愛妹との暮らし方

 店を出ると夏の暑い日差しが肌を焼いた。相変わらず忌々し暑さだ。
――晴れて高校を卒業した俺は大学に入学するのと同時に一人暮らしを始めた。
あ、別に追い出されたわけじゃないぞ?家から大学がちょっと遠くてな、俺も一人暮らしとやらをを体験したかったし。
まぁ、そんなわけで親父に話すと「良い経験になる」と即快諾してくれた。
……お袋は不安な顔をしてたっけな。
大学からも近いし、駅からも近い。かなり良い場所だと思う。
駅から徒歩5分!だけど毎朝踏切で10分近く待たされる、なんてことも無いしな。
もっとも俺は、電車なんてほとんど乗らないから関係ないんだけどね!
っと、まぁ、一人暮らしやってるとこういうつまらんことを考えちゃったり独り言が多くなったりしちゃうワケよ。
体験したことのあるやつならきっと、今の俺の言ってることが理解できると思う。

一人暮らしは良いぞ?家族に気を遣わなくて良いし、気を遣われることもない。……時たま無性に寂しくなったりするけどな。
しかし、アパート俺一人しか住まないのにワンルームじゃないんだよな。なんとリビングがあって個室が複数あるんだぜ?
俺はもっと狭いところでも良かったんだけど、桐乃の強い要望でなぜかここになった。
なんで、自分が住むわけでもないのにあんなに必死になっていたのかが未だにわからし、どう考えても俺なんかより断然真剣に住まい探しをしていた。
まぁ、自分の時のための予行練習のつもりだったんだろう。
それにしても鬼気迫る表情で親父に意見していたときは喧嘩でも始まる物かとはらはらしたのもだ。
まぁ、なんだかんだ言ってもこの広さも気に入ってる。俺もいずれ彼女とか出来たりしたら……
にゃんにゃんらぶらぶな同棲生活を送ることができるわけだからな!
その点桐乃には大感謝だな。

そんなうきうき気分で帰宅してドアをくぐると、ふと違和感に襲われる。
どこかでかいだことのある懐かしい匂いが鼻孔をかすめた……
気がした。
そして何より気になるのが目の前に積まれたこの段ボールの山だ。

「な、なんだこれ?」

大きめの段ボール箱がでんでんと6つほど無造作に積まれていた。
身に覚えがない。もちろん通販で買ったそういった類の物ではないはずだ。
しばし唖然とし目の前の山を眺めていると、奥の部屋から物音が聞こえた。
……妙だ、何かがおかしい。
俺は物音の正体を確認すべく、ドアを開いた。
ここは使ってない空き部屋なんだが……

「ちょっと!なに勝手に人の部屋あけてるワケ?」

「!!!!????」

理解不能の事態が俺を襲った。なんだこれ?どうなってんだ?意味がわからん。
は?何で?何でこいつがここに?人の部屋?誰の?
つーかなにやってんの?

「お、おま……なんで?」

俺が狐につままれたような顔で桐乃に尋ねると、こいつは少し不機嫌な顔つきで

「あたし、今日からここからここに住むから」

と、耳を疑うようなこと口にした。


――愛妹との暮らし方


「と、とりあえず事情と状況を話してもらおうか?」


俺たちはテーブルの椅子に腰掛けて対峙していた。
俺は未だにこの状況が信じられずあたふたし、桐乃と言えばムスーとした顔で頬をふくらませテーブルと睨めっこしていた。
もうさっきからずっと黙ったままだ。
……やれやれ。どうしたもんかねこれは。

「なぁ、桐乃?別に尋問してるわけじゃないんだ。どういうことなのか、説明くらいしてくれても良いだろ?」

「……そんなに嫌だったの?」

「うん?なにがだよ?」

桐乃はチラチラとこっちの様子を伺いながら、蚊の鳴くような声でそんなことを聞いてきた。
今にも泣き出しそうだ。
いったいどうしちまったってんだ?泣きてーのはこっちなんですよ?

「いや、嫌だとかそうだとかじゃなくてだな……
 あ、別に嫌じゃなかったよ?」

「嘘!だってあたしの顔見た時嫌そうな顔した!」

やー、そんな涙目で睨まれてもな……
相変わらずこいつは苦手だ。

「してねーよ。嫌じゃないっていってるだろ?俺はただこうなった理由をだな……」

「じゃあ、……嬉しかった?」

こいつ俺の話聞く来あるのかね?
昔っからどうもこいつには相手に話のペースを持っていかれがちなんだよな。
おそらく、少なくともこいつの話を聞くまでは、俺の話は聞いてもらえないだろう。
……こいつの話が終わっても俺の話を聞いてくれるか怪しいんですけどね。
はぁ、しゃーねぇなぁ。

「あぁ、もうわかった!わかったよ!久々に会えて嬉しかった!
もうこれでいいだろ?わかったら俺の話を――」

「そ?じゃあ文句ないっしょ?こんな可愛い娘と一緒に暮らせるんだからさ、ありがたく思いなさいよね?
じゃあ、あたしまだ片付けがあるから。見られたくない物とかもあるし、手伝いはいいや。」

あっけらかんとそう言い放つと俺の制止を気にもとめず、部屋に戻る瞬間「用があったら呼ぶから」 
と、一言だけ残して消えた。

「……嘘泣きかよっ!」

迂闊だ。すっかりだまされた。
嘘だとしても弱いんだよなー。そりゃそうだろ?あんな顔されたら誰だって狼狽える。
……それにしても

「はぁ……」

これからの生活を考えると気が滅入った。
人生相談のおかげで少しは縮まったにしろ、今まで互いに避け合ってきた俺たちだ。
物理的に距離が近くなったこの環境で、衝突無しに生活できるだろうか?
桐乃が騒ぎ立てそうな懸念事項も少々あることだしな。
も、もちろんやましいことなんてなにもしてないよホントだよ!

「でも、まぁ……」

こんな不安を抱きながらも少しは嬉しいと、正直にそう思うのだった。









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最終更新:2009年09月13日 02:22
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