3年後のif 01


これは、一人の少女を想い、そしてその兄に恋をした、そんな自分の気持ちに嘘をつき、
自分を抑え生きていた少女の物語。
本筋では語られることのない未来
あるかもしれない時の流れ
そんなIfの世界

「ねぇ桐乃、きょう一緒に帰れる?」
体育の授業の後、クラスの女子全員が更衣室に集まり制服に着替えている。その中でひと際目立つ存在で、私の親友である高坂桐乃に声をかける。今日はモデルの仕事は入っていないはずだから、帰りに一緒に買い物に行こうと思い声をかけた。
「あー……ごめんあやせ。今日部活なんだよね……」
 モデルであり、陸上部のエースでもある桐乃は男女問わずクラスの人気者で、
そんな桐乃と友達でいられることを私は誇りに思っている。
「…あ、そっか、記録会近いんだっけ?」
「うん、ここ最近ちょっと調子悪かったからタイム落ちててさ、
このままじゃ代表落とされちゃうし気合い入れなきゃなって」
 以前、桐乃と私は一時期絶交……というレベルのものじゃないけどちょっとしたケンカをしていて、
このままじゃ本当に絶交してしまうんじゃないか、そう心の中で思い始めて、
すぐに収まると思った小さなケンカが、だんだん大きくなっていくことに恐怖し不安になり焦り、そして絶望しかけたその時、彼が私を救ってくれた。
「桐乃なら大丈夫だよ。いつもこんなに頑張ってるじゃない。」
「あやせの言うとおりだって桐乃。つか頑張りすぎじゃね?最近さ……ってちょ、お前ら着替えんのはえぇって、加奈子も一緒に行くからちょっと待てヨ」
 そう、彼。私がどれだけ罵倒しても、どれだけひどいことをしても、彼は大きな優しさで包んでくれた。
それは決して私だけに向いた優しさではないけれど、その時の私には十分すぎるほどのものだった。
「あたしさ、いま兄貴と賭けしてて。次の大会で地区新記録更新したらエタナーのオーダーメイドのアクセ作らせてくれるって」
「はぁ!?なんだよそれー、あいつになんでそんなことができんだヨ?」
 桐乃は中学の中頃から彼の話をよくするようになった。
 以前から時々聞いていたけど、最近は聞かない日がないほどに増えた。それも笑顔で
「へっへー、実はあたし技師で一人友達がいてさ、あいつもなんか最近仲良くなっててさー
。……でも、なんていうかさ」
「……あんだよ」
「兄貴が最近またあたしのことでいろいろやってくれてるみたいなんだよね。それもあたしの知らないところで」
 最近、私が彼と話をしていると、彼もまた私と同じで桐乃の事を一番に心配してくれている。
ぜったい口には出さないけれど
「……あやせ?」
「へっ?…あ、ごめんね。今ちょっと考え事してて」
「ちゃんと前みて歩かなきゃ危ないって、怪我でもしたら大変じゃない。ほらもうすぐ教室だしさ」
「うん、ありがとう桐乃」
「ホント気を付けてよ、もうあんただけの体じゃないんだから」

 自己紹介が遅れました
 新垣あやせと申します。
 今年卒業する高校3年生です

 そして


 私、もうすぐ結婚します


「そっか、桐乃ちゃん部活なんだ~。それであやせちゃんと加奈子ちゃんの二人で来たんだね」
 帰り道、私と加奈子は食材を買って田村屋へ向かいました。
「それにしても加奈子ちゃんはともかく、あやせちゃんは私なんかが教えなくてもいいくらいにお料理上手なのに、
食材まで買ってきてもらっちゃって」
「ちょ、師匠ってばヒドくね?あたしだって結構作れるようになったじゃんかー」
「加奈子ちゃん、この前作ったきんぴらを食べたおじいちゃんがなんて言ったか覚えてる?」
「すいませんでしたっ!」
 私たちはここしばらくの間、学校帰り田村屋で麻奈実さんに料理を教えてもらっています
「いつもありがとうございます、麻奈実さんも大学やお店が忙しい中、
こうして時間を作ってくれて本当に感謝しています」
「いいよいいよ、こうしてみんなでお料理するの好きだから」
 みんなというのは、今ここにいる私たちと桐乃、ブリジットちゃんそして、黒猫さんの6人のこと
 桐乃を中心にして色々なことがあってそれが私たちを繋げるきっかけになった
 そしてそこにはいつも彼がいた
「あ、そうだ。あやせちゃん」
 麻奈実さんに話しかけられる
「きょうちゃんが『今日もバイトで帰り遅くなる』って。きょうちゃん最近ずっと帰りが遅いよね」
 麻奈実さんは彼と同じ大学に通っていて、こうして彼からの言伝を聞いたりしている
「いつもありがとうございます。なんだか最近バイトの時間増やしてるみたいで……学校のほうに影響が出ないなら
いいんですけど……」
「きょうちゃんなら大丈夫だよ。ああ見えて結構頑張り屋さんだから」
 兄妹そろって見えないところで努力して、苦労して、周りのために頑張っている。
 そういうところがすごく似てるんだよね。二人は否定するかもしれないけど
「…なぁ、食材を囲んで女子会もいいんだけどヨ、そろそろ始めねーか?」
「そうだね、じゃあ今日は……煮物でもしてみる?もう何度もやってるけど」


 加奈子が暴走しそうなところを私と麻奈実さんでサポートして、なんとかおいしいと言えるものができた。

「今日はありがとうございました」
「ううん、またいつでも連絡してね」
「じゃ、お言葉に甘えてまた来るぜ師匠」
「加奈子ちゃんはもっと頑張ろうね。あやせちゃん、きょうちゃんによろしく言っておいて」
「はい。おじゃましました」

 私は田村屋を出た後、途中まで加奈子と一緒に歩く
「なんで、すぐうまくならねーんだろ?」
「そんなすぐには上手になれないよ。もっと練習しなきゃ」
「へいへい……、あのさあやせ」
 加奈子があらたまった様子で話を変える
「なに?」
「失礼かもしれないけどさ、お前ちょっと前に比べてかなり表情が丸くなったよな。
優しくなったっていうか……あ、悪い。前は優しくなかったとかじゃなくてさ、
なんかこう雰囲気っての?」
 加奈子がらしくない話をして私は少し驚く。でも
「……そうかもね」
 私もだけどさ、加奈子は気づいてないみたいだけど、加奈子自身も前は他人の変化なんて気にも留めなかったのに
 優しくなった。そういわれるようになったのは、きっと彼のおかげ
 彼の優しさに感化されたのか、それは私にもわからないけど、たぶんそうだと思う
「やっぱ恋する乙女は違うねぇ、うひひ」
 無意識のうちに私は顔を赤らめる
「あーああたしも早く進路希望に『お嫁さん』とか書きてーなー」
「ちょっと、加奈子っ、あんまり大きな通りで言わないでよ」
「へいへい。っと、加奈子はここでいーぜ。じゃまた明日ガッコでな」
 そういって加奈子は一人歩みを進める。
「うん。またね」
 私は目の前にある鉄でできた階段を上り、見た目通りの少し古い扉を開け中に入る。
 中では桐乃がすでに待っていてお風呂上りなんだと思う。顔が少し火照っている
「あ、おかえり。あたしかなり汗かいちゃって、先お風呂入っちゃった」
 私は自分の靴を備え付けの棚にしまう、一応確かめたけど靴は一組しか入っていなかった、
彼はまだ帰ってきていない
「電気つけたままだからあやせもお風呂入っちゃって」
「うん、そうだね。あ、桐乃。今日バイトで遅くなるって」
「あー、そうなの?あいつなにしてんだか……」

 ここが今私が住んでいる家。扉の横のポストには『高坂』と書かれています

「ふぅ……」
 お風呂に浸かって私は肩の力を抜き、胸をなでおろす
「早く帰ってこないかな……」
 田村屋でもいったけど最近毎日彼の帰りが遅い
 それにかなり疲れている
 バイトの時間を増やしているって言ってたけど、いったい何のために?
 お金も大事だけれど、私は一緒にいる時間がもっと欲しいな…
「ただいまー」
 浴室の扉越しに彼の声がする。帰ってきたみたい
「誰もいないのか?でも電気はついてたし…買い物にでも行ったのか?」
 私も早く会いたかったので浴槽から出ようとすると
 彼が浴室の前で脱ぎ始めたのがシルエットになっていて、私はそのまま硬直してしまった
 そうしているうちに彼が浴室の扉に手をかける
「誰もいないなら今のうちに風呂に……あ」
 彼が一糸まとわず生まれたままの姿で扉を開ける
 その瞬間クーラーで冷えた空気が室内の空気と入れ替わるように入ってきた
 彼の体は少し筋肉がついたのか、以前に比べ大きくなったように見える。
「っ、ご、ごめんっ!」
 そういって彼は扉を閉める
「あやせが入っているのがわからなくて……ホントにごめんっ」
 …………
「あ、あの、もしよかったら、い、一緒にどうですか?」
「へ?」
 彼はいきなりのことで声が裏返った返事をした
「い、いえ、私も入ったばかりですし、お兄さんも一緒に入ったほうがお互いにいいかな、と思って」
 彼は少し考えたあと
「……本当にいいのか?」
「はい、後ろを向いてますのでその間に入ってください」
 そういって私は扉に背中を向ける
「お、おう……」
 再度扉の開く音が浴室内に響き渡る
「シャワー浴びたら出るからな」
 彼は言いながらシャワーを出し髪を洗い始めた。
「ちゃんと入らないとだめですよ」
 すこしの間彼は黙り、そのあと、わかった、とだけいってシャワーを浴び続けた



 彼が浴槽に入ると私と背中合わせになる形になった
 彼の背中は見る以上に大きく感じた
「…あのさ」
「…あの」
 二人の声が重なり
「あやせからでいいぞ」
「お兄さんこそ」
 お互いに譲り合う
 このやり取りもこれまで幾度となく繰り返してきた
「……じゃあ私から」
「おう」
「今日、麻奈実さんのところでお料理して、今日はそれを持ってきたので晩御飯に一緒に食べましょう」
「おっ、楽しみだな。あやせは料理うまいからなー」
「ふふっ、じゃあ次はお兄さんの番ですよ」
 そういうと彼は少し考えて
「あとで渡すものがあるからさ」
 とだけ言ってまた黙ってしまいました
 これは最近わかったんですが、一緒にいる人に合わせて話すみたいで
 特に私と二人きりでいるときは、意外にも結構静かなんですよね
「わかりました。じゃあ桐乃が帰ってくる前に私が先に出ますね」
「あぁ、そっか、あいつもどこ行ったんだか」
 私は彼が後ろを向いている間に、浴槽から出る
「じゃあ、お先に。ゆっくり休んでくださいね、最近疲れてるみたいですし……」
 彼は自分の手で顔を覆い隠し私からは顔が見えないようにして答える
「そう見えるか?」
「そうですよ。最近ずっと帰りが遅いじゃないですか。もしも何かがあったら、って考えると……」
 彼は顔から手をはずし笑顔で言う
「悪い、心配かけさせたな。ほら早く乾かさないと風邪ひくぞ」
「はい、」
 私は彼の言うとおりに浴室を出る
 部屋着に着替えてからすぐ桐乃が帰ってきた
「たっだいまー」
 桐乃の手にはアイスが入ったコンビニの袋が握られていた
「おかえり。急に出て行ったりしてどこに行ってたの?なにか一言言ってくれればいいのに」
「ごめんごめん。テレビ見てたらアイス食べたくなっちゃって、冷凍庫見ても入ってなかったしさちょっとコンビニにまでひとっ走り。はいこれあやせの分」
 私は桐乃と同じものを受け取る
「ありがとう桐乃。でも食べるのは晩御飯のあとにしてね。お兄さんがお風呂終わったら食べられるように準備してるから」
「ん、わかった。……って兄貴帰って来てたんだ」
 桐乃はそういいながらアイスを冷凍庫に入れる。
「うん。桐乃と入れ替わりに来たんじゃないかな?誰もいない間にお風呂って言ってたし」
 晩御飯の準備とはいっても今日作ってきた料理を温めるだけなのでそんなに時間はかからなかった
「誰もいない間に?ってことはあやせがお風呂入ってるときだよね。……つまり」
 桐乃がしたり顔で言う
 ばれてしまった、絶対に
「あ……い、一緒に入ったりはしてないよ!ホントだよっ!」
「あやせ……自分で言っちゃダメじゃん。バレバレだって、顔真っ赤だし」
「うぅ~……」
「で、どこまでいったの?もしかして…」
 もう隠せない。私は顔を赤くしたまま
「ただ、一緒に入っただけだよ……背中合わせで」
 そう言うと、桐乃はあきれた様子でため息をつき
「なんで、若い男女が一つのお風呂に一緒に入ってなにもないのよ……なんかこうラッキースケベ的なイベントがあるはずなのに……あ、兄貴にとってはあったか。一瞬とはいえあやせの裸見れたんだし」
 そう言われて私は思わず桐乃の背中を軽くたたく
「ちょっと桐乃そんな風に言わないでよっ」
「ごっごほっ、あ、あやせ……あやせのは軽くないよ……」
 どうやらツボ(?)にあたったらしく桐乃が咳き込む
「ちゃんと手加減してるはずなんだけどな…」
「そんなこと言ったって、この前加奈子だって気絶しちゃったじゃん」
「偶然だよ、偶然」
 私たちが居間で話をしていると、彼が浴室から出てきた。
「お、桐乃ただ…いま?」
「おかえ…り?」
「どうして二人とも疑問形なんですか。それじゃ晩御飯持ってきますね」
 台所に用意しておいた料理を取りに私は居間を離れた。
 ……居間を出たとき、桐乃と彼が耳打ちで何かを相談しているみたいで、ほんの少しだけ以前を思い出して怖くなった
 二人で何かを隠している。私の知らない何かを
 どうして内緒にするの?私が触れちゃいけないことなの?

 ……ううん。きっと桐乃がなにか相談しているんだ。今日学校でも、自分のことで動いてる、って桐乃が言ってたし
 きっとそうですよね、信用してますよ。二人とも





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最終更新:2012年05月20日 11:17
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