リビングに入ると裸エプロンの桐乃が立っていた。
「ちょっ…おまっ!?」
桐乃は怪訝そうな顔で俺の横を通り抜けると、部屋を出ていった。
俺はすぐさま後を追いかけるが、階段を上がっていく後ろ姿を見て
思わず納得した。
桐乃はちゃんと服を着ていたのだ。
季節は夏。
タンクトップにショートパンツという面積の小さな服を着ていたので、
服の生地がみんなエプロンの下に隠れちまってたってわけだ。
「紛らわしいやつ…」
俺は無性に腹が立った。
こっちは帰るなり妹がすごい格好で現れたので、思わず心臓が止ま
りそうだったってーのによ。
ため息をつくと、リビングに入る。
するとキッチンには料理器具が広げられていた。
どういう風の吹き回しか、桐乃は料理でも作っていたらしい。
「なんで、いるの」
戻ってくるなり、桐乃はぶっきらぼうに言った。
「なんで…って、ここ俺の家なんですけど」
手には本。
いま部屋にでも取りに行ってたんだろうな。
「そうじゃなくって、どうして『今いるのか』って聞いてんの。あんた友達
と出かけたんじゃなかったの」
「いや、すっぽかされたんだよ。赤城のやつ、急に妹の買い物に付き
合うとか言い出してさ。ついさっき連絡が来た」
見るとレシピ本らしい。
数冊重ねてある一番上の表紙からそう判断した。
桐乃は流しの前に立つと、それを脇へ置いて、こちらへ向き直る。
「ふぅん。それでノコノコと帰ってきたってわけ?」
大げさなため息。
つーかノコノコって…ずいぶん棘のある言い方だな。
「それ言うならお前だってそうだろ。どういう風の吹き回しだ、それ」
俺はキッチンに散らかったものを顎でしゃくった。
それに対し桐乃は、
「う、うっさい! いいでしょ、別に」
睨みを利かせると、顔を背ける。
んーだよ。
なにキレてんだよ、ったく。
今日は日曜日。
昨日の晩、親父とお袋が揃って出かけるという話を聞いていたから、
俺は玄関で靴を脱ぎながら、家には誰も居ないものだと思っていた。
もちろん桐乃がいる可能性は知っていたが、大抵は部屋にいるか、
居間にいてもテレビを見ている、もしくは電話をしているので物音で
わかる。
さっきドアの前に立ったとき中は静かだったから、俺はやはり無人
なのだとばかり思っていた。
そこで例のアレである。
ほんと、こいつといると騒動には事欠かねえよな。
俺は冷蔵庫から麦茶を取り出すためキッチンへ向かう。
その際、改めて桐乃の格好を見てやることにした。
ピンクの可愛らしいフリルがついたエプロン。
その脇から見え隠れするのは面積の小さな衣服。
やはり裸同然の格好だ。
ゆったりとしているエプロンとは対照的に服はタイトで、身体のライ
ンが出まくっているから、なんつーか…エロいんだこれが。
「あ…
あやせが教えてくれたのよ」
俺が麦茶をコップに注いでいると、桐乃が言った。
目の端には料理本をめくっているのが見える。
「それだけよ。ただ、それだけ…」
で?
どうして気まずそうに話す?
「へえ…あやせ料理できるのか。それはいいなぁ」
俺は麦茶のパックを冷蔵庫に戻しながら、鼻の下を伸ばした。
あやせの料理ってさぞかし美味いんだろうなと思っていたからだ。
ましてや裸エプロンなんてやってくれた日には、俺もう、死んでいい
かもしれん。
「あんた…合コンとかで絶対騙されるタイプね」
「なっ…」
桐乃が飽きれ顔で言った。
俺はなぜ心が読める?とすぐに反論を思いついたが、むろん言える
わけもなく、舌打ちするのをぐっと堪えリビングに戻る。
テーブルにコップを置くと、ソファに腰掛けた。
そのまま雑誌を広げ、パラパラとめくった。
俺はたまには妹が料理をしている音を聞きながらリビングで寛ぐって
ーのも乙なもんだなーと思った。
「な…なんでいるのよ」
桐乃は作業しながら、しばらくの間こちらをチラチラ見ていたが、やが
て耐えかねたように言った。
「なんで…って、ここ自分の家なんですけど」
あれ?
さっきも同じことを言ったよな俺。
「そうじゃなくって、どうして『今ここに』…って…もうっ! いい!」
桐乃はぷいと作業に戻った。
なんだよ、同じセリフ言えっつーの。
漫才みてーで面白かったのによ。
しばらくして桐乃はケータイを取り上げると、誰かへメールを打ちはじ
めた。
その後、通話をはじめる。
「あ、ごめんね、いま大丈夫?」
どうやら相手はあやせらしい。
「そう。そこが分かんないんだけど。どうやってやるんだっけ?」
桐乃は楽しそうに話しながら、あれこれと器具を引っ搔きまわしてい
る。
お世辞にも手際がよさそうには見えなかったため、俺は出来上がり
を心配したが、まぁ、どうせ食わせちゃくれないんだろうな。
だってこいつ、もし要求したら平気で「1億払え」とか言いそうだし。
「え? うん、分かる、分かる。そう。っていうかマジ最悪だよねーそれ」
雑誌をめくりながら聞くともなく聞いていると、話の内容がどんどんと
料理から離れていくのが分かった。
「うんうん。そうだよねー。ほんっと最悪」
これ”ザ・女”って感じだよな。
作るなら作る。
喋るなら喋る。
どっちか1つにできねーもんなのかね。
「ほんっと使えないし、今も邪魔してくるし、サイッテー。でもいいなぁ、
あやせは1人っ子だから」
あれ?
俺Disられてる?
桐乃を見ると、こっち見てギリリ…とかやっていてるし。
ぎ、ぎりりん氏ではござらぬか…。
「えー? 兄貴なんて、いたってウザイだけだって。あたしなんて毎日
イライラさせられてばっかだし」
こりゃ確実だな。
俺はいま妹にDisられてる。
すっげー嫌そうな顔で、「この部屋から出ていけ」というメッセージを
発せられてる。
だが俺は従わない。
だってどうして自分の家のリビングなのに行動を制限されなくちゃな
らねーんだよ。
俺はここにいたいんだ。
文句あっか?
「そーそー。男の兄弟でも、弟ならまだ可愛げがあるんだけどねー」
そう言いながら、桐乃はキッチンの前に回ってくる。
「でも、あたし的には男ってだけでアウト。マジありえない。バカ過ぎ
だし、鈍感だし。あと使えないし」
身内の価値を「使える/使えない」で判断すんな。
桐乃は嫌そうな顔のまま、俺の前のソファに腰掛ける。
おまけに足なんか組みやがって。
「スケベで、バカで、あたしのノーパソ借りパクして。しかもエロサイト
ばっか見まくって…」
そ、それを言うなって!
しかもあやせに…。
この鬼畜妹が。
お前のせいで「鬼畜妹(きちくまい)」なんていう嫌なフレーズを造語
しちまったじゃねーか!
「前だって見たでしょ? ほら、はじめてうちに遊びに来てくれた日、あ
いつあたしのこと押し倒して…」
そ、それも言うなって!
あやせが持ってる変態シスコン兄貴のイメージに燃料を投下すんじ
ゃねえ!
「ほんっと、あいつってばハァハァしちゃってさ」
してねーよ。
「うっそ、いや…。男ってそこまで鬼畜じゃないでしょ。まさか妹をオカ
ズにするなんて」
ね、ねねねーよ!
確かにあんとき覚えた胸の感覚は今でも忘れられないが、オ…オカ
ズになんか…してねーから!
つーかJCの会話エギィなぁ、おい。
一方の兄貴が電話口のそばにいる状況で、その兄妹のエロ話をす
る? フツー。
しかも桐乃が「うっそー」って言ったってことはだぞ? あやせから言い
出したってことだ。
あいつ可愛い顔してエグすぎるだろ。
…って、いや待て。
あやせってそんなこと言い出すやつだったっけ?
本当にこいつ、今あやせに電話してるのか?
「でもさ、うちのバカならありえるかも。前もお風呂上りに下着とかジロ
ジロ見てきたし」
桐乃はおもむろに足を組み替える。
「あいつ…あたしが知らないところで、あたしのパンツ盗んで、くんかく
んかしてるかも」
するかよ!
それにお前だって兄妹がセックスするゲームをやって一日中ハァハァ
してたじゃねーか。
「ほんっと。近親相姦とかマジありえない! キモイ!」
完全に同意!
兄妹でセックスなんてありえん!
俺がだな…その…あいつの胸の感触を忘れられないのだって…なん
つーか…そんなキモイもん触らされたのがトラウマだったからであって…
その…決して他意はない。
下着のデザインとか…はっきり覚えてるのだって…けっ…決して深い
意味はないんだ。
すげー女の子らしくて可愛いらしい下着だったとか…上下お揃いの
やつだったとか。
おまけにピンクを貴重にしてて、ちょっと濃いめの同系色を使ったリボ
ンがアクセントでついてて…それで…とか…さ。
つーかこいつ…今でもあれを着けてるんだろうか。
そう思うと俺の視線はふいに桐乃の身体へと吸い寄せられていった。
桐乃がまたぞろ足を組み替える。
するとふともものすき間から見えてきたのはショートパンツの生地だ
った。
パンツじゃねーのかよ!
って…なぜ俺はがっかりしている?
なぜショートパンツじゃいけない!?
「てゆーか、こいつ今、妹のふともも見て欲情してるんだよ? マジキモ
イ!」
き、気づかれてるっ!
俺は慌てて視線を逸らせるが、桐乃は悪態をつきながらも立ち上が
った。
「あぁ…ショーパン穿いててよかった。もしスカートだったら犯されるとこ
ろだったよ」
犯さねーっ!
じゃあ俺はあれか? パンツ見た瞬間、自動的にレイプを始めちゃう
セックスロボットなのか!?
仮にそうだったとしても、俺は断固プログラムを超越する自我を働か
せて、その運命を変えてみせる!
とはいえ…だ。
俺の脳内には、確かに妹のふとももが焼きついていた。
しかも桐乃は俺の視線が逃げた先へ移動すると、そこへまた腰を下
ろしやがった。
「ほっんと、ウザイ。死ねばいいのに。息するだけで税金取れるレベル」
桐乃は俺のほうに近づいてくる。
「キモすぎ…。妹がちょっと近づいただけで…は…鼻息荒くしちゃってさ」
桐乃はケータイを耳に当てたまま、もう一方の手で、半ば匍匐前進す
るようにしている。
前かがみになって、エプロンの胸元にたるみが出来る。
それで谷間が見えた。
そう。
エプロンの隙間から妹の谷間が見えたんだ。
意外なことにタンクトップは胸元だけがゆったりとしていて、そのさら
に中にあるものを盛大に見せびらかしていた。
「お…おいお前」
俺は必死で目線を逸らしたが、桐乃はどんどんと近づいてくる。
ソファの端に腰掛けていたせいで、俺はこれ以上移動することがで
きなくなり、くっつくなよという意思表示のつもりで肘を使った。
それに対し桐乃は身体ごと押し返してくる。
「ウザイ! マジで! 死ね!」
もう俺の耳元に顔を寄せて遠慮なく怒鳴っている。
俺はまともに目が合ってしまいイラッとなったが、視線を逸らした拍子
にまた谷間を見てしまう。
そこでハッとなった。
こ…こいつ…ブラジャーをしてない…だと!?
「ちょ…おまっ?」
俺は思わずそう声に出していたが、桐乃は怪訝そうな顔をしただけ。
俺は動揺を隠しつつも、今一度そこを見た。
エプロンとタンクトップのすき間、その2枚重ねの生地と素肌とのあい
だにすき間があり、谷間が見える。
そしてその深みから左右に目をやれば、そこにあるべきものが存在
しなかった。
ブラジャーのことだ。
俺はもしかして隠れてるだけかもしれないと思い、確かめてみること
にした。
桐乃の目線を警戒しつつ、より深く覗き込んでみる。
ダメだった。
やはり何もなかったんだ。
それどころか見てはならないものがはっきりと目に入ってしまい、
俺はドギマギした。
その…さすがに…ち…乳首はまずいだろ。
俺はすぐに目を逸らした。
理性に背中を押されて、頭の中をリセットしようとする。
しかしそれはもう完全に目に焼きついてしまっていた。
薄暗がりでも分かるほど、鮮やかな色をしたピンクの突起。
それはあたかも小さくて可愛らしい2つの果実のようであり、指で弾い
たら音でも出しそうなぐらいぷりぷりしていた。
つーかお前…いくら今日は俺がいない予定だったからって、油断し
すぎだろ。
なんでブラ付けてないんだよ。
風呂上りでもないのに、そんなことありえんだろ…。
いや待てよ。
こいつさっきからシャンプーの香りがしてる?
まさか本当に風呂上りなのか?
部活の練習でもあって、汗を掻いたとか?
そういや日曜でも大会前は稀に練習があるはずだし、部活後にシャ
ワーを浴びてそのまま料理をはじめたとか?
そういや例のヘアピンもしてない!
俺の心中知ってか知らずか、桐乃はこちらを睨んだまま文句を垂れ
続けていた。
もうあやせと会話が成立してないんじゃないかというぐらい好き放題
に言いまくっていやがって、だからこそ俺は遠慮なく見ることができた
んだ。
むろん乳首をな。
俺は妹の乳首を嘗め回すように見ていた。
こいつはまだ15歳だが、カラダはすでに女だ。
スポーツをやっているせいで肉感的になってるからな。
桐乃の所属は陸上部で、専門は短距離走。
長距離ってのはひたすらにカロリー消費するだけで、どんどん痩せ
ていっちまうが、短距離ってのは逆に瞬発力の勝負だから脂肪がなく
ならない。
それどころか程よく筋肉がついて、だからこいつの胸は…あんな
柔らかくなってたんだよな…。
俺は揉み合って桐乃の胸を触ったときのことを思い出していた。
その柔らかな肉の上にあんなぷりぷりの乳首乗せやがって…。
ちくしょう…吸い付きたい!
マジで…。
いっ…いや…俺っ! 俺よっ! なにを考えてやがる!
これは妹! 妹なんだぞ?
どんなにエロカワいくても実の家族なんだ!
俺は必死になって自分の状況を整理した。
今日の朝、赤城から電話がかかってきて、遊ぶ約束を取り付けた。
待ち合わせした場所に行くと、電話がかかってきて、すっぽかされ
た。
帰ってくると、妹がノーブラ・裸エプロンで立っていた。
目の前に座って足を組み替えたり、擦り寄ってきたりして。
おまけに挑発までして来やがった。
谷間と乳首まで見せやがって…くそっ!
その上、俺は少し前に黒猫と別れたばかりだった。
あいつとは結局一度もセックスしなかったので、近頃の俺は何かと
欲求不満を抱えていた。
そして…俺は妹の乳首から目が離せないでいる。
実の妹の桐乃をこんなにもエロい目で見て…。
どうやら俺は本当に変態のシスコンらしい…。
でなきゃ、どうしてこんなに股間が苦しいんだよ…。
「だから、このバカってほんっと使えなくて……っ!?」
桐乃が急に黙りこくった。
目線を自分の胸元へ持っていくと、慌ててそこを隠す。
しまった…。
乳首をガン見していたのがバレちまった!
俺はそれでぶん殴られるものだと覚悟したが、桐乃はそのまま怒
鳴り散らす。
「サ、サイテー! 妹のヘンなとこ見て、マジ顔になっちゃって! いっ
たい何しようっての!? 変態!」
くそぅ…。
もうそれでいいよ。
最終更新:2013年02月13日 00:16