってる事コロコロ変えてんの?
あたしは妹だから、、、妹って言ったじゃん!!!!」
「お、おまえは妹だけど、そうなんだけど……でも桐乃は桐乃だから………」
「だから何?」
「だから………」
「………」
桐乃は俺の言葉を催促する言葉の代わりに、腕を、手を、指を……まるで言葉を紡ぐ様に、
本当に何かを俺に語りかける様に動かす……その先には触れてはいけない聖域があった。
「お・ま・えは特別なんだ!妹だけど、桐乃で……桐乃だけど妹で!
おまえは……おまえ……は………俺にとって………俺の……」
「ぷ、ぷぷ……何それ?意味が全然分かんないんですけど?
あんた動揺し過ぎて、日本語忘れちゃったんじゃないの?」
桐乃は目元に貯めていた涙をあふれ出さんばかりに、声を上げて笑い出した。
「………ああ」
その時の俺は日本語どころか、完全な放心状態で本当に何も考えられない状態だった。
だから桐乃がやっと普通に笑ってくれている事に気付くまでに相当の時間がかかった。
「ねぇ……もう1回言って……あんたにとってさ……あ、た、しは……?」
「へ?え……」
「はぁ~ぁ………………………もう良い」
俺は無意識に、本当に何も考え(られ)てない状態のままでポツリと声を出した。
「桐乃は、おまえは………俺にとって特別…………だ……よ」
「あはっ……結局、またシスコン宣言聞かされちゃった。ったくそんなのとっくの昔に
知ってるっつーの。あんたは何必死になってんの……馬鹿じゃん?」
「お、おまえな……まぁ…………」
しかし、完全にビビっていた俺はそれ以上反論する事を辞めた。
これ以上、何か遭ったら……絶対に洒落になる筈がなかった。
でも……
「まぁ……人間素直が一番だと思うからさ。あんたも最近はまぁまぁ素直じゃん?
今も……え、えっと……超…うれ……」
「へ?」
「あ、あたしが(は)優しいからさ……素直だったご褒美あげる……ほれ」
桐乃はさっき一度ならず二度までも思いとどまった筈の境界線を
今度こそ完全に一気に超え俺の視界を無慈悲に、冷徹に侵略してきた…………
「\(^o^)/」
喜んでるわけではない、本当に俺は卒倒しかけたのだ。
「どぉ?か、感想言いなさいよ、、綺麗?ま、まぁ……この質問とか愚問っだけどさぁ」
「お、お、………………………………………………………………………………………
………………………………………………………………………………………え
………………………………た……しかに……き、綺麗……だ、…けど」
桐乃がブラとショーツを脱いだ後に、登場したのは生まれたままの姿なんかではなく
いささか……もしそのものを……単体を初めて見せつけられていたら、
充分反応に困ったであろう際どいチューントップの水着だった。
「ねぇ、、ほら、ほらぁ~か、かわいい?」
普段なら色々返答に困っただろうが、もはやそんな些末な事は(価値観の麻痺で)
気にもならずまたもや純粋に素直な気持ちで……
「ああ………おまえ、やっぱ普通に可愛いわ」
とか言ってた始末の俺であった。
「途中だったんだから、、、最後まで続き、、してよね」
この条件の不条理さと不自然さに……桐乃が何を考えてるのはさっぱり分からなかったが
とにかく俺はその後、水着のままの桐乃を慎重に、まさに爆発物を解体するかの
如くの神経を使って髪を洗ってやった。
時々、桐乃の息遣いを感じた気がするが、
水音と心音でそれが現実のものなのかどうか、確かめる術は俺には当然無く
…………結局、俺も桐乃も一言も口を聞かなかった。
やれやれ、こんな姿、親父達(あやせにも)に見つかったら確実に殺されるだろうな。
やっと一段落すると、何故か俺も桐乃もなおも無言のまま、同時に歯を磨き始める。
「………………………」ゴシゴシ
「………………………」ヴィ゛ィ゛イ゛ィ゛ン゛
「…………………(何か言おうとしたが断念)」ゴシゴシ
「…………………(何か言った気がするが判別不能)」ヴィ゛ィ゛イ゛ィ゛ン゛
俺は先に磨き終わると、辺りに散乱している桐乃の服を片付け
ついでに雑巾で、カオス化した洗面所一帯のエントロピーを下げる為の作業を始めた。
それを水着姿で見ていた桐乃が風呂に入る直前
「お゛に゛ぃ゛・・・・あ゛り゛・と゛ぅ・・・・・う゛れ゛・・・」
ヴィ゛ィ゛イ゛ィ゛ン゛
と電動歯ブラシを口に入れたまま、何事か呟いた。
しかしこいつ、歯を磨いてる時ですら、
俺の悪口やら悪態を吐かなきゃ気が済まないのか?
………とその時の俺はいつもの様…に……は……今更もう
濡れた床を雑巾がけしていると、風呂上がりの妹が俺の前を通り過ぎる時
「後で、、、あたしの部屋に来て」
と今度はちゃんと聞き取れる声で言った。
俺は「…………わかった」とだけ答えた。
その時の桐乃がどんな表情で、どんな気持ちでその言葉を言ったのか?
床を見つめたまま、、自分の手を見つめることしか出来なかった俺には分からなかった。
俺がやっと顔を上げたのと同時に、桐乃の部屋のドアが閉まる音が……とても、とても
遠くの方で聞こえた(様な)気がした。
おわり
最終更新:2012年03月10日 21:03