「もちろんだ」
京介はとても優しい声でそう言った。
……この兄貴は、こういうところがズルいと思う。
いつもはダラけたような感じで、誠実さの欠片も感じられなくて、あたしをイラッとさせる癖に。
こういう時だけ、誠意の篭ったような声で、そんな台詞を吐くのだ。
そんな声出されたら、抵抗なんて出来ない。
恥ずかしさの余り、力が入ってしまっていた足から力が抜ける。
ああ、つ、ついに……あたしはエッチを体験しちゃうんだ。
エロゲで幾度となく体験はしてきたけど、でも実際とはぜんぜん違う。
何より襲う側じゃなく、襲われる側としてなのだ。
「い、行くぞ?」
あたしの大切な部分に、熱いモノが突き当たる。
「う、うん」
そしてあたしはそのモノの侵入を許可する。
入り口部分を熱いものが入ろうとした時、ピリとした痛みが走った。
けど、そんなに痛くない。この程度なのだろうか。
それよりも熱いものが入ってきているという高揚感の方が強かった。
うあ、うあああ……。は、はいってきてる、今、あたしはエロゲのヒロインと一体になってる。
分かる、分かるよぉ、今なら、エロゲのヒロインたちの心境が。
お、おにいちゃん、はいってきてるの、分かるよ? という気分をまさに今体感しているのだ。
「き、桐乃。大丈夫か、痛くないか?」
京介はそんなあたしを気遣って声を掛けてくる。エロゲの主人公みたいだ。
「う、ううん。ちょ、ちょっと痛いけど、そんなでもない、カナ? ……全部、入ったの?」
少し痛いけど、健気に主人公の為に我慢するあたし。
「……い、いや、まださきっぽも入ってないけど」
……はい?
え、さ、さきっぽも入ってないって……?
え、え、ちょ、あ、あんた待ちなさいって……!
「……~~ッ!!」
い、いったああああああああっ!!
い、痛すぎるんですけどっ!?
しかもまだ入ってくる……って!?
「た、たんま……!」
「え、お、おう! つ、つか大丈夫か、おまえ、半泣きだぞ?」
大丈夫なワケないでしょっ!
メチャクチャ痛いっての! あ、あんた殺す気!?
「……ちょ、ちょっと待ってて。い、今、覚悟決めるから」
そ、それでも止めるワケにはいかない。
このヘタレ兄貴の事だ。今止めるっていったら、次の機会まで数年ぐらい期間を置きかねない。
その間に違う女に唆される可能性がある。
べ、別にさっきの兄貴の言葉を信じてないワケじゃあ……無いんだけど。
でもすっごい不安なんだよね。
それに兄貴の意思を関係なしに襲われる事もあるかもじゃん?
想像してみる。
それはそれはサイアクだった。
襲われたのに関わらずそれに対して責任を感じちゃってあたしから離れていく京介。
幾らあたしが声を張り上げて止めても、京介は…………。
「……桐乃、無理しなくても」
「うっさい! 今覚悟決まった! うっし、さあ、来なさいよ! あたしは、負けないからっ!」
「うお、お、おお。わ、わかった」
あたしの気合の入り方に、京介は少しビビってるようだ。
……ま、まあ、ちょっとあたしも気合の入れる方向が少し間違えてた気もするけどっ。
で、でも仕方ないじゃん。あ、あんたが盗られると思ったら……。
ぐぐぐ、兄貴のが少し入ってくるだけで、激痛が止まらない。
涙が出そうになるのを堪える。泣いたらこのバカは絶対に止める。
な、泣いてみせるものか……っ!
あ、あんたはあたしの、なんだから……!
声も涙も我慢して、それこそ永遠とも思える時間を我慢して、ようやく動きが止まった。
「……ぜ、ぜんぶ、はいった?」
「ああ……。桐乃、ありがとうな。……すっげえ気持ちいい」
優しい表情でこちらを見ている。ただそれだけで、先ほどの苦痛が報われた気がした。
今だって痛い。ホント痛い。マジ死ぬって感じ。
エロゲのヒロインたちみたいに、少し痛いけど、気持ちいい方が強いの!みたいな台詞は全く出てこない。
痛いって感覚だけで、全然気持ちよくなんてなかった
でも……。
「………う、動かないの?」
「え? いいよ、無理すんなって。それにこうしてるだけでも凄い気持ちいいからさ」
京介の顔を見ていると、心が凄く嬉しくなる。
気持ちいいと言われるだけで、痛みが感情で上書きされていく。
……あの兄貴が、あたしで気持ちよくなってる。
あたしはまだまだ痛いし、少し動かれただけで涙が出そうになるけど。
「動いて……いいよ」
「大丈夫だって」
…………。
ムカッ。
「動けって、言ってんの! 早く動きなさいよ!」
「うえ!?」
あたしの言葉にたじろぐ京介。
「だ、だって痛いんだろ? おまえ、すげえ痛そうな顔してんぞ?」
「痛いに決まってんでしょッ! は、はじめてなんだからっ! それまで指だって入れた事なかったし……!」
けど。
「でもムカツクの! あんたに気遣われているのか、なんかムカツクの……!
いいから、動いてっ! あ、あんたが気持ちよくならなきゃ……」
いくら、気持ちいいって言ってくれても。
そこに遠慮があるのなら、あたしはそれを壊したい。
「あんたが全力であたしを愛してくれなきゃ嫌ッ……!」
「き、桐乃……」
「いいから、動いて……っ! あんたはね、あたしで気持ちよくなる事を考えればいいの!
んでもってあたしを気持ちよくしてくれればいいから……!
全力で、あたしで気持よくなってよ……!」
手加減なんてしないで。
遠慮なんてしないで。
あんたが、男で、あたしが、女だって信じさせて。
兄があんたで、妹があたしで。
それでもその垣根を超えたんだって。
男のあんたで、妹のあたしを愛して。
「……ッ! く、わーった、わかったよ! どうなっても、知んねえからな、このバカッ!」
兄貴が、あたしの腰を抑える。
「言っておくが、俺の全力はヤバいぜ……?」
「ふん……、やってみなさいよ。あんたの全力ぐらい、あたしが受けきってみせるっての」
息を吸う。そして、覚悟を決める。
ハッタリじゃないってところを見せてみせる。
言っておくけどね……、あたしの愛の深さを舐めんなっての!
「……桐乃、愛してる」
「…………、ッ!!」
あたしがつい力を抜いてしまったタイミングで、京介の攻撃は始まった。
手加減が無い、激しい攻撃。
一挙一動があたしの身体にもたらす痛みはどれも激痛。
痛い痛い痛い痛い痛い……でも、負けない!
兄貴が、あたしの身体で果てるまで、この勝負は終わらない…!
「…………」
「へっ……どうした。止めて欲しいなら、素直に言えよ?」
「……ちゅーして」
「…………ッ!!」
こちらに情けを見せようとした京介に、あたしからも攻撃を仕掛ける。
京介のが、あたしの中でビクンと跳ねた事が分かる。
ふっ、これがエロゲ仕込みの技よ! 大抵の主人公はこれで逝っちゃうんだからっ!
しかし、一度跳ねただけで京介は耐え切った。
流石は幾つものエロゲーを乗り越えてきただけある。
あたしの攻撃を耐え切った京介はあたしを見て不敵に笑って反撃に転じる。
「よ、よし。わかった、ちゅー、してやる」
「……え、~~ッ!!」
あたしの返事も待たずに京介があたしの唇を塞いだ。
そして。
……あたしの中の何かが弾けた。
「ど、どうだ」
「……たりない」
「え?」
「もっとちゅーして。たくさんちゅーして。ちゅー。早くちゅーして」
「き、桐乃?」
あたしの正気を確かめるような表情をしてる暇があったら早くあたしにちゅーして。
戸惑ってる暇があるなら、早くあたしにちゅーして。
「お、おまえ、なんか目が据わってるぞ」
「うっさい。あんたがしてくれないなら、あたしからするから」
「へ? おわっ、いきなり起き上がるなって……」
身を起こして、京介の首へと手を回す。ホールド、成功。
「き、桐乃さん? そ、その笑顔が怖いんですが」
「ん~? んー……」
笑ってるカナ? んー、まあいいや。ちゅーしよ。
「ちょ……、ッ! た、た、ッ!! すと、ッ!!!」
京介が何かを喋ろうとするがそんなのはどうでもいい。
どんな事より、ちゅーが先。ちゅーしてから物事は考える。
それだけが真理で、それだけが摂理。
ちゅ、ちゅ、ちゅ、……ちゅ、ちゅ、ちゅちゅちゅちゅちゅちゅ。
キスして、キスして、キスして、何度も何度も唇を合わせる。
キスする度にあたしの中で京介のがぴくぴくと跳ねる。
それも面白くて、更に沢山のキスを重ねる。
「好き、好き、好き、好き、好き好き好き好き好き……好き」
一つ好きと言って、一つキスを重ねて、何度もキスを重ねている内に、徐々に後退っていた京介はついに布団に仰向けに倒れてしまう
。
体勢が変わってあたしが、上。
「お、おい、き、桐乃……?」
あたしが、上。ふ、ふひひ。あたしが上。ふひひひ。
なんか下でバカ兄貴がなんか言ってるけどどうでもいいし。
あんたは、これからあたしにキスされ続けるんだから覚悟してなさい。
ぺろ、りと舌舐り。兄貴の唾液の味がする。
胸がきゅんきゅんする。あそこもじゅんじゅんする。
「兄貴……兄貴兄貴兄貴兄貴兄貴」
頬に、鼻に、瞼に、額に、顎に、首に、耳に。
沢山のキスの嵐を降らせる。
その度に京介が照れた様な表情を浮かべるのが堪らなくあたしを興奮させる。
「ふひひ、でもやっぱここだよねー」
兄貴の唇をなぞる。ここが一番、キスしていて気持ちいい。
「き、桐乃、わ、わかった、お、おれの負けでいいから……」
「うん? なにいってんの? なんか勝負してたっけ?」
「し、してた……よな?」
ふーん。ま、いいか。
キスしよ。
兄貴とキスしよ。
京介とキスしよ。
キスしてキスしてキスしてキスして、そこから考えたっていいよね?
「ちょ、俺の話を聞けって、これ以上ちゅーされると俺の限界が……」
「うっさい」
チュッ。
京介のがおっきくなってびくびくっとしている。
チュッチュッ。
でもそんなの知らない。
チュッチュッチュッ。
唾液と唾液を混ぜて。
糸が引きあって。
口元がベタベタで。
でも目がギラギラで。
唇を何度も何度もあわせていく。
あたしが、正気に返ったのはそれから数時間後の話で。
その時、京介は何か凄く疲れきっていて。
何か下が偉い事になっていて。
よく分からない内に、何か京介は大変だったらしい。
「ふーん。なんか知らないけど、疲れてるならあたしがちゅーしてあげよっか?」
「断固として断るッ!」
「えー」
これから先、あたしと京介には様々な障害があるだろう。
それだけは間違いない。殆どの人があたしたちの敵となり、仲を裂こうとするだろう。
でもそれはたった、それだけの事だ。
京介の隣にあたしが居られるのであれば、世界を敵に回したって構わない。
ただ、それだけの事。
それに隣に京介が居るって分かれば、あたしはなんだって変えられそうな気がするから。
目を閉じれば見えてくる。
苦難の果て、笑顔に囲まれて祝福されるあたしたちが。
「……どうした?」
「……別に」
――繋いだ手は、もう離さない。
最終更新:2012年07月05日 02:42