ゆっくりごろしあぶらのじごく 39KB
制裁 自業自得 駆除 ツガイ 野良ゆ 赤子・子供 都会 現代 うんしー 初投稿です
『ゆっくりごろしあぶらのじごく』
ゆっくりという奇妙な物体が発生してから既に数年が過ぎた。
発生した当初は「生物学を根底から揺るがす存在」とか「人類が最初に出会った知的生命体」とかもてはやされたけれども、その熱狂は驚くほどの速さで終息していった。
最初の内はゆっくりを生物、それも人間のような知能を持った存在として扱うような動きもあったが、今現在ゆっくりに対しての認識は「もの」の域を出ない。
生物ではなく物体である。ただの音を発し、表面を変化させ、自己増殖をする「もの」でしかない。
大体、ゆっくりをどれだけ解剖してもそこにあるのは饅頭の皮と餡子、白玉と金平糖しかない。
生命活動に不可欠な心臓も胃も肺も何もない。
これを生物と規定するならばありとあらゆる生物に対し喧嘩を売っている。
アメーバやウイルスでさえも「自分たちとゆっくりを一緒にするな」と怒るに違いない。
一時はゆっくりをナノマシンによって制御された機械であるとする奇抜な意見もあったが、誰も相手にしなかった。
ゆっくりはただの生もの。断じて生物ではない。生物学はゆっくりをそのように分類した。
ゆっくりに知性はない。ただ人間に似た動作を反復するだけである。
教育者は、知識人は、宗教家はゆっくりをそのように分類した。
確かにゆっくりは感情らしきものを見せる。あまあまを与えれば喜び、赤ゆっくりが遊ぶ様子を見て笑い、逆に目の前で赤ゆっくりを潰してやれば泣き叫ぶ。
だがそれだけだ。ゆっくりには感性もなければ道徳もない。人間に必ずある良心さえないのだ。
せいぜい昆虫に近いくらいだろう。これを人間と同列に置くのはそれこそ神に対する冒涜である。
かくしてゆっくりは人間とのファーストコンタクトの数年後、害虫のレベルにまで落ちた。
こうなった一因は、ゲスと呼ばれるゆっくりたちの醜すぎる言動にあるだろう。
人間の醜悪な部分を寄せ集め、それをさらに強化したようなゲスゆっくりの存在は、「ゆっくりは害虫だ」という認識を確固たるものとするのに十分だった。
最初「ゆっくりには感情があります。駆除などとんでもない」とのたまっていたゆっくりんピースも、ゲスの行動や野良の害の多さに口を閉じざるを得なかった。
むしろ積極的に口を閉じた。
彼らにとってゆっくりとは愛らしい存在であり、ゲスや野良のような堕落したゆっくりなどいてはならなかったのだ。
今やゆっくりんピースは、飼いゆっくりに対してのみ保護を行う大人しい団体になった。
野生のゆっくりや野良ゆっくりがいくら虐待されようとも仕事の範囲外である。
だがゆっくりたちは、自分たちが人間と同列に置かれようと害虫として忌み嫌われようと関心はない。
今日も愚かにも人間たちに身の程知らずの要求をし、無様にも地べたに叩き付けられる。
それに対して非難の眼差しを向ける人間はいない。
なぜならそれは、もはやあまりにもありふれた光景となり、代わり映えのしない日常の出来事だからだ。
僕がバイトをしている飲食店の裏口を開けてゴミを出そうとすると、そこには例の汚い饅頭たちがいた。
暗がりに隠れるでもなく、堂々と待っているのがまた腹立たしい。
「ゆ?にんげんさん、やっとでてきたね。はやくれいむたちにたべものをちょうだいね」
「そうだぜ。さっさとまりさにおいしいものをよこすんだぜ」
「むきゅ!ぱちゅりーたちはおなかがぺこぺこなのだわ。すぐにしょくじをもってきなさい」
「はぁ……また来たのかこいつら。本当に懲りないんだな」
僕は盛大にため息をついたのだが、三匹のゆっくりは自分たちが歓迎されていないことなど全く感じていないらしい。
「なにしてるの?れいむはおなかにあかちゃんがいるんだよ。にんぷさんにやさしくするのはとうぜんでしょ。ばかなの?しぬの?」
「おいこらじじい、まりさたちをおこらせないうちにおいしいものをもってくるんだぜ。じゃないとまりささまがおまえをせいさいしてしまうんだぜ」
「そうよばかなにんげんさん。このまりさはすごくつよいのよ。このまえはくわがたむしをつかまえたくらいなんだから。わかった?」
相変わらず、知性のかけらもない聞くに堪えない戯言を喋りまくる三匹。
間違えようもない。ドブの汚泥と排気ガスと汚いゴミにまみれた姿。野良のゆっくりだ。
しかもゲスだ。
人間と自分たちとの間にある力の差など理解せず、自分たちこそが最強だと信じて疑わない精神はゲス以外の何ものでもない。
僕の住んでいるこの町も、日本中の同じような町と変わらずゆっくりであふれかえっている。
それも野良ゆっくりで。
野良ゆっくりは害虫以外の何ものでもない。
生ゴミを烏や野良猫が可愛らしく思えるくらいの卑しさで食い散らかす。
道行く人間たちにアピールしているのか、騒音公害そのものの歌声を響かせ、前衛芸術家の悪夢を思わせる動きでダンスをする。
家の敷地や、ひどい場合は屋内に侵入して花壇を荒らしたり食べ物を奪う。
ゆっくりを飼っている人を「ゴキブリをかわいがっている人」と思いたくなるほど、野良のすることはゴキブリレベルだ。いやゴキブリ以下だ。
特に僕の勤めているような飲食店ではゆっくりは嫌われる。
生ゴミを狙うし、不衛生だし、居着かれると店のイメージダウンに即繋がるからだ。
だからうちの店はよその店と同様に、ゴミを荒らしたり食事を要求してくるゆっくりは容赦なく駆除している。
断末魔の悲鳴や絶叫が嫌いな店員は追い払うだけだけど、あれでは全然意味がない。
連中は頭が悪く、徹底的に痛めつけるか殺しでもしない限り何度でも来るからだ。
だから僕は基本的に店に来るゆっくりは殺している。
店にある金属バッドで頭部を叩き潰し、残骸は専用のポリバケツに入れ自治体の回収を待つだけだ。
でも、一向に店に押しかけてくるゆっくりの数は減らない。こうして裏口でゴミが出されるのを待ち構えているのはまだいい方だ。
ひどい場合は、お客さんに紛れて正面から入ってこようとする。
お客さんのいる手前その場で殺すわけにも行かず、餌で釣って裏までおびき寄せるのだが手間がかかってしょうがない。
どうすればいいんだろう。
どうすれば頭の悪いこいつらが「二度とあそこには行きたくない」と思うような、強烈な体験をさせることができるんだろう。
聞くところによると、野良ゆっくりは野生のゆっくりほどではないが緩やかな結束の群れで生活しているらしい。
だとすれば…………。
「おいじじい!なにじじいのくせにもったいぶってるの?れいむのいうことがきけないなんてほんとうにやくたたずだね!」
「くそじじいのくせになまいきだぜ!さっさとあまあまもってきてからゆっくりしないでしぬんだぜ!」
「むきゅ!にんげんがこんなにおろかでみじめないきものだったなんてしらなかったわ。もりのけんじゃのいうことがわからないなんてしんじられないわ」
僕が黙っているのをいいことに、ますます増長していく三匹。
きっとこいつらの頭の中では、僕を脅して食事を手に入れる算段になっているのだろう。
ただこうして汚い言葉でわめき散らすだけで、僕が従うと思っているらしい。
信じ難い低能だが、ゆっくりだから、それもゲスだから仕方ない。
こいつらは基本的に自分のことしか考えていない。
自分が世界で一番強く、正しく、大事な存在だ。
だから周りは、特にゆっくりにとっては色々なものを持っている人間は自分たちに仕えるものと信じて疑わない。
少しでも自分に都合の悪いことが起こったり(例えば、僕が食事を持ってこない今のような状況だ)すると、口汚く罵って催促するだけ。
自分で何とかしようなどとはこれっぽっちも思っていない。
ゲスだ。本当にこいつらは最低のゲスだ。
僕はゆっくりはそんなに嫌いじゃない。殺すのは単に不衛生だし店の前でうろちょろされると困るからだけだ。
希少種のてんこやゆうかはむしろ好きかもしれない。
だがこいつらは違う。
こいつらのようなクズ饅頭は、喜んで駆除しよう。
裏口に置いてある金属バットを手にしようとしたその時、僕は急にひらめいた。
ただ殺すだけじゃ駄目だ。こいつらを生き証人にして、ほかのゆっくりもここに来たくなくなるようにさせてやろうじゃないか。
「分かったよ。君たちはお腹がすいているんだね」
「さっきからそういっているでしょおおおおおお!いまごろわかったのこのやくたたずぅぅぅぅ!」
あー。本当にれいむのかん高い声はいらつく。
バットでひと思いに黙らせてやりたい気持ちを抑えて僕は言葉を続ける。
「じゃあちょっと待ってて。こんな生ゴミよりもずっとおいしいものを作ってきてあげるからさ」
「ゆっへへへへ。ぐずのくせにものわかりがいいぜ。まりささまのきはくにおそれをなしたんだぜ」
「すぐにできるからね~」
勝手に僕を威圧したことにしているまりさは放っておいて、僕はドアを閉めると厨房に戻った。
店長に僕の考えたことを説明すると、快く承諾してくれた。
今がお客さんが少し引いて暇な時間帯だったこともあるし、何より店長もゆっくりたちの横暴にいい加減うんざりしていたのだ。
用意するのは金属製の玉杓子。ゴム手袋。廃油を入れる缶。短い金属パイプ。
それに揚げ物を揚げるの使っていた高温の油だ。
ゴム手袋を嵌め、缶に煮えたぎった油を少量入れて準備は完了する。
僕は片手に玉杓子を持ち、裏口のドアを開けた。
待っていましたとばかりに騒ぎ立てる三匹。
「おそいよくそじじい!どれだけれいむをまたせるの?」
「だらだらするなぐず!のろま!やくたたず!あまりまりささまをおこらせるなだぜ」
「はやくぱちゅりーたちにたべものをわたしなさい。なにをぐずぐずしてるの」
いつも思うんだが、こいつらのこの根拠のない自信ってどこから来るんだろうな。
身の程を弁えて人間の目につかないように隠れていれば、こんなに害虫として目の仇にされるようなこともなかったのにな。
まあいいか。所詮ゆっくり。人間には絶対にこいつらのことは理解できない。
はっきり分かるのは、こいつらは圧倒的に弱く、人間が圧倒的に強いということだけ。
だから人間は、ゆっくりを駆除する。
「いいかいみんな、よく聞いてね。さっき僕が店長さんと話し合った結果、すごいことが決まったんだ」
自分たちに関係があることと感ずいたのか、ゆっくりたちはぴたりと口を閉じる。
「これからお店に来てゆっくりには、もれなく特製のあったかくておいしいスープをお腹いっぱいごちそうすることにしました!」
僕の言葉に三匹は揃って歓声を上げた。
特製のあったかくておいしいスープ。
しかもお腹いっぱいごちそうになれる。
その言葉に見事に三匹は魅了されてしまったらしい。
「はやく!はやくれいむにすーぷをちょうだい!おいしいすーぷのませて!すーぷ!すーぷっ!」
「まりさに!まりさにさいしょにのませるんだぜ!」
「いいえちがうわ。ぱちゅりーにさいしょにのませなさい!これはめいれいよ!」
ぴょんぴょんとジャンプして三匹ともこちらに催促してくる。
うわ、止めてくれ。そんな汚い格好で飛びつかれたら制服が汚れてしょうがない。
「大丈夫だよ。ちゃんと三人分あるからね。それじゃあまりさ。君が一番最初に飲んでみようか」
「ゆっへん。くずにんげんのくせにちゃんとじゅんばんがわかっているのぜ。とうぜんだぜ。まりさがいちばんさいしょにおいしいすーぷをあじわってあげるんだぜ」
「どぼじでぇぇぇ。れいむはおながにあがちゃんがいるのにぃぃぃぃ」
「むきゅぅぅぅ…………」
得意がるまりさと露骨にがっかりするれいむとぱちゅりー。
そんなに落ち込まなくてもいいのに。
ちゃんとこっちはスープをたっぷりと用意してあるんだから。
「はい。じゃあまりさ、大きく口を開けてね」
「ゆっ。あ~ん」
がばっとまりさは口を開く。本当にこいつらの顎の構造ってどうなっているんだ。
「もっと大きく開けて。スープは口全体で味わって、一気に飲み込むのが一番おいしい飲み方なんだ」
「分かったぜ。あ~~~~んっ」
さらに大きく広がる口。はっきり言って気色悪い。
ずらりと並んだ金平糖の歯が見える。
まりさの目が期待に満ち満ちているのがよく分かる。これから僕の手で自分の口においしいスープがたっぷりと注がれるのを信じて疑わない目付きだ。
あれだけ僕を罵倒していたのに、あれだけ人間を馬鹿にしていたのにこの無防備さだ。
さて、焦らすのも悪い。まりさにはお望み通り高温の油というスープを嫌になるくらい味わってもらおう。
僕は缶に入った油を軽くかき混ぜてから、玉杓子になみなみと一杯すくい取ると、まりさの大きく開かれた口の中に一気に注ぎ入れた。
まりさは得意満面だった。
自分の気迫に恐れを成した人間が、今ぺこぺこしながらおいしいスープを貢いでいる。
当然だぜ。このまりささまはとっても強いんだぜ。人間如きが逆らえるゆっくりじゃないんだぜ。
まりさはお粗末な頭の中でそう思い、勝手に作り出した勝利に酔いしれている。
まりさたちは、店のすぐ近くにある公園を拠点とする野良ゆっくりの群れの一員だった。
群れと言ってもドスはいない。そもそも都会ではドスにまで大きくなるほどゆっくりは生きることはないし、栄養も摂取することはできない。
リーダーもいなければこれと言った規則もない有象無象の集まりだ。
せいぜい定期的に集まっては情報交換をするくらいでしかない。どのゆっくりも生きることに必死で、自分以外を気にかける余裕などないのだ。
群れの中でまりさは比較的強く、番のれいむ以外にもう一匹、ぱちゅりーを従えるくらいの生活能力はあった。
ぱちゅりーはれいむの姉に当たるゆっくりだ。
普通番となれば伴侶以外の親戚付き合いはしない。もう一匹分の餌を捻出するのは普通のゆっくりには重労働だ。
だがまりさはずる賢く、狩りやゴミ漁りもたくみにこなしれいむとぱちゅりーの二匹を養うことができたのだ。
そんなまりさが「くずにんげんをおどしてたべものをみつがせてやるんだぜ!」と言えば、二匹が従わないわけがなかった。
……ゆへへ。まりさはかんだいだからな。たまにはれいむとおねえさんのぱちゅりーに、にんげんがひとりじめしてるうまいものをくわせてやるんだぜ。
れいむの胎内にはまりさの子供がいる。
先日情熱的なすっきりをした結果授かった二人の愛の結晶だ。
もうじきれいむは出産をするだろう。どんな子が生まれてくるんだろう。
きっとまりさとれいむに似て、すごくゆっくりしたかわいい子供に違いない。
心底ゲスであるまりさにも、欠片ほどの親の情というものがあったのかもしれない。
……だけど、まずはまりさがすーぷをいちばんさいしょにのませてもらうんだぜ。うまかったらおかわりをして、さんにんぶんさきにいただくものわるくないぜ。
前言撤回。やはりゲスはゲスだったようだ。
何一つ疑うことのないまりさの口に、玉杓子いっぱいの煮えたぎった油が注がれたのはその時だった。
「むー……ちゃ………」
おいしいと信じているものを口の中一杯に流し込まれ、まりさの口は自然と「むーしゃむーしゃ」の形を取ろうとしていた。
口の中一杯に液体が満たされ、反射的にごくんと飲み干していた。
一瞬、まりさは「つめたいすーぷだぜ」とさえ思っていた。感覚が瞬間的に混乱していたのだ。
だが正常な感覚はすぐに押し寄せてきた。
「ゆ゛……ゆ゛うあがががあああああああああああああああ!うがががああああああああ!」
まりさの凄まじい絶叫が周囲に響き渡った。
口の中が。喉が。体の中が。全身の内側に灼熱の油が染み渡ったのだ。
人間でさえも火傷は免れない高温のそれを、馬鹿なまりさは口いっぱいに飲み、かつ飲み干してしまったのだ。
全身に焼き鏝を当てられたような形容しがたい激痛に、まりさは喉も裂けよと悲鳴を張り上げる。
「まっまっまりさ!まりさ!どうしたのまりさ。まりさってば!」
「まりさ?まりさどうしたの。なにがあったの?こたえなさい」
突然のまりさの豹変に驚きを隠せない二匹を尻目に、体内の餡子を油で揚げられるまりさはなおも叫ぶ。
「ああああああああづいいいいいい!あづいよよおおおおおおおおおお!ゆ゛があああああああっ!」
「おーおー、どうやら特製スープは大好評だったみたいだな」
人間がのほほんとした口調でそう言っているが、まりさは言葉を返す余裕などどこにもない。
ひたすら叫びながらその場を転げ回るだけだ。
両目は血走り、口からは吐き戻された餡子と油の混じったものを吐きながら、まりさは体を内側から苦しめる熱から逃れようとする。
「ぐるじいいいい!ぐるじい!じぬ!ばでぃざじんじゃう゛う゛う゛う゛う゛!」
ばんばんと壁に頭を叩き付けるまりさ。そんなことをして何になるのだろうか。
それでも狂ったような勢いで、まりさは壁にぶつかることを止めなかった。
やがて力尽きたのか、まりさは仰向けに倒れて口をだらんと開けた。
「かひっ………ひっ…………あひっ……あひぃ」
膨れ上がった舌が口の端から垂れ下がる。
「まりざああああああっ!しっがりじでえええええ!」
それまでまりさの豹変に何もできないでいたれいむがようやく駆け寄る。
「れっ……れい……ぶ……」
「まりざぁ!だいじょうぶだよね!しんじゃやだよぉぉぉ!れいぶひどりじゃがりもできないよぉぉ!」
番が瀕死だというのに、自分が狩りもできないゆっくりだから助けてくれと言うれいむは、まさにゲスそのものだった。
「まり……ざ……まり……エレエレエレ」
一方ぱちゅりーは恐ろしさに生クリームを吐いて失神していた。
だが、すぐに人間の爪先がパチュリーを小突き、目を無理矢理覚まさせる。
「どうじで?どうじてずーぷをのんだらぞうなっじゃうのおおおおお?まりざああああ!」
「れ……れい……ぶ。ず……ずーぶを……の……じゃ……だ……め……ぜ」
かろうじてれいむに反応するまりさに、彼女がそうなった原因のスープを与えた人間が近寄った。
「絶叫して転げ回るなんて。そんなにうちのスープはおいしかった?」
人間の言葉はあくまでも優しく、まるでまりさのことを心底いたわっているかのようだった。
「そんなに好評なら、もうちょっとサービスしてあげなきゃだめかな」
ちがう。ちがうんだぜ。
未だ激痛が全身を覆い尽くすまりさは目だけで必死に訴える。
おいしくなんかない。味なんか感じる暇はない。
口に入れて飲み下した直後に襲ってきた灼熱の激痛は、これまでのまりさのゆん生で一度も味わったことのないものだった。
今までに味わった苦痛を全て合わせて、それを百倍にしてもなお足りない。
あついんだぜ。このすーぷはものすごくあついんだぜ。
やめるんだぜ。もうまりさはそんなもののめないんだぜ。
なのになぜじじいはすーぷをすくうんだぜ。
まりさはそんなのいらないんだぜ。なぜいらないのにこっちにもってくるんだぜ。
やめるんだぜ。
やめろ。
やめろ。
やめろやめろやめろやめろ。
やめろおおおおおおおおおおお!ばりざにずうぶをぢがずげるなああああああああああ!
おねがいじまずう゛う゛う゛う゛う゛!ばりざにもう゛のばぜないでぐだざいいいいいいい!
「もう一杯あげるよ」
答えることのできないまりさの口にもう一杯、僕は煮えたぎった油を注いでやった。
「ーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
今度はまりさは悲鳴を上げることがなかった。
変わって両目を飛び出さんばかりに見開き、全身を感電したかのように痙攣させている。
相当に苦しいんだろう。薄れていた意識がいっぺんに激痛で元に戻っている。
どのような構造になっているのか、それでも吐くことはなくまりさは油を飲み干した。
ただ重力の法則に従って油が喉の奥に流れただけかもしれない。まりさは吐く気力もなかった。
全身から餡子に変換できなかった油がじっとりと染み出してくる。
ものすごく見苦しい光景だ。
「ゆ゛っ……ゆ゛っ……ゆ゛っ」
白目を剥いて痙攣しているまりさの口の中を僕は見てみた。
油にまみれたがらんどうの黒い空洞がそこにあった。
赤い舌は完全に溶けてしまったようだ。金平糖の歯も同じく高熱で溶けてしまったらしく一本も見あたらない。
そりゃあ金平糖だもんなあ。
剥き出しになった歯茎を、さらにじっくりと油で焼かれる痛みはどれくらいのものだったのだろう。
案外まりさはその苦痛から逃れたくて油を飲み下したのかもしれない。
僕は軽く、今や中身だけ揚げ饅頭となったまりさを爪先でつついてみた。
すると、まりさは一度体を捻り、顔をこれ以上はないくらいに苦悶で歪めてから。
「ゆ゛げぼう゛う゛う゛っ!!」
「うわっっ!」
聞くに堪えない音と共にまりさは脱糞した。
固いうんうん(餡子だけど)ではなくて下痢の時のうんうんに近い。
油が混じってドロドロになった餡子が、まりさのあにゃるから一気に流れ出した。
熱い油とまりさの体内の餡子とが混ざり合ったものらしい。
しかし……本当に汚らしい光景だ。
薄汚れたゆっくりがだらしなく口を開け、白目を剥いてあにゃるから脱糞する光景など、ゆっくり嫌いの人が見たら悲鳴を上げるに違いない。
「ゆ゛っ……がっ…………ゆ…………っ」
叩き潰されたゴキブリのように、なおもまりさは自分の体の中身をひり出しながら痙攣していたが、どうやら中枢餡まで排出してしまったらしくついに動かなくなった。
まったく。これならゴキブリの方がまだましだ。
苦しんで苦しんだ末にようやく死んだらしい。
「ば、ばでぃざああああああああ!どぼじでじんじゃう゛のおおおおおおおおお!」
呆然としていたれいむだったが、やっと番のまりさが死んだことを理解したらしい。
両目から涙とおぼしき汁を撒き散らしながらよじれたまりさの死体に取りすがって大泣きをする。
ここだけ見るとれいむが純粋にパートナーの死を悼んでいるように見えるが、さっきの発言からするにどうせれいむは自分のことしか考えていない。
まりさが死んだ今、身重の自分が食事を探さなくてはいけない。
自分は何て可哀想なんだろう。赤ちゃんがいるのにどうしてみんな助けてくれないんだろう。
ゲスのことだからそう思っているに違いない。
しかし……本当に惨めったらしい光景だ。
死んだまりさに、れいむが涙をこぼしながら、
「おねがいだがらめをあげでええええ!べーろべーろじであげるがらあああ!」
と舌をからめる光景など、ゆっくり嫌いの人が見たら唾を吐きかけたくなるに違いない。
完全に死んだまりさを僕は脇に押しのけ、れいむの方へ向き直った。
「さて、まりさは昇天するほどスープを堪能したみたいだし、次はれいむ、君だね」
「ゆっ!?ゆゆゆっ!?れ、れいむは」
「れいむは妊婦さんなんだろ?だったら栄養をしっかり取ってゆっくりしていないとね」
「そ、そうだよ。れいむはにんっしんっしているからたくさんたべてゆっくりしていなくちゃいけないんだよ。だからあまあまちょうだいね。くれたらさっさときえてね」
「ああいいよ。ほら、れいむにもスープをあげようじゃないか。さ、口を大きく開けて」
「いやあああああ!すーぷはゆっくりできないよおおおお!」
「まさか。このスープを飲めばおいしくてはね回りたくなるくらいさ。お腹の赤ちゃんも喜ぶよ」
「うそつけええええ!まりさはそれのんでしんじゃったんだよ!そんなこともわからないの?」
「分かるよー。さっさと口を開けて」
「れいむのはなしをきけくそじじいいいいいいいいい!!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐれいむに付き合っていても埒があかない。
どうせゲスには何を言っても無駄だ。こいつらは全部自分にとって都合のいいように解釈するだけなので、言葉が通じないに等しい。
「やだ!やだよ!れいむはぜったいにそんなすーぷのまないからね。ぷくーーーっ!」
れいむは僕があくまでも油を飲ませようとすると分かったのか、口をしっかりと閉じて頬を膨らませた。
ゆっくり同士でしか通じない威嚇だが、同時に口を閉じて油を流し込まれないようにしている。
やっぱり自分から口を開けてくれるのは最初の一匹だけか。
こんなことは予想していた。
「仕方ないなあ。ならば無理矢理飲ませてあげるよ」
「ゆぐっ!ゆ……ゆううううううっ!」
僕はゴム手袋を嵌めた手で、れいむの上顎と下顎を引っ掴んだ。
必死で閉じようとする力に逆らって徐々に口をこじ開けていく。
れいむは全力で口を閉じているだろうが、ゆっくりの全力だ。たいした抵抗はない。
「ほーら無駄無駄。すぐにおいしいスープをお腹いっぱい飲ませてあげるからね~」
「うぐううううううう! ゆゆゆううううううう!」
れいむの目がこっちを睨み付けている。
きっと、「くそじじい!きたないてでれいむのおくちにさわらないでね!」とか思っているんだろう。
生意気なゲスが。
「ゆぎぎぎぎぎぎぎぎ!」
そこそこ口が開いたところで、片手をれいむの口に突っ込む。
れいむはこっちの手を噛み千切らんばかりの勢いで再び顎をとじ合わせるが、生憎と痛くもかゆくもない。
その隙にもう片手で金属製のパイプをれいむの口に入れ、手を引き抜く。
これでこっちは両手が自由になり、れいむはパイプを口にくわえた形になる。
「ほい、召し上がれ」
口から吐き出される前に、僕はたっぷりと油をすくうとパイプを伝ってれいむの口に注ぎ入れた。
「ゆぎゃあああああああああああ!あじゅいいいいいいいいいい!」
即座に上がる絶叫。
パイプを口から吐き出してれいむは大声で叫ぶ。
うまく口に入らなかった油が口の周りを焼けただれさせているが、そんなことに心を配る余裕もないようだ。
そりゃあそうだろう。
人間ならば胃や腸を油で焼かれている状態なのだ。その激痛は想像しただけで恐ろしい。
「あがあああっ!ゆ゛ぐぐぐぐう゛う゛う゛う゛う゛う゛!うがあああああああ!」
ゆっくりの声とは思えない、潰される獣のような声でれいむはその場を転がり回った。
全身からどっと汚らしい油と砂糖水の混じった液体を染み出させ、コンクリートがべたべたに濡れる。
ゆっくりは痛みに敏感だ。
針が刺さっただけでぎゃーぎゃー大騒ぎをするこいつらだ。高温の油を飲んだ時の激痛はそれは凄まじいものだろう。
れいむの顔が見えない手でこね回されているかのように苦痛で歪む。
「ゆぐっ……ゆ……ゆっぐ………り……ゆっぐり……ざぜ……で」
沸騰する餡子がついにれいむの正気を奪ったのか、しばらくするとれいむはうつろな表情でその場に倒れた。
やっぱりまりさはゆっくりの中ではそれなりに頑丈な部類だ。
まりさは二杯飲んでようやく死んだが、こっちのれいむは一杯でもうダウンのようだ。
僕は近寄ってしげしげとれいむの顔を観察した。
苦悶でねじ曲がったまりさの顔とは違い、なんの表情も浮かべていない。
どうやら死ぬ前に狂ったか。
そう思った時、れいむがいきなり目をかっと見開いた。
「う゛……うばれる……あがぢゃん…………あ、あがぢゃんが…………」
「は?はああ?」
驚いた。生物が命の危機に瀕すると生殖行動を取るっていうのは本当だったんだ。
あ、生殖じゃなくてこれは出産か。
どっちでもいいか。どちらにせよ体内の餡子を油で焼けただれさせたこのれいむ、なんと今産気づいたらしい。
「ゆぎっ…………ゆぎいいいいい…………」
死にゆく母が、最後の力を振り絞って子供だけでも助けようというのか。
人間だったら感涙ものだが、ゆっくりがやると「馬鹿かこいつ」という感覚しかわいてこない。
だいたい今子供を産んだとしてもれいむはまず死ぬ。そうしたら誰が赤ゆっくりを育てるんだ?
赤ゆっくりはとてつもなく弱い。まず一匹で生きていくのは不可能だ。
だからここで子供を産んだとしても、それは全然子供を助ける行為ではないんだけどさ。
「あ……あがちゃん……れいむのがわいいあがちゃん。まっででね、いまだじであげるがらね……ゆぐうううう!」
れいむの下顎の付近がミチミチと開き、産道が見えてくる。
しかし……本当に気持ち悪い光景だ。
ドロドロに溶けた歯を食いしばるれいむの顔といい、顎に開いた気色悪い穴ぼこといい、こんな出産の光景などゆっくり嫌いの人が見たら即潰したくなるに違いない。
「ゆ゛っぎゅりいいっ!!」
先程の悲鳴の方が余程心地よいれいむの声と共に、産道から赤ゆっくりが飛び出した。
一瞬だけ、あれほどの苦痛を味わったというのに、親れいむの顔がゆっくりしたものになる。
そうだろう。自分は死んでしまう。それはとてもゆっくりできないことだ。
でもこうして、まりさとの子供を産むことができたのだ。
赤ゆっくりは帽子をかぶっている。まりさ種だ。
自分の代わりに、子供たちはたっぷりとゆっくりしていってほしい。
……あかちゃん。れいむのだいじなあかちゃん。はやくにげてね。おかあさんがなんとしてでも、あかちゃんだけはにがしてあげるからね。
べちゃりと。
嫌な音を立てて赤まりさがコンクリートにぶつかった。
「ゆっ……?」
同時に産道からどろりとした液体が流れ、動かない赤まりさをべたべたと汚していく。
「あがちゃん……どうじてゆっくりじないの………」
生まれてすぐ、赤ちゃんは言うはずだ。
「ゆっくちしちぇいっちぇね!」
と。目を輝かせて、母親への愛情を一杯に込めてそう言うはずだ。
なのに、なんで。
「あ~、どうやらお腹の中でスープを飲んだのか。すごいことになってる」
人間が手で赤ちゃんをひっくり返す。
れいむは赤まりさの顔を見た。
「あ、あがじゃんんんんん!どぼじでぞんながおじでるのおおおおおおおお!」
赤まりさの顔は、奇しくも親であるまりさと同じく白目を剥いて苦悶で歪んだものだった。
「そりゃそうさ。なにしろ特製スープがおいしすぎたからね。子供には刺激が強すぎたかな」
「う゛ぞだああああああ!あがじゃんがらでをばなぜじじいいいいいい!」
れいむはずりずりと這って赤まりさに近づく。
這う度に全身に激痛が走るが、そんなことよりも赤ちゃんのことのほうが気がかりだった。
必死に赤まりさを舌で舐め、頬をすり寄せる。
顔に油がつこうともお構いなしに、ひたすらにそれを繰り返す。
「ゆっぐりじでよおおおおお!ずりずりじであげるがらめをあげでええええ!ゆっくりしていってね!ゆっぐりじでいってねええええ!」
どれだけ親れいむが叫んでも、赤まりさは苦しみに歪んだ顔のまま動くことはなかった。
親れいむが飲んだ高温の油が、胎内にいた赤ゆっくりを生きながら煮殺したのだ。
れいむはその後赤れいむと赤まりさを一匹ずつ産んだが、いずれも油まみれで死んでいた。
「ゆがああああああ!ごべんねええええ!あがちゃんだちしなぜでじまってごべんねええええええ!」
油でてかてかと光る三匹の赤ゆっくりを前に、親れいむは泣き叫んでいる。
余程子供たちが待ち遠しかったのだろう。その悶える様子は、油を飲まされた時よりも激しいくらいだ。
直後親れいむは再び顔を出産の苦しみで歪める。
「う゛げぐう゛う゛う゛っ………あがぢゃん……もう゛ひどりいるんだね………ごんどごそ……ごんどごぞげんぎなあがぢゃんでいでね………ゆぐぎいいいいっ!!」
三度目の正直ならぬ四度目の正直か。
四匹目の赤ゆっくりである赤れいむは、産道から飛び出て地面にぶつかるとぴくりと反応した。
「いちゃい…」
先に死んだ姉たちと同じく油で濡れているが、奇跡的に一命は取り留めたらしい。
ふらふらと身を起こすと、親れいむの方を向いて言った。
「ゆっ…ゆっくちしちぇいっちぇね」
「ゆあああああああ!れいむのあかちゃんぶじだったんだねええええええ!」
それまでわんわん泣いていた親れいむの顔がぱっと輝いた。
悲しみのために流していた涙が、歓喜のために流れる涙に取って代わる。
たった一匹の生き残った子供。
失った三匹の惨状が、残された一匹を親れいむにとってかけがえのないものにした。
ましてそれが自分と同じれいむ種であればなおさらである。
「あかちゃんこっちにおいで!ゆっくりすりすりしてあげるからね」
「ゆっ……おきゃあちゃん、いまちゅぐいきゅからゆっくちまちぇちぇにぇ。うーんちょ、うーんちょ」
全身にまとわりついた油が、赤れいむの歩行を妨げている。
それでも赤れいむは一心に母親の方を見、懸命にそちらの方へ行こうと体を動かした。
さほどの距離はない。すぐに二匹は頬を触れ合わせることができた。
「ちゅーり、ちゅーり。ゆきゃっ♪おきゃあちゃんだいちゅき。いっちょにゆっきゅりちようにぇ♪」
「ゆうううう………おかーさんもれいむのことだいすきだよ!いっしょにずっとゆっくりしようねえええ!」
自分が重傷を負っていることなど気にせずに、親れいむは子供とすーりすーりができる幸福に打ち震えた。
小さな小さな、可愛くていとおしい赤ちゃんれいむ。
親れいむは自分が母親になった喜びに浮かれ、自分たちが今どのような状況にいるのかをすっかり忘れていた。
すぐそばに人間が来ていることさえも。
その手がやおら伸び、赤れいむをつまみ上げたその時まで。
「ゆゆぅ~♪おちょらをちょんでるみちゃい~♪」
「あっ、あがちゃんんんんん!れいむのあかちゃんになにするのおおおおおお!」
人間の手は赤れいむを掴むと、親れいむにとって遙か上空へと運んでいった。
「何って。決まってるじゃないか。僕が最初に言ったこと忘れたのか?」
「さいしょに?」
「そう。僕はこう言ったよ。お店に来たゆっくりにはもれなくあったかくておいしいスープをごちそうするって」
「あ……あああ……も、もじがしてあがちゃんにも…………す、す、すーぷを…………」
「当然さ。この赤ちゃんれいむにも早速聞いてみようか。もし飲みたいって言ったらいっぱい飲ませてあげるよ」
「やめろおおおおおおおお!あがちゃんをがえぜええええええええ!」
「嫌だったら、こんな所で出産しなければよかったんだよ」
れいむは恐ろしさのあまり絶叫した。
一口飲んだだけで、口も喉も体の中も余すところなくただれさせた人間のスープ。
そんなものを赤ちゃんが飲んだらどうなるか。いくら頭の悪いれいむでも分かる。
赤ちゃんが死んでしまう。それだけは絶対に嫌だった。
「がえぜっっっ!じじい!あがぢゃんをがえぜぐぞじじい!じねっ!あがちゃんをがえじてゆっぐりじないでじねえ!」
どこにそんな力が残っていたのか、激痛の走る体で親れいむは人間に体当たりを繰り返す。
人間の足にぶつかる度に気を失いそうなくらいの痛みが襲うが、親れいむは体当たりを止めない。
「じねっ!じねっ!じねえっ!いまずぐじねえええええ!」
「おきゃーしゃーん!れいみゅきょわいよぉぉぉ!」
母親の尋常でない行動が分かったのか、赤れいむも人間の手の上で泣き声を上げている。
「心配しなくていいよ。これから君においしいものを飲ませてあげるからね」
「ゆっ?おいちいもにょ?」
「ああ。あったかくておいしい当店特製のスープさ。体が温まって、とってもゆっくりできるよ」
「う゛あああああああ!あがちゃんにはのまぜないでええええええ!」
親の叫びを人間は無視する。
「君はゆっくりしたいよね?」
「うん、れいみゅゆっくちしちゃいよ」
「おいしいスープを飲めばゆっくりできるよ」
「ほんちょう?れいみゅしゅーぴゅのみちゃい。のまちぇて!」
「やべろおおおおおおお!あがちゃんだけはやめでえええええ!」
「よしきた。れいむはいい子だね」
人間が指先で赤れいむの頭を撫でてやると、「くちゅぐっちゃいよ」と赤れいむは目を細めて喜んだ。
自分に敵意を持っているものなど誰もいない、そう信じて疑わない顔だ。
人間は玉杓子の上に赤れいむをそっと乗せる。
それが今までスープをかき混ぜていたものだと分かり、親れいむはがたがたと震えだした。
「やめて………あかちゃん……れいむのかわいいあかちゃんだよ。はじめてうまれたこどもなんだよ……そんなことしたらあかちゃんしんじゃうよ」
「おきゃあちゃん、しんぱいしちゅぎちゃよ。れいみゅひよわじゃにゃいもん」
親の心子知らずと言ったところか、赤れいむはこれから何が起こるのか全く分からないでいる。
「よし。赤ちゃんには特別サービスだ。缶の中に直接入れてあげよう。全身でスープを味わうんだ」
その言葉と共に、玉杓子が油の入った缶の中に突っ込まれた。
最後まで人間を信じ、おいしいものを飲ませてくれると疑わなかった赤れいむと共に。
「ゆぴぃぃぃぃぃぃ!あちゅいょぉぉぉぉぉぉ!」
缶の中からぱちぱちという油の爆ぜる音と一緒に、赤れいむの叫び声が響く。
灼熱の油の中に赤れいむは浮いていた。両目を見開き、口を金魚のようにぱくぱくさせながらもがき苦しんでいる。
「あちゅい!あちゅいよおきゃあしゃあああああん!たちゅけてぇぇぇぇぇぇ!」
「あがちゃんんんんんん!やべでえええええええええ!ぎゅぶべっっっ!」
油の入った缶に体当たりをしようとする親れいむを、人間は足で踏みつけた。
強くではない。ただ親れいむの動きを止めるだけの簡単な妨害。
なおも缶の中では、赤れいむが油の海の中で全身をばたつかせながら逃れようとしている。
どこにも逃げ場はない。かえって動くことで体が回転してしまう。
「いぎゃいいいいいいいい!れいみゅのぎれいなおべべぇぇぇぇぇ!」
顔に油がかかったらしい。悲鳴のトーンがさらに上がる。
「……もっど……ゆっぐぢ……じだ……がっ…………」
数分後、缶の中から聞こえてくる悲鳴はかすかなものとなり、ついにはふっつりと途絶えた。
「あかちゃん…………どうしてなにもいわないの…………」
人間が足をどけても親れいむはもはや缶に突進することはなかった。
本当は赤れいむがどうなったのか分かっていた。
だが、認めたくはなかった。
声が聞こえなくなったとは、すなわち赤れいむが死んだのだということ。
それは親れいむにとって完全な絶望。
それだけはたとえ現実に目をつぶってでも、全力で否定したかった。
そんな儚いもくろみは容易く打ち砕かれる。
「ほら、見てごらん。お前の赤ちゃんだよ」
「ゆっ?あか……ちゃ……ゆぎゃああああああああああああああ!!」
人間が差し出した玉杓子に乗っている赤ちゃんを見て、親れいむは震えながら叫んだ。
乗っていたのは、油でかりかりになるまで揚げられた我が子だったからだ。
歯を食いしばって天を仰ぐ顔は、死ぬ寸前まで恐ろしい苦しみを味わった証拠だった。
その顔を一目見れば、どれだけ子供が熱かったのか、苦しかったのか分かってしまう。
守れなかった。何よりも大事なものを目の前で奪われ、殺された。
その事実に親れいむは今度こそ完全に壊れた。
「あっがっがっ……あが……あがじゃん……れいむのあがじゃん…………」
れいむのあかちゃん、と同じ事を延々と繰り返しつつ、体をくねらせながら時折奇声を上げる。
だらしなく半開きになった口に油が流し込まれても、親れいむは目を剥いて痙攣するだけで悲鳴を上げることはなかった。
そのうち、まりさとおなじようにあにゃるから大量の油と餡子の混じったものをひり出し、れいむは顔を苦痛で歪めながら息絶えた。
「ぱちゅりー。まりさもれいむもスープをおいしく飲んでくれたみたいだよ。ちゃんと見てた」
「むきゅうぅぅぅ。いやぁ……すーぷはいやぁぁぁ…………」
完全にれいむが死んだのを確かめてから、僕はすっきりとした笑顔でぱちゅりーを見た。
そりゃあすっきりもする。あれだけ身の程知らずのクズ饅頭に罵倒されたのだ。
まりさもれいむも存分に苦しんでから死んだ。
どうせゲスだから自分たちがなぜこうなったかなど分からないだろうけど、それでも苦しんで死んだのは事実だ。
少しはこれで溜飲が下がったし、何より目的を果たすことができた。
「どう?次はぱちゅりーの番だけど」
「いやああああああ!ぱちゅりーじにだくないわああああああ!!」
口の端に吐いた生クリームをこびりつかせたぱちゅりーは、恐ろしさで絶叫している。
そうだろう。この後自分がどうなるのか、先の二匹でしっかりと理解してしまったのだ。
どんなに抵抗しても、口にスープを流し込まれる。
そうしたら二人のように苦しみもがいた末に、あにゃるから体の中身を全部ひり出して死ぬのだ。
死ぬまでどれだけ苦しいんだろう。死ぬ時はどれくらい苦しいんだろう。
ぱちゅりーの顔はもはや真っ青だ。
僕が近寄っても逃げないが、きっと腰が抜けているのだろう。
だが、ぱちゅりーは運がいい。
僕が今回したこの駆除は、生き証人が一匹必要なのだから。
「あっ!」
油を入れた缶をわざとらしく見て、僕は大声を上げる。
「ごめんぱちゅりー。まりさとれいむのリクエストに応えすぎたせいで、君の分のスープがなくなっちゃったんだ。本当にごめんね」
「むきゅきゅ?そ、それって…………」
「言いにくいんだけど、ぱちゅりーの分のスープはないんだ。また今度、ぱちゅりーがここにきたらあげるよ」
ぱちゅりーの顔と言ったらなかった。
死刑囚が電気椅子に座らされ、今まさにレバーが下げられる瞬間に、知事の恩赦の知らせが入ったらあんな顔をするんだろう。
「むきゅううううううううううう………………」
それはそれはゆっくりした表情だった。
けれども忘れていないだろうか。僕はぱちゅりーにも馬鹿にされている。
まりさとれいむ程ではないが、ぱちゅりーも確かに人間を侮っていた。
いけないなあぱちゅりー。確かに生き証人が必要だから君は生かしておくけど、無傷では返してあげないよ。
人間が恐ろしいものだって、身をもって君が群れのみんなに教えてあげるんだ。
「おや、でも少しは残っているか。ほら、お上がりぱちゅりー」
「むきゅ?む……むっぎゅああああああああああ!」
僕は缶からほんの少しだけ油をすくうと、安堵の吐息をつくぱちゅりーの無防備な顔に引っかけてやった。
「むぎいいいいいいい!あじゅいわあああああああ!」
高温の油は一瞬でぱちゅりーの柔らかい髪の毛を半分だけ溶かし、顔の一部をケロイド状に焼いてしまった。
右目が白濁し、水分の沸騰する音がする。ありゃあ失明は確実だな。
「う゛っ……うう゛っ…………あづ……あづい……」
「おやおや駄目じゃないかぱちゅりー。せっかくのスープなんだからちゃんと飲まないと」
僕の非難にもぱちゅりーは顔の半分を歪ませ、むきゅーと呻くだけだった。
ぱちゅりーは死にやすいゆっくりだと聞いている。
本当は少なめの油を飲ませてやりたかったのだが、死んでしまっては元も子もない。
これでよし。
ぱちゅりーはまりさとれいむの凄惨な死に方を見ているし、自分もまた顔の半分を焼かれ片目を失った。
もう店に来れば食べ物がもらえるなんて甘い考えは抱かないだろう。
「おいぱちゅりー」
僕はうずくまったままのパチュリーを爪先で小突いた。むきゅう、という呻き声がその答えだ。
「群れのみんなに伝えろ。これからこの店に近づいたゆっくりは、例外なくスープを飲ませるとな。
れいむとまりさがどうやって死んだのか事細かに言うんだ。そして自分がどうなったのか、その顔を見せて説明しろ」
返事はない。
「店の奥からスープを取ってきてお前にも飲ませてやろうか」
「むきゅっ!?わかった、わかったわ!たしかにみんなにそうつたえるわ」
「本当だろうな」
「ぜったい!ぜったいいうから!だからすーぷをのませるのだけはやめてえ!」
「よし。必ず皆に伝えるんだ。分かったらさっさと行け」
ぱちゅりーは大あわてで逃げていった。
途中二目と見られない形相で死んでいるまりさとれいむを見て身をすくませていたが、こちらの視線を感じたのか這いずっていった。
その姿が道路の側溝に消えるのを見届けてから、僕は二匹の死骸を拾い上げた。
これで、うまくいくといいんだが。
以来うちの店に押しかけてくるゆっくりは激減した。
生き残ったぱちゅりーが自分の見てきたことをちゃんと群れに話したのだろう。
あの店に行けば、ゆっくりできないスープを無理矢理飲まされる。
ものすごく苦しんだ果てに永遠にゆっくりしてしまう。
ゆっくりの出来の悪すぎる頭でもそれくらいのことは理解できたらしい。
一罰百戒。学ぶことを知らないゆっくりには、人間からすると過剰とも言える罰が必要だ。
見るだけで震え上がり、あのようなことは絶対にされたくないと心底願うような虐待だけが、野良のゆっくりを動かすことができる。
僕のもくろみは一応成功したようだ。
ただ叩き潰すのではなく、煮えたぎった油を飲ませて殺すという凄惨な虐待は、ゆっくりたちも恐れたと見える。
こう思う人もいるだろう。
「なぜわざわざスープと言ったんだ?」と。
単純に「店の周りにいると熱い油を飲ませるぞ」と脅しても結果は同じだろうと。
僕はこのいわゆる虐待が与える結果を、もう一つ期待していた。
一つは恐怖によって野良ゆっくりたちが店にちょっかいを出さなくなるということ。
もう一つは。
「ゆっ、ここがおいしいすーぷをのませてくれるおみせだね。はやくかわいいれいむにごちそうしてね」
久しぶりに見たゆっくりれいむ。
僕が裏口を開けると、そこにまるで客か何かのような顔をして居座っていたのだ。
「おやれいむ。そんなことどうして知ったのかな」
「うわさだよ。れいむのともだちのまりさがいってたんだよ。このおみせはおいしいすーぷをれいむたちにあげるみせだって」
これだ。
僕はこれを望んでいた。
ゆっくりはアホだ。どれだけ言い聞かせ、時には暴力に訴えてもこいつらの思考を根本から変えることはできない。
そもそもこいつらの寿命は短い。
たとえあの時生き残ったぱちゅりーが「あそこはゆっくりできないおみせよ」と言い聞かせても、その内忘れられる。
ゆっくりは自分にとって都合のいいことはいつまでも覚えているが、都合の悪いことはさっさと忘れてしまうのだ。
そうしたら振り出しに戻ってしまうだろう。ゴミをかすめ取られ、店先を汚され、客と一緒に店内に入ってこられる。
ゆっくりたちはゴキブリやドブネズミのように店の周りでうろちょろすることだろう。
そうならないために、僕はスープを飲ませると偽ったのだ。
ゆっくりたちが次第に恐怖を忘れても、スープというゆっくりできる事の方は忘れまい。
ゴミを漁るのではなく、堂々と店員にスープを飲ませろと要求してくる。
なにしろゴミの中にはおいしいスープなんかないのだ。
意地汚いゆっくりは、安全に生ゴミを漁ることよりもおいしいスープを飲むことを優先する。
そうすれば簡単だ。
「はやくしてよね。れいむぐずはきらいだよ」
「はいはい。よかったねれいむ。このお店はゆっくりが欲しいって言えば、いつでもスープを用意してあげるんだよ」
「とうぜんだよ。れいむたちいつもおなかをすかせてるんだよ。にんげんさんがかわいそうなゆっくりにごはんをあげるのはあたりまえなんだよ」
こいつにはまた人柱ならぬゆっくり柱になってもらおう。
このゆっくりに瀕死になるまで油を飲ませ、その苦しみを群れに話してもらうのだ。
そうすればまた新しい、刷新された恐怖が群れに行き渡るだろう。
恐怖が忘れられた頃には、再びスープという語が餌となってゆっくりを引き寄せる。
終わらない連鎖だ。
さあ、うちの店のおいしいスープの味を、噛んで含めるように群れの連中に教えてやるんだぞ。
僕はアホ面をさらして口を開けているれいむに、玉杓子ですくった油をたっぷりと注ぎ込んでやった。
あとがき
初投稿です。野良のゲスさが少しでも出せればと思って書いてみました。
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- カリまんという、外はカリカリに揚げてあり、中は饅頭というものを食べたことがあるが、めちゃくちゃうまかったwww
ゆっくりでも美味しいのかね -- 2012-01-19 00:35:06
- あげまんじゅう!! -- 2012-01-16 13:59:02
- んほぉ!赤ゆは苦しめばいいんだねー!わかるよー -- 2011-11-18 09:05:57
- 勃ったw俺変態だわw -- 2011-10-04 23:35:30
- 店長「おま・・・追っ払ってくれるんじゃなかったのかよ」 -- 2011-10-04 11:19:06
- 油じゃなくても熱湯でもよさそうなんだけどな
油だと後片付け大変そうだし -- 2011-08-22 09:33:03
- ゆっくりからあげ食いたい -- 2011-03-02 00:54:29
- いいねぇ。油汚れで掃除が大変そうだがw
加工所怖いーみたいになるまで、毎日スープをご馳走しようぜw -- 2010-10-15 22:26:57
- 苦しみぬいてゆっくりどもは死んでいってね! -- 2010-08-28 00:05:59
- 苦しむゆっくり達がとてもいいかんじに表現されてます。すっきり! -- 2010-07-31 11:07:40
- 赤れいむがクズ親どもと比べて素直そうだったが連帯責任ということで・・・
やっぱりゲスゆっくり制裁作品はとても楽しめる。 -- 2010-07-21 13:13:51
- 面白い。論理も整っている。
しかし、仕事で油を扱う者として、後始末が大変なのではと思う。 -- 2010-07-12 00:48:04
- 面白かったです。 -- 2010-06-08 03:00:22
- すばらしい。話に筋が通っていてとってもすっきりー! -- 2010-05-27 18:29:41
- 投稿が初めてとは思えないほど良い出来。 -- 2010-05-17 16:25:03
- このお兄さんなら掘られてもいい -- 2010-04-17 18:47:16
- いいねぇ -- 2010-03-15 03:46:31
最終更新:2009年12月11日 07:02