ふたば系ゆっくりいじめ 524 対決!? ごきぶりくそぶくろ

対決!? ごきぶりくそぶくろ 36KB


制裁 自業自得 自滅 ツガイ 群れ 自然界 現代 まりさが可愛すぎて

※人間さんが出ます。戯れてるだけです。
※まりさが好きなので、純粋な悪役を演じ切れません。


1.とあるお山の綺麗な花畑


季節は春。
ゆっくりどころか色々な生き物が歌い踊る季節。
そんな暖かい日差し中、ぬくぬくと日向ぼっこをしていたのは
黒い帽子を金髪に乗せている若いまりさと
赤いリボンを風に揺らしている若いれいむだった。

「ま、まりさと…ずっといっしょに ゆっくりしてほしいんだぜ!/////」

「ゆ? そ、そんなこときゅうにいわれても れいむは…/////」

れいむも幼馴染のまりさの事は気になってはいた。
けれど突然の告白にしどろもどろで、丸いほっぺは身に着けたリボンと同じに色に染まっていた。

「まりさは かりが いちばんうまいんだぜ! ぴょんぴょんも はやいのぜ! けんかも つよいんだせ!!! だれも かなわないんだぜ!」

そう言うと、れいむの周りをくるくるポヨポヨし始めた。

「れいむも しってるよ! まりさは みんなのなかで いちばんだよ!」

「まりさだったら れいむを いちばんゆっくりさせて あげられるんだぜ!
 ちぇんにも みょんにも ほかのまりさにだって わたさないんだぜ!」

「でもね ずっといっしょに ゆっくりするあいては・・・ そ、その おとうさんに そうだんしてから…」

顔をうつむけるれいむの髪に、まりさは綺麗な花を摘んで飾ってあげた。

「きっと れいむの おとうさんも まりさを きにいってくれるんだぜ!
 なんたって まりさは いちばん なんだぜ! だから れいむも いちばん ゆっくりできるんだぜ!
 れいむは まりさの れいむに なるのが いちばんなんだぜ!!!」

「ゆぅ……れいむは……ゆんと………」

まりさが懸命にアピールしてもモジモジと返事が煮え切らないれいむ。

とても会可愛らしいれいむを見て、まりさは思った。
れいむのお父さんは、れいむを大切に育てたのだろう。
いろんなゆっくりできない事から守ってあげていたのだろう。
だからこそ こんな素敵なれいむと、まりさは出会うことが出来たのだ。

まりさはれいむを育ててくれた れいむのお父さんに心の中で感謝した。
そしてれいむのお父さんがしてきた大事な役目を これからは自分が担わなくてはならない。
一人前のまりさとして、れいむが一番ゆっくりするために、誰にも負けない強さと賢さが必要なのだ。
れいむを色んな事から守って幸せにしないといけないのだ。

まりさは狩りが上手い、しかし飛び切り上手いわけではない。一番だけど、みんなより少し多いだけ。
まりさは跳ねるのが速い、しかし飛び切り速いわけではない。一番だけど、みんなより少し速いだけ。

もっと決定的な要素が必要なのだ。
それがなければ、れいむのお父さんを安心させる事はできない。
皆と違う何かを…。

「れいむ! わかったんだぜ! まりさは かわいい れいむの おむこさんになるために あかしをもってくるんだぜ!」

「……………………ゆ?」

「そしたら まりさは …れいむの まりさに やっとなれるんだぜ!
 れいむを ゆっくりさせてあげられる れいむの おとうさんみたいな えらいまりさになれるんだぜ!」

まりさは飛び切りの笑顔を決めて見せると、れいむを暖かい日向にポツンと残して駆け跳ねていった。
もう豆粒ほどの大きさになった幼馴染の背中を見つめて、れいむは独り呟いた。

「まりさは……いつでも れいむの まりさだよ…」



2.とある麓の小さな町並み


「まりさは!(ポヨン) れいむの!(ポヨン) おむこさんに!(ポヨン) なるん!(ポヨン) だぜ!(ポヨーン)」

まりさは軽快なアンヨワークで、ゆっくり出来ない枝さんや石さんを避けて
全速力で生まれ育った山を下っていく。
怖い鎌を持ったカマキリにだって負けない勇気。
ちぇんだって、みょんにだって負けないあんよ。
しかしそれだけでは足りないんだ。

とてもゆっくりしていて、とってもかっこよくて、れいむの一番のまりさになるには
もっと劇的で説得力のある証が必要なのだ。

「ゆっ! ついたんだぜ!」

半刻ほどかけて下山したまりさは
草山を書き分けてひょっこり顔を出すと田舎街の空き地へ躍り出た。

まりさは辺りを見回すと、三軒ほど固まった借家の敷地へと入っていった。
雨戸も閉まっているボロい二軒を通り過ぎ、最後の家屋へと帽子を振って跳ねた。

『いい天気だなー、仕事がないのも忘れてしまいそうだー 自由ばんざーい』

その一軒に住んでいた青年は干した布団を取り込んでいる最中だった。
「こーそっ こーそっ」まりさは声を殺して、いや殺せてないが
とにかく木陰から青年をジロジロと観察すると庭先へと転がり込んだ。

『おっ ゆっくりか』

「ゆっくりしていってね!」

『ん、ああ、ゆっくりしていってね……ん、いや、やっぱ駄目だ。なんだお前、勝手に入ってくんな』

まりさは青年の問い掛けには答えず脇を通り過ぎ
洗濯ハサミが散らばる縁台に飛び乗ると取り込んだばっかりの布団にボッスンと着地した。

「すこしせまくるしいけど いいおうちなんだぜ! ここを まりさとれいむの ゆっくりぷれいすにするんだぜ! こうえいに おもうんだぜ!!!」

『…狭くて悪かったな、独身男性にはちょうど良いんだよ、というか人の家に―――

「ゆぷぷ、さえない じじいには おあいてが いないんだぜ! まりさには ひとりもの きもちはわからないんだぜ!
 だいたいこんな おおきなおうちを ゆっくりしてない にんげんが つかうなんて もったいないんだぜ!」

『分かってもらう気は微塵もねーヨ はよどっか消えろ つか退け汚れる』

まりさを乗っけたまま布団を引っ張ると、面白いように転がって雨戸の角にドンっとぶつかった。
頭の上で回る星達が消えると、まりさは青年に怒鳴った。

「ゆっぎぃいいいいいい!!! まりさが だまっていれば いいきになりやがってなのぜ! いいかげんにしないと ゆっくりさせなくするんだぜ!」

『は?』

「まりさは おおきい おうちが ひつようなんだぜ! だけど まりさは よわいものいじめは しないんだぜ!
 くずにんげんは さっさと りかいして まりさの おうちから でていくんだぜ!!!」

『なんで偉そうなんだ、お前』

まりさのあんよによってコスリ付けられた砂をはたき落として
青年は縁台に腰掛けるとヤレヤレと煙草をふかし始めた。

「まりさは かりが やまで いちばん うまいんだぜ! ぴょんぴょんも はやいんだぜ!
 なんでも いちばんの さいきょー なんだぜ! えらいんだぜ!
 なんで ゆっくりしてない にんげんが そんなに えらそうなんだぜ?
 ぼっこぼこに されるまえに まりさと れいむの おうちから でていくんだぜ!!!」

『そうか…よかったな…がんばれ』

「じじいは いたいめに かいたいのかぜ? さっさと まりさの おうちから でていくだぜ!
 まりさは つよいんだぜ? いうこときかないと ぎったんぎったんになるのぜ? はやくしないと こうかいするんだぜ!」

『はぁ…ことわる』

「くそじじいは ばかなの? いたいおもいを しないと わからないのかぜ?
 ぴょんぴょんできなくされても いいのかぜ? ゆぷぷぷぷっ!
 これだけ いっても わからないなんて きっと あたまが かわいそうなんだぜ!!!ゆぷぷぷふ!」

まりさは青年の腰掛けた場所まで来ると、ニヤニヤと青年の顔を覗き込んだ。

「じじいは ばかだから ずっと いっしょに ゆっくりする あいてが いないのかぜ!!
 いきててたのしいのかぜ? まりさとは おおちかぎいなのぜ
 ゆふふふふっ こんなおうちは たからのもちぐされなのぜ!!! にんげんは ほんとうに ゆっくりできない くずなのぜ!」

『明日こそバイト探すかなー… 仕送りなくなったしなー… はああああぁぁぁぁ…』

まりさは青年の周りでドンドンと縁台を揺らして退去命令を浴びせまくるが
青年はただただ残り少ない煙を鼻で味わっていた。
そして灰皿にチビたのを捨てるとマルボロのBOXを取り出した。

「ぐずじじいぃいいい!!!!!! まりさの はなしをきけぇぇええええええ!!! くずのくせに むしするなぁああああ!!!!!!」

無視に激昂したまりさが青年にぶつかると青年の手から煙草の箱が落ちた。
すぐに空中でキャッチしようと反射的に手を伸ばしたが
なにやら怒っているまりさが肩を揺らすせいで空気を掴み続けるだけだった。

そして

煙草さんは

 バラバラに

  地面へと

   散らばった

散らばった十数本を、一本づつ拾って洗って吸うほど堕ちてはいない。たぶん。
最後のマルボロ3X0円は土に還ったも同然だった。あとは空しくゴミに出すだけだ。
鳩尾の上辺りで熱く凝り固まったフラストレーションは、すぐに"ごきぶりくそぶくろ"へと向けられた。

「なに? くやしいのかぜ? ばかな じじいは ばかなめに あってから こうかいするだぜ! かわいそうなのぜ! ゆぷぷぷぷぷぷ!」


3.とある民家の無職な青年


『ああ、くやしいな…』

青年は立ち上がると体をほぐし始めていた。
間接を伸ばすたびに鳴る音は、のどかな風景には似つかわしくない。

「まりさの じつりょくが わかったら はやく でていくんだぜ? それとも また いやなめに あいたいのかぜ?」

まりさは縁台から飛び降りるとマルボロさんの上で何度も跳ねては砂と煙草をかき混ぜた。

『お前さ…どうして人間の家なんかに来た?ここいらじゃ ゆっくりなんてみかけねえぞ?』

「まりさは かりがうまくて ぴょんぴょんも はやくて おやまで いちばん つよいんだぜ!
 ゆっくりしてない くずにんげんが こんなの おうちを もってるなんて ゆるせないんだぜ!!!
 まりさと れいむが もっと ゆうこうに つかってあげるのぜ! かんしゃすると いいのぜ!!!
 はやく でていくんだぜ! まりさに ていこうしたら おばかな じじいは せいっさいっ してやるのぜ!!!」

『そうか、最悪最低に頭が悪いみたいだな、わざわざ踏み潰されるために山から街へピクニックか。
 そんなゆっくりは見たことないな。ゆん生が嫌になって自殺でもしにきたのか? 喜んで手伝ってやるぞ?』

「ゆぷぷっ!! なにいってるの? にんげんが ゆぷぷぷっ!!! まりさに かてるとおもってるの?
 ゆひゃっひゃっひゃっ!!! あたまが ゆっくりしすぎているのぜ!!!!」

まりさは青年の発言に笑いをこらえることが出来ず
凄んでいるらしい口元からはニヤけた表情を隠せないでいた。

『あ?糞不味い饅頭風情が人間様に勝てると思ってるのか? どっからくんだよ、その自信と根拠はよ。沸いてんのか餡子脳が』

「そんなちいさい からだで どうやって まりさに かつつもりなんだぜ? ばかなのかぜ? そんなの おちびちゃんでも わかることなのぜ!!!」

『…小さい? 何言ってんだ?』

「まりさのほうが からだが おおきいのぜ! からだが おおきいと けんかも はねるのも すごいんだぜ!
 そんなことも わからないのかぜ? ばかなの? もうだめなの? からっぽなの?」

『…』

「もしかして れみりゃより ながい てあしが あるから つよいと おもっているのかぜ?
 どう(胴)なんて おまけに すぎないのぜ! からだが おおきいのが すっごい あかしなのぜ!
 まりさは れみりゃなんて なんかいも おいかえしたことが あるんだぜ!!!
 みんな こわがりすぎなのぜ!!! ちょっと ばんばんしたり つつけば かんたんに なくんだぜ!!!
 にんげんだって おんなじなのぜ!! さすが れいむの まりさなのぜ! ゆっへん!!!!!!!」

『…からだ? ああ、体(頭)と胴(四肢)なのか、いやわかんねーよ』

「ゆっふっふっ…そろそろ いたいいたいで おぼえないと つうじないみたいなんだぜ!」

『そうか、そうだな。
 確かに俺の体(頭)は、お前の糞袋饅頭ボディよりは小さいな。つってもそんなオツムサイズには、死んでもなりたくないけども』

「いまさら わかったのかぜ? いまさらあやまっても まりさのおしおきたいむは これからうちょうてんなのぜ!!! ゆへへへへへへ!!!!」

『わかってないのは、お前だよ』

青年は庭先の倉庫へ向かうと突っ掛けから古びたスニーカーに履き替え
ヨレヨレのダンボールをいくつか持ってまりさの前に戻ってきた。

『おい、勝負だ』

「ゆ?」

『先に言っておくが、お前は山で一二を争う"すごい"まりさらしいが…』

「まりさは いちっばんっ なんだぜ! そんなことも おぼえられないのかぜ?
 いろいろ たりてないのかぜ? もっと むしさんを たべたほうがいいんだぜ?
 そしたら まりさの あんよの さきくらいの ちからは だせると おもうんだぜ!!!」

『俺は…普通の男だ、プロボクサーとやりあっても当然勝ち目はないし、普段鍛えているわけでもない。
 漫画を読んだり携帯ネットしているだけのパンピーだ。むしろ同世代なら下から数えた方が早いくらいの男だ』

「なに じぶんが できそこないだって あぴーるしているのかぜ?
 どうじょう してほしいのかぜ? てかげんしてほしいなら ちゃんと どげざで おねがいするといいんだぜ!
 まりさは じじいの いうことなんか なにひとつ きかないけどね! ゆぷぷぷぷぷっ!!!!」

『そうか俺の糞加減を、お前の糞頭でも理解したか…だったら………………………

「なんなのぜ? いのちごいなのかぜ?」

『ぴょんぴょん勝負だ』

青年は手ごろな枝を拾って野生のまりさと自分の前に一本線を地面に引いた。
枝を拾った人間を見てまるごしのままギタギタにしてやろうと
まりさはニヤケていたが、人間はすぐに枝を捨ててしまった。

『あの柿の木が見えるな? あそこまで俺と競争だ』

「ゆ? なんでそんなこと まりさが しないといけないのかぜ? つきあうつもりはないんだぜ!
 さっさと なきわめいて まりさの おうちから でていくんだぜ!」

『なんだ?自信がないのか?…まりさは口先だけだったんだな、お笑いもんだなオイ』

「なにいってるの? あほなの? じつりょくの ちがいが わからないのかぜ?」

『わからないから見せてくれって言ってるんだ お前様の実力に恐れおののいたらケツ巻いて逃げてやるよ』

「じじいに かっても なんのじまんにもならないよ! でも それくらいは かくしたのざれごとに つきあってあげるのぜ!!」

というわけで、ヨーイドーン!と駆け足勝負が始まった。

タタタタタタタタタタタタタタタタタタッ!
ポヨン!ポヨン!ポヨン!ポヨン!ポヨン!

そして案の定大差をつけて青年に軍配が上がった。

「ぜえぜえ…ど…どぼじで!……ぜえぜえ……まりさが!…いちばん!…ゆぐぐ…ぜえぜえ…」

『もっかいやるか? 一回だけじゃわかんないものな?別にかまわないぞ?』

ヨーイドーン!

タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタッ!
ポヨヨン!ポヨヨン!ポヨヨン!ポヨヨン!ポヨヨン!ポヨヨン!

はい青年の勝ち。

「ゆぅうううううう……なんで かてないんだぜええええ!!!! どうじでぇえええええええ!!!!!」

『偶然かもな? 最後にもう一回やってみようか』

ヨーイドーン!

タタタタタタタタッ 『うわっ』 ドデっ!
ポヨヨン!ポヨヨン!ポヨヨン!ポヨヨン!ポヨヨン!ポヨヨン!

スタート直後に青年は勢いよく転んでしまった。
笑みを殺せずに変な顔になったまりさが、すかさず追い抜いて距離を離していった。

「じじいは そこで くやしがっているんだぜ! しょうぶのせかいは ひじょうなのぜ!!! ゆぺぺぺっ!!!!!」

『わー まてー おまえー』

青年は倒れたまままりさに手を伸ばして叫ぶが



ダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!!!!!!



饅頭のゴール手前、まりさが勝利を確信して最後のスパートをしようとすると
ムクリと起き上がった青年が全速力でまりさの後ろを詰めて来た。

「ゆぅぅぅううううううう!!! ままままままままけないんだぜぇええええええ!!!!」

しかしポヨヨンと跳ねるまりさは、大差の甲斐なくアッという間に追い抜かされてしまった。
青年は先にゴールすると木の下でまりさを応援している。

『がんばれー まりさー さいそくの まりさー おやまで いちばんの まりさー』

そして

「どうじで にんげんなんがに ぴょんぴょん まけるのぉおおおおおおおおおお!? おかじいでじょおおおおおおお!!!!」

『残念だったな、つーかさ、分からないの?』

まりさの隣に並んだ青年は、またスタートラインのようなものを地面に描いた。

「ま、まりさ…つかれたんだぜ……ちょっと ゆっくり…するのぜ…」

『問題ない。今度はもっと楽だ。次にやるのは一回の跳ねる距離だ。それだったら疲れないだろ?』

「ゆぅ…それだったら…ぜえぜえ…いいのぜ……さっきのは…まちがい…だった…ぜえぜえ…なのぜぇ」

『ほら、ネクターだ 飲め』

「ごーくごーく ししししししあわせー!!
 くそじじい!!! もっと まりさに あまあま よこすんだぜ!!! はやくするんだぜ!!」

『死ね。どうだ?疲れは治ったか?』

「ゆふふふふふ!!! てきに しおを おくるなんて じじいは やっぱり ぼけてるんだぜ!
 こんどこそ まりさの しんの じつりょくを みせてやるのぜ!!!」

そんな分けで勝負は幅跳びへと切り替わった。
まりさは体を前後にクネクネしながら勢いを稼ぐと「ゆっくり ぴょんぴょんするのぜ!」ポユーン!と飛び跳ねた。
するとまりさは自分の体二つ分くらいまで前進して着地した。

『よし そこでジっとしてろ。お前は こっから…ここまで飛んだわけだ。いつもこれくらいか?』

「いつもは もうすこし ぴょんぴょん できるけど まずまずのけっかなのぜ!ゆふふふふん!」

『じゃあ 俺の番な せーの…』

青年はまりさと同じスタート地点に立つと両足飛びをした。

「ゆ!?ぶつか……ゆんや、じじいが ここまで とべるはずないのぜ!!! ぶざまな すがたを けんがくなのぜ!!!」

まりさの頭上に飛来した靴の裏は

「ゆぎぃ!?」

汚い三角帽子をグレイズしつつ飛び越した。

『ふう、いやーまりさの記録に迫るどころか 飛び越えちゃったよ』

「ゆぅぅうううううううううう!?」

『どうだ?すごいか? 待っててやるから俺の記録抜いてみろよ』

青年はスタートラインに膝を突いて測定役となった。
まりさは飛んでは戻ってを繰り返し、自分の倍はある青年の記録に挑戦し続けた。

「ゆんっ!」ポユーン!!…負け。
「ゆぎっ!」ポユーン!!…負け。
「ゆがっ!」ポユーン!!…負け。

「ゆぁぁぁぁぁあああああ!!!ゆぁあああああ!!!ゆああああ!!!
 まりさは じじいなんがに にんげんなんがに まげないんだあああああああああ!!!!!!!!!」

砂埃を巻き上げ汗と涎を撒き散らしながら
まりさは30回ほど挑戦した結果ついに力尽きた。
青年はまりさが目を回している間に家に上がって甘いジュースを持ってきた。

『ほい、ジュースだ』

「ごーくごーく ししししししあわせー!! もっと まりさに あまあまを―

『どうだ? そっこから見て俺の記録まで届く自信はあるか? 今までのゆん生で、この距離を一足飛びで超えた事なんてあったか?』

「ゆぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!」

さすがに見た目で分かる自分の倍以上の距離と
今さっきの挑戦経験から、まりさは茹蛸みたいにカッカしつつ言葉を詰らせた。

『無理だよな? お前、やっぱり人間には勝てないんだよ』

「まりさは………………………………まりさは ちょうしがわるかったんだぜ」

『あ? 調子が良かったら、あそこまで飛べるか? なあ、ちょっと見てろお前』

青年はスタートラインに再び立つと

『あそこのな、地面が乱れている所がお前の限界点だ。調子が良かったとしても、あれとそんなに大差ないだろう? でな…』

青年はスタートラインに左足を残したまま右足を伸ばした。
その先はまりさが奮闘した最高記録の中心だ。

『お前が頑張って跳ねて飛んだ距離ってな、俺にとっては"ぴょんぴょん"するどころか、跨いで届くんだよ。
 分かるか? 実力の違い。俺が歩く一歩で、お前の"ぴょんぴょん"なんて越えちまんだ
 なのに"ぴょんぴょん"合戦なんて、カケッコしても勝てる分けないだろ?
 信じられないなら離れた距離から追いかけっこでもしてみるか? 即座に捕まてやれるぞ?』

「ゆぅぅぅぅぅぅぅ!!! ゆぎぃぃぃぃぃぃ!!!! やってみなければ わからないのぜぇええええ!!!!!!」





まりさ大敗。





何メートルのハンデを上げても、まりさは奇声を上げて逃げ惑いつつ即座に追いつかれた。

「じじじじじいはぁああああ!!!!!何かズルをしているんだぜぇえええ!!!!!!!」

『どうやってズルが出来るんだよ。幅跳びの差を見たろ? これがお前が馬鹿にしていた胴の差ってやつだ』

やれやれと軽い運動したなと遊びを切り上げ始める青年だったが

「ずるいんだぜ…」

『何がだよ』

「まりさには あしが ないんだぜ!」

『…』

まりさには足がない。足を使うのはズルい。

「まりさは せいせいどうどうと しょうぶしてるのに じじいは くずだから ずるしてるんだぜ! じじいは あしを つかっているんだぜぇぇえええ!!!」

『…お前の"あんよ"とは違うのか? まあいい、"胴"の"足"がないから負けたと。その通りだ。
 "足"がないから…お前は人間以下なんだよ。お前の"ぴょんぴょん"は人間にとって全然凄くない。"足"を持ってないお前は人間以下だ』

「…ゆ!? ちがっ…まりさは にんげんなんかより つつつつつつつよいのぜ!!!!」

『次に行くぞ』

放心仕掛けているまりさはそのままに、青年は手ごろな石を拾ってまりさの前に置いた。

『石ころだ、お前も虫を狩ったり木の実を獲る時に使うだろ?
 その飛距離を俺と勝負だ。どこまで遠くに投げれるかってことだ。足は関係ない。』

「じじいは ばかなの? そんなちいさいからだで とおくにとばせるわけないんだぜ?」

『そうだな。わかったからやってみろ。あの木に目掛けてみな』

青年が急かすと、まりさは石を口先に含んでぷくーーーと膨らんだ

「ゆぺっ!」

まりさの口から放たれた石ころは、2メートルくらいで勢いをなくしてコロコロと地面に転がった。

「ゆっふふーん! まりさは もりで いちばんの すないぱー なんだぜ! あけびさんも かきさんも まりさの えじきなんだぜ!!」

青年は石ころを拾いに行ってマークをつけると、ない鼻を高くしてふんぞり返っているまりさの元に戻った。

『あそこに物を置いてあるのがお前の記録だ。さて、俺はどこまで飛ばせると思う?』

「いしさんを あつかうのは とってもむずかしいんだぜ! ぶきような じじいは きっと すぐ めのまえに おちちゃうんだぜ!
 かりも おぼえたての おちびちゃんみたいに おまぬけに なるにちがいなのぜ! ゆぷぷぷぷぷっ!!!!!」

『もっと飛ばせると思うけどね』

青年は石を拾って構えた。
栗ほどの大きさの石ころを青年は三本の指で摘んだ。

「なにしてるのぜ? いしさんをくわえないで どうするつもりなのぜ?」

『こっちの方が、飛ばせるからさ』

青年は振りかぶりもせずに、下手投げでヒョイと浮かして離すと
案の定まりさの記録を少し超えて離れたところに着地した。

「ゆぅうううううううう!? もももももういっかいやるんだぜええええ!!!!」

ポヨヨン! かぷっ ぷくぅううううううう!!!!!!! 「ゆっぺっ!!!」

頑張ったまりさは青年の記録を超えて先ほどより少し離れた場所に飛ばすことが出来た。

『俺もやるぞ』

そして青年も投げ続けると、またちょっとだけまりさの記録を超えた場所に石が落ちた。

「ゆっがああああああああああああああ!!!!!!」

まりさは急いで石ころを回収すると投合地点に戻る。

「ゆぺっ!」『ほいっと』
「ゆぺっ!」『ほいっと』
「ゆぺっ!」『ほいっと』
「ゆぺっ!」『ほいっと』

まりさが何度もリトライして自己新記録を出す度に
青年はほんの少しだけまりさの最長記録を破る。

『もうこのくらいが限界なんじゃないか? もうさっきから自分の最長記録も塗り替えられないじゃないか』

「ゆっがぁぁぁぁああああああああ!!!! じじいだって まりさと そんなに かわらないのぜ!!
これはもう おあいこも どうぜんなのぜぇえええ! ゆへへへへへへへへへへへ!!!!!!!!!!」

歯茎を見せて真っ赤に憤怒するまりさに青年は言い放った。

『じゃ、本気出していい?』

「…ゆ?」

青年が先ほどまでまりさが格闘していた石ころを握り締めるとピッチャースタイルで投球した。
投石は まりさの記録を軽く飛び越え、目掛けた木に着弾すると甲高い音を出して根元に落ちた。

「…………………………ゆ?」

『すまん、今まで手加減してた。さて、また勝負するか? 今度は全力で投げてやるよ』

「…」

ヒョイ コロン… ヒョイ コロン… ヒョイ コロン…
青年は同じくらいの石ころをかき集めると適当に石をばら撒いた。
その落下場所は まりさの最高記録を軽々と超えていく。

『お前が頑張った記録な? こんな適当に投げるだけで超えられるんだわ…ほら、寝転がっても投げても余裕だわ』

散らばった石ころ達を愕然とした面持ちで絶句のまりさ。
青年は今度こそ片付けをしようと石を拾いに掛かった。

「…て」

『ん?』

「どうして てを つかって いしさんを とばすんだぜぇえええ!? まりさは くちを つかってるんだぜええええ!!!」

『手の方が、お前より遠くに飛ばせるからだ お前だって帽子で持ち上げたり あんよで蹴るよりはいいから口なんだろ?』

「ずずずずずずずずるいんだぜえええええ!!!!!!」

『ん?』

「まりさには てが ないんだぜええええええええ!」

『ああそう、"胴"の"手"がないから負けたと。その通りだ。
 "手"がないからお前は、人間以下なんだよ。お前の"ゆぺっ!"は人間にとって全然凄くない。"手"を持ってないお前は人間以下だ』

「うぞだぁああああああああああああ!!!!!!!ちがうううううううううう!!!!!!
 まりさは にんげんより つよいぃぃいいいいいいいんだぁぁぁぁああああああああ!!!!」

せっかく青年が拾い集めた石ころを、ぷりんぷりんとお尻で散らかすまりさに青年は告げた。

『んじゃ、次だ』

青年は最初に倉庫から出したダンボールを組み立てて、四角い箱にするとまりさの前に置いた。

「なんなんだぜ? じじいの おうちなのかぜ? ここは まりさの なわばりなのぜ! おうちなら ほかでつくるんだぜ!」

『お前が鈍足で石も満足に投げれないのは分かった。』

「ぞんなごどなぃぃぃぃいいいいい!!!!! にんげんに まけるはずがないんだぜぇぇえええ!!!!」

『はいはい。お前このダンボールに体当たりしてみろ。お前は強いんだろ? どれだけ突き飛ばせるんだ?』

「ゆ? ゆふふふふふふふふふふっ…じじいが すこしくらい はやくても ついに まりさの とくいなぶんやなのぜ!!!」

『早くやれ』

「どんな すばしっこくても けんかに つよくなければ いみがないのぜ!!! にげあしだけは はやい じじいはまけいぬなのぜ!」

『もしかして自信ないのか?そんなに御託並べて―

「うるざいぃいいいい! まりさの ちからを みてるんだぜえええええええ!!!!!!」

『しっかり見てやるよ』

「じじいの おうちは ゆっくりしないで しね!!!」

一跳ねボスーンとダンボールに飛びかかると、軽い音を立ててダンボールの側面が少しへこんだ。

「ゆっふっふっ どうなんだぜ? まりさは どんなやつでも ぼっこぼっこに してやるんだぜ!!!!
 まりさに かてるやつは だれも いないんだぜ!!!
 もしかして じじい しーしーもらしてない? みんなに みてもらうと いいのぜ!!! ゆぷくくくくっ」

青年はまりさが体当たりしたポイントを指差し

『お前の体当たりでココがへっこんだ。ちゃんと見たか? んじゃ次は俺の番だ。』

青年はダンボールを回して、まだ平たい違う面を自分に向けた。

「しろうとが むりをすると けがするのぜ? まりさの まねごとなんて たくさん はやいのぜ!」

『せーのっ…』




ボッ!!!!!!





ダンボールは青年のトーキックに持ち上げられ
空中で回転しつつ古びた折れ目が千切れてボロボロの姿で地面に落ちた。
青年はダンボール箱だったものを拾ってくると、まりさの目の前に投げ捨てた。

『どうだろう? どっちが強いと思う? どう見えた?』

青年はボロボロに壊れたダンボールを踏みながらまりさに問いただした。

「ゆ…あ……ぁ………」

『わかんないか?』

青年は新しいダンボールを組み立てると、まりさの前に置いた。

『俺と同じ事出来る? バラバラにしてみ?』

まりさはしばらく無言のままだったが、目を覚ましたように一心に挑戦し始めた。

「ゆっくりしないで しね!」ポヨン!ポスッ!
「せいっさいっ なんだぜ!」ポヨン!ポスッ!
「はやく こわれるんだぜ!」ポヨン!ポスッ!
「ゆっがっああああ!!!」ポヨン!ポスッ!

しかしダンボールは置いた位置から多少ズレたりする程度で壊れる気配はない。

「じ…じじいが…」

『ああ』

「じじいは、まりさのあとで やったから じじいのおうちは こわれやすかったんだぜ!!!!
 ずるい やつは ゆっくりしないで さっさと しねぇえええええ!!!」

青年はダンボールを片付けると落ちていた長い枝を何本かヒモで束ねた。
そしてノコギリで均等な長さに割けるとまりさに渡した。

『折れ』

「ゆ?」

『俺もやる、どちらがグラグラに出来るか勝負だ』

「ゆぐぐ」

『また負けると思ってるのか?やっぱりお前は口だけなんだな』

「ゆぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ」

怒髪天のまりさは枝の上で何度も跳ねたり、咥えて地面に立てかけて折ろうとしたり
考えうる最善の方法を尽くしたが…さほど変化はなかった。

「ぜーはーぜーは……あんよが ちくちくしてて いたいのぜ…………ゆ? じじいも えださんを どうにもできてないのぜ?
 ここここんどこそ ひきわけなのぜ! ゆへへへへ…ゆへへへへへへへへへへっ!!!!!!」

『いや、今までまりさがどれだけ強いか見てたんだ。では俺も挑戦するぞ』

青年が枝束の両端を握り締め力を込めると

バキバキに折れた。

破片のしぶきが、まりさに降りかかったが
瞼を閉じもせずに黒帽子は青年を呆然と凝視していた。

『まだまだ』

二等分に割れた枝束を地面に置くと、まりさと同じようにその上で足蹴にした。
バキバキと音を立てて瞬く間に粉砕されていく。

『どう?』

「ゆ…あ…」

信じられない。分かりやすい顔があった。

『どうだ?どうなんだ?』

「て、てあしが…あるから…なんだぜ」

まりさはコナゴナになった枝だったモノに目を剥きつつ答えた。

『わかったよ、まあ"手足"がないと曲げるとか折るとか難しいもんな』

「ゆ、ゆへへへへへへへへ…そうなのぜ ずるいのぜ! にんげんは ずるいのぜ!」

『ズルでもなんでもいいけどな、結局手足のないお前って奴は、人間と比べて大したことないって事だな? そうだな?』

「ゆっがぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!
 てあしが あるからって いばるじゃないんだぜぇえええええ!!!!
 まりさの つよさは そんなもん かんけいないんだぜえええええ!!!」

『そっかー "て"、"あし"のある れみりゃにだって 勝てるんだもんなー』

「ゆふふふふふふ!!!! まんまと じじいに だまされるところだったんだぜ!!!!
 まりさの つよさは まったく ゆるがないんだぜ!!! じっせんが いちばん だいじなんだぜ!!!
 まりさは いちばん!いちばん!いちばんんんんん! ゆへへへへへへへへへへへ!!!!!!ゆへへへへへへへへへへへへへへへ!!!」

まりさは縁台に再び跳ね乗ると高笑いをした。
垂れる冷や汗で肌をふやけさせながら喉が枯れる様に笑っている。
青年は隣に腰掛けると、一呼吸をついてから胡坐をかいてまりさに向き直った。

『具体的に力比べしてやるよ。お前は体当たりで喧嘩相手をのびさせた事はあるのか?』

「ゆ? いたいいたいで なかせるのなんて かんたんなのぜ! まりさは けんかだって だれにも まけないんだぜ!!!
 なに? じじいは こわがってるの? しーしーしちゃうの? ゆぷぷっ」

『一発 俺にかましてイイぞ。ちゃんと避けないで当たってやるから』

青年は胡坐のまま両腕で体を支え、まりさに額を突き出した。

「なんなの? どけざしてるの? なにをしても ここは まりさの おうちなんだぜ? どれいにでも してほしいのかぜ?」

『やーい ばかまんじゅう こわくて おれに てが だせないんだー』

「ゆっがぁああああああああ!!! その へらずぐちを ふさいでやるんだぜ!!!!」

飛び掛ったまりさは青年のおでこの辺りに牛皮の頬を全力でぶち当てた。
改心の一撃を空中で確認すると縁台に着地した。

「ゆひひひひひひひ!! いたい? ねえ いたい? じじい どうしたの? ないてるの? ゆぷっ… ゆぷぷぷぷぷふ… ゆへへへへへへへへへ!!!!!」

青年はうつむいたまま動かない。
まりさは尻を振り転がって大笑いをしている。

「まりさの ひっさつわざは なまいきな ありすも すばしっこい ちぇんも
 みんな いっぱつで こうさんさせた うるとらわざなのぜぇええええ!!! じじいも とるたりないのぜぇえええ!!!」

まりさは暴言を発しながら、青年の周りをポヨポヨ回っている。

「ゆっくりしね! ゆっくりしね! ゆっくりしね! おもいあがって にんけんごときが まりさを ばかにするからなんだぜ!!! てんごくで はんせいするといいのぜ!」

ポスン!ポスン!まりさの容赦ない暴行が始まった。
青年の腕、頭、尻、腿、あらゆる場所に手加減のない暴力が行われる。
勝ち誇ったまりさの奇声と打撃音が混じり合い凄惨な場面は、すぐに終わりを見せなかった。

「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…」

ハイになったまりさが、体内の糖分を使い切り息を切らせていた。

「おもい…ぜぇぜぇ…しったのかぜ!………はやく……ででいくのぜ…ぜぇぜぇ…ずっとゆっくり…させるのは……かんべん…ぜぇぜぇ…してやるのぜ」

まりさはこの無用のデカ物をどうやって捨てるか考えていると青年が顔を上げた。

「…ゆ?」

そこには、まりさが予見していた苦痛に満ちた顔も悔しさすらもない
最初から見せていた怠惰で間抜けな顔が合った。

『はぁ…ぼっこぼこ? 何だよ別に大したことないな。
 俺が無理して我慢してるとでも思うか? あんだけ何発も打たれて痛かったとしたら、さすがに我慢できてるハズないだろ?』

青年は服の乱れを直して姿勢を正した。
信じられないという顔をしてまりさが詰め寄った。

「ゆ? どぼじで? どぼじでなんともないの??? なにがまんじでるの? はやく なくんだぜ!? おそろしーしーするんだぜ!? なけぇえ! なけぇぇええ!!!!」

まりさ自身が自分でも分けが分からない涙を流しつつ青年に体当たりを続ける。

『どうしてか? かわらないのか?』

「どぼじで!? どぼじでなの!? どぼじでなのぉぉお!? わがらないんだぜぇえええ!? ばりざ わがんない わがんないいいいいいぃぃぃぃ!!!!」

『お前の体当たりは…』

「おがじいよ!? まりざは いぢばんなんだぜ!? いままで ぜんぶ やっつけでぎだのぜ!? まりさは! まりさは にんげんより つよいんだぜ!?」

『人間には、全く、一つも、完全に、通用しない』

「うううううううううううそなのぜぇぇええ!!!!! ゆっくりしてない でくのぼうの にんげんが
 まりさに かてるはずないのぜぇぇぇ!!! はやく ないて あやまるんだぜぇええええ!!!! ゆっくしないで しねぇぇえ!!! そくざに しねぇえええ!!!!」

わなわなとしているまりさを、青年が両手で掴んで胡坐の上に乗せた。
まりさは逃げることもせずに、ただ青年の主張を非難し続けている。

「うぞだ! おがじい! まぢがっでる! まりざは いちばんだ! いちばんで すごくで れいむの ばりざなのぜ!!! にんげんに まげるばずない!!!」

『お前さ、喧嘩が強いって事は それなりに打たれ強いんだろ? だったら一発だけやり返させてくれよ?』

青年はまりさを抱えた両手に力を込める。

「ゆめだ! ごれば ゆべだ! ばりざは にんげんも たおじで いちばんになるんだ! ゆっくりとして おうちを てにいれるんだ!ごんな ちいさい にんげんに まげるなんで!」

『お前が山で一番なら… 人間がお前より弱いのならば、一発くらい貰っても、痛くて泣きもしない程度ってことだよな?
 じゃあ我慢してみろ。俺が打たれ強さを示したんだし、お前の我慢強さも示さないと、どっちが強いか決まらないぞ?』

青年は背を伸ばした。

「たおず! たおじでやる! おうちを でにいれで れいむど ずっと ゆっぐり ずるんだ!!!!」

『さあ、我慢比べだ……せーのっ


4.とあるお山の悲惨な情景

まりさは青年に背負われて山を登っている。
麓から大分経ったが、籠に収まっているまりさは声を発していない。

山道は急ではあるが、野花や木漏れ日がとても美しく、登るだけでも十分楽しく感じられた。
林道から垣間見える木のウロで、ゆっくりの親子が歌の練習をしている。
開けた原っぱでは、綺麗な宝物を見せ合ったり、子供達が追いかけっこをしている。

野生動物の棲家とは離れているのだろうか、どのゆっくりもゆっくりとしていて
青年が通りかかると挨拶をしてきたり足元にじゃれついて来たりした。

浅い小川で休憩すると まりさの親子が水溜りで浮かぶ練習をしている。
一方ありすの家族はお互いの髪を濡らして綺麗に整えてあげていた。

籠を下ろし岩に腰掛け、お弁当のおにぎりを食べていたら
すぐ隣にピクニックだろうか三匹の家族が休み始めて、花やら虫やらを葉っぱの上に広げた。

昼飯を堪能しながら聞き耳を立ててみると
いつもと代わり映えはしないであろう友達との出来事を
子ゆっくりが熱心に母親へと話している。

親ゆっくりは、うなづきながら ほっぺについたご飯を舐めてあげていた。
なんとなくお父さんっぽいゆっくりは早々にご飯を平らげて昼寝をしている。
余った卵焼きを子ゆっくりにプレゼントすると、帰り際に親ゆっくりにお礼を言われて別れた。

再び籠を背負ってしばらく進むと花畑に到着した。
青年は籠を開け放つとヨロヨロとまりさが這い擦り出てきた。

その姿は花畑の美しさとは縁遠い。
片目は青年のヘッドバットにより眼球が抜け落ち無残にへこんでいる。
舌は自分の前歯で噛み千切られて先端から大きく欠けてしまっている。
その前歯も青年の威力に負けてボロボロに砕けて数が足りない。
頬は青年が押さえ込んだ時にめり込んだ指が貫通したのか、いくつかの穴が開いている。

いくらか痩せこけているのは一週間ほどコンポストとして生活させられたり
雑草むしりと、その始末をさせられていたからだ。
命と同じくらい大切な帽子を取り上げられて放置された時もあった。

人間の残飯だからといって森の食べ物よりいいわけではない。
山菜や甘みを主食とするゆっくりにとって
味噌汁の残り汁や化学加工物などは毒にしかならない。
食べては餡子を吐き、まだ自分の中に戻すために吐しゃ物を食べる。
それが山から下りて来たまりさの一週間だった。

そして

「…」

這いずるまりさの視線の先には一匹のれいむがいた。
青年はまりさの後ろから声を掛けた。

『あいつが お前の相手だろ?
 もう山から降りてくんな、意気揚々そんな事するのはお前ぐらいだ
 熊や狼だったら、即座に撃ち殺されてるぞ』

「れい……む……」

まりさは重たい体を引きずり、少しずつれいむへ近寄った。
まりさには人里に下りてきたばかりの自信も元気も山一番の体躯も既にない。
けれど黒い帽子とれいむへの想いだけはそのままだった。

「れ…い…む………れい…む……れいむ…………れいむ!…れいむ!れいむ!」

青年と競争した時とは、見る影もない弱弱しい跳躍が花畑を掻き分ける。
片目だけから流れる涙がれいむの姿をぼやかしていった。
れいむはれいむのままだった。
可愛くて優しくて時々まりさを叱ってくれるれいむ。

その元に飛び込みたい。
その瞳を眺めたい。
その頬に寄せたい。

まりさはれいむの元に帰って来た。


『…』


青年は籠を椅子にして、その様子を花畑で眺めていた。
小生意気を通り越した若いまりさが、想いを寄せていたという相手へ力を振り絞って戻っていく。
その姿を眺めているだけだ。

れいむの前に辿り尽く直前で、突然震えだしても見続けていた。
喉の奥から絞り出された呻き声が遠くから聞こえてきても。


「…れ…い…む?」


れいむはれいむのままだ。
可愛くて優しくて時々まりさを叱ってくれるかけがえのない幼馴染。
一週間も会えなくても、美しいれいむがまりさの前に居て入れた。


知らないまりさと仲良さそうに。


『…事前に、お前の帽子を持って此処を訪ねてみた
 すぐにお前の言ってた相手は見つかったよ
 そしてお前のプロポーズの結果が、コレだ』

「ゅ…ぁ……」

『お前の相手は言ってたぞ
 あんなに強くて困った時は助けてくれる人間さんに
 傍若無人な態度をとる お前なんて理解できないってさ』

「…っ……れ…い…む…」

『本当にお前が好きで、父親抜きで迷っていたらしい
 でもな、別に一番じゃなくてもイイから
 皆よりほんの少し自分に優してくれて
 相手を気遣える利口な旦那の方がいいってよ』

「………」

れいむは人里から帰ってきたまりさに気付いた。
そして悲しい顔で一瞥するとツガイと一緒に森の奥へ消えた。

『人間様に勝てると思ったお前も馬鹿だけどな
 相手を喜ばせようと考えた方法は、もっと馬鹿だったな…

 人間に勝てたからなんなんだ?
 あんな山から離れた整地で どうやって暮らすんだよ
 コンポストで懲りたろ?人間の食い物なんてお前達には合わないんだよ
 見てみろよ みんなゆっくりと暮らしてるじゃねーか 何が不満なんだよ
 車に轢かれたり、人間の子供の玩具にされたり、コンクリートで蒸し焼きにされても
 お前は人間のデカイ家がほしかったのか? 人間に勝ちたかったのか?』

「…」

青年と力比べをしている最中
一度も落とさなかったまりさの帽子が
そよ風に吹かれて花畑を転がった

『何よりも一番を目指して頑張っていたようだけどな
 お前の相手の側にいた、今の連れを見たか?
 狩りも跳ねるのもお前よりは 下手かもしれないな
 けれど相手の側にいてあげる事と、相手を思いやる事は一番だったかもな』

青年はまりさに帽子を被せてやった。

『お前の仲間に言っておいたよ
 お前が死なないようにゆっくりさせてくれってな
 ボロボロの姿でも嫌わないように、嘆いて自ら命を投げ出させないようにな
 喜べ、お前はずっとお前の告白した相手の傍で生きられるぞ

 みんな善良そうだな、喧嘩のケの字も感じない
 イイ奴らじゃないか 確かにお前の様な奴には誰も敵わないな』

「…」

『利口になったな
 お前は人間より弱いんだ
 他の奴らは人間の事なんて知識として知ってる程度だろうが
 お前は身をもって知ることが出来た、良かったな』

「…」

『もしも山を下りないで人間の差も知らない馬鹿のままだったら…
 なあ、馬鹿のままは嫌か?

 馬鹿のままだったら
 お前は あの相手と結婚して五体満足いつもどおりの暮らしだったはずだ

 それ、嫌か?』

「…」

『なあ、馬鹿のままは嫌か?』









まりさは群れの仲間から施され寿命が尽きるまで生きた。
幼馴染れいむが訪ねてくる事は一度もなかったが、申し訳なさそうにれいむの旦那が度々やって来た。
人間がどれだけ強いかどうか、そんな事をまりさに聞いてくるゆっくりなど一匹もいなかった。










by キーガー・フレテール


挿絵 byM1


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感想

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  • なんて優しいお兄さんなんだ -- 2021-10-16 20:34:45
  • 優しいお兄さん…まりさは高い授業料払ったね、あれだけボロボロになったまりさをも迎えてくれた群れの仲間たちに感謝すると良いね -- 2019-07-30 20:07:14
  • なんて優しいお兄さん -- 2018-03-06 18:49:16
  • DIO「素晴らしいよ君、ところで、もっと、力が、欲しくないか?この矢で、君に、新の力を、産み出してやろう。」 -- 2014-11-12 22:05:42
  • ブロリー「この程度で人間に勝てるとおもっていたのか。所詮、くそぶくろはくそぶくろなのだ。」
    パラガス「その気になっていたお前(ゆっくり)の姿はお笑いだったぜ。」
    -- 2014-10-08 01:58:13
  • ↓幼稚じゃなくてやさしいだけじゃないか?
    普通なら潰して終わるとこをわざわざ茶番に付き合ってるんだし -- 2014-07-26 20:35:56
  • 優しいお兄さんではあるけど、幼稚過ぎるというか
    そんなだから仕事に就けないんだよwwwwwww -- 2013-10-18 00:49:48
  • 魔理沙を悪にできないって思いっきり悪やないか -- 2012-07-16 10:28:47
  • 諦めないっていう事はいつも美徳とされるけど
    絶望的な力の差を見せつけられても理解できない奴が生きていられるのは運がいいだけなんだよね。
    この青年は超がつくほどの暇人だが、心の広さが半端じゃないな。いちいち怒ったりせずに何度でも教え諭す様は
    常人に真似できない領域に達している。
    虐待するわけでもなくごく普通の人間の感覚で
    ゆっくりの中でも相当な馬鹿の部類でさえ理解できるように敗北感を
    与えたところが痛快で、すっきりしたよ。
    を与えたのは最高だった。 -- 2012-06-12 18:26:16
  • 恋は盲目ってやつか -- 2011-09-18 20:48:03
  • ↓↓ジョジョ立ちw
    確かに似合いそうだなwww -- 2011-09-18 20:47:20
  • 面白かったです!! -- 2011-06-04 03:40:42
  • このお兄さんはジョジョ立ちするべきだw
    きっと似合うwww
    -- 2010-12-31 02:43:47
  • このお兄さん良いね~。力の差を教えるくだりが面白かったです。 -- 2010-12-25 10:56:19
  • つうかなんでれいむは尽くされる側なんだ?w -- 2010-12-16 21:36:59
  • とても優しいお兄さんだったな…
    人のおうち奪おうとするげすまりさ相手に優しすぎるぜ… -- 2010-10-13 21:41:56
  • うーん、できたお兄さんだなあ -- 2010-08-19 07:43:01
  • 良い鬼威山だなwww -- 2010-08-15 16:48:32
  • なんかゲスって感じでもないね。
    すっきり!!!したけど。 -- 2010-08-11 06:54:57
  • すっきりー!! -- 2010-06-26 21:27:58
最終更新:2009年11月26日 20:49
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