桐乃の携帯小説記念パーティーと称した俺の慰め(?)パーティーが終わって数日がたった。
桐乃からのプレゼントは内容に目をつぶれば本当心から嬉しかった。
……桐乃に殴られるかもしれないが、欲を言えばもうちょっとまともな……
いや、いやいや、空恐ろしい。これ以上は考えまい。
そんなことをぼんやり考えていたもんだから廊下で桐乃とぶつかった。
「うおぉっ!?」
絶賛桐乃について考えていたところにぶつかったもんだから、自分でもびっくりするくらい情けない声が出た。
まぁ、だれだ。あんな心温まる話があった後出しさここは、
「ごめん。兄貴大丈夫?」「いやわりぃこっちこそ。ぼうっとしてた」
みたいな会話があってもいいんじゃないとかと期待したわけですよ。
別にね、取り立てて仲睦まじくしようなんて思ってないし、必要もないと思うんですけどね。
それでもやっぱり、家族だし、兄妹だし。
そういうのにあこがれちゃうわけですよ。
でも、あこがれるって言うのはつまりそういうことが稀であるわけで、
「チッ」
と、舌打ちだけして俺には目もくれずささっと歩いて行ってしまったわけですよ。
「はぁ、現実は非情である、と」
まぁ、こんなもんだよな。別にいいんだがな。
しかし、完全に無視できないってのが辛いところだ。
兄貴面するなっていわれたけど、曲がりなりにも桐乃の兄なわけで。
困ってれば助けてあげたいと思うし、助けなければならないと思う。
……べっ、別に桐乃が可愛いからだとか、シスコンだからとかじゃないんだからねっ!?
「……アホか俺は」
ずいぶん妹に毒されてしまったものだと心底そう思う。
……
部屋でだらけていると桐乃からメールが来た。
家の中にいるのにメールかよ!
と思ったりもしたが、直接言われるよりは心の準備が出来て良い。
心の準備?そう、つまりいやーな予感がするってことだ。
俺は恐る恐る携帯を開き、桐乃からのメールを読んだ。そこには
『今から部屋に来て』
と、そう一言だけ書かれてあった。
「あれ?これだけ?」
もっと直接頼みにくいようなどぎつい内容が書かれてると思ったんだが……
拍子抜けだった。この程度の内容ならさっきぶつかったときに言えば良かったはずである。
そんなに俺と話すのが嫌なのか?しかしそれでいて部屋にこいという。
年頃の女の子はよくわからんね。地味子ならもうちょいわかりやすいと思うんだがな。
ともかくお呼びがかかった以上、俺に拒否する権利はあるはずもなく、桐乃の部屋に向かった。
コンコンっとノックをする。
「桐乃?入って良いか?」
『ど、どうぞ』
どうぞ?だって?桐乃しては妙に丁寧だ。普段から俺に向ける態度じゃない。
……これは何かある!?
俺の本能がレッドアラートを鳴らして警告していた。やれやれ今すぐベイルアウトしたい気分だぜ。
んだが撤退は許可されていない、俺は気を取り直し、覚悟を決めて扉を開けた。
……にもかかわらず次の瞬間、俺は固まった。
「お、お帰りなさいませ。ご主人様」
あー。なんだこれ?夢でもみてんのか?俺?
それともエロゲのやり過ぎで頭おかしくなって幻でも見てんの?
いや、まてまて。やり過ぎって言っても俺が自発的にやってるわけじゃねーし。桐乃のヤツに無理矢理やらされてるだけだし?
……だめだ、現実逃避してるな。
「あー、そのなんだ?これ?」
そう、桐乃はあのとき会場で見た時の格好……
メイド服に身を包んでいたのである。
桐乃のこの姿を見るのはこれが初めてではない、だが俺はその姿に完全に目を奪われていた。
読モをやってるだけあって相変わらず抜群のプロポーション。整った顔立ち。
上目遣いで顔を紅潮させて俺を見つめるその瞳に、俺は吸い込まれそうになった。
が、次の瞬間ハッとして目をそらした。次の桐乃の台詞が予測できたからだ。
考えるまでもない「は?なに見てんの?キモイんですけど?」だ。
「ね、ねぇ?とりあえず入ってよ?」
ん、あれ?なんだ。照れてんのか?
我が妹ながら可愛いらしいとこもあるんだな。
桐乃に促されて部屋に入る途中ふと桐乃の腰当たりに目がいった。
ふりふりと揺れる何かが目に付いたからだ。
「……ん!?猫しっぽ!?」
そう、桐乃の腰にはかわいらしい猫の尻尾が付いていたのだ。
しかも微妙にフリフリと動いていた。
そして、俺の声に反応した桐乃と再度目があった。
もしやと思って視線を少し上にずらしてみると、さっきは気づかなかったが頭の上にネコミミがちょこんと付いていた。
これもぴこぴこと微妙に動いていた。
そういや黒猫に作ってくれってと頼んでたっけ。しかし、黒猫マジですげ―なこれ。
「ね、ネコミミメイド?」
「う、うん。可愛いっしょ?
……じゃなくて、可愛いでしょ?」
……
部屋に入ると良い匂いがした。
テーブルの上にポットとお茶の缶が置かれてあった。
「紅茶?」
「うん、一緒に飲もうと思ってさ。
……思いまして。」
なんだ桐乃の奴。妙な口調だな。メイド補正か?
「あー、別にあれじゃね?無理になれない口調にする必要無くね?」
「……あたしには似合わないってコト?」
「い、いやそういうわけじゃないけどさ、そのカッコも可愛いと思うよ?
でも、まぁ、普段通りのお前でいいんじゃねーの?」
桐乃の声に怒気を感じた俺はついついそんなフォローするようなことを言ってしまった。
妹相手に可愛いだって?エロゲ脳乙だな。
「普段通りのあたしってなに?」
「う、なんて言うか、そのツンツン?」
「……なにそれ?意味わかんないんだけど?
まぁ、いいや。
きょ、今日はさ、あのときちゃんと出来なかったからやり直しって言うか……」
「な、なにを?」
「ご、ご奉仕?」
……何を言ってるんだこいつは?
ご奉仕?桐乃が?俺に?
ねーよ。マジで。
「いや、そんなの良いから。もう気にしてねーって。
お前からのプレゼントもマジで嬉しかったし。そういうのお前らしくねよ」
やっぱこいつも気にしてんのかね?そりゃまぁ、あれはさすがにきつかったけどな。
麻奈実と顔を合わせるのがどんなに辛かったことか。
アイツがぽけーっとした性格で良かったぜ。変に気を使われたりしても気まずいだけだしな。
「アンタ全然わかってない。
そーゆーことじゃないんだって!あたしがしたいの!」
「いや、だからな?俺がいいって言ってんだろ?」
「あたしがしたいって言ってんじゃん」
何とも不毛な言い争いだ。
こいつの頑固さは親父譲りで筋金入りだし、なにより普段着ないようなメイド服、しかもネコミミ、尻尾付きと来たもんだ。
本当は相当恥ずかしいに違いない。ここは兄として妥協せねばならないだろう。
「じゃあ、頼むよ」
「……んなによ……最初からそう素直になってればいいのに……
せっかくこんな格好してあげてるのにぃー。反応もイマイチだしぃー……」
なんかジト目でぶつぶつ仰ってますね……
なんだか、底知れない恐怖を感じてしまうような?
うおっ、今冷や汗がっ!?
「では、ご主人様。紅茶でもいかがですか?」
「あぁ、それじゃせっかくだからいただくよ」
桐乃はさっきと打って変わって読モので見せるような営業スマイルだった。
……こうしておしとやかにしてれば可愛いんだがな。
紅茶がカップにゆっくりと注がれ、特有の香りが鼻孔をくすぐった。
俺は紅茶なんて高貴な飲み物は嗜まないが、それでも良い香りだと思った。
「どうぞ」
「さんきゅ」
カップをゆっくり口に運んだ。よりいっそう良い香りがした。
一悶着あったおかげで少し温くなっていたようだが、それでも素直においしいと感じだ。
俺よりはるかに金回りの良い桐乃のことだ、きっと少しは値の張る代物なんだろう。
……紅茶の事なんてさっぱりだから全然わからないんですけどね!
「うん。うまい」
「えへへ、良かった。実はちょっと凝って良いの買ってきたんだー」
「へ、へぇ、そりゃまた……」
ドキリとした。桐乃の顔がさっきよりも柔らかく見えた。
それはさっきまでの営業スマイルではなく、とても自然だと思えた。
何よりネコミミメイドだ。正直たまらん!
……しかし、この笑顔を他の男にも向けてるのかと思うと、なにやらムカムカとした不思議な感情に襲われた。
なんだよ、これ?わけわかんね。
俺はこの感情をかき消そうとかぶりをふった。
「ね、ねぇ?」
ふと我に返ると桐乃が俺に寄りかかる形で座っていた。
上目遣いでおれを見つめている。か、顔が違いですよ?
「今日はさ、あたしあんたのメイドだからさ……
その、なんでも言うこと聞いてあげても良いいんだけど?」
「な、なんでも……とは?」
桐乃の手が俺の手に重なった。柔らかいな……
……ってそうじゃない!
ヤバイヤバイヤバイ……なんかしらんが、ヤバイ気がする。
それは、もう、とてつもなく、なんだろう?
落ち着け!落ち着くんだ京介!
「なんでもって言ったらなんでもじゃん?
そんなこともわかんないの?」
最終更新:2009年10月03日 00:09