肉まんと出かけよう 完全版 41KB
カオス ギャグ 世紀末 前編と統合
*量が半端だったので、前編と統合しました
*前編は少しだけ手を加えましたが、大筋は同じです
*やっぱり、北東ネタを含みます
*HENTAI?
*高性能ゆっくり注意
*後編から読みたい方は、☆ここから☆ と書いてあるところから読んだらOK
「う~? おでかけ~!? れみぃも行きたい~♪」
外出しようとしたら、我が家の奴隷肉まんが纏わりついてきた。
監禁生活も早一週間になろうというのに、こいつときたら未だに彼我の実力差を理解していないとみえる。
家にいる間は常に俺に付き纏って隙をうかがい、外から帰ってきたときはいつも首元に飛び掛って絞め落とそうとしてくる。
その度に、こいつの大嫌いな頭ワシャワシャの刑や南斗虐指葬(easy)で虐めているというのに、一向に改善する気配がない。
もしかしたら、こいつはマゾなのかもしれない。
「おねがいだどぅ~。れみぃ、お兄さんが住んでるまちのこと知りたいから、えすこーとしてほしいの~」
そういえば、こいつは純粋なこの町生まれの野良肉まんではなかったな。
俺が住んでいるこの「紫町」は、多数の饅頭が生息する自然に囲まれており、時折、野生の饅頭が訪れることがある。
餌がなくなった家族、協定を結びに来るドス、人間の町に根拠不明の憧れを抱く若人など、バリエーションも様々だ。
こいつも、そんな元野生の肉まんであり、うっかり人間の町に迷い込んで帰れなくなったという間抜けな奴だ。
外出する用事もこの肉まん関連なので、ついでにこの近辺を案内してやるのもいいかもしれない。
「うー☆ やったどぅ! お兄さん好き好きー!!」
褒めたところで、プリンは一個しか買ってやらんぞ、れみりゃよ。
『肉まんと出かけよう 前編』
葉の散ってしまった街路樹が立ち並ぶ大通り。
肉まんが逃げ出さないように、その小っこい手をしっかりと握り締めて歩く。
のっしのっしと往来の真ん中を進んで行くと公園に辿り着いた。
最早、虐SSのお約束だが、この公園には多数の野良饅頭が生息している。
肌を寄せ合い、ゴミを漁って生きることしかできない汚物の集団ではあるが、それ故に生き汚いゲス共が多く、注意が必要な場所でもある。
特に奴隷饅頭にとっては、ゲス饅頭及び、そいつらを消毒に来る火炎放射モヒカンにも注意を払う必要があるので、決して一人で来てはいけない大変危険な場所だ。
「う、う~。こわいとこだどぅ……」
そう説明してやったところ、意外にもすんなりと理解したようだ。
普段も、この聡明さを発揮して、俺に引っ付いてくるのを止めてくれればいいのだがな。
そんなことを考えていると、これまたお約束なやり取りが聞こえてきた。
「くずめーりんのくせに、にんげんにかわれてるなんて、なまいきなんだぜー!! ゆっくりしないで、そのバッジをよこすんだぜー!!!!」
「れいむたちがめーりんのかわりにゆっくりしてあげるんだから、こうえいにおもってね!! あと、あまあまちょうだいね!!」
「じゃ…じゃお!! じゃ…じゃお~~!!」
はいはい、テンプレご馳走様。
俺が激辛中国饅頭を助けるとでも思ったか?
助けんよ。
「うー? お兄さん、あのもんばん、かいゆっくりだけど、ほっといていいの?」
虐められているのが普通の奴隷饅頭なら助けたであろうな。
虐めを傍観していたのが飼い主にバレたら、訴訟問題になりかねん。
だが、あいつの飼い主は俺の知人であり、あの饅頭自体は相当なゲス饅頭だ。
助ける気にもならんし、助ける必要もない。
「でも、でも、たすけてほしそうにしてるどぅ~。さっきだって
『や…やめてくれ!! た…たのむ!!』
って言ってたどぅ」
ならば益々助ける必要がない。
「ゆっへっへ、そろそろとどめな「じゃおーーん!!(喰ぅらいやがれーーー!!) ぶっ!!」 ゆぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!! がらい!! あづい!! がらい!! あづいーーーーーーーー!!!!!!」
「まじざぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
止めを刺そうとして隙だらけになっていた黒帽子饅頭は、中国饅頭が吐き出した液体――ラー油をもろに喰らった。
辛味が致死性の劇物に相当する通常種の饅頭にとって、あれはさぞかし辛いであろうな。
そんな苦しみを味わっている黒帽子饅頭を尻目に、中国饅頭は帽子の中からマッチを取り出して点火する。
口だけを用いて壁に擦りつけて点火するなど、何気に器用な奴だ。
何故、マッチを出したか?
この状況でこいつがやりそうなことといえば、これしかなかろう。
「じゃおー!!(ヒャッハー!!)」
「ゆぶぇーーーーーー!! あづーーーッ!! まじざのおぼうじがぁぁぁぁ!! さらさらへあーさんがーーーーー!!!!」
「じゃお? じゃーお? じゃーお!! じゃおーじゃじゃじゃじゃお!!(どうだ? くやしいか? くやしいか!! ヒャーッハッハッハー!!)」
「ゆ、ぎ、ぎ……」
「じゃお、じゃお(燃えろ、燃えろ)!! じゃおじゃおじゃじゃおじゃおーーーー!!!!(レイパーのぺにぺによりも醜く焼け爛れろーーーー!!!!)」
ラー油に点火した炎は瞬く間に燃え広がり、あっという間に饅頭の帽子と髪を焼き尽くして、焼き饅頭が出来上がった。
辺りに、饅頭の甘い匂いとラー油の焦げる香ばしい香りが広がっていく。
饅頭の顔面には、悔しさとも苦しみともとれる奇妙な表情が張り付いていた。
もっとも、目も口も焼け爛れて、醜いことに変わりはないが。
それにしても、ガソリン並みによく燃えるラー油だったな。
「じゃおじゃおじゃお、じゃおーーーん!!(ゆっへっへ、ちぇんの兄ぃのとこに持って行く、いい土産ができたぜ!!)
じゃおじゃじゃお!!(出来の悪いお兄さんも喜ぶに違いない!!)
じゃ、じゃおじゃじゃじゃおじゃお(さて、残った貴様にも生き地獄を味わわせてやる)!!」
「ゆー!? やめてね!! れいむはにんぷさんなんだよ!! しんぐ「おい!! めーりん!! 勝手に先に行くなと言っただろう!!」 ゆっ?」
「じゃじゃーーーおじゃおっじゃじゃおじょじょじゃーお!! じゃおじゃおおおうじゃおう!!
(見舞いの品選びに時間をかけすぎるお兄さんが悪いのだろうが!! 本当に愚図な飼い主め!!)」
焼き饅頭が出来上がったところで、ようやく飼い主がやって来た。
その飼い主と口論を始めた中国饅頭を見て、恐怖に引き攣っていた赤リボン饅頭の表情が元のふてぶてしいムカつく顔に戻っていく。
中国饅頭から自分を助けるために、奴隷が来たなどとでも思っているのだろうか?
思っているのだろうな。
「おそいよ!! じじい!! さっさとそのくずめーりんをころし「万重残悔拳!!!」 ゆび!! いだいーーーー!!!!」
何事か喚こうとしていた饅頭の両米神に、お兄さんの親指が深々と突き刺さっていた。
「どぼじでごんなごどずるのぉぉぉぉぉ!!!?」
「お前は、俺の可愛いめーりんをクズと言った。生かして帰すとでも思ったのか?」
「じゃ、じゃじゃじゃじゃお!! じゃじょじゃおじゃおじゃおーん!!(な、なに恥ずかしいこと言ってやがる!! 真顔で、んなことを言うんじゃねー!!)」
当然と言えば、当然の帰結か。
奴隷とはいえ人間の庇護下にある饅頭だ。
糞汚い野良如きがクズ呼ばわりして、生きていられるほど甘い世界ではない。
「うるざいー!!! ざっざどごのぎだないゆびを……」
「この指を抜いてから三秒後に、お前は干乾びるまで奇形饅頭とうんうんをひり出し続けて死ぬ」
「やべてぇぇぇぇッ!! ぬかないでーーーーー!!!!!」
すぼっ
「ゆがぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
おもしろい、ならばその3秒、俺が数えてやろう!!
ひとーつ
「ゆぎ!! あがぢゃん!!? どぼじでゆっぐりじでないの!!? おがあざんのながであばれないでね!!!!」
ふたーつ
「ゆぐう!!? う、うばでどぅ!!!?」
みーっつ!!
「ゆぎゃぁぁぁぁぁ!!!! なんなのごれぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
野良饅頭のまむまむからにゅるんと産まれて来たのは、紛うことなき饅頭であった。
飾りも、髪も、目も、口もない。
それらは、外気に触れた瞬間に一瞬だけぶるっと震えて、たちまち動かなくなった。
生まれついての汚物から正真正銘の饅頭へのクラスアップとは、なんとも喜ばしいことではないか。
「うんうんがどまらないーーーーーー!!!! だれがぁぁぁぁ!!! だれかかわいいれいむをだずげでぇぇぇ!!」
母親も、尻から汚物をひり出して喜んでいる。
だが、公共の場で公開スカトロとは感心できん。
我が家の肉まんが真似しないことを祈るばかりだ。
「誰かと思ったら、お前か。久しいな。それと、そっちのれみりゃは、お前の飼いゆっくりか?」
飼い主が、やっと俺に気づいたようだ。
気配を絶っていたとはいえ、暗殺拳法の伝承者がこれでは先が思いやられる。
あと、こいつは飼いゆっくりなどでなない。
奴隷饅頭だ。
勘違いするな。
「……そうだったな、お前は、そういう奴だった」
分かればいい。
ペットの饅頭など、奴隷饅頭で十分なのだ。
それにしても、この「秘孔マニアお兄さん」が外出とは珍しい。
普段は、家に篭って人間や饅頭を内側から爆砕する拳法の研究をするか、奴隷饅頭のめーりんと一日中にゃんにゃんしているこいつを公園で見かけるとは思わなかった。
「兄者の見舞いだ。この先の病院に入院していてな」
あー、そういえば、こいつの兄、通称『汚物』は宴席で重症を負って病院に担ぎ込まれたのだったな。
確か、マタタビで酔った猫饅頭に秘孔を突かれて、右側頭部が吹き飛んだとか。
「ああ、あの時は、酷かったぞ。素面に戻ったちぇんは『わからないよー!!』と泣き叫んで兄者に謝り、頭が吹き飛んだ兄者は、ちぇんを必死に宥めようとして傷が悪化するという地獄絵図だった」
なんとも、お間抜けな連中だ。
今すぐにでも病室に乗り込んで大いに馬鹿にしてやりたいところだが、今日はこちらも用がある。
見舞いは後日にするとしよう。
別に、兄弟水入らずで話せるように気を遣った訳ではない。
「ん? そうか、それじゃあ、またいつか見舞いにでも行ってやってくれ。焼き饅頭でも持って」
そう言うと、秘孔マニアは、中国饅頭作の焼き饅頭を回収して、見舞い品であろう果物が入ったバスケットに詰め込んだ。
野良饅頭を人間が食べても平気なのだろうか?
まあ、汚物同士、お似合いではあるが。
ところで
「じゃ、じゃお!! じゃおじゃじゃおじゃお!!(おい、お前!! 俺の名を言ってみろ!!)」
「う~? もんばん!!」
「じゃおじゃおーんじゃおん!? じゃおじゃじゃおじゃお(この帽子の星を見ても誰だかわからねぇのか!? もう一度だけチャンスをやろう)」
「うぅぅぅ……、うー☆ ちゅうごくー♪ ちゅうごくー♪」
「う…んうんど…まった……ぁ……」
この饅頭共は、何をしているのだ?
――――――――――――――――――――――――――
秘孔マニアと別れて、しばらく道なりに進んでいくと、今度は空き地が見えてきた。
放置された建材に、積み上げられた土管三つという昔懐かしの空き地だ。
やはりというかなんというか、ここにも饅頭共はいた。
「あひあほおしえおんあおおおお!!!」
「お前のために狩ってきた饅頭なのぜ! どうだ!? うまそうだろう?」
土管の上で、目だけしか残っていない饅頭を持ってきた金髪饅頭が対面に座っている饅頭にモーションをかけていた。
この金髪饅頭、どこにでもいる野良饅頭とは少々様子が異なる。
野良にしては体に負った傷が少なく、汚れも付着していない。
声も、甲高いゆっくり饅頭の耳障りな鳴声に比べると野太く、発音も人間のそれに近い。
しかし、一番目を惹く点といえば、帽子を被っていないことであろう。
野良、野生、奴隷の区別なく、ゆっくりにとっての飾りとは、命の次に重要なものだ。
これがなくなっただけで正体不明の焦燥感に駆られ、仲間からは排斥され、ダウ平均株価が低下するという。
ところが、この饅頭の表情はどうだ。
目には力強さと執念の炎が宿り、口元には常に余裕の笑みを湛えている。
これこそが「ゆっくりしている」ということではないだろうか。
そんな変り種饅頭がモーションをかける相手なのだ。
そいつも普通の饅頭ではない。
「ゆっふっふ、ふらん、お前は相変わらず美しいのぜ~♪」
「しね!! ゆっくりしね!!」
被捕食種は、捕食種に対して熱をあげていた。
通常、成立するはずもないカップリングが成立しているのは、ひとえにこの金髪饅頭が強いことに起因している。
直径30cm程度の体で、10m級のドスの体に巨大な穴を穿つような饅頭だ。
そう簡単に食われはしないだろう。
「しね!! ふらんにくわれてゆっくりしね!!」
がぶっ、ちゅーちゅー
「ああああいうおああいうああいえーーーーー!!!!」
金髪饅頭の持ってきたプレゼントがお気に召したのか、餡まんはとてもサディスティックな笑顔で饅頭の中身を啜っている。
その姿に満足した金髪饅頭は、饒舌に語りだした。
「女王だ……。お前を女王にしてみせるぞ、ふらん!! 全てのゆっくりがお前の前に平ふす!! そうすれば、お前のきもち「ボグシャッ」ゆばぁ!!」
「うー!! まりさ、うるさい!! しね!! しんでだまれ!!!!」
ほう、体重の乗った見事なれーばてぃんだ。
金髪饅頭の頭がへこんでいる。
普通の饅頭なら、即死していてもおかしくなかろう。
「どうやら…ここまでのようなのぜ……。だが、ふらん!! まりさは、お前の拳法ではしなないのぜ!! サラダバー」
テーレッテー
べちゃッ
「ゆべしッ!!」
そう叫ぶと、せっかく拾った命を土管の上から投げ出しやがった。
言いたいことは、色々ある。
拳法じゃねーよとか、土管の上から落ちたくらいじゃ死なねーよとか。
ただ、毎回、遭遇する度に同じようなことをしているこいつらに指摘してやるつもりはない。
そのぐらいで、こいつらの行動様式が変わるとは、到底思えないからだ。
「お……お、そこにいる…のは、まりさの同志ではないか……。ゆっく…りしていって…ね。あと、できれば助けてほしいのぜ……」
誰が同志だ、馬鹿饅頭。
市の役員は、この危険な饅頭が駆除されない理由を
『人間に対して割と友好的な上、悪意を持ったドスなどの危険生物を排除してくれるからだ』
と言っていたが、単に馬鹿すぎて誰も駆除する気にならなかったのではないのだろうかと俺は考えている。
まあ、知らぬ仲でもないので助けてはやるが。
「ゆふー。今度こそ死ぬかと思ったのぜ」
だったら態々、攻撃を受ける必要もあるまい。
こいつほどの身体能力があるなら避けるなり、オーラガードするなりすればいい。
そう言ってやったところ。
「ちっちっち、ふらんの暴力は愛の裏返しなのぜ!! 即ち攻撃を交わすことは、愛を否定すること!! 殉星のゆっくりであるまりさが愛を否定したら、この世は終わりなのぜ!!」
という、すっげームカつく返事が返ってきた。
一瞬、十字陵の漆喰にしてやろうかとも思ったが止めておこう。
今日は用事がある。
決して、ガチバトルをやらかして国家権力の厄介になることを恐れた訳ではない。
ところで
「うー♪ おねえたまだー♪ ふらん、おねえたま『で』あそぶー♪ しねー!! ゆっくりしねー!!」
「うわぁぁぁぁ!! ふらんのお顔がこわい、こわいになってるどぅ!!!! お兄ざーん!! だずげでーーーー!!!!」
餡まんの暴力が愛なら、全国の肉まんはとても愛されているのではなかろうか。
そんな考えが頭を過ぎった。
――――――――――☆ここから☆――――――――――
空き地から歩くこと数十分、ようやく目的地に到着した。
饅頭専門のペットショップ『yukkuuりー』
複数のドスによる同時多発テロで生じたグラウンド・ゼロのすぐ隣という最悪の立地条件下にあるため、ここら一帯は閑散としている。
それでも潰れないのは、店主が優秀なためであろう。
ここで、肉まんの飼いゆっくり登録を行うことが今回の外出の主な目的だ。
早速、入店しようとしたところで、店先に停まっている車が目に入った。
泥だらけの軍用ジープ。
こいつを俺は知っている……というか助手席に乗ったことがある。
つまり、「奴」が店にいる。
店内に入って真っ先に目に留まったのは、レジの上に乗っている「もの」だった。
そのもの青き衣を纏いて黄色いレジの上でゆっくりすべし。
青い服を着たそいつは、その言葉を体現するかのようにレジ台の上で横になって、ゆっくりしていた。
水色の髪の下の表情は眠っているようにしか見えないが、こいつの表情は普段からこれだ。
「……」
ペットショップが似合うもクソもあるまい。
饅頭を取り扱ったペットショップは、ここしかないのだ。
「……」
そんなことは、貴様が御執心のきめぇ丸にでも言ってやるがいい。
だいたい我が家のは、肉まんだ。
中身は餡子じゃない。
「うー? お兄さん、だれとおはなししてるの~?」
肉まんが、そんな疑問を持つのも仕方ない。
傍から見れば、俺が独り言を呟いているようにしか見えない。
一応、これでも会話しているのだ。
黙して動かないレジ上の物体「ゆっくりチルノフ」
『鎌田 チルノフ』というのがフルネームなのだが、苗字で呼ぶと怒る。
こいつとの付き合いは今年で八年にもなるが、未だに「めどい」、「おうどんたべたい」以外の言葉を聞いたことがない。
それでも慣れとは恐ろしいもので、今では微妙な表情の変化、身に纏う闘気、室内温度などを即座に分析することで、会話が成立するようになってしまった。
「……」
どうやら今度「ぱしたさん」とやらを奢ってくれるらしい。
そんな風に友と一時の歓談に講じていると、耳障りな雑音が室内に響いた。
「おじさん!! そんなへんにゃちるにょはいいかりゃ、れいみゅをきょきょきゃらだしちぇ、あまあまもっちぇきちぇにぇ!!」
「そうだよ!! そんなばかで、きもちわるいちるのより、れいむとおちびちゃんをかってね!! かいゆっくりになってあげてもいいよ!! かわいくってごめんね!!!!」
クワッ!!!!
声の出所は、二百円で詰め放題な生餌用饅頭が詰まったガラスケースからであった。
俺は、店の商品に対してどうこうするつもりはないのだが、奴らはNGワードを述べてしまった。
このチルノフに対して、それは不味い。
彼女は、普段閉じきっている目をいっぱいに開いて起き上がっていた。
「「「うわぁぁぁぁぁぁ!!!! こわよぉぉぉぉぉぉ!!!!(こわいどぅーーーーーー!!!!)」」」
我が家の肉まんを含めて、その能面の様な顔を見た饅頭どもが騒ぎ始めた。
まあ、仕方ない。
俺だって怖い。
「……」
「こ、こっちくりゅにゃーーーー!!!!」
「へんなかおのちるのは、こっちこないでね!!!!」
ワサワサッ
子饅頭を背に庇った親饅頭は、小生意気にも「もみあげ」をワサワサと気持ち悪く鳴動させて、チルノフを威嚇している。
その折に叫んだ言葉がチルノフの怒りを更に加速させるとも知らずに。
どの道、死ぬことに変わりはないが。
ふよ~っと空を飛んでケースの前に着地したチルノフは、先ほど暴言を放った親饅頭に指を一本突付けゆっくりと振り下ろし……。
「ゆ、ゆう!? ゆびいっぽんでなにするきなの? やっぱりちるのはまるきゅーだ……」
「……」
物凄い速度で振り抜いた。
メリ、メリメリメリ
「ゆぎゃぁぁぁぁおぅろぅるぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「「「でいぶーーーーーーーーーーー!!!!」」」
「おきゃあしゃーーーーーーん!!!!」
指先から生じた衝撃は、あまりのスピードのため一気に背中まで突き抜ける。
そのため、こちらからは見えないが、後ろにいた饅頭は見てしまった。
親饅頭が背中から、ゆっくりと裂けていく醜い姿を。
「ゆぎゃぎゃぎゃぎゃ、ぎぎぎぎぎぎ、ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ、げげげげげげ、ぎょ、ぎょぎょぎょ、ぎょぎょあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
汚い断末魔と共に、饅頭がくぱぁっと真二つになった。
どうせ人間に購入されたところで、無残な死以外の運命はなかったのだ。
子饅頭に見取られながら一瞬で逝けて、さぞ幸せであったろう。
それに子饅頭もすぐに後を追う。
寂しくもない。
「ゆぐ、ゆぐ、おきゃあしゃん……、どぼちて、どぼちて、こんにゃこちょに……」
グワッシ
「……」
「ゆゆ!! いやじゃ!!!! しゃわりゃにゃいじぇ!! れいみゅまじゃしにちゃきゅにゃい!!!! しにちゃくにゃ……」
顔面を鷲掴みにされた子饅頭は、見てしまった。
指の隙間から見える、氷のような微笑みを。
そして、悟った。
もう、決して自分が助からないことを。
「なんじぇ……。れいみゅ、まだおいしいもにょ、むーしゃむーしゃしちゃこちょにゃいよ。かっこいいまりしゃとしゅりしゅりしちぇ、きゃわいいあかちゃんといっしょにゆっきゅりしちゃ……」
辞世の句は、最後まで言わせて貰えなかった。
一瞬だけ顔の表面を撫でるようにしてから指が顔から離れ、それに遅れて五本の線が走る。
断末魔すらあげられずに、醜い饅頭は美しく六等分されて崩れ落ちた。
仲間の死体すら貪り食う意地汚い饅頭共も、このときばかりは静かだった。
ケース内の饅頭は恐ろしさのあまり、叫び声すら出せずに汚物を撒き散らし、我が家の肉まんは、情けないことに目を回して気絶していたのだ。
「……」
幾分落ち着いたのか、何時の間にかチルノフの顔は元に戻っていた。
ただし、いつも「ω」な形の口元の困っているような顔は、いつにも増して困った感溢れる顔になっていた。
しばらく首を傾げて考えていたようだが、何事か閃いたのか、肩にかけてある蛙型ポーチの中から百円硬貨を二枚取り出し、それを饅頭の死体に押し込んだ。
なるほど、商品価値は二百円以下なのだから二百円払えば怒られない。
流石は、美と知略の星、妖星のチルノフといったところか。
「いえいえ、怒られない訳ないでしょう。勝手に商品を傷物にしては、いけませんよ」
なんと!
店員さんに見つかってしまった。
まあ、あれだけ饅頭共が騒がしかったのだから当然か。
「……」
「え? いえ、確かに、それはそうですけど……。はぁ、分かりました。では、今回のことは、不問とさせていただきます」
まさか、そう切り返すとは……。
流石は、妖星のチ(ry
「……」
「はい、大変お美しゅうございます。まあ、それは置いておいて、ご購入されるありすをケージに入れて参りましたので、ご確認ください」
そう言って店員さんは、カチューシャ付きカスタード饅頭が入ったケージをチルノフに手渡した。
ゆっくりがゆっくりを飼う…だと……。
と思われる方もおられるかもしれないが、別段不可能ではない。
ただし、それは限られたゆっくりのみに許された特権だ。
そもそも、ただの饅頭には買い物をする権利すらない。
ゆっくり饅頭は、社会的には三種類に分けられる。
一つは、非社会性ゆっくり。
自然の中で生活する野生の饅頭や人間の街に生息する野良饅頭がこれに該当する。
こいつらに対しての説明は面倒なので、一言で述べる。
ただ奪われるだけの存在だ。
もう一つは、飼いゆっくり。
人間の庇護下にある饅頭共であり、最寄りのペットショップで飼いゆっくり登録をしたものだけが該当する。
登録証のバッジは、様々なSSで御馴染みの金、銀、銅が存在するのだが、この町では金や銀を取るための試験が行われていない。
そもそも、腐敗と自由と暴力の町である紫町では、ケツすら拭けない金バッジに何の価値もない。
たとえ飼いゆっくりでも、この町に生息する新鮮で活きのいい虐待お兄さんは平気で牙を向くのだ。
それが逆に、飼いゆっくりに対する自衛意識を向上させており、
この町における飼いゆっくりに対する人的被害の件数は、全国平均に比べると圧倒的に少ないというのだから、虐待お兄さん涙目~な話である。
そして、最後の一つが市民権を持つゆっくりだ。
これには、並大抵の努力でなることは出来ない。
人間社会で生きる上で必要な常識などが細かくチェックされ、さらに社会に貢献できる能力、あるいは才能が必要とされる。
ゆえに、こいつらに対しては俺も最低限の敬意を表す意味を込めて、饅頭という蔑称を使っていない。
このチルノフは、現在メイキャップアーティストをやっている。
氷のような死に化粧が話題を呼び、世界中の戦場を飛び交っているそうだ。
ただ、こいつが市民権を得たのは、職に就いてからではない。
俺が高校に入学したとき、こいつもクラスにいたので、その前から市民権を持っていたようだ。
自分の美しさを貶すモノに容赦しないという悪癖があるものの、それを上回る才能の優秀さを評価された結果である。
ちなみに、空き地にいた帽子なし饅頭は、意外なことに野良だ。
本人が社会の枠に囚われるのを嫌っており、市民権を欲していないためだったりする。
「あ、あなたが飼い主さん? ゆっくりしていってね!! ふ、ふ、ふふ不束者ですが、よ、よ、ヨロシクお願いします!!」
「……」
ケージの中のカスタード饅頭の様子を伺っていたチルノフだが、どうやら気に入ったようだ。
カードで支払いを始めた。
饅頭一個に大金をぽんぽん投じるこいつの感性が理解できない。
曰く、美しいゆっくりに出す金は惜しまないとのことだが。
「さて、次のお客様。大変、お待たせいたしました。今日は、どういったご用件でしょうか?」
チルノフの接客を終わらせた店員さんが笑顔で話しかけてきた。
さっさと飼いゆ登録を終わらせるために、奴隷肉まんを叩き起こして、店員さんの目の前に掲げる。
その瞬間に感じる嫌な予感。
「お、おおおおおおおぜうさまーーーーーーーーー!!!!」
ドンガラガッシャーン
唐突に店員さん――完全で瀟洒なメイドゆっくり「さくやさん」が襲い掛かってきた。
回避したため、ガラスケースに頭から突っ込んだな、コミカルかつ痛そうだ。
それにしても「ザ・ワールド」を使った特攻とは、物騒なゆっくりだ。
時止めバグを持つ俺にとっては、見てから回避余裕だったが。
「お、お、おおおおおのれぇぇぇぇぇ!! おぜうさまの御頭を殴り仕るとは、何たる狼藉ぃぃぃぃぃぃ!!!!」
狼藉もクソもペットに何をしようが俺の自由だろうに。
あと、「仕る」の使い方おかしくね?
「ぺ、ペット!!!? 貴様、おぜうさまにいったい何を!!!?
ま、まさか、嫌がるおぜうさまをべっどに連れ込み、おようふくをひん剥いて、こかんのスピア・ザ・グングニルをおぜうさまのひみつのこうまかんに突っ込んでぜんせかいナイトメア……」
「うー? お兄さんとは、一緒にねてるだけだど~?」
あと、ひん剥いたのは事実な(お兄さんと冷めた肉饅 参照)。
「UUURRRRYYYYYYYYYYYY!!!! 何て厭らしい、いえ何て羨ましい!!!! このさくや、お客様とはいえ容赦せん!!!!」
さくやさんがナイフを俺に向けて、言い放った。
おもしろい!
PADゆっくりごときが、俺に喧嘩を売るというのなら買ってやろう。
だが、果たしてこの俺を倒すことが出来るかな?
「パ、パッド!!!? 言うに事欠いてPADとは、なにごとですか!!!!?」
ふははははは!
そのシリコンに手を当てて聴いてみるのだな。
俺は憶えているぞ。
四年前、高校卒業時に来たときの貴様の胸は、もっと慎ましやかだった。
成体ゆっくりである貴様の胸が、そう簡単に膨らむはずがない。
PADか豊胸手術に決まっている。
「くっ! PAD! PAD! PAD! どいつもこいつもPAD! なぜだ! なぜ『やつ』を認めて、この私を認めない!!?」
当然だろう。
まがいものは、所詮まがいもの。
使い物になるはずがないのだ。
「私(の胸)は、天然だーーーーー!! バストアップ体操を繰り返し、すでに3.5cmのサイズアップに成功している!! 見ろ! この胸を!! うははは!!」
ならば、その胸、俺が確かめてやろう!
「あ、え、ちょっと、ナニを言って……きゃっ!!」
弾力、大きさ、揉み心地、服の上からは、本物としか思えぬ。
最近のゆっくり医療が、まさかこれほどまで進歩していたとは……。
「ひゃう!! も、もうわかったでしょう!? だからやめ、えっ!? だ、だめ!! 服の中はやめて!! ひぅ!!」
肌触りも完璧だ。
まさか、本当に天然物なのだろうか。
いや、そんな馬鹿な!
味もみ……ん?
「きゃーーー♪ だ・い・た・んーなんだどーーー♪」
「こ、これが都会派のトレンド……ゴクリ」
「……」
三対の瞳がこちらを向いていた。
肉まん、指の隙間からこっち見んな。
カスタード饅、全身を真っ赤にして凝視するな。
チルノフ、頬を染めて「あたいの胸なら好きにしていいんだよ」的なことを考えるな。
お、お、お、俺をそんな目で見るなーーーーーーーーーー!!!!
――――――――――――――――――――――――――
「申し訳ありませんでした!! わ、私は、お客様に、なんて、なんてとんでもないことを!!」
どう考えても俺の落ち度です。
本当にありがとうございました。
一時のテンションに流された結果がこれだよ!
「いえ、元はといえば、私がこの病気を克服できないのが悪いのです」
そう、ペットショップの店員として働いているさくやさんは、ゆっくりさくや故に、肉まんを見ると、SAN値が著しく低下してしまうのだ。
そのため、ここでは肉まんを取り扱っていない。
昨年、地元に帰ってきてから初めて来たので、そのことをすっかり忘れていた。
本当に悪いことをしてしまった。
だが、退かぬ、媚びぬ、省みぬ。
したがって、決して頭は下げぬ。
「え、あ、そうですよ!! ですから、このことは水に流して、お仕事の話をしましょう。れみぃちゃんの飼いゆっくり登録ですね?」
そうだった。
飼いゆ登録に来たのだった。
自転車の防犯登録並みに無意味なものだが、しないよりはましだ。
あと、生餌用のゆっくりを200匹ほど自宅に配送してもらうことにしよう。
別に、罪の意識を感じたから買う訳ではない。
「では、こちらがブロンズバッジになります。再発行の際には、500円かかりますのでお気をつけてください」
塵饅頭二十匹よりも高いのが笑えるな。
とは言っても、餡庫ではバッジ紛失=死亡フラグなのだから、500円を払うことは永遠にない気がする。
敢えて言ったりはしないが。
さて、バッジを頂いたので、さっさと帰ろう。
そう思っていた矢先に、さくやさんがあることを告げてきた。
「あ、そう言えば、一つ言っておくことがありました。あなたの『お師さん』が会いたがっておられましたよ」
ドグン
右胸が一度、大きく脈打った。
「小学校を卒業してから十一年間、一度も会いに行っておられないそうではありませんか。差し出がましいこととは存じますが、一度お会いになられてはいかがでしょうか?」
お師さん、か。
学校の授業で俺に南斗聖拳を教えてくれた体育の先生。
俺が唯一、尊敬するお方。
そして、十数年間ずっと会うのを避けてきた存在だ。
会いたいのか、会いたくないのか自分でも分からない。
ただ、お師さんが俺のことを憶えていてくれたという事実が胸を熱くさせる。
「お兄さんのだいじなひと? れみぃもあってみた~い!」
「……」
肉まんが纏わりつき、チルノフが無言の圧力をかけてくる。
「うーうー☆」
「……」
行かぬ。
「うーうー☆」
「……」
行かぬと言っている!!
「うーうー☆」
「……」
ええい、行く!
行けばいいんだろう!
だから、こっち見んな!!
――――――――――――――――――――――――――
チルノフの運転するジープを見送った後、俺たちは目的の小学校へ向けて歩き出した。
ところで、チルノフはあの短い手足で、どうやって人間用のジープを運転しているのだろうか。
結構な頻度で助手席に座っていた覚えがあるが、それだけは未だに分からない。
「ねぇねぇ、お兄さんの小学校はどんなところ~?」
そうだな、到着までにすることもないから説明してやろう。
別に気持ちが落ち着かないから、饒舌になっている訳ではない。
俺の通っていた「極星南小学校」は、全校生徒350人程度のいたって普通の学校だ。
ただし、それは「俺の入学した年以外は」という枕詞が付随した場合の話となる。
今から17年前、現代人の体力低下問題の解決策として学校がとった措置は、南斗聖拳習得をカリキュラムへ導入するという無茶苦茶なものだった。
態々、外部から講師を招き、試験的に六年間の様子見が行われることとなった。
結果?
失敗したに決まっている。
お師さんは、クソ真面目にやりすぎたのだ。
結局、六年の歳月を経てクラスに残っていたのは、一人しかいなかった。
つまり、この俺だ。
その練習過程で数多の野良饅頭が犠牲となった。
そのため、修練場跡地の土からは未だに甘い匂いが立ち上り、
それに引き寄せられた野良が小学生の犠牲となり甘い匂いをより強くするという不思議スポットが出来上がってしまったのは、どうでもいい笑い話だ。
そういった説明を終えたところで、校門前に辿り着いた。
「うーーー!! おっきいお家なんだどぅ!! きっと、すごくおおきい人が住んでるにちがいないど~!!」
アホなことを言っている肉まんを監視しながら、俺はあることに気がついた。
そういえば、今日は休日。
先生も生徒もいるはずがない。
それに気付いた瞬間、すべてが馬鹿らしくなってきた。
俺の決意は、なんだったのだ。
「う? あっちからあまあまのにおいがするどぅ!! お兄さん、はやくいこう!!」
気を抜いた一瞬の隙だった。
肉まんは、俺の拘束が緩んだ隙に修練場目指してカッ飛んでいった。
肉まんに出し抜かれるとは、一生の不覚。
有り余っているブーストゲージをフルに使って追いついたとき、肉まんは誰かに抱えあげられて話をしているようだった。
「あらあら、元気な子ね。私の若いころを思い出すわ」
ドグン
また右胸が鳴り出した。
その声、その匂い、その姿、覚えがあるどころの話ではない。
ぴっちりとした服の下から、その姿を主張する逞しい腹筋と豊満な乳房。
紫色の長髪の下には、髪と同色の気だるげな瞳に小さな口。
極めつけは、豊かな下膨れ。
間違いない。
彼女こそ、俺のお師さん。
「ぱちゅり~♪ うっー」
胴付きゆっくりぱちゅりーの「むっきゅりぱちゅりー先生」であった。
「むきゅ? あなたの体もしかして……。いえ、なんでもないわ。それより、あなたの御主人様のご到着みたいよ」
「うー! お兄さーん、れみぃ、おっきなぱちゅりーとお友達になったー!!」
ドグン、ドグン
煩い、静まれ、俺の心臓。
止まってもいい、だから今だけは静かにしてくれ。
「ふふ、お久しぶりね。しばらく会わない内に随分と大きくなっっちゃって。見下ろしていたあの頃と違って、今では見上げないとあなたのお顔も見えないわ」
「ええ、お久しぶりです、お師さん。そう言うあなたは、あの頃と少しもお変わりないようで安心しました」
当たり障りのない返事を返せたが、その実俺はかなり動揺していた。
思わず台詞に「」を付けてしまう程度には。
しかし、本当にお師さんは、あの頃と少しも変わらない。
身長160cmという、胴付きゆっくりにしては長身なお師さんを昔の俺は、いつも見上げていたものだ。
そのお師さんを20cmも上から見下ろすことになろうとは、当時の俺は考えてもみなかっただろう。
「あら、そんなことないわよ。40代になってからは、どうも体のキレも肌のツヤも悪くなる一方でね。むきゅっ、こんなこと弟子に愚痴ることではなかったわね、ごめんなさい」
そう言って笑うお師さんだが、そんなことはないと思う。
鍛えこまれた筋肉の美しさと女らしいふくよかさが、絶妙なバランスで融合した歪みないボディーラインとモチモチした張りのある肌は、十一年前となんら変わりない。
あの頃のことは、今でも鮮明に思い出せる。
………………………………
「うぐ!! ガッ、ハッ」
「もうやめちゃうの? だらしないわね」
「お、お師さん!! まだです!! まだやれます!!!!」
「むきゅ、よく吼えたわ! 頑張る子は大好きよ」
お師さんは、厳しかった。
「ぼうしのないへんなやつがいるよ!! せいさいするよ!!」
「とかいはじゃないわね!! ありすがとかいはなあいをあげるから、ありがたくおもいなさい!!」
「どうやりゃ…ここまじぇにょようにゃにょじぇ……」
「そこまでよ! フンッ、ハッ、トベッ、ホウオウコトウカイテンッ、フハ、フハハ、フハハ、フハハ、フハハ、テイオウニトウソウハナイノダ!」
「「ユギ! ユギャ! ユゲ! ユガ! ユギョ! ネギィ! ユベ! ユボ! ユピ! ゆ゙、ゆ゙、ゆ゙、もっどゆっぐりじだがっだ……」」
「むきゅ、これで懲りたでしょ? 帽子がないだけで虐めるなんて、ゆっくりできないわ」
「お、お師さん!! やり過ぎです! もう死んでますって!」
「む、むきゅ? 間違えたかしら?」
お師さんは、お茶目だった。
「な!? 蛇だと! お師さん、危ない!! 痛!!」
「いけないわ!! 今のはマムシよ!! 毒を吸い出すから傷口を見せなさい!!」
パクッ、ピチャ、ピチャ
「お、お師さん!!?」
「ぎゃみゃんなふぁい!! あむっ、いのふぃにかかわりゅのよ!!」
お師さんは優しかった。
ちなみに蛇は、マムシじゃなかった。
「むきゅうっ、時には大自然の中で滝行というのも新鮮でいいわね。長くやってると体が溶けて、死ぬけど」
「お、お師さん!! なんでスク水なのですか!!?」
「買うのが面倒だったから、学校の備品を借りてきたのよ。ごめんなさいね、やっぱり、こんなゴツイ体のおばちゃんが着ても気持ち悪
「そんなことありません!! すごく!! すごくセクシーです!!!!」む、むきゅ? あ、ありがとう……」
真っ赤になったお師さんは、凄く愛らしかった。
「柔軟体操ね。手伝ってあげるわ」
ムニュッ
「お、お師さん!!? む、むむむむ、むむねが!! むねが!!」
「むきゅ? 胸が苦しいの? なら、もう今日はやめておく?」
「いえ、まだまだイケます」
そして、何よりエロかった。
………………………………
記憶に残るお師さんと今のお師さんを比べてみても、なんら遜色があるとは思えない。
むしろ十一年の歳月を経て、さらに色香がましたようにすら感じる。
そのことを告げても、謙虚なお師さんはやんわりと否定するだろうが。
「ところで、今日は休日だというのに、何故お師さんは学校に?」
会話の流れが止まりそうだったので、咄嗟に質問した。
黙り込んでしまうと、体が勝手にこの場から逃げ出しそうで恐ろしかった。
「そうね、予感かしら。最近、外出先でよく知り合いと出くわすことがあったの。だから、ここに来れば懐かしい人に会える気がしたのよ」
知り合いか……。
そういえば今日は、数人の強敵(とも)と出くわしたが、まさかな。
「おかげで一番会いたかった人に会えたわ。どこぞの不肖の弟子ときたら、卒業してから一度も会いに来ないんですもの。こっちから出向いても留守だし、
挙句の果てに、知らない間に都会の大学に進学しているし……」
「……すみません」
ただ、謝ることしか出来なかった。
ここ数年、誰かに頭を下げたことなどない。
俺は、ちゃんと謝罪できているのだろうか。
「冗談よ。あなたには、あなたの事情があったんでしょう。それなら仕方のないことよ」
どうやら、お師さんには、俺が抱えている葛藤など手に取るようにわかるらしい。
当然か、ここまで露骨に避けてきたのだ。
「ところで、この後お暇なら、一緒にお食事でもどう?」
「いえ、もう夕食の準備は済ませましたし、明日も早いですから――」
もちろん嘘だ。
どんなに避けても、俺を一番の弟子として愛してくれるお師さんの優しさが、今の俺には痛い。
早々に、この場から立ち去りたかった。
「……分かったわ。それじゃあ、また今度、気が向いたらここにいらっしゃい。放課後は、レスリングを子供たちに教えているの。強いお兄さんが来てくれたら皆よろこぶわ」
「う~! 本格的ぱちゅむきゅレスリングだど~」
ボカッ!!
「い、いたいんだど~」
シリアスシーンを台無しにした肉まんに制裁を加えてから、その場を後にした。
去り際に、お師さんが何か呟いたように感じたが、肉まんが喧しくて聞き取れなかった。
――――――――――――――――――――――――――
夕日を背にトボトボと歩く俺の頭の中は、お師さんのことでいっぱいだった。
肉まんが、俺の周りを衛星のようにパタパタと飛び回っているが気にならない。
思えば、俺がゆ虐の道に進んだのも、お師さんが原因だった。
俺は、お師さんが大好きだった。
人間もゆっくりも関係ない。
ひたすらに愛おしい存在だと感じていた。
だから卒業前に、胸のうちをお師さんに告げようと思っていたのだ。
恥ずかしい話だが、あのときはうまくいくと思った。
六年の歳月を共にした俺とお師さんの間には、師弟以上の絆がある。
そう確信していた。
花束を携え、お師さんの待つ修練場へと向かうと、そこにはお師さんと、もう一人先客がいた。
「ぱちゅりー先生!! 私、先生のことが好きです。どうかお姉さまと呼ばせてください!!」
ギリッ、ビシッ
豚が……。
壁を握る手に力が入る。
すぐにでも跳び出して、あの女生徒を十字に切り裂きたい衝動に駆られたが耐えた。
優先すべきは、お師さんの意思だ。
それに、このときの俺には自信があった。
「むきゅ……、ごめんなさい」
その言葉を聞いて俺の心は、不死鳥の如く天に舞い上がった。
気分はまさに、ざまみろ&すかっと爽やか。
その後、地面に叩きつけられるとも知らないで。
「あなたは人間で、私はゆっくりよ。互いに助け合って道を進むことは出来るの。でも、一緒に同じ道を歩むことは、決して出来ないのよ」
決定的な一言だった。
周囲から白い目で見られても構わない、HENTAIと罵られても堂々と胸を張ってやる。
俺は、そう考えていた。
そして、勝手に思い込んでいたのだ。
お師さんも、そう思ってくれていると。
そこからは、よく覚えていない。
気が付いたら見たこともない山奥にいた。
心の中から何かが抜け落ちたような気分だった。
帰らなくてはいけないのだが動く気になれず、目の前に広がる暗闇をじっと見つめていた。
ガサッ
その時、不意に茂みが揺れ、何かが飛び出してきた。
「むきゃきゃ、ばかなにんげんさんね。もりのけんじゃであるぱちぇのてりとりーにはいってくるなんて」
「お師さんの仲間?」
一瞬でも、そう思った過去の俺が呪わしい。
「ゆっへっへ、さすがのにんげんでも、このかずのまえには、どうすることもできないのぜ!!」
「そうだよー!! しかもこっちには、ドスもいるんだよー!! わかったら、さっさとしぬんだよー!!」
「ばかなにんげんは、れいむとおちびちゃんたちにあまあまをよこしてね!! あとしんでね!!」
「ちね!! くしょじじぃ!!」
「ぼろぼろできちゃない、にんげんじゃにぇ!! おお、あわれ、あわれ!!」
どちらを向いても饅頭、饅頭、饅頭。
数百個もの饅頭が俺を取り囲んで、罵詈雑言を吐いていた。
だが、何かしようとは、思わなかった。
愚かなことだが、お師さんの仲間に殺されるなら道化らしくていいかもしれないと、当時の俺は考えていた。
それなのに奴らは、その浅ましさから勝機を蹴った。
「ゆゆ? おいしそうなおはなさんがおちてるよ!! むーしゃ、むーしゃするよ!!」
「なにいっているの? それをみつけたのはとかいはなありすよ!!」
「ゆっくりしたおはなは、まりささまにこそふさわしいいんだぜ!! ゆっくりしないで、どくんだぜ!!」
俺が買った花束だった。
お師さんの髪と同じ色のスイートピーと白いストック、そして一本の赤いバラ。
それらは、浅ましく群がる饅頭共に揉みくちゃにされて見る影もなくなっていた。
「ゆぅ? なにものほしそうなかおしてるの!? いなかものはいな……」
ヒュッ
「ゆ? ゆぎゃーーー!! ありずのとかいばなべにべッ!? が、ぎゅゆぎゅうぎゅゆ!!!」
ザシュッ
心に出来た虚無が急速に満たされていく。
「まじざのおぼうじが!!?」
「でいぶのまむま!!?」
ヒュヒュッ
憤怒、憎悪、悔恨、嫉妬。
「わ、わがらないよーーーー!!! なんでいきなりみんなのからだがちぎれちゃ!!」
ザシュッ
餡子のようにドス黒い塊が俺の心を埋めていった。
饅頭共からしたら、悪夢のような出来事だったろうな。
饅頭の動体視力で見切れる技ではない。
急に仲間の体が千切れ飛んだように見えたはずだ。
「む、むきゅ、やめてね。ぱちぇは、びょうじゃくなのよ。ぜんそくもちなのよ。びょうにんにはやさし、ひぃ!!」
その顔で、その口で、その声で……。
「お師さんの思い出を汚すなぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「むぎっ!!」
十字に振り抜いた腕から生じた衝撃は、クリーム片ひとつ残すことなく紫モヤシをこの世から消し去った。
「殺してやる、殺してやるぞ、汚物共。消毒だ。貴様ら全員地獄の釜に叩き込んでやる。生きて帰れると思うな……。ヒャッハぁぁぁぁぁぁ!!!!! ギャ・ク・タ・イだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「「「ゆ、ゆ、ゆひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」」」
この日、三つあったドスの群れが尽く消滅し、十二歳の虐待お兄さんが誕生した。
しかし、俺には虐待を楽しむことはできなかった。
制裁は、簡単だ。
ゲス共を前にすれば、自然と体が動き饅頭を切り刻む。
確かに、心は満たされた。
だが、心の底に残った愛と情を消し去ることはなかった。
ならばと、善良な饅頭を虐待しようと考えたが無理だった。
拳を振り下ろす寸前にお師さんの影が頭を過ってしまう。
結局、俺は虐待と呼べぬようなことを虐待と称して行い、己の心を満たすことしか出来なかったのだ。
「うー!! お兄さん!! さっきかられみぃのこと無視するなんてひどいどぅーーー!!!!」
肉まんが俺の目の前で、ぷりぷりと怒りを顕にしている。
思索に耽るあまり、周りが見えていなかったか。
それんしても、肉まんが何の用だと言うのだ。
プリンのことなら忘れていないぞ。
「ちがうど~。お兄さん、さっきのぱちゅりーとけんかしてるでしょ~? だから、れみぃが仲直りのあどばいすをしてあげるど~♪」
ちっ、相変わらず要らんところで、賢しい奴だ。
「ぱちぇは、お兄さんのことが大好きだから、お兄さんがいいこ、いいこになれば、仲直りできるど~」
ハッ!! 思わず鼻で笑ってしまったわ。
適当なことをほざきやがる。
初対面の貴様にお師さんの何が分かるというのだ。
「わかるど~! れみぃは、お兄さんのこと大好きだど~! だから、お兄さんのことが大好きなぱちゅりーからも、れみぃと同じ感じがしたんだど~!!」
「……だから、何だ。それは、ペットが飼い主に寄せる好意のようなものだろう」
肉まんの言葉で、感情が高ぶっている。
こいつが本当の意味で俺をイラつかせたのは、これが始めてかもしれない。
だが、その怒りは、肉まん自身の言葉で胡散した。
「う~? れみぃには、よくわかんないど~。でも、でも、『嫌い』や『どうでもいい』より、『好き』の方がだんぜんイイにきまってるど~♪」
何だ…それは……。
下らないと一笑に付してやりたいところだが、何故かみょんな説得力がある。
確かにそうだ。
形はなんにしても、好意を寄せられるのはいいことに違いない。
「くっふふふ、ふふふ……ふはははははははッ!!」
「うっ!? お兄さん!? てんかのおうらいのまっただなかで、急にどうしたんだど~!? たみふる? たみふるなんだどぅ!?」
そんな訳あるか。
己の愚かさに、ほとほと呆れていただけだ。
何故、俺は気づかなかった。
お師さんだって「互いに助け合って道を進むことはできる」と言っていたではないか。
それなら、お師さんの道の横に俺の道を作ればよかったのだ。
嫌われているなら道は離れていくだろうが、そうじゃないならそのままだ。
だいたい俺が振られた訳でもないのに、ここまで悲観的になっていたのが、そもそもの間違いじゃないか。
過ぎ去った十一年間が急にもったいなく感じてしまう。
「よかったど~!! お兄さん、げんきになったど~!! れみぃ、えらい? えらい?」
非常に癪に障るが、今回ばかりは褒めてやらざるをえない。
「礼を言うぞ、れみぃ」
「うっうー♪」
あっ、だが、肉まん如きが、この俺に生意気にも講釈垂れた訳だから、今日のプリンはなしな。
「ぞんなのっでないどぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」
夕暮れ時の町に、肉まんの悲痛な叫びがいつまでも、いつまでも木霊するのであった。
おまけ
「ゆっ、ゆっぐ、ごめんなさいだよー。ちぇんのせいで、おにいさんのおかおが、おかおが……わ、わがらないよーーー!!」
「あーもー、俺は大丈夫だから泣き止めと言っているだろうが」
世紀末病院の59‐AQ号(『ごくあくと』憶えよう)病室に、その一人と一匹はいた。
何を隠そう彼こそが、ペットに頭を吹っ飛ばされた間抜けであり、彼に縋り付いて泣いているのが吹っ飛ばした張本ゆである。
「ほら、この前は、弟に左側を吹っ飛ばされたが、きれいに治ってただろう? 現代医学の粋を持ってすれば、この程度の治療、お茶の子さいさいってなもんよ」
「ほ、ほんどうに?」
そう言われてみると、ちぇんにも思い当たることがあった。
確かに、数ヶ月前、お兄さんの頭が大変なことになっていたが、数週間もすれば元通りになっていた。
「それにな、俺は嬉しいのだぞ。酔っていたとはいえ、お前は、この俺から一本とれるまでに成長したのだ。だが、お前は俺じゃなくて、日に日に弟に似ていくな~」
「わ、わかるよー!! ちぇんは、おうとうとさんみたいなけんぽうかになりたいんだよー!!」
お兄さんとしては、素直に喜べない目標だった。
昔から、拳法の才能では弟に上を行かれ、ペットまで弟に靡いて行くのでは、救いがない。
嫉妬の炎が、今まさにメラメラと燃え上がろうとしていた。
「でもね、ちぇんがいちばんだいすきなのは、おにいさんだよー!! いつか、ちぇんがおにいさんをまもってあげるんだよー!!」
それを阻止したのは、邪気のない真っ直ぐな笑顔であった。
「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
ボンッ
「わからないよーーーーーーーー!!!!」
血圧上昇によって傷が開いたお兄さんの入院期間は、さらに延びることとなった。
あとがき
激流に身を任せて書いた結果がこれだよ\(^o^)/
あと、妖星をmugenに則って「いくさん」にしようかどうか小一時間ほど迷ったよー。
【用語】
南斗虐指葬(easy):
相手の体に指を突き刺すのが本来の技。
easyが付くことで、相手の柔肌を露出させて突っつくというセクハラ奥義に。
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- れみりゃ可愛い❤ -- 2016-07-12 23:03:23
- れみりゃ可愛いよ -- 2015-01-28 22:54:45
- 歪みねぇ・・・ -- 2012-03-18 04:36:41
- どんな設定やねん!? 笑っちまったけど -- 2011-08-16 15:03:56
- 全体的にワロタ
こういうテンションのSS、好きだなぁ。 -- 2011-07-19 21:38:28
- ちぇええええええええええええええええええええええええん -- 2011-02-14 12:21:46
- つーか主人公聖帝だったのかよw -- 2010-11-27 09:31:39
- こう言う愛で・・・じゃない・・・もとい、ツンデレ虐待はいい物ですな
そしてむっきゅりぱちゅりーw -- 2010-07-20 02:23:12
- ↓その上、れみりゃが超可愛い。 -- 2010-07-12 04:11:23
- 笑えるやら、可愛いやら、いいssですね -- 2010-06-16 08:10:45
最終更新:2009年11月15日 16:34